ラグビー元日本代表・五郎丸歩、クラブ運営の道に進んだ理由を告白

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1月28日に放送されたサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系、毎週土曜24:25~)は、ラグビー元日本代表の五郎丸歩がゲスト出演。ラグビーで行われている取り組みから、ブームを定着させるためのヒントを探った。

今年の9月にはラグビーW杯のフランス大会が開催される。4年前の日本大会では、日本代表が史上初のベスト8に進出。世界中からやって来たファンとの交流もあり、ラグビーは一気に身近な存在になった。しかし、残念ながらブームが定着するまでには至っていない。それでも、ラグビー界はあの熱気を再び呼び戻すべく、動き続けていた。

サッカーも、昨年のカタール大会では日本代表の活躍によって、日本中が熱狂。この熱を維持し続けるためには、いったい何が必要なのか。昨年現役を引退し、静岡ブルーレヴズのCROとしてクラブ運営に携わる五郎丸が、“ブームを日常にする方法”について、MCの勝村政信や解説の北澤豪らとトークを繰り広げた。

五郎丸は、まず自身が指導者ではなくクラブを支える側に回った理由を明かす。そこには、かつて味わった失望があった。2015年に開催されたラグビーW杯のイングランド大会で、日本は格上の南アフリカ相手に劇的な勝利を収める。その結果、ラグビーブームが巻き起こり、五郎丸も一躍、時の人となった。

しかし、五郎丸たちが帰国して初のトップリーグ開幕戦。チケットも完売しており、期待に胸膨らませてスタジアムに入った五郎丸たちを待ち受けていたのは、ガラガラの客席だった。実は、一般販売のチケットよりも企業などへの招待券を多めに作ったことで、せっかくの新規ファンが観戦できないという結果に。ブームは定着せず、日本のラグビー熱を持続させることはできなかった。

五郎丸は「非常にがっかりした思いがあってですね」と当時の心情を吐露。続けて、「これは指導者では、なかなか変えることができないと思いましたし、そういう思いを持った人間がマネジメントの世界に入って、選手に近い意見を述べる必要があると思いました」と説明した。

さらに、海外クラブを経験した五郎丸だからこそ気づいたことも。海外では、試合だけではなく、試合前後やハーフタイムにも観客を飽きさせない工夫が髄所に施されており、五郎丸は「こんな世界を日本でも作りたい」と感銘を受ける。

Jリーグでも、試合の“エンタメ化”が進んでおり、北澤は「Jリーグのクラブも、ファン目線でどうしたら喜んでくれるのかという取り組みを、勝ち負け以上に強く意識してやっているところが多いですね」と解説した。

実際に、川崎フロンターレのハーフタイムショーや、FC東京の炎の演出などがJリーグでは定着しつつある。五郎丸が運営する静岡ブルーレヴズでも、子どもたちのラグビー体験コーナーや、メインスポンサーであるヤマハの協力による小学生のバイク試乗会などを開催。試合前には、バイクを使った爆音と炎によるド派手な演出で、会場のボルテージを高めていた。

こうした努力が実を結び、今シーズンのホーム開幕戦には平均を大きく上回るファンが来場。五郎丸は「場外は子どもたちが楽しんでくれたり、家族が楽しんでくれたりするような空間を作って、一歩スタジアムに入るとちょっと男臭いような雰囲気。試合の雰囲気っていうのを楽しんでいただく」と、“両軸”でスタジアムを盛り上げていくことの重要性を強調した。

ラグビー人気を広げるための動きはラグビー界全体で起きており、4年前の日本大会をスポンサードしていた印刷大手の凸版印刷では、スポーツ観戦に付加価値をつける取り組みを実施。それは、ホテルにファンを集め、食事を楽しんだり、元日本代表選手たちと触れ合ったりしながら、試合を観戦するというライブビューイングイベントだった。イベントはほぼ満席の大盛況。五郎丸は、スタジアム外でのこうした活動が、クラブの収益にもつながると指摘した。

そして、ラグビー界ではブームを根付かせる取り組みとして、次世代を担う選手の育成にも尽力。サッカーでは三笘薫堂安律など、若手選手の活躍が目立つが、ラグビーでもワールドクラスの選手を育てるために、一風変わったキャンプが行われている。

日本ラグビー協会が主催する高校生が対象のトレーニングキャンプでは、身長190cm、体重100kgを超える「ビッグマン」と、小柄でもスピードに秀でた「ファストマン」が集められた。ラグビーは、ポジションごとに適した体格や能力が求められるため、このキャンプではフィジカルに特化した選手を招集。しかも、代表クラスのエリートではなく、県大会レベルや、ほぼ初心者の無名選手が中心だという。

キャンプの仕掛け人でもあるラグビー元日本代表の野澤武史は「将来性があると感じた選手がフル代表に入れなくて、結局高校3年生になったら、そのまま就職するという話になる。まずは、そういう選手たちがいるっていうことを知ってもらい、大学を含めた7年間で成長する機会を作れないかということ」と、キャンプの成り立ちを明かした。

活動が実を結び、キャンプ出身者から日本代表選手も誕生。次世代を担う若手が順調に育ちつつある。五郎丸は「目付けてくれた時点で、その子たちの目線ってぐっと上がってくると思うんで。これは本当にいい取り組みだなと思いますね」と評価した。

9月に開幕するフランス大会を控え、五郎丸は「2019年に向けてみんなが一つの方向を見ていた。ただそれはもう終わったんですよ。そうするとやっぱり選手もモチベーション的に難しい。非常に難しい大会になる中で、前回の自国開催よりも上に行けたら、これは本当にすごいことだと思う」と主張。その上で、今回のW杯で活躍した選手たちが、日本のラグビーを盛り上げていってほしいとメッセージを伝えた。

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