「マラドーナの5人抜き」「ドーハの悲劇」を実況したレジェンドがサッカー中継で意識することとは?

「マラドーナの5人抜き」「ドーハの悲劇」を実況したレジェンドがサッカー中継で意識することとは?

7月30日に放送されたサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系、毎週土曜24:25~)では、サッカー中継の実況を特集。実況界のレジェンドである元NHKアナウンサーの山本浩と、年間約200試合を実況する人気アナウンサーの下田恒幸をゲストに迎え、MCの勝村政信や解説の福田正博と共に、実況の今について、トークを繰り広げた。

山本といえば、1986年のメキシコ大会でディエゴ・マラドーナによる伝説の5人抜きを伝えた名実況が有名。ドリブルに合わせてマラドーナの名を連呼するシンプルな実況は、今でも多くのファンの耳に残っている。まるで視聴者に寄り添うような“しっとり系”の実況で試合を伝える山本が心がけているのは、「感動の横取りをしない」こと。かつて“絶叫系”の実況だったという山本は、同僚や先輩から「ちょっとやりすぎじゃないか」と指摘され、意識を改革。「すごいプレーがあっても“すごい”と言わずに、お客さんが“すごい”と感じる言葉を置くべきだと考えが変わりました」と振り返る。

一方、エモーショナルな“絶叫系”の実況で盛り上げる下田は「自分の感情や驚きを乗せ過ぎちゃいけないっていうのは僕もそう思うんですけど」と前置きしながら、「意外なパスを出されると、普通に驚いちゃうんですよ。そこも含めて一緒に戦っている感じになるのかな」と打ち明けた。

プレーにのめり込み、視聴者と一緒に熱狂する下田のモットーは「音と一緒にプレーする」こと。下田は、実況の際、ボールの動きとしゃべりがシンクロするように意識しているそうで、勝村の「セッションですもんね」という言葉に大きくうなずいていた。

そんな下田の実況のルーツは、サッカー王国のブラジルにあった。小学4年生から中学1年生までブラジルにいた下田は、サッカーと出会い、現地のラジオ中継に惹かれていく。ポルトガル語がわからなくても、目の前にプレーが浮かんでくるような中継だったと言い、「一番旬な時期のブラジルのフットボールを目でも見てましたし、やっぱり音で感じていたっていうのが、自分の実況スタイルのベースになっているのかなという感じはします」と語った。

サッカーの歴史に触れてきたのは山本も同じ。特に日本代表の試合については、歴史的な一戦でも実況を行っている。山本は、アメリカW杯への出場をかけた1993年のアジア最終予選、いわゆる“ドーハの悲劇”が生まれた試合の実況用資料をスタジオに持参。そこには、警告の枚数や過去の怪我の既往歴など、必要最低限な選手の情報が書かれていた。

また、下田の事前準備は解説担当者とのやり取りにあった。サッカー中継で下田とコンビを組むことが多い福田は「試合前は弁当食って、くだらない話をしているだけですよ。(試合のことは)何もしゃべってないですね。僕は基本的にはそういうスタイルです」と明かすが、下田は「気になる選手のプレーについて、弁当を食べながら、福田さんにどう思うとかというのは聞いたりはします。どう思っているかを本音で言ってくれるから、そこで良いイメージを持っているとすると、例えば明らかに良いプレーのときに“福田さん、今のこれどうですか?”と振ると、バーって言ってくれる」と説明。実は弁当の時間が下田にとっては中継前の確認時間だったことを知った福田は「俺が気がついてないだけだ。ちゃんと考えてやりますから」と反省する。

さらに、スタジオでは山本と下田が生実況を披露。6月に行われたガーナ戦で久保建英が代表初ゴールを決めた一連のシーンに、実況をつけていくことに。2人の臨場感ある実況に勝村も感激し、「同じことを言っているんだけど、全然別物でした。すごい!」と絶賛した。

そして、サッカーコンテンツの充実によって世界中の試合を視聴できるようになった今、実況にも大きな変化が出てきているという。例えば、横文字の増加。下田は戦略が細分化したことで横文字が増えてきているとし、「バイタルエリアとか、ハーフスペースとか、そういう横文字を使いがちなんですよ、アナウンサーって。なぜかというと、横文字を使っているとそれ風に聞こえるんですよね」と説明した。

山本は、サッカー中継そのものに言及。近年、サッカー中継ではスローモーションの頻度が高くなっており、山本は「現在を語らないで、過去を語る放送が多くなっちゃった。スポーツの醍醐味の一つは“これからどうなるんだろう”というところなんですけど、その瞬間に過去の映像を見せて解説するようになってしまった」と指摘。さらに「セットプレーの醍醐味というのは、セットプレーを始める前のあの空気感の中で、誰がどのようにフェイクをし、誰がどのように寄っていって、声かけて、偽のサインを出したりして、それをみんなで共有するっていうところにあるはずなんですけど、そこに全部スローが被るようになってしまった。これってあんまり良くないんじゃないかなと思うんですね」と苦言を呈した。

コロナ禍では無観客試合を余儀なくされたが、歓声が上がらないスタジアムでの実況について、下田は「どのアナウンサーも苦労したと思いますし、いろんな手探りがあったと思います」と慮り、「もっとグワッとうねるような空気がある場所だよねっていうのは、やっぱり忘れたくないっていうのがあったんで、むしろ力むところは力んでやろうっていうことは考えました」と話す。

最後は勝村が実況の重要性に触れ、「僕、たまにテレビの音を絞ってみたりするんですけど、つまらないんですよね。スポーツを見て興奮するのは、プレーヤーもそうなんですけど、解説と実況のおかげですから。サッカーも本当に試合がたくさん増えていますし、また今年はワールドカップがもうすぐありますから、本当に楽しみです」と期待を寄せた。

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