『下剋上球児』鈴木亮平“南雲”が流した涙の意味

公開:
『下剋上球児』鈴木亮平“南雲”が流した涙の意味

「お前らがやってきたこと、考えたこと、悩んだこと。無駄なことなんて一つもないぞ。今までもそうだし、これからもそうだ。無駄なことなんて一つもない」

もしも賀門監督(松平健)の言う通りなら、どんな過ちも遠回りもいつか無駄なことなんて一つもなかったと言える日が来るのだろうか。闇教師と謗りを受ける南雲脩司(鈴木亮平)。日曜劇場『下剋上球児』(TBS系、毎週日曜21:00~)第5話は、南雲の苦悩を通じて、僕たちに「教師とは何か」を突きつけてきた。

■南雲はなりたい大人になれたのか、なれなかったのか

教師を教師たらしめているものは何か。一般論で言えば資格なんだろう。免許があって、初めて正規の教員になれる。だけど、じゃあ免許があれば誰でも先生と呼べるのかと言ったらそうとは限らない。

越前恵美(新井美羽)にパパ活の噂が出回っていることを知りながら、周囲の教師たちは「すぐに中退するやろうな」とろくに対応しようともしなかった。南雲だけが、越前の未来のために本気になって走り回った。いつか大人になった越前が「いい先生だった」と振り返るのは、間違いなく南雲のほうだろう。

根室知廣(兵頭功海)がいなくなったときも、山住香南子(黒木華)と柚希(山下美月)が頼ったのは南雲だった。南雲も根室の身を案じ夜通し駆け回った。学校を辞めた南雲にとって、もう根室は自分の生徒でもなんでもない。それでも必死に探し続けた。その顔は、確かに先生の顔をしていた。

もちろん南雲の犯した罪を軽んじているわけではない。過ちは、過ちだ。だけど、南雲は教師ではなかったけど、先生ではあったんだと思う。自分たちの先を生きる人。眩しくて大きな背中。こういう大人になりたいという憧れ。現に、根室と一緒に南雲の家にやってきた生徒たちはみんな南雲のことを先生と呼んでいた。あんなことがあっても変わらずに先生と呼び続けていた。彼らにとって、資格があろうがなかろうが南雲は先生なのだ。

「なんで子どもは学校で勉強するに?」
「なりたい大人になるためだわ」

生徒たちと食卓を囲む中、かつての恩師・寿竜矢(渋川清彦)とのやりとりを南雲は思い出していた。目の前には、出会った頃よりずっとたくましくなった生徒たちの顔がある。キャッチボールさえ覚束なかった椿谷真倫(伊藤あさひ)が、「俺はもっと上目指したいです」と誓う。みんな、野球が大好きになっていた。

「なんでもいいから、学校に来る楽しみみたいなのをさ、見つけてほしいんだよ。部活から学べることってたくさんあるんだよ」

まだ教師だったときに、新入生に伝えた言葉。あのとき、真っ赤な髪であくびをしていた日沖壮磨(小林虎之介)も、周りのことなんて誰も信用していなかった犬塚翔(中沢元紀)も、内気そうに視線を落としていた根室も、みんな見違えるように楽しそうだった。ザン高野球部が大好きになっていた。

その成長がうれしくて、南雲は泣いた。あるいは、その成長にもう関われないことが寂しくて、泣いた。あの涙がどちらの意味だったかは、きっと南雲に聞かなければわからない。もしかしたらあの瞬間こそが、南雲が自分の過ちをいちばん後悔した瞬間なのかもしれない。

自分がちゃんと単位を取得できていれば、誰の目を気にすることもなく、今も彼らと真正面から野球ができた。練習試合の初めての一勝をベンチから味わうことができた。でも、現実はそうではない。

南雲は、なりたい大人になれたのかどうか。教員免許がなくても、かつて自分が寿を慕ったように、こうして頼ってくれる子どもたちがいる。そう考えれば、南雲はなりたい大人になれたんだと思う。教員免許を持っていたって、誰もが生徒とこんな信頼関係を築けるわけじゃない。南雲は、幸せな先生だと思う。

でも、できるならちゃんと教師として彼らと関わりたかったという無念は拭えない。だから、南雲はなりたい大人になれなかったとも言える。というか、あらゆる大人は、なりたい大人になれた自分と、なりたい大人になれなかった自分とのあいだでいつも揺れ動いているのかもしれない。

でも、あの涙がどちらの意味だったとしても、やっぱり南雲は幸せだなと思う。南雲の涙を見て、そっと話題を変えた日沖誠(菅生新樹)。肩を振るわせもらい泣きした久我原篤史(橘優輝)。そこには、南雲への愛がある。おじいちゃんの山崎七彦(中村シユン)のために食事を取り分ける富嶋雄也(福松凜)のキャプテンらしい視野の広さもグッとくる。みんな、本当にいいやつだ。彼らはもうとっくに南雲の罪を許している。

でも、野球部全員が南雲派というわけではない。野原舜(奥野壮)あたりは、反発心があるようだ。次回でついに南雲の処分が決定する。おそらく翔や根室たちは南雲ともう一度野球をするために奔走するだろう。それを、他の部員や大人たち、あるいは視聴者がどう受け止めるか。賛否両論を呼んだ「無免許問題」の審判がいよいよ下されようとしている。

■女性監督誕生へ…山住の「下剋上」が始まる

資格という意味では、南雲の主旋律に対し、山住が副旋律となって絡み合う構造となっている。野球は大好き。だけど、女子だから選手として甲子園を目指すスタートラインにも立てなかった。教師になってからも、前任校では部の練習方針に意見を出すことさえ認められなかった。自分には資格がない。日陰に徹してきた山住が、ついに監督への道を歩み出そうとしている。『下剋上球児』は南雲の物語であり、生徒の物語であり、山住の物語でもある。みんながそれぞれ後悔やレッテルを跳ね返そうとしている。

闇教師と、女性監督。そして、地元で評判の悪い底辺校。ある意味、「下剋上」のメンツとしてはこれ以上ない顔ぶれだ。胸のすくような快進撃で、現代社会を蝕むあらゆるしがらみをぶち破ってほしい。

あと、『中学聖日記』(TBS系)つながりで町田啓太がサプライズ出演ということで、これはもう元高校球児の水上恒司の登板も期待してしまうのですが、そのあたり新井順子プロデューサー、いかがでしょうか……?