『下剋上球児』鈴木亮平“南雲”と菅生新樹“誠”に見る過ちとの向き合い方

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『下剋上球児』鈴木亮平“南雲”と菅生新樹“誠”に見る過ちとの向き合い方

教師は、生徒に教える仕事だ。でも、教職に就いた人なら、いやもっと言えば、誰かに何かを教えたことのある人はみんな一度はこう思うはずだ――教えられているのは、自分の方だと。

知識も経験値も自分の方がずっと上。それでも、自分より半分も生きていないような子どもたちから教わることがいっぱいある。

日曜劇場『下剋上球児』(TBS系、毎週日曜21:00~)第3話は、過ちを犯した南雲脩司(鈴木亮平)が自らの罪とどう向き合うかを生徒から教わる回だった。

自分の過ちと向き合う誠を見て、南雲は何を思ったのだろう

「誰にでもできることじゃないよな。俺があいつの立場だったらとっくにあきらめてやめてる」

誰も部活に来ない中、ひとり練習し続けた日沖誠(菅生新樹)のことを南雲脩司はそう称えた。普通に聞けば、生徒を労う先生らしい台詞だ。でも、単位が足りず教員免許を偽造したという衝撃の過去が明らかとなった今、南雲の言葉は何重もの意味を孕んでいるように聞こえる。

南雲は、最後まであきらめずに努力ができなかった側の人間だ。どういう事情があって単位を逃したのかはわからない。だけど、理由は何であったにせよ、本来はあと1年留年してでも単位を取得し、正式な形で教職に就くべきだった。それが、南雲にはできなかった。南雲は、自分に甘い方向に逃げてしまった。その罪の意識をずっと抱えながら教壇に立ち続けてきた。

だから、どんなに状況が劣悪でも、どんなに才能がなくても、ひた向きに、一意専心に、努力をし続ける誠のことが眩しかった。南雲が練習に足を運べなかったのは、自分が関わることで部に迷惑がかかるからだけじゃない。まっとうに努力する球児たちに顔向けできない後ろめたさがあったからだ。

そして、「俺があいつの立場だったら」という言葉は、自らの犯した過ちという点でも、南雲と誠の間に対角線を引いた。

弟・壮磨(小林虎之介)の起こした暴力事件。だが実は、被害者に怪我をさせたのは、兄の誠の方だった。本当のことが明るみに出たら、野球部は甲子園予選に出られないかもしれない。3年間、ずっと兄が頑張ってきたことを知っているから、壮磨は自分がやったと罪をかぶった。

だけど、誠は弟を身代わりにする自分を許せなかった。自ら罪を告白し、被害者に頭を下げる。これもまた南雲ができなかったことだ。

自分の犯した罪の重さに耐えきれず、教職を辞める覚悟を胸に秘めながら、なかなか最後の決断ができない。校長・丹羽慎吾(小泉孝太郎)に言いくるめられ、ずるずるとここまで続けてきてしまった。監督業だってそうだ。確かに丹羽も横田宗典(生瀬勝久)もしつこいけど、断ることはできた。最終的に引き受けてしまったのは、南雲が優しいからじゃない。自分に甘いのだ。

自分の未熟さを誰よりも自分がいちばんよく知っているからこそ、「言えんで、すんません」と崩れ落ちる誠を見て、南雲は自分を見ているような気持ちになった。あのとき、南雲が誠の肩に手を置いたのは、単なる励ましだけじゃない。

過ちを犯す弱さを、犯した過ちを隠し続ける狡さを、南雲も知っている。あれは、種類は違えど、過ちを犯した者同士の共感と連帯だった。

誠の事件は、被害者が訴えを取り下げたことにより内々で終わった。ザン高野球部は無事に予選に出場できることになった。それでも、誠は責任をとって、高校生活最後の大会でベンチに下がることを決めた。誠なりの罪との向き合い方だった。

そんなバカ正直なほど真面目な教え子を前にして、南雲は何を思ったのだろうか。葛藤を経て、南雲は南雲なりにやっと自分の過ちをすべて引き受けようとしている。

だが、南雲が偽教師であることを知った上で、山住香南子(黒木華)は南雲を副部長として登録申請した。

「私も共犯になります」

壮磨が兄の罪をかぶったように、山住もまた南雲の罪に加担した。倫理的に間違えていることはわかっている。だけど、人生には正しさだけでは白黒をつけられないことがあって、兄を守りたい壮磨の気持ちも、生徒のためにも南雲を迎え入れたい山住の気持ちもわかるから、言葉が出てこない。

彼らの夏が終わったら決着をつけると南雲は言った。猶予は、残り1ヶ月。この判断が正しいかどうかは、もうわからない。すでに賀門英助(松平健)が南雲の秘密に近づきはじめている。ザン高野球部は悔いのない夏を送ることができるのか。胸のざわめきは、一層不吉な気配を濃くしている。

富嶋がいいやつすぎて胸が痛い

そんな南雲のドラマの裏側で、球児たちの物語もより厚みを増している。今回光が当たったのは、捕手の富嶋雄也(福松凜)だ。自分がちゃんと球を受けられないせいで、犬塚翔(中沢元紀)が本来のピッチングができていないことに、富嶋は負い目を感じていた。犬塚に全力を出してもらうためにも、壮磨に野球部に入ってほしいと乞う。その結果、たとえ自分がレギュラーの座を追われることになっても。

富嶋はいいやつだ。壮磨とのやりとりを見ていても、ちゃんと野球が好きなのがわかる。幽霊部員だったのが信じられないくらい誠実な性格だ。でも、ストーリーの展開上、いずれ壮磨が正捕手になることは既定路線。となると、富嶋はやはり控えに下がることになるのだろうか。それが、部として強くなることだとわかっていても胸が痛い。

そもそも富嶋は2年。甲子園に出場するのは現在1年生の代なので、3年の誠はもちろん富嶋や野原舜(奥野壮)ら上級生が夢舞台に立つ前に卒業を迎えることも明白だ。部活は、一人ひとりが主人公。夢に届かなかった彼らの引退もひとつひとつ丁寧に描いてほしいと思うものの、1年目の地方予選ですでに4話まで達しようとしている進行速度を考えると、このあたりがどこまで詳細に描かれることになるのかは何とも言えない。

また、高いポテンシャルを秘めながら、守備が下手だったり、早々と練習を切り上げたり、乗る電車を間違えたり、マイペースという言葉だけは形容しきれない1年・楡伸次郎(生田俊平)も気になるキャラクター。どこかで彼が問題を起こすことになりそうだけど、もたらすのは波乱か、それとも成長か。

いずれにせよシンプルに下剋上までの日々を追いかけたい身としては、南雲の教員免許偽造はヘビーすぎて、ストーリーに入り込む上で障壁になっている。何とか早くこの問題を解決して、晴れやかな気持ちでザン高野球部にエールを送りたい。