『あなたがしてくれなくても』レス当事者全員が戦友となった夜「してくれなくても」の後に続く言葉は…

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『あなたがしてくれなくても』レス当事者全員が戦友となった夜「してくれなくても」の後に続く言葉は…

衝撃のラストをどう受け止めたらいいのか迷う。6月22日に放送された『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)の最終話は、離婚して姓が戻った石上みち(奈緒)と橋本楓(田中みな実)、そして吉野陽一(永山瑛太)、新名誠(岩田剛典)が再集結。4人はどんな決着をつけたのだろうか。

「逃げるな、泥棒猫」逃げ続けたみちが出した答え

「自分の足で立つ、独りで生きていく」=呪い。先週のみちの決断に対して、北原華(武田玲奈)が否定的な発言をしたものだから、みちは結局また恋愛して誰かとくっつく展開なのだろうなと察した。

仕事にのめり込もうとするも、ミスを連発するみち。まるでお仕事のドラマの第一話みたいで、ここからみちの大逆転サクセスストーリーが始まるか……? とも思ったが、最終話にしてそれは難しそうだ。

一方、お仕事ドラマの主演をずっと張ってくれていた楓は育児雑誌編集部へと転属。どういう気持ちでいるのだろうと心配だったが、編集長というポジションにはつけると聞いて安心した。

しかもちゃんと前を向いて、すでに新たな雑誌の色に馴染んでいる(本当に仕事ができる人じゃん!)。結局最初からずっと変わらずに応援し続けられたのは楓だけだった。ブレずに生きてくれてありがとう。どうかそのままで幸せになってほしい。

みちに対して楓は「逃げるな、泥棒猫」と言っていたが、本当にみちは今までとにかくいろいろなことから逃げ続けてきたなぁと改めて思った。それも生存戦略のひとつではあるけれど、逃げずに戦ってきた楓からすると、正反対でイライラもするだろう。そんな二人が一緒に立ち飲み屋で語り合うシーンはほほえましくもあり、なんだかんだ二人も戦友になれたのだなと実感した。

問題なのは、陽一と新名だ。こちらも頻繁に会っているようで、いつのまにか友情めいた空気感を醸している。しかし、二人がみちに対して向けている矢印は変わらないまま。二人ともみちに未練を抱いている状態というのは、なんだか不健全な感じがする。

だからこそ、カフェで4人が集合するシーンにはシビれた。大人たちが大人の言葉で語りあっている。これぞフジの木10ドラマだ。楓のいたたまれなさを想像するとつらいけど、そこはさすが自立した女。めげない。

楓は新名に別れ際「私が戦友になってあげようか」と告げる。「じゃあ」「また」。七夕祭りの看板や短冊が背景に見えたこのシーン。二人はきっとまた会えるし、願いは叶う。そんな希望めいたものを感じ取れた。

みちはというと、忘れ物を取りに行く選択をした。新しい道を踏み出すのなら、忘れ物のことなんて忘れたままのほうがいいのに。結局これもみちの「逃げ」なのかもしれない。勝手知ったる優しさに救いを求めたように見えてしまった。

この結末には、みちと陽一の弱さが全面に出てしまっている。ただ、欠けたパズルのピースが見つかったなら、今度こそ最後まで完成させることもできるのかもしれない。

当事者4人、全員が戦友

「俺と彼女は戦友なんだよ」とみちとの関係を話す新名に、「何と戦ってんの?」と楓は言っていたが、これには思わずハッとした。戦友とは、敵がいる上で築かれる友情関係。みちと新名にとって敵は陽一であり、楓だった。

でも本作を見ていたら、レスする側もされる側も当事者であることに変わりなく、何かしらの悩みを抱えていることがよくわかった。4人全員が集ったシーンは、まさに全員が戦友になったことを示していた。

だからこそ余計に、みちと陽一だけが復縁する展開にモヤモヤする視聴者がいるのもわかる。これでは人生を変えざるを得なかった新名と楓があまりにも不憫すぎるから。

それに、永山瑛太をキャストに据えての元サヤ展開は、『最高の離婚』『リコカツ』といった、過去の離婚ドラマの再生産のように見えてしまい、もったいなさを感じてしまった。

しかし、これも致し方ないのかもしれない。ワイドショーを賑わすW不倫報道や、それに付随するバッシングをみてしまうと、国民感情としてはやはり不倫の恋は許されるものではないのはたしか。それを思うと、エンタメだとしてもここでみちと新名をくっつけるという選択はリスクが高い。

離婚から復縁の展開の速さにも驚いたが、これについては来週放送の特別編で空白の期間が描かれる。みちにどういう気持ちの変化が起こったのか、ももう少し詳しくわかってくることだろう。

「してくれなくても」の後に続く言葉は…

性について語るとき「シモネタ」にならないかという不安はどうしてもつきまとう。「セックス」についても「レス」についても、話すべきではないという規範が強いなかで、これだけ視聴者の期待と信頼を集めたのは、ドラマが成功した証だ。

これまで性生活は、夫婦を結びつける大切な絆だと考えられてきた。むしろ、しないと夫婦であるという関係性を示すシンボリックな意味が失われてしまう。本作の出発点もそこにあったはずだ。

ただ、現代では夫婦関係に性生活は重要ではないと考える人々は増えてきている。さらに女性は望まないセックスを拒否することができようになってきた。その点もしっかり踏まえてつくられているのが本作の妙味だった。

レスする側とされる側の双方の視点を盛り込むことで、「夫婦はセックスしなければならない」「セックスレスは問題」という前提のおかしさを再考察できる内容に仕上げたことはとても評価できる。大切なのは、互いに尊重しながらのコミュニケーション。それができれば、セックスレスで苦痛を感じる人は減っていくだろう。

言いたいことをずっと言い合えなかったみちと陽一にとっては、ここからが正念場だ。妻だけEDや、子供に対する考え方の差が表面化したことの解決策もまだ示されていない。それでも『あなたがしてくれなくても』のあとに続く言葉が「そのままで大丈夫だよ」であるならば。これはこれで、希望めいた終わり方なのかもしれない。

(文:綿貫大介)