過激なインティマシーシーンの裏側に迫る『アカイリンゴ』監督&インティマシーコーディネーター鼎談

公開:

激しいインティマシーシーン(性描写)で話題をさらっている小宮璃央さん主演のドラマ+『アカイリンゴ』(ABCテレビ、毎週日曜24:25~/テレビ神奈川、毎週金曜26:00~)。令和の時代に興味深いチャレンジをしている本作が「描きたかったもの」とは何なのか――。

物語は、法律で性行為が禁じられた近未来の日本が舞台。欲望に揺れる心情と理性で抑えきれない衝動を、繊細に鮮烈に描いています。

今回は、桑島憲司監督、小野田浩子監督、そしてインティマシーコーディネーター(※/以下、IC)の西山ももこさんを迎えた鼎談が実現。過激なシーンも多い本作において、俳優へのケアや撮影の裏側など、たっぷりと語っていただきました。

(※)インティマシーコーディネーターについて
露出や身体的接触を伴うシーンを安全に撮影するために役者・監督のあいだで調整を務める専門家。

“できないこと”の中で“できること”を

――まず西山さんは、ICとしてどんな仕事をしているのか教えてください。

西山:たとえば、台本のト書き(演出を説明する文章)で「犬田光(小宮さん)とキスをする」と書かれていても、「どういうキスをするのか」「どういう衣装を着ているのか」など、役者さんは気になるところですよね。

そこで監督さんと、まずは、そこまでやる必要があるのか・ないのか、どんな撮影になるのかなどを聞き、役者さんに伝えます。その後、「ここは見せたくない」「こうするのはどうでしょう」と役者さんから返ってきた意見を受けて、監督たちと修正していきます。私は、2020年からICになったのですが、この約2年で30作品ほど携わらせていただいていますね。

――実際に現場にも同行されるそうですね。

私の仕事は、役者さんの見せたくない部分や聞いていなかった部分などを解消するところもあるので同行します。今回の組は、(俳優とスタッフが)カジュアルに話せる仲だったので、良かったと思います。そうした空気づくりをしておくのは大事ですし、役者さんにとっても、プレッシャーが減るのかなと思いますね。

――監督は、この作品に取り組むにあたり、どんな作業から始めたのでしょうか?

桑島:原作をそのまま地上波でやるのは難しいと思ったので、確認作業ですよね。局側とどこまでがOKなのかを話し合い、カメラテストもしましたが、ほぼNGを食らいました(笑)。できるもの・できないものが具現化されていくのと同時に、台本も出来上がっていきました。

小野田:私はカメラテストから参加させていただいたのですが、桑島監督のやりたいことを把握しつつ、「これもダメ」「あれもダメ」と聞いて、“壁は高いんだな”と思っていました(笑)。

――多様性の時代に振り分けるのは忍びないですが、いわゆる男性目線・女性目線の違いは感じましたか?

桑島:あったと思いますよ。原作はどちらかと言えば男性目線なので、女性は共感できないところもあるのかなと。

西山:最初に原作や台本を読んだときに、どこまでも「男性目線のエロ」を描きたいんだろうなと思いました。「どういうふうに見せたいのか」は一番大事なところで……たとえば、コミカルにエロを見せたいのに、逆にしっとりさせたって意味はない。今回は、すべて過激なエロにこだわらず、「綺麗に見せたいところは綺麗に見せる」といったメリハリある指示を出してもらったので、ありがたかったです。

あと、文字ベースと実際にやってみるのは違うので、今回の現場は発見も多くて非常に面白かったですね。できないことがある中、できることをどう最大限やっていくか、という作業は興味深かったです。

――監督もそのあたりは工夫しながら描いていったんですね。

桑島:「そうせざるを得なかった」という部分もあるんですけどね(笑)。心がけたのは「映像として綺麗に撮る」ということと「役者の芝居は真面目にやってもらう」ということです。エロ要素が強い1、2話の時点でSNSを見ると「どう見たらいいかわからない」と書き込んでいる方がいましたが、3話以降は、それが減りつつ話がドライブしていくので、見方も分かってくれると思いますし、そのあたりの調整も気にしながら進めていました。

小野田:私は7話を担当させていただきました。体の関係を持とうとしているけど、犬田が男性として機能しない……というシーンのとき、着衣のまま撮っていたら、現場で「裸じゃないんだ」という声が聞こえてきて。“裸でやった方がよかったのかな”と思っていました(笑)。

西山:それにしても今回は(過激なシーンが)多かった!「毎日出勤することある?」「(エキストラの使用分も含めて)1日でベージュの下着を何十枚も使うことないよ?」みたいな(笑)。もちろんみんなで話ができる現場でしたし、ハラスメント的な要素もなかったので、“行きたくない”とは思わなかったんですけどね。

覚悟を決めて挑む俳優陣へのフォロー

――激しいシーンもある本作において、ICの存在は大きかったのでは?

桑島:ICさんに現場に来ていただくのは初めてだったんですが、かなり甘えちゃいましたね。気づけなかったところを、気づかせてくれたことが多かったんです。今回、ご一緒させていただいて思ったのが、ダンスと似ているということ。細かい所作はもちろん「こうしたら綺麗に見える」とか、意見をくれるので助かりました。その道のプロがいた方が、確実にクオリティは上がるし、日本でもさらに(ICを起用することが)増えていくと思います。

小野田:ももさんにいてもらいましたし、出演者みんな腹を括っているところはあったので、始まったら躊躇がなかったというか。監督陣もやりやすかったと思います。

西山:スタッフとしてはいち作品だけども、役者さんにとっては一生作品が残るわけじゃないですか。キャリアを積んだ後に「なんでこの作品に出ちゃったんだろう」と思うことがないように、事前に話をする時間は作りました。みなさん若いから勢いでやってしまいがちだけど、私たちにも“お願いする責任”はあるなと。

――現場での俳優さんの様子を教えてください。

桑島:賑やかに楽しそうにやっているのがいいですよね。現場の嫌な雰囲気は画にでると思うので、それは心掛けていました。

――監督目線やIC目線での主要キャスト(小宮さん、川津明日香さん、新條由芽さん)の魅力を語ってください!

小宮璃央さん

桑島:圧倒的にビジュアルが良くて性格もいいんですよ。目上の人はちゃんと尊敬するし、いい子だなと思いますよ。この業界って、いいヤツじゃないと売れないと思っていますけど、そういう意味では売れるだろうと思います。

小野田:腹筋が素晴らしいです(笑)。でも、そこはみんなが見たいところだし、大事な部分だと思うんですよね。

西山:躊躇なく役を作り上げてきて驚きました。20歳になったばかりの若さで、犬田に自分の感情を乗せられるのがすごい。1話の美術室のシーンも、彼が作り上げてきたものです。

川津明日香さん

桑島:川津さんもサバサバしているし、いい子だし、売れると思います(笑)。

小野田:(激しいシーンにて)一瞬、素にかえっちゃうところがあって「可愛いな」と思いました。本番でもこらえる部分があったと思いますけど、彼女の気持ちもわかりますし、よく頑張ってくれたなと思います。

西山:ご一緒するシーンが少なかったんですが、自分が何を見せていいのか、ビジョンをしっかり持っていらっしゃった方で、いろんなことまで考えて役作りをされている印象があります。

新條由芽さん

桑島:キャッキャッして可愛らしいし、新條さんも売れます(笑)。3人とは、また仕事がしたいと思いましたね。

小野田:「ウチュラ(宇宙美空/新條さん)って本気で犬田のことが好きなのかな?」と不思議なところがあったんですが、回を重ねるごとにちゃんと好きの感情が見えて、すごいなと思いました。

西山:本当にナチュラルに演じていらっしゃって、こちらは何も心配していませんでした。犬田との美術室のシーンも、自然にウチュラを演じていて驚きましたね。

『アカイリンゴ』は実は胸キュンストーリー?

――今回、他キャスト陣やエキストラ陣も重要な存在になっていますよね。

小野田:じつは、(エキストラがたくさん出てくる)会員制クラブ「G-アンツ」のシーンでハッとしたことがあって。自分の中で、なんとなくLGBTを受け入れている感があったんですけど、カップルを配置していく中で(西山さんに)提案されたのが、同性のカップルを入れることなんです。そうしたカップルをいい配置に置かれたとき、その考えがなかったな、と思いました。

西山:じつはこのドラマは、その一瞬にもこだわっていて。「(同性カップルの場合)エキストラだからいいや」ではなくて、当事者の方にお願いしました。

あと、エキストラの方の中には、(セクシー業界の)プロの方も出ているので、そこも見どころだし、贅沢づかいですよね。特にみなさん魅せ方が分かっていらっしゃるので、とても助かりました。監督のイメージを伝えたらご自身で動いてくださるから、非常に安心感があって。もちろんその方たちに対してもICとしての仕事は同じで「嫌なことはないか」など話を聞いていました。みなさん作品に出演すると、喜んでくださることも多いから、今後、業界同士で融合していくのもいいなと思いました。

――7話から物語はガラリと変わっていくそうですね。こだわっている部分を教えてください。

桑島:「行為を持つことが禁止された世界」という大きなテーマがあるにせよ、じつは後半になればなるほど、3人の話に集約していて、テーマ性としてもシンプルなものになっていくんです。話はとても複雑なものなんですが(笑)、「一途な愛」みたいなものが伝われば嬉しいです。

西山:ドラマ『アカイリンゴ』ってじつは純愛で胸キュンなドラマなんですよね。私が行く現場では、服を着ているシーンがあまりないから、TVerで見て「こんなシーンあったんだ!」と思いますもん(笑)。

――そんな本作にて、みなさんが描きたかったこと、伝えたいことはどんなことなのでしょうか?

桑島:日本はどちらかといえばセックスに関して堂々と表現しない人種じゃないですか。それにド直球で挑戦している作品なんですが、じゃあその行為自体は何のためにあるんだ、というところに辿り着くと思うんです。結局、私たちの中で出した答えは「まず人を愛することが大事」ということ。そんな描きたかったことを、犬田や水瀬たちに託しました。視聴者の方に思いが伝われば嬉しいです。

小野田:6話以降は、3人の擦れていない感じが出ていると思います。いろんなものを削ぎ落とした「ピュア」を楽しんでほしいなと思いますね。

西山:今回の作品に対しては、インティマシーシーンが軸になってくるので、逆にそこを雑にしちゃいけないなと思っていました。中には「役者さんの気持ちを考えると見づらい」という方もいるのですが、すべての声を拾えたかはわからないものの、現場としては和気あいあいと、こだわって作ったので、楽しんで見てほしいなと思います。

取材・文・写真:浜瀬将樹

<今後の配信情報>
■『アカイリンゴ』オリジナルスピンオフ配信(TVer、GYAO!にて)
3月6日(月)22:00~ 
犬田光、空白の1か月、その真相を描く。

■『〜歩くアロマ教師 壇田律〜 心のホームルーム』(TVer、GYAO!にて)
前編:3月12日(日)24:55~/後編:3月19日(日)24:55~
壇田律役の森咲智美と、小宮璃央、川津明日香、新條由芽、そして桑島憲司監督とインティマシーコーディネーターの西山ももこさんが撮影裏話などを振り返る。

画像ギャラリー

PICK UP