『夕暮れに、手をつなぐ』黒羽麻璃央“心”が本格参戦で、永瀬廉“音”が思わず動揺…?

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『夕暮れに、手をつなぐ』黒羽麻璃央“心”が本格参戦で、永瀬廉“音”が思わず動揺…?

時々、夜の闇がどうしようもなく怖いときがある。無音の大きさに潰されてしまいそうなときがある。そんな夜を共に過ごせる相手が、人生を一緒に生きていける相手なんじゃないかなと思う。

夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系、毎週火曜22:00~)第5話で、浅葱空豆(広瀬すず)は2人の男性と共に夜を過ごした。

海野音(永瀬廉)と、葉月心(黒羽麻璃央)。どちらの夜に、空豆は安らぎを覚えたのだろうか。

眠れない夜に、空豆が頼ったのは音だった

菅野セイラ(田辺桃子)からかかってきた「いのちの電話」。音の代わりに出たのは、空豆だった。

「夜に吸い込まれそうになって、怖くなって」

そんなセイラの繊細な感受性に呼び起こされるように、その夜、空豆は思い出した。母・塔子(松雪泰子)が自分を捨てると決めた夜のことを。夜は、いつも孤独の影が濃くなる。自分はこの世で誰からも必要とされていないんじゃないかと苦しくなる。

そんな1人では眠れない夜に、空豆が頼ったのは音だった。居間のこたつで寝落ちしている音。そっと忍び込むように、そら豆もこたつに潜り込む。こたつのじんわりとした熱が、つま先を伝う。同じ温度を共有している人がいるだけで、この世に自分1人じゃないと思えた。

90度分離れた音の背中はちょっと遠くて。だから、悪戯したくなる。振り向いてくれたらいいなと思って、足を小突く。寝ぼけ眼に交わした会話はとりとめのないもので、きっと音は明日の朝には忘れているかもしれない。でも、空豆は何年経っても、何十年経っても、音を思い出すとき、あのこたつの夜をセットで思い出すんじゃないかな。

人生には、そういう瞬間が何度かある。私はこの景色を、この匂いを、このざわめきを、ずっと忘れないんだろうなという瞬間が。

あのこたつのシーンは、まさにそんな場面だった。90度分の距離も、口からこぼれた瞬間、たちまち夜の静けさに溶けていくような言葉も、ヒーターに照らされた2人の脚も、どれも美しくて。空豆に音がいてよかったと、沁みるように胸が温かくなって、ちょっとせつなくなる。

音と過ごす夜が「静」の夜なら、心と過ごす夜は「動」の夜

一方、もうひとつ印象的な夜の場面が登場した。それが、空が働くことになったファッションブランド「アンダーソニア」のパタンナー・心との夜だ。仕事を終えた空豆と心は、洋服への憧れと情熱を爆発させるように、夜の表参道へ繰り出す。

眩く光る高級ブランドのショーウィンドウ。ほんの少し前までは知らなかった世界だ。でも今は、ガラス越しに並ぶ洋服の鮮やかな色遣いに、大胆なシルエットに、きめ細やかな縫製に、心が躍る。そして、その興奮を共に味わえる人がいることがうれしくなる。

「昼はよそ行きの顔してる、服も」

そう心は言った。つまり夜には、昼には見せない顔があるということだ。そして、その顔の方がずっと本心に近い。夜は怖いものだと思っていた空豆にはきっとなかった発想だと思う。そして、そんなふうに同じ世界をまったく違う視点から見ている人に胸が弾む。

音と過ごす夜が「静」の夜なら、心と過ごす夜は「動」の夜。夜に怯える空豆に必要なのは、どちらなんだろう。

心を演じる黒羽麻璃央は、29歳。2012年、ミュージカル『テニスの王子様』で俳優デビューを果たし、ミュージカル『刀剣乱舞』の三日月宗近役で人気を不動のものにした。そこから『ロミオ&ジュリエット』、『エリザベート』など大作ミュージカルへと活躍の場を広げながら、映像の分野でも着実に足場を築き上げてきた。

GP帯の連ドラでは『SUITS/スーツ2』(フジテレビ系)、『競争の番人』(フジテレビ系)などに出演してきたが、今までいちばんおいしい役を掴んだと言っていいだろう。端正なビジュアルに加え、本人の持つ茶目っ気や人なつっこさを存分に発揮。距離は近いけど、ちっともいやらしさがなくて、するっと心に入り込んでくる。

どちらかというと「陰」の魅力を放つ音に対して、まさに「陽」の輝き。こうした対比が物語を面白くする。セイラといい、雪平爽介(川上洋平)といい、空豆と音の間に割って入るかと思いきや、あっさり身を引くパターンが続いている本作で、黒羽麻璃央の存在がいいカンフル剤になれば、ますます面白い展開になりそうだ。

90度に開いた道は、決してその先で交わることはない

また、恋愛だけでなく、夢を追う物語としても加速度を増してきた。音の曲を社長に聴かせるために、空豆たちが作戦を立てるところは、なんだか文化祭みたいですごく楽しそうだったけど、それ以上に心に残ったのは、夢のスタートラインに立ったからこそ感じる心細さだ。

セイラと電話をしたとき、「翔太(櫻井海音)がいなくなったら、こっから先どがんしてええかわからんやった」と空豆は打ち明けた。あのあと、「まっ、じゃっどん」と続けて、そこから先は音によって打ち消されてしまったけど、あの「じゃっどん」に続く台詞はきっと「音がいてくれたから生きてこられた」だろう。

何も知らない東京で、音が空豆の太陽だった。たとえ道がわからなくなっても、音の方向を向いていれば、帰る場所を見つけられた。

でも、今、音と空豆は違う道へ進もうとしている。90度に開いた道は、決してその先で交わることはない。音のためにつくった即席の衣装は、最初で最後の共同作業だ。それがわかっているから、空豆はこたつで「心細か」と呟いた。

でも、歩きはじめたデザイナーとしての道で、早速、心という新たな味方と出会った。心は空豆の才能を買い、空豆のデザインした洋服のパターンを引きたいと夢を語る。ここからは心が空豆の灯台となるのか。

捨てられることを極端に恐れる空豆は、自由そうに見えて、1人では生きていけない人間だ。別々の道で違う夢を追いかける音と、同じ道でひとつの夢を追う心。空豆が手をつなぐ相手は、はたしてどちらだろうか。