『夕暮れに、手をつなぐ』永瀬廉の「いろよ」に込められた、「この人じゃなきゃ」という想い

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『夕暮れに、手をつなぐ』永瀬廉の「いろよ」に込められた、「この人じゃなきゃ」という想い

もしも恋とは何かを定義するなら、他の誰も代わりが効かないということじゃないだろうか。

「誰でもいい」じゃない。「この人じゃなきゃ」と強く思うこと。

夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系、毎週火曜22:00~)の浅葱空豆(広瀬すず)と海野音(永瀬廉)もまた「この人じゃなきゃ」という関係に近づきつつある。

「誰でもいい」との対比で浮き彫りになる、空豆と音の関係性

この第3話では、いくつかの「誰でもいい」が描かれた。ひとつは、空豆の雪平爽介(川上洋平)に対するプロポーズ。宮崎に帰ってこいと口うるさい祖母・たまえ(茅島成美)を安心させるためなら、誰でもよかった。爽介にプロポーズしたのも、そのときちょうど目の前にいたから。水族館のクラゲは可愛かったけど、隣にいる爽介に決してドキドキはしなかった。

でもそれは、爽介も同じだ。突然のプロポーズを二つ返事で承諾したのは、港区女子に慣れた爽介にとって、何かと規格外の空豆がいわゆる“おもしれー女”だからかと思ったが、そういうことでもなかった。別れ話がもつれたままニューヨークに残した恋人との関係を清算するために、空豆を利用しようとしただけ。ニューヨークについてきてくれるなら、誰でもよかった。

音の前に突然現れた菅野セイラ(田辺桃子)も一目惚れなんてデタラメで、「誰でもいい」からお金を貸してくれる人を探していただけだった。音に目をつけたのは、いい人そうだから。嘘を見抜かれたあとも、「また、電話していいかな」とすがるような素振りを見せたけど、音は「俺を求めているっていうよりかは、誰か人を求めてる」と冷静だった。優しくしてくれる人なら、誰でもよかった。

みんな自分のことばっかり。でも、大なり小なりそういう幼稚な関係を経験して、人を好きになるとはどういうことなのかを人は知っていく。爽介とのデートにはあまりピンと来ていなかった空豆だけど、音がセイラと一緒にいるところを見た途端、胸のざわめきが止まらなかった。音もまた空豆が結婚を決めたと知り、やり切れなさそうにベッドに身を沈めた。

「おいは、捨てられた人間と。拾ってくれる人がおりゃあ、それだけでうれしか」

そう呟く空豆を見ながら、だったらもし爽介より先に自分が気持ちを伝えていたら受け入れてもらえたのだろうか。そんなことを考えているように見えた。

2人はもうすでに「誰でもいい」相手なんかじゃない。だって、「やるとね?」と言って、何も確かめずともコタツをどかす。こんな気の合う相手、そうそういない。音にとって、出来上がった楽曲を聴かせたいのは空豆だったし、空豆にとって初めて見つけた心沸き立つものを知らせたいのは音だった。

ラストの「帰んなよ。いろよ」なんて「誰でもいい」人には絶対言えない。「この人じゃなきゃ」と思うからそばにいてほしい。第3話は、爽介とセイラとの対比を見せることで、空豆と音の特別な関係性を際立たせる回だった。

いつか音が涙を流すときが、このドラマのピークポイントになる

同時に、海野音というキャラクターの魅力がじわじわと沁みこんでくる回だった。

音は、基本的に温度が低い。磯部真紀子(松本若菜)からコンペに出した曲が採用されたと知らせを受けても、「やった〜」とローテンション。このゆるゆるな感じが妙にツボにハマる。爽介にプロポーズされたと報告する空豆への「早」という返しも、空豆のハイテンションっぷりとコントラストが効いていて笑える。

一方、母親のことに関しては口が重い空豆の気持ちを「言わなくても、どっちでも」と尊重する優しさが、そっけないようでいて温かい。人に深く踏み込むのが苦手な音だけど、その距離感が今の時代には心地いい。こんなの、僕がセイラだったら、毎日電話をかけます。意味なく喫茶店にも通います。

演じる永瀬廉も、どこか寂しさとあきらめが入り混じった空気をまとっていて、その翳りに目を奪われる。特にラストで「いろよ」と言ったあとに空豆を見つめる目には憂いを含んだ色気が溢れていた。永瀬廉の本領発揮と言っていいだろう。

「自分がいつ泣いたか思い出せないです」と話していた音が涙を流すときが、きっとこのドラマの一つのピークポイントになるはず。傷つくことから背を向けている音が流す涙は、悲し涙なのか、うれし涙なのか。いずれにせよ、そこには空豆が関わってくるはず。『おかえりモネ』のりょーちんで魂を振り絞るような泣きの演技を見せた永瀬廉が、今回はどんな泣きを見せてくれるのか。それが、このドラマを見続ける楽しみのひとつになっている。

また、楽しみと言えば、今回から登場した松雪泰子も忘れてはならない。空豆を捨てた母・塔子を演じている。次回からいよいよファッションの道を歩みはじめる空豆にとって間違いなく大きな存在となるはず。空豆と音のラブストーリーが縦糸なら、この母子のドラマが横糸か。今後、どのように物語に絡んでくるか注視したい。

そして最後にもうひとつ注視しておきたいポイントを挙げるとすると、空豆の靴だ。あのクラゲのようなドレスを見つけたとき、吸い込まれるように動き出す空豆の足元の画がインサートされた。あのオレンジのスニーカーは、説明するまでもなく音が買ってくれたもの。空豆は見知らぬ東京での生活をこのオレンジのスニーカーを履いて過ごしている。

「Good shoes take you to good places(いい靴を履くと、いい場所に連れて行ってくれる)」は古くから知られる有名な言葉。音がくれたオレンジのスニーカーが、空豆を夢へと導いてくれた。きっとこれからも重要な場面で空豆はオレンジのスニーカーを履いているだろう。空豆の靴に注目しながら見てみると、ますますドラマの面白さも広がるかもしれない。

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