『silent』村瀬健Pと風間太樹監督が語る撮影舞台裏「視聴者と共闘関係が結べたら」

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『silent』村瀬健Pと風間太樹監督が語る撮影舞台裏「視聴者と共闘関係が結べたら」

silent』がいよいよ最終回を迎える。

TVerの歴代最高再生数を幾度にわたって更新するなど、数々の金字塔を打ち立てた『silent』。その撮影の舞台裏を、村瀬健プロデューサーと風間太樹監督がTVerプラスにだけ語ってくれた。

5話は絶対に紬のカメラ目線で終わろうと決めていた

――今回はせっかくおふたりにお時間をいただいたので演出のこだわりについて聞いていきたいと思います。個人的に印象深いのが、各話のラストカット。1話は、青羽紬(川口春奈)の泣き顔のアップ、2話は紬と佐倉想(目黒蓮)が一緒にいるところを目撃した戸川湊斗(鈴鹿央士)のアップなど、強い画で締めくくられていて、それが鮮烈な余韻となって残ります。

風間太樹監督(以下風間監督):1話のラストは、実は最初は想で終わっていたんですよ。

村瀬健プロデューサー(以下村瀬P): Pプレ(プロデューサープレビュー)のときはそうだったよね。それを見て僕の方から「最後は紬でしょう?」という話をさせてもらって。

――ぜひそのやりとりを詳しく聞きたいです。

村瀬P:ドラマで大切なのは、誰の気持ちで見るかだと思うんですよね。そこで言うと、やっぱり『silent』は紬の気持ちで見るドラマであって。特に1話は想がずっと思い出の向こう側にいて、最後に初めて目の前に現れて、8年分の思いを知るっていうストーリーだから、やっぱりラストは紬のアップで終わりたいなと。

風間監督:それを聞いて、僕も「確かに」と。

村瀬P:こういう柔軟性が、風間監督のいいところのひとつなんですよね。もちろん素晴らしい才能とセンスを持った監督なんですけど、だからといって自分の意見に固執しすぎない。ちゃんと話し合って、他者の意見も素直に取り入れるフラットさがあるんです。

風間監督:要は描き方だと思ったんですね。紬と想、どちらに優劣をつけるということはしたくなくて。想の痛みが、紬に伝播する、そんなラストにできればと思ったので。だったら想に投げっぱなしで終わるよりも、紬に立ち返って、その胸の中に広がる痛みを顧みていくようなカットの方がいいのかなということで、紬の涙でいこうと。

村瀬P:あと、何と言っても、春奈ちゃんの涙顔が美しかった。8年経って、声が聞こえなくなった想から「何言ってるかわかんないだろ?」と手話を浴びせられる、あのときの紬の表情は『silent』の象徴でもあるので。春奈ちゃんのお芝居と、風間監督の撮った画が本当に素晴らしかったので、「絶対こっちがいいと思うよ」と伝えました。

風間監督:僕がラストカットはこれでと決めで撮ったのは、5話ですね。

村瀬P:あれはもう神カットだよね。

――湊斗と別れた紬が、カフェで想と向き合うあのカメラ目線の画ですね。

村瀬P:珍しいんですよ、『silent』でカメラ目線って。ちょうどそのカットを撮るタイミングで僕は現場に入ったんですけど、風間監督がわざわざ言いに来ましたからね。「滅多にやらないカメラ目線ですけど狙いですから。このシーンを全カットこれで撮ってるわけじゃないですから」って(笑)。

風間監督:5話は、紬が自分を顧みる回なんですよね。湊斗に対して、想に対して、自分の中にある確かな気持ちを伝えてこれたのだろうかという葛藤や、あるいは、伝わっていなかった悔しさと紬がひたすら向き合い続けるお話で。最後に湊斗と素直に向き合い、お別れがなされた上で、改めて想ともう一度知り合い直す覚悟を決める。今度はちゃんとお互いのこれまでもこれからも伝え合っていくという決意をする。そんな覚悟と決意が表れるラストにしたくて、正面で向かい合うようなカットにしました。

村瀬P:またここでも春奈ちゃんの表情が恐ろしく良くて。湊斗との物語を終えて、これから想と向き合っていくっていう紬の気持ちが表情に全部表れていた。あの表情を見た瞬間、勝ったなと思いました(笑)。

風間監督:湊斗への思いや一緒に過ごした時間を大事に心に抱えながら、想に向かって一歩踏み込んでいく。物語の分岐点になるシーンだったと思うんですけど、紬の気持ちは決して想に全振りしてないんですよね。想への想いも、湊斗への想いも大切にとってある。それぞれが個として誰かを見つめ、立っている。あのシーンの心情については春奈さんともよく話をして撮影に入りましたが、そのすべてがあの清々しくも凛とした表情に集約されていて。春奈さんのお芝居に僕自身も惹き込まれました。

村瀬P:下手すると、さっきまで湊斗のことで泣いてたのにもう次の男かよって思われかねないシーンじゃないですか。でもそうじゃない。人を好きになるってそんな簡単なものじゃないし、でも裏を返せば恋愛ってそういうものでもある。そんな複雑な心理があのラストの表情にすべてつめこまれていた。しかも、その場所が2話の「好きな人がいる。別れよう」で、紬も想も、そして観てくださったたくさんの方も一緒に泣いてくれたあのカフェ。そこで今度はああいうやりとりがなされるっていうのは、2話と5話の対比も含めて素晴らしかったと思います。

視聴者のみなさんと共闘関係が結べたらという思いがあった

――5話のラストでいうと、その直前で支度をしている紬がポニーテールを結ったあとに照れ臭そうに解くのも印象的です。

村瀬P:そのあと、カフェのシーンに切り替わったとき、席で待っている想のところに、紬がバックショットで入ってくるじゃないですか。そこでさりげなくポニーテールじゃないというのが伝わる。まあほんとセンスありますよね。ベタ褒めです(笑)。生方(美久)さんの脚本にはカット割りまで指定されているわけじゃないですから、そこはもう監督の世界。「これ最高だよ!」って、監督にも言いました(笑)。

風間監督:『silent』の全体のテーマの中には、“自分とどう向き合うのか”というエッセンスが含まれていると思っていて。変わってしまったこと、変わらないこと、8年間という時間の長さが今ここに立つ彼らの背後にはずっとぼんやりとうごめいていて。それぞれが今の自分、あるいは誰かと向き合っていくときに何を「大切」するのだろう、ということをじっと見つめられていると思うんです。あのポニーテールは、どんな自分で想と向き合うのか、その意志が感じられるシーンだったと思っているんですね。8年前の自分とはいろいろ変わっているけれど、ありのままの今の自分で紬は想と向き合うことを決めた。その意志が届けばいいなと思ってバックショットから入りました。まあ、僕がバックショットが好きというのもあるんですけど(笑)。

村瀬P:バックショットはだいぶ好きだよね(笑)。

風間監督:バックショットの方が、その人の心の内側に視聴者の目線が届くような気がするんですよね。

――それこそ5話の冒頭のビブスを干すシーンなんて、かなり大事な話をしているのに、前半はひたすらバックショットでした。

村瀬P:あんなの、僕がプロデューサーじゃなかったらOKしないですよ(笑)。地上波連ドラのプロデューサーとしてあれをオッケーする勇気はなかなかない。だって、顔が見えないんですもん。でも『silent』はそれができるドラマだし、やっていいドラマだと信じて、OKを出しました。

風間監督:想像する可能性に挑戦してみたいと思ったんですね。5話はそのあとに紬と湊斗の長い電話のシーンがあって。湊斗がどんな顔をして紬と話しているのか、視聴者のみなさんの頭の中で想像が膨らむかどうかが重要になる回。最後に想像性にかけた大きなチャレンジをするつもりで、序盤からその意識をもって観ていただけたらなと願って、ビブスのシーンでもあえてほとんど表情は映しませんでした。ドラマとしてもチャレンジングだったと思うんですけど、僕の中で視聴者のみなさんと共闘関係が結べたらという思いがありましたね。

村瀬P:実はあのビブスのシーンのバックショットもPプレの段階ではもっと長かったんですよ。さすがになんぼなんでもここでは紬と湊斗の顔が見たいぞって話をしたもんね。

風間監督:しましたね(笑)。

村瀬P:風間監督の狙いがクライマックスの電話のシーンを効かせることなら、なおさらこっちはもうちょっと短くてもいいんじゃないかと。わりとそうやって話し合いながら一緒に直していくということを風間監督とはやれていて。そのときに、僕から「この超絶長い1カットをオッケーするのは勇気いるんだよ」って話をしたら、風間監督が「村瀬さんならOKしてくれると信じて撮ってました」って言ってました(笑)。

風間監督:ちょっと甘えてます(笑)。

村瀬P:うれしいですけどね(笑)。僕は紬と湊斗の電話のシーンの何がすごいって、湊斗が「最後にいい情報」って言って、「想ね、実はね、なんと……ポニーテールが好きです」って教えるでしょう。その瞬間の映像は「戸川湊斗」って名前が表示されたスマホの画面なんです。ここでスマホに寄るかって唸りましたね。今、風間監督が言ったみたいに、あえて顔を見せないとか、演出にはいろいろな方法があります。でも、僕はあそこで、湊斗の顔でも紬の顔でもなく、スマホを見せる風間監督を天才だと思いました。もう才能の塊です。

――そこで言うと、5話は後半CMを入れず一気に行きましたよね。おそらくあそこはプロデューサーである村瀬さんのジャッジだったと思うのですが。

村瀬P:あれはもう賭けです、賭け(笑)。あそこはじっくり見せるって覚悟を決めました。連ドラ制作者の間では、1シーンが長すぎると良くないと言われる風潮があって。あんまり長いと集中が持たないと言われているんですけど、『silent』は特殊で。1ロール(CMとCMの間)に1シーンしかない、なんてこともざらです。なんなら、1シーンの間にCMが2回入るくらい長いシーンがよくある。そんなことができるのはこれまで坂元裕二さんだけでしたが、そこに新たに生方美久さんが仲間入りしたと思っています(笑)。

手話練習に真摯に向き合う目黒くんを見て、すごいシーンになる確信が湧いた

――やはり『silent』が多くの人を魅了したのは、1話ラストの紬と想の再会シーンが大きかったと思います。最後にぜひあのシーンの舞台裏をお聞きしたいです。

村瀬P:あそこはまず目黒くんが本当に手話練習を頑張ってくれたんですよね。今、目黒くんは日本一忙しいスターだと思うんですけど、当時も多忙な中、隙間をつくっては手話練習に真摯に向き合ってくれて。そんな目黒くんの真剣な姿勢を見て、このシーンはすごいシーンになるなっていう確信が撮る前から湧いてました。

風間監督:あれはもう3か月も前の話なんですね。『silent』に入ってから、ひたすら今と向き合う毎日を送ってきたので、すごく前に感じます。

村瀬P:そうだね。で、現場でドライリハーサル(カメラなしで行なうリハーサルのこと)をやったんですけど、風間監督の演出の特徴として、ドライでは感情を入れないんですよ。ドライから本気を出しちゃうと、そこから涙が出てきちゃってすごいことになるから、ドライではあえて感情抜きでって俳優さんにはお願いするんだけど、あのシーンはそれでもドライから感情が溢れちゃって。

風間監督:抜こうとしても感情が湧き出てくるという感じでした。やっぱり2人とも、8年間という空白の中で募る思いがあって、どうしても目の前に相手がいると自然とその期間に潜めていた想いが溢れ出てきてしまうんですよね。

村瀬P:僕はもうそんな2人を見てその時点でもう泣いてました(笑)。2人ともドライから感極まっていたのは、すごく記憶に残っています。

風間監督:伝わらないであろう手話を通して言葉を発していく。そのある種の悲痛さというか悔しさに、目黒くん自身も感情が溢れていきました。序盤から涙がこぼれていて。それに対して、僕は僕としてこういう感情の起伏が見たいということを伝えはしましたが、想が8年ぶりに紬と会って、どんな気持ちになるのかは、やっぱりこれから想を演じていく本人が向き合って初めて気づくことが多いし、時間の長さを踏まえ生まれ出てくる心情を大切に受け取りたい思いもありました。このシーンで目黒くんがそういう表現をするのであれば、2話以降はその目黒くんのスタンスに沿って佐倉想の人物像を築き上げていけばいいと思った。もちろん自分の考えを伝えはしましたけど、最後はもう目黒くんが差し出してくれた思いをそのまま受け取って、シーンにおさめることができればという気持ちでした。

――紬についてはどうですか。

風間監督:春奈さんには今起きていることへの反応を大事にしてほしいと伝えました。次々飛んでくる手話に対し、紬はその細かい意味は何もわからない。でも必死に何かを伝えようとする想に、どれだけの思いで対峙できるかがこのシーンの紬のいちばん大切なところで、それはもう感覚的に表現していくしかないと思ったんです。だから、ずっと会えないまま過ごした8年間の時間の長さであったり、思いの丈であったり、今どれだけ想への思いを紬は残しているのかとか、そういうことはもちろん話しましたけど、最後はリアルな反応を大事にしてほしいと、それだけ伝えて、あとはもう2人に託したという感じです。

――撮り終えたあと、風間監督の中にどんな手応えや感慨がありましたか。

風間監督:編集してみないとわからないけれども、このシーンは絶対にたくさんの方の胸に響くシーンになるんじゃないかという予感は強くありましたね。それに何より、春奈さんと目黒くんが表出してくれた紬と想の気持ちを受け取った日だと僕は思っているんです。それは、僕が最初に思い描いた通りのものではなかったところもあるんですけど、決して悪い意味ではなく、むしろいい意味で裏切ってくれたと思っていて。きっとこれからも撮影を進めていく中で、自分の想定と違うものが生まれ出てくるかもしれない。変わっていくことをポジティブに受け入れながら、その変化や反応を楽しんでいきたいなと、より深く思った日でもありました。そして実際に今も、そうやって俳優が実際に演じることで見えてくる心象への反応を楽しみながら撮影ができている。それは監督としてもとても幸せなことだなと噛みしめています。

<12月22日放送 最終話あらすじ>
「一緒にいるほど、好きになるほど辛くなっていく。……声が聞きたい。もう聞けないなら、また好きになんてならなきゃよかった」と青羽紬(川口)に想いを伝えた佐倉想(目黒)。紬はそんな想に自分の気持ちを伝えるが、想には響かない。お互いの気持ちがすれ違う中で、紬は戸川湊斗(鈴鹿)から、想は桃野奈々(夏帆)から、それぞれある言葉を投げかけられる。そして、2人は別々にある場所へと向かう……。

変わったものがあって、それでも変わらないものがある。8年という時を経て再び出会った2人がたどりつく結末とは……?

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