塾長の証言によると、篠宮は特別授業が始まる少し前に一人でやって来て、挨拶もそこそこに生徒たちが待つ教室に入室。生配信用のスタッフは事前に機材を持ち込み、カメラなどをセッティングした後「今日は篠宮だけで生配信すると言われてますので」と帰っていったという。
「それ、ちょっと不自然だな。『今日は俺だけでやる』と言われても、普通は機材トラブルや何かあるかもしれないから、スタッフは帰らないで、教室の外で待機しているだろ? つまりスタッフも、今回の計画を知っていたということだ」
どや顔で考察する西村だが、徳永が「ないですね」とバッサリ。
「篠宮はワンマンで、スタッフを奴隷のようにこき使っていたらしく、『今日は俺だけでやる』と言う機会も多かったようです」
バツの悪い顔をする西村。徳永はホワイトボードに教室の図面を貼り出す。
逃走経路になりそうなのは、廊下前のエレベーターと、反対方向の非常階段。8階のため、窓からの脱出は困難だ。
「捕まることを前提に犯罪を犯した、やぶれかぶれになった男の犯行。もしくは…」
「サイコパス…。あのね、刑事もので“サイコパス”って言葉を使ったら終わりよ?」
「だってこいつ、Newtuberとして成功してるんだよ。金に困ってないのに、10億円って…真っ当な動機があるとは思えないよ」
「そんなにすごいの? この人」
篠宮が3年前に開設したNewTubeチャンネルは、フォロワー数130万人。“受験指導のカリスマ”として、子どもを有名中学に入れたい受験生の親から絶大な支持を集めている。
調べによると、篠宮も小学生の頃、エイガクに通っていた。OBの中に人気Newtuberがいることを知ったエイガク側が、世間の注目を集めようと強引にアプローチ。篠宮の特別授業が企画されたという。
「篠宮は、このエイガクビルの“私たちが知らない何か”を知っているってことはない?」
「例えば、篠宮が小学生の頃、このエイガクビルで偶然見つけてしまった、人が一人ギリギリ通れる空調のダクトとか…」
目をキラキラさせ、急に生き生きし始める山村。
「この見取り図を眺めていてもわからない篠宮の逃走経路ね」
「それが篠宮の動機と、何の関係が?」
「小学生の頃の篠宮は、当時ひょんなことからダクトを見つけ…要するに、ワクワクしていた。いつかここで、人をあっと驚かすことをしてみたかった。それが動機」
「だからって、さすがにこんな犯罪…」
「少年というのは、時にそんないけないロマンを抱くものだ」
一同納得しかけたところで、またもや徳永が「100%ありません」とバッサリ。
徳永によると、立てこもり現場のエイガクビルが完成したのは一昨年。篠宮が通っていた頃のエイガクは代々木駅前近くの雑居ビルの中にあり、篠宮が現場の東京校に来たのは今日が初めてだという。
考えに行き詰まっていると、柳沢がトイレから戻ってきて、一斉に視線が集まる。
「何見てるんだよ。うんこをしてトイレから帰って来ると、みんながそういう目で見るから、俺たちは小学生時代『学校でうんこしたら恥』と覚えちゃったんだよ」
「そんな目で見ていませんよ」
「おい、事件は解決したか?」
「柳沢捜査一課長がうんこしている間に事件が解決したら、事件が起きる度に、私たちだってうんこしていますよ!」
激怒し、思わず“うんこ”を連発してしまう高島。
柳沢と高島がやり合っていると、庶務の北野美奈子(北野日奈子)が、人質になっている小学生の資料を持ってやって来た。
「北野の世代はエイガクを知っているのか?」
「はい。私も一時期通ったことがあるんですけど、私には向いていませんでした」
「それは、頭が悪いってこと?」
「それもありますけど、学力第一主義な感じが苦手で…。簡単に言うと、生徒同士の会話がないんです。みんな自分の勉強だけをしてるって感じで」
「この人質10人も、無駄話をせずにコツコツ勉強し続けてきたから、全国模試のトップ10に入れたってことですよね」と、徳永はしみじみする。
するとその時、タブレットに通知が。篠宮が次なる要求をするため、配信を再開したようだ。タブレットを見入る一同。
『あの〜、もうそろそろ身代金の方はご用意いただけましたでしょうか? 親御さんたち、大切なお坊ちゃん、お嬢ちゃんですよ。俺だってさぁ、こんな猟銃で君たちの頭をスイカ割りみたいに“バンッ!”って爆発させたくないもんね~』
猟銃を構える篠宮に、おびえた子どもたちが悲鳴を上げるのが聞こえる。
『じゃあ、次の指示を出しま〜す』
果たして、篠宮による次の指示とは? 深まる10億円の謎…篠宮には共犯者がいるのか!?
【第3話「不可解な一家失踪事件」】
謎の迷い犬をきっかけに、ご近所でも評判の仲良し家族が失踪していることが判明する。犬の服に残された赤い口紅のメッセージと血痕、何者かと争ったと思われる痕跡…一体何が!?家族の行方を追うべく山村楓(山村紅葉)、西村まさ雄(西村まさ彦)、高島誠子(高島礼子)、名取悠(名取裕子)、藤井龍(藤井流星)らが考察にあたることに。そんな中、河原である遺体が見つかって…。仲良し家族の裏の顔が見えてくる―。