『あなたがしてくれなくても』岩田剛典“新名”と永山瑛太“陽一”の作るパズルは夫婦の未来予想図?妻同士はカフェで…

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『あなたがしてくれなくても』岩田剛典“新名”と永山瑛太“陽一”の作るパズルは夫婦の未来予想図?妻同士はカフェで…
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冒頭10分、緊迫した空気の中で妻同士が向かい合った。6月1日放送の『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系、毎週木曜22:00~)第8話は、吉野みち(奈緒)と新名楓(田中みな実)がついに相対した。この場においては被害者と加害者の構図がはっきりしている分、みちは平謝りするしかない。もちろん、新名誠(岩田剛典)も吉野陽一(永山瑛太)もそんな展開は知るはずもなくて……。

固定カメラが捉えた二人の妻の対峙

テーブルを挟んだみちと楓の横顔。同じ画角の映像は3分を超えた。カメラが固定されるため、視聴者は動いている二人の細かな動作、表情などに意識が集中できるというわけ。いろいろなことを善悪で判断しなくてはいけない中で、演出の意図通り客観的に二人を見つめることができた。

最初に寄りになったのは、「あなたさえいなければうちはうまくいっていた」という言葉に反応して両手を固めるみちの手元だった。その左手の薬指には指輪が光っている。

新名にセックスレスの相談をしていたと聞かされて、きつく締められた楓の口元はハッとしたかのように軽く開かれ、目も少し泳いでいた。

楓の「たかがレスごときで」に対するみちの苦しさの吐露は、楓にも響いて仕方がない。だってそれはそのまま、新名が楓に対して思っていたことだから。

「拒否されている方にとっては、たかがじゃないんです。心も体も、愛されたかったんです」というみちの本音に、楓は「レスがつらいからって許されるわけじゃないでしょ」と正論を下した。

ここだけ聞くとみちと新名は互いに満たされなさを埋めるために肉体関係に走ったように思えてしまうが、そうではない。だからこそ法律上の不貞行為には該当しないかもしれないが、楓にとってはプラトニックだからこそ一層憎く感じてしまう。夫の心を奪われるのは何よりもつらい。

セックスレスという個人的な問題を話してしまったものの、ここで新名もみちにレスの相談をしてきたという話を持ち出さなかったことはみちの誠意だろう。

事実としてただ謝る。謝罪の振る舞いをわきまえていたみちは仕事ができるんだろうな。オフィスで新名に、楓の起こした行動を一切話さなかったこともまた、みちの誠意なんだろう。

それにしても壮絶な戦を終えたみちにおにぎりとお茶を差し出す北原華(武田玲奈)の手腕にはいつも驚かされる。前世、どこかの武将の家臣だったのではないだろうか。こういうときはおにぎりに限る。『千と千尋の神隠し』でハクがそうしたように。もう、みちは華からの助言をすべて鵜呑みにしてほしい。それが吉。

不倫された妻の心は死ぬ

戦の裏で、もう一つの戦が行われていた。それは三島結衣花(さとうほなみ)と、かつての不倫相手の妻・岩井鞠子(佐藤めぐみ)の対峙。鞠子は、三島に慰謝料を請求する内容証明を送っていた。

「私の心は死にました」。不倫された妻の怒りと悲しみは想像を絶するものだった。鞠子はもう、喜びを感じられることはなくなっていたのだ。もちろん、性の喜びさえも。

その言葉に、自分がした罪の重さを感じていたのは三島だけではない。二人の会話を聞いていた陽一も苦しむことになる。自分の軽率な行動が、みちを傷つけたのではないか。みちは心を殺してしまったのではないか。その想像が、実感を持ってできたから。

三島はこれまで「不倫のループから抜け出せない」「不倫したのは男のせい」と言い訳してきた。結婚していると知りながら陽一に近づいたのも、どこか甘えがあったのだと思う。

「店長の奥さんにも訴えられちゃうかも」という発言に対して「みちはそういう女じゃないから」と陽一は答えていたが、「そういう女」って何なんだろう。自分の理想像を投影させた都合のいい女像をみちに当てはめてはいたるのではないかという気もする。また、陽一は三島を傷つけていたことも自覚しなくてはいけないだろう。

慰謝料を全額支払うことで、すべてを精算しようとする三島の顔はまるで憑き物が落ちたようにさっぱりとしていた。退場は寂しいが、これからは二組の夫婦の今後に集中しろということか。

陽一と楓が初めて知る、レス“される”側の気持ち

今回の描かれ方として楓がどんどん“嫌な女”になってしまっているのが気になった。そして田中みな実はこういう役になると一層に輝く。自分は悪くないのにどうしてこうなるの? という感じが仕草から溢れ出ている。

それでもやはり、楓は精一杯好きなことをしている姿が一番カッコいい。雑誌の校了でクタクタになりながらも満足気な笑みを浮かべる姿も、明け方の清々しい空を見上げ凛と歩き出す姿も、本当に素敵だった。

「仕事で失うものばっかり考えていたけど、救われることの方が多い」という楓の言葉は、『働きマン』に出てくるモノローグ「仕事で失ったもの それを想い泣いた夜 でも仕事に救われる朝もあるから」が根底にあるはず。働きマンな楓はきっと納豆巻を頬張りながら駆け回る姿がよく似合う。

件のモノローグは主人公の弘子が恋人と別れたあとに感じた心の声だけど、これは楓と新名も修復不可能なフラグだろうか……。

それぞれの夫婦は今までレスする側だった陽一と楓が主導して久しぶりに夜の営みを持とうとするが、今度は今まで拒否されていた側の新名とみちが拒否することで、拒まれる側の苦しみを知る展開に。

では拒否してしまった二人の胸の内はどうだろう。新名はみちを、みちは新名を忘れられていないとしたら……。これから一体誰と誰を応援したらいいのだろう。

ピースを無くしたらパズルごと買い替えて完成させる新名と、無くしたピースを手作りして完成させようとする陽一の対比は、それぞれの夫婦の未来を示唆しているのかもしれない。

(文:綿貫大介)

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