有村架純と中村倫也の『石子と羽男』が他の法廷バディ作品と異なる理由

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有村架純と中村倫也の『石子と羽男』が他の法廷バディ作品と異なる理由

真面目で石のように頭が固い東大卒のパラリーガル・石子こと石田硝子(有村架純)と、羽のような軽やかな性格と自称する高卒弁護士・羽男こと羽根岡佳男(中村倫也)。そんな2人が依頼者の法律トラブルを解決する『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系、毎週金曜22:00~)が9月16日に最終話を迎える。

最初は「対照的な男女2人がバディを組んだ法廷ドラマ」という理解で見始めていた。というのも、弁護士や検察官や刑事裁判官などを主人公としたこの手のジャンルにおいて、凸凹コンビは鉄板の組み合わせ。木村拓哉松たか子の『HERO』、堺雅人新垣結衣の『リーガル・ハイ』、竹野内豊黒木華の『イチケイのカラス』……この路線で来ましたか、と思っていた。

しかし第1話にして、これはただ法廷ドラマではないのでは……? と思い至ることになる。本作は誰もが知っている法廷ドラマのフォーマットを利用しながらも、今の社会を反映した骨太なストーリーを得意とするTBS金曜ドラマのスピリットを宿したヒューマンドラマに仕上がっている。

身近に潜む事件の裏には社会問題が隠れている

第1話の冒頭数分で、羽男は「ドラマや小説に出てきそうな型破りな弁護士」に憧れて自らをブランディングしているだけというネタバラシがあった時点で、この作品は信用できると思った。型破りになりたいというのはまさに凡人の欲求。本作はほとばしる正義感で相手を言い負かし、巨大な悪をやっつけるというありがちな天才弁護士モノではない。

これにはSNSでの誹謗中傷、自粛警察など、正義感の置き所が狂って他者を攻撃する人たちが増えているなかで、視聴者をただスカッとさせるような作品にはしたくないという制作陣の思いを勝手に汲み取った。

というのも、本作プロデューサーの新井順子と、チーフ演出の塚原あゆ子といえば『アンナチュラル』『MIU404』『最愛』など、数々の良作を送り出している名コンビ。社会の空気を敏感に感じ取った作品に定評のある2人の作品だからこそ、その意図は十分にあり得る。

それに、社会問題などの重厚なテーマを、視聴者に伝わりやすい娯楽作に仕上げる2人の手腕は今作でも存分に発揮されている。

石子と羽男が務める「潮法律事務所」はマチ弁(町の弁護士)。実際にドラマで扱われた案件をみてみると、「カフェでスマホを充電(窃盗罪)」「子供がゲームで課金し高額請求(未成年取消権)」「映画の違法アップロード(著作憲法違反)」「電動キックボードで接触事故(救護義務違反)」など、私たちの生活の中に潜んだ身近な話題ばかり(その分、自分がいつ当事者になってもおかしくないと思うとぞっとする)。

そして小さな事件の影にはいつも大きな社会問題があることにも力点が置かれ、丁寧に描かれているのもポイント。たとえば親ガチャ、保活、会社のパワハラなど。今問われるべき問題が事件の背景に必ずあることを伝えながら、問題提起をしてくれている。

成長を見続けたい、凸凹コンビ+1の関係性に注目

一見正反対な石子と羽男。まず凸凹コンビという特性上、足並みが揃わない2人のやり取りにおもしろさがある。テンポが良くて軽快な2人の会話は、何度聞いても耳に心地いい。恋愛ドラマのフィルターでみてしまうとこの2人は実に”お似合い”だと思ってしまうが、この関係性を安易に恋愛に接続させないつくりも秀逸だと思う。

そして次第に凸と凹が噛み合い出し、仕事の相棒として息がピッタリになっていく過程も見ていて楽しいものだった。石子は羽男のふらつきがちなメンタルを冷静にうまくコントロールしてるし、羽男は石子の頑なな部分をそっとほぐしてあげている。

2人の関係をみていると、素直に思いをさらけ出しあった方が人間関係はうまくいくのだと改めて気付かされた。自分のウィークポイントを隠したままだと、相手は受け止めることもカバーすることもできないのだから。

また、第1話は事件の依頼者で、その後「潮法律事務所」の面々と関わることになる大庭蒼生(赤楚衛二)も本作を語る上で欠かせない。不器用でまっすぐ、心優しい性格(それ故にトラブルに巻き込まれやすいというのが玉にキズ)というキャラがとても愛らしく、登場してくれるだけでこちらも嬉しくなる。

石子と羽男とは同僚だったが、石子と恋人になることで3人の関係性にもゆるやかな変化が。この男女男の友情と愛情が入り交じながらも形成された関係にも注目したい。

単純に凸凹コンビの物語としてみるよりも、“素敵なトリオ”の物語として見るとよりおもしろみが増してくるのも、他のバディ作品との大きな違いだろう。

法律は弱者のための傘になり得るのか?

大庭に放火殺人容疑がかかる第9話(9月9日放送)から、物語は一気に加速。石子と羽男の活躍によって大庭の容疑は無事晴れたが、そのまま突入する最終話は事件の黒幕との対決がメインとなるだろう。

数々の依頼者に寄り添い、法律によって救済してきた石羽コンビ。そこにあるのは、事務所の所長であり石子の父である綿郎(さだまさし)の信念である「真面目に生きる人々の暮らしを守る傘になろう」という思いだった。

2人が黒い傘をさしている印象的なオープニングを思い出してほしい。傘の中には照明が仕込まれていて、それぞれを照らしている。これは傘は雨というトラブルや困難を避ける用途であると同時に、ランプシェードのような光をやわらげてじんわりとあかりを広げる効果があるものということを示唆しているのだろう。石羽コンビはまさに、依頼者をあたたかく包み込む存在になれているように思う。

憲法が国家権力の暴走から国民を守るものであるように、法律も私たちを守るものであってほしい。本作はだれもが犯罪被害者に(もちろん加害者にも)なりうるからこそ、しっかり声を上げ、頼れるものに頼ることが大切なのだと何度も教えてくれた。

もちろん、ドラマで扱った事件以外にも、この世の中には法律によって解決すべき小さな事件はたくさんある。それに現実社会では法整備が進んでいないことで人権がないがしろにされている弱者もまだまだいる。

法はなんのためにあるのか。誰のためにあるのか。本作にはこれからも身近な事案とともに伝えていってほしい。最終話を前にしてすでにシーズン2を切望している自分がいる。

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