竹垣を愛するアメリカ男性が伝統の技を学び、驚きの進化!:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜夜8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回は、「ニッポンにご招待したら人生変わっちゃった! スペシャル」をお送りします。

ニッポンで本物の竹垣に感動! 最高難度の竹垣作りにも挑戦

紹介するのは、アメリカに住む「竹垣」をこよなく愛するマークさん。

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格調高く竹を組み上げる、ニッポンの竹垣。複雑なものだと、幅1メートルあたり20万円を超えるものもある、まさに職人技の結晶です。空間を仕切りながら、景色と調和する日本独自の繊細さを持っています。

マークさんが竹垣と出会ったのは、13年前。全米竹協会の会長と知り合い、竹の素晴らしさの虜に。竹垣専門の会社を作り、職人として10年のキャリアを持っています。一緒に働いてくれる弟子もできました。

ひと口に竹垣と言っても、その種類は50以上も。例えば、すだれに似ている御簾垣。ニッポンでは枠の部分も竹で作りますが、アメリカでは長持ちさせたい人が多く、鉄の枠をつけるとか。ただニッポンでは、徐々に古びていくことも竹垣の魅力の一つ。マークさんは、アメリカ人にも「わびさび」をもっと知ってほしいと語ります。

ニッポンにはまだ一度も行ったことがないマークさん。アメリカではまだ竹垣の需要が少なく、愛娘と2人の生活に経済的な余裕はありません。ニッポンで勉強したことがないのに、弟子に教えていることが心苦しいそう。

そんなマークさんを、ニッポンにご招待! 5年前、念願の初来日を果たしました。

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マークさんが向かったのは京都。古い街並みを楽しんでいると、「オーマイガッ! キンカクジガキ!」と驚きの声が。金閣寺発祥の竹垣「金閣寺垣」は、垣根の上に「冠」と呼ばれる、半分に割った竹を被せるのが特徴。マークさんは、これほど長い金閣寺垣を見たことがないそう。他にも、目に入る竹垣を全てチェック。竹垣が京都の街に溶け込んでいることに感動!

寒暖差が大きく、豊かな土壌の京都は、良質な竹の産地としても有名です。そんな京都で竹垣が発展した理由は、茶道にあります。美しく朽ちていく竹垣は、茶室へ向かう庭に欠かせない存在となり、安土桃山時代には、各寺が庭に合わせた独自の竹垣を競って作ったことから、今でも多くの竹垣に寺の名前が付けられています。

中でも、どうしてもマークさんが見たかったのが、枯山水の石庭で有名な龍安寺発祥の「龍安寺垣」。切られて間もない青竹の竹垣を初めて見たマークさんは、「今まで見た中で一番美しい竹垣です」と大感激!

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龍安寺垣の特徴は、美しい菱形の格子にあります。さらに、格子の部分をしっかり固定するため、表からは見えない「しのび」と呼ばれる竹で両側から挟み込む一手間が。
こうした目に見えない工夫こそが、丈夫で美しいニッポンの竹垣を生み出しているのです。

続いて、ニッポンでどうしても会いたかったという竹垣職人、三木崇司さんのもとへ。
三木さんは、創業145年の「三木竹材店」の5代目。世界遺産・二条城の竹垣を手がけた他、アメリカのオレゴン州ポートランドにある日本庭園の竹垣の指導をした人物。マークさんは、三木さんの竹垣に一目惚れしたそう。

作業を見せていただく前に、真竹の竹林を案内していただきます。約600種類自生するニッポンの竹の中でも、丈夫でしなやかな真竹は竹垣に最も多く使われています。
伐採するのは、主に10~12月の間だけ。三木さんによると、この時期は気温が下がって竹自身が締まり、竹の水分量が下がることで害虫の被害に遭いにくくなるとか。

一人前になるまで10年は修業が必要といわれる竹の伐採。まずは選別から。
切り頃の3年目の竹は、白っぽくなっています。ただし、竹の根の深さは地面からわずか30センチほどしかないため、隣同士支え合っていないと倒れてしまうものも。切り頃の年数でも、支えとなる竹は残しておくのが鉄則です。

三木さんが選んだのは、まっすぐに立つ竹。必ず上を見て、しなりがあるか確認します。
葉のついた竹は、吸い上げた水分を蒸発させるため、耐久性がありしなやか。葉が少ないと水分を蒸発させられず、柔らかすぎて竹垣の材料には向かないそう。

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まずは、傾いている方から半分まで刃を入れ、残りの半分は逆側から。2方向から切っても高さが同じことに、マークさんはびっくり。
そして、高さ20メートルの竹を抱えると、途中で方向転換できないため、向きを決めたら一気に倒します。マークさんも特別に切らせていただきましたが、力任せなところがあり、まだまだ練習が必要。

竹は切った後、すぐに枝を切り落とします。少しでも幹を傷つけると竹垣には使えなくなってしまうため、竹を切る作業は長い下積みを経て初めて任されるそう。

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続いて、水洗いした竹を「菊割り」と呼ばれる専用の道具で割っていきます。刃の数や大きさは様々で、材料となる竹のサイズに応じて使い分けます。まっすぐに割るコツは、わずかに出ている竹の芽に刃を当てること。「道具の重さで竹を割るので、竹を曲げずにまっすぐに切れるのが素晴らしいです」とマークさん。

ここで、「四つ目垣」をマークさんが作ることに。四つ目垣は竹垣の基本ですが、高さも長さも自由自在に調整できる分、全体のバランスにも神経を使わなければなりません。

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ベストを尽くし、出来上がった四つ目垣を見ていただくと、枝芽の向きや四角のバランスなど、様々な指摘が。さらに、「僕らの結び方は、輪っかをつけて結ぶ」とのアドバイスも。そうすると結び目がしっかりするそう。マークさんの結び方は関東での主流ですが、京都では結び目に輪を作るのが基本。京都の伝統的な結び方の手ほどきを受け、復習できるよう動画も撮影させていただきました。

その後は、三木さんのご自宅へ。食卓には奥さん手作りのご馳走と、切った孟宗竹を鍋の代わりにした湯豆腐が並びます。先ほど切った竹で作ったお猪口と徳利で、日本酒も堪能。三木さんのご家族と楽しいひとときを過ごしました。

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翌朝、三木さんが竹垣を手がけた場所を案内してくださることに。
向かったのは、京都・東山にある「フォーシーズンズホテル京都」。こちらの竹垣は、100メートルにわたる「竹穂垣」です。2種類の枝をつなぎ合わせてあり、下はあえて根の部分を見せ、上は穂先を出して一本の竹のように見せています。細い枝で繊細さと上品さを纏わせ、高さを感じさせないテクニックです。

「自分より高い竹垣は初めてです!」。これだけ高さがあると、本来なら圧迫感があるところを、近づいてみたいと思わせるのも竹垣だと三木さんは語ります。
さらに、竹垣にもう1つの工夫が。手前のまっすぐ伸びる枝と、その奥の枝葉が全て右方向へ傾き、視線をエントランスへと誘導しているのです。

次に向かったのは、同じく東山にある智積院。こちらにあるのは、膝よりも低く、景色を壊さずに庭と参道を区切ることができる「智山垣」です。通常5〜10年で交換する竹垣ですが、智積院では、新しい管長を迎える節目で交換します。三木さんによると、竹垣はただのフェンスではなく、日本人のおもてなしの気持ちを表しているそう。

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マークさんと三木さんは、再び工房へ。実はマークさんには、長年作りたくても作れなかった、憧れの竹垣がありました。京都の光悦寺の竹垣を原型とし、最高峰の技術が使われている「光悦寺垣」です。
支柱には1本の竹を割って短冊にしたものを隙間なく合わせ、「肩」と呼ばれる曲線部分はカーブに合わせて竹を3ミリに削り、組み直すという精密な構造です。

竹垣の中でも屈指の難易度だという光悦寺垣を、三木さんが特別にレッスンしてくださることに! すでに三木さんが半面を作ってくださっているため、残りを一緒に完成させます。

肩巻きの部分と親柱の部分を巻いていきますが、本来その構造は職人の技が詰まった秘密にすべきもの。しかし今回は、特別に内部を見せていただけることに。
「言葉にできないほど興奮しています」。13年間憧れ続けた光悦寺垣の作り方を、しっかりと目に焼き付けます。

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少しずつ仮止めしながら、幅3ミリの竹を沿わせていく作業。ねじれないようにするコツは、「こまめに直すこと」と三木さん。細かい作業に悪戦苦闘しながらも、3時間かけて完成しました! 「今までこんなに細部まで美しい竹垣は作ったことがありません。本当に長年の夢が叶いました。ありがとうございました!」と、握手を交わしました。

マークさんには、もう一つニッポンでどうしても見たい竹垣が。三木さんからも、竹垣職人なら必ず見ておくべきと勧められた「南禅寺垣」です。
早速南禅寺に向かい、「植彌加藤造園」の竹村茂好さんに見せていただきます。

南禅寺垣は、真竹と萩の穂を組み合わせるのが特徴。真竹も、あえて斜めに互い違いにすることで陰影をつけ、平面的な竹垣では出せない奥行き感と立体感を生み出しています。
竹村さんによると、材料を買うのではなく、南禅寺の境内にあるものを使って作るという思いから南禅寺垣が編み出されたとか。マークさんは「それは素晴らしいですね」と感銘。

別れの時。三木さん一家に感謝を伝えるマークさんに、三木さんは、菊割り、家族の皆さんの寄せ書き、竹の穂垣をモチーフにした壁掛けをプレゼントしてくださいました。最後に皆さんとハグを交わして別れを惜しみます。

あれから5年。マークさんからのビデオレターを三木さんのもとへ。

帰国後も、ますます竹垣に夢中になっているマークさん。三木さんからいただいた竹の壁掛けも、部屋に飾って眺めています。
実はマークさん、ニッポンでの体験があまりにも素晴らしく、ご招待から2年後の2019年に再び三木さんの工房を訪れていました。5日間滞在し、京都御所に納める竹を加工するお手伝いをしたそう。

ニッポンでの経験を糧に、竹垣作りも大きく進歩。龍安寺垣には青竹を使い、三木さんに教えていただいた京都式の結び目にこだわるように。作る竹垣の種類も格段に増えました。

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三木さんから技術を学んだおかげで、シアトルの日本庭園で鉄砲垣を作る仕事が舞い込み、さらにフロリダのディズニーワールドからも発注が! 会社も軌道に乗り、1人だった社員は4人に。工房も増設し、竹専用の倉庫まで新設。アメリカで竹垣をもっと知ってもらいたいと、歴史や作り方を書いたパンフレットも作ったそう。

順風満帆に見えるマークさんですが、竹垣作りで課題が。作るのが夢だった光悦寺垣の中で最も難しい工程が、1本の竹を菊割りで8等分にし、さらにナタで4等分にしたものを重ねて曲線にする「肩」。美しく見せるには、全て同じ幅に割る必要があるのですが、なかなか均等に割れないのです。

そこで、壁に直面しているマークさんのために、遠く離れた絆を中継で結ぶことに!

早速三木さんに、使っている竹を見ていただきます。竹自体に問題はなさそうですが、ナタをハンマーで叩きながら割るところを見た三木さんは、「そのやり方でやったら割れない」と指摘。ナタの使い方に問題があるとのことで、急きょお手本を見せてくださいました。

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竹を持ってナタを動かし、竹の節ごとにナタの位置を微調整することで、ズレが解消され、まっすぐ割れるそう。アドバイスを受けながら挑戦してみると......きれいに割れました! 三木さんにも「きれいに割れたね」と褒めていただき、「さっきより全然良いです!」と大感激のマークさん。

中継の冒頭、可能なら今年の竹の収穫シーズンに手伝いに行きたいと話していたマークさんに、「来日を楽しみにしています」と三木さん。マークさんも「どれだけ上手くなったかをお見せします! またお会いできることを楽しみにしています」と再会を約束しました。

マークさんをニッポンにご招待したら、竹垣作りの技術が格段に向上し、アメリカ中に魅力を発信! 三木さんとの絆もさらに深まっていました!