オーストラリアの女子高生がニッポンで和包丁作りを体験!帰国後に劇的進化!:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜夜8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回は、「ニッポンにご招待したら人生変わっちゃった! スペシャル」をお送りします。

ニッポンにわずか3人、箏の伝統工芸士の職人技に感動

紹介するのは、アメリカに住む、箏(こと)をこよなく愛するロリさん。

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ニッポンの伝統楽器、箏。桐で作られた胴体と13本の絃で奏でる箏は、調絃次第で無限の音を作り出すことができるそう。弥生時代にはすでにその原型があったとされ、古墳時代には箏を手にした埴輪も。その後、貴族のたしなみとして発展し、江戸時代に華道や茶道と並ぶお稽古事として広く親しまれるようになりました。

最近では、箏に情熱を注ぐ高校生の青春漫画「この音とまれ!」が、累計発行部数550万部を超え、若い世代からも注目が集まっています。ダイナミックな合奏のシーンは、これまでの箏のイメージを一新。漫画から生まれたオリジナル曲のCDが文化庁芸術祭賞で優秀賞に輝くなど、その音色は時代を超えて評価されています。

ロリさんが箏と出会ったのは9年前。街のイベントで耳にした箏の音色に心を奪われ、演奏してみたいと独学で猛練習。ニッポンにはまだ一度も行ったことがありませんが、コツコツ貯金し、5年前にようやくインターネットで箏を購入しました。

現在は、地元のアマチュア奏者で結成した箏ユニット「Gaikotojin(がいことじん)」に加入し、3人で活動中。週に一度は集まり、練習しています。

そんなロリさんを、ニッポンにご招待! 3年前に初来日しました。

「アメリカには2人しか箏仲間がいないので、大人数での合奏を経験したいですね」と話すロリさん。まず向かったのは、愛知県立東海南高校。文化部の甲子園と呼ばれる、全国高等学校総合文化祭でも優勝した名門です。

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案内された先では、邦楽部員25名が箏曲「大河」を演奏中。合奏を聴いたロリさんは「ファンタスティック! とても素敵でした」と絶賛! これだけ大勢の合奏を聞いたのは、人生で初めてだそう。演奏していた部員は箏を始めて2年と知り、「オーマイガー」と驚く場面も。

箏曲「大河」は、5つのパートに別れて大河の流れを表現。一箏は、高音でゆるやかな「せせらぎ」。二箏は、とうとうと流れる「渓流」。メロディパートの三箏は、岩を削る「濁流」。四箏は滝のように舞い上がり、ひと回り大きく、低音を奏でる十七絃で悠久の流れを表します。

25人の音色が一体となって奏でる、繊細かつダイナミックな響きが合奏の魅力。ただ、箏の合奏には指揮者がいないため、互いの音を信じ、心をひとつにしなければ音は紡がれません。しっかり音を合わせられるように、みんなで気をつけていくことが大変だそう。

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部員の皆さんと練習すること1時間。「世界にひとつだけの花」を演奏し、大人数での合奏という夢を叶えました。「すごく楽しかった! たくさんのエネルギーをもらいましたし、多くの箏に囲まれて幸せでした」と、ロリさんは大満足!

この6ヵ月後に開かれた全国高等学校総合文化祭で、東海南高校は優良賞を受賞。3年経った今年も全国大会出場を決めるなど、高い演奏技術と表現力は後輩たちへ受け継がれています。

続いてロリさんが向かったのは、広島県福山市。ここは箏の名曲「春の海」のモデルといわれ、福山ゆかりの筝曲家・宮城道雄が瀬戸内の穏やかな汐の満ち引きから作った曲だそう。福山は、江戸初期から箏の産地として名高く、国内の7割を製造。小学校でも箏の授業がある「箏の町」なのです。

この地でお世話になるのは、筝職人の藤田房彦さん。ニッポンにわずか3人しかいない、筝の伝統工芸士です。藤田さんには、筝が作られる工程を見せていただきます。

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早速箏を見せていただくと、「木目も装飾もすべてが美しいわ」とロリさん。ここにある箏はすべて藤田さんの手作り。分業制が多い中、全工程を一人で行なう数少ない職人です。さらに、美しい木目を持つ樹齢50年以上の桐を使い、音色にも装飾にもこだわった会心の作も見せてくださいました。そのお値段は、なんと600万円!

箏に使うのは、歪みが少なく、箪笥にも使われる桐。中でも会津の桐は寒冷地で育つため、目が詰まり、音がよく響くそう。この会津の桐を2年間風雨にさらし、ようやく箏づくりに入ります。

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まずは、桐の中を刳(く)り抜く作業から。「箏の一番の生命線はここ、中の刳り方次第なんです」と藤田さん。削る厚さは1絃から13絃まで全部違うとか。

箏は13絃から1絃に向かうほど低音になります。そのため、糸の位置に合わせて低音は浅く、高音は深く、最も響くように彫りの深さを変えているのです。削る際は、カンナの音と手の感触だけが頼り。これぞ職人の技!

さらに、最上級の音色を生み出すためのこだわりも。箏の裏側の穴に施した「綾杉彫り」は、音の反響を良くするもの。彫りがない場合、糸から伝わった音は単純な反射を繰り返して外へ出ていきますが、ノミで彫って凹凸をつけると音が複雑に絡み、余韻のある反響に。この綾杉彫りを、穴の周囲2ヵ所に10時間かけて彫っていきます。

いよいよ、箏づくり最大の難関。真っ赤に焼けた鉄のコテを、燃えないように絶妙な力加減で当てて表面を焼いていきます。表面を焼くと表面が締まって箏が硬くなり、中に伝わる音も炭を打ったような澄んだ響きになるのです。

コテから出る鉄粉は、冷めると表面に付いて凸凹になってしまうので、焼いたらすぐにホウキで取り除きます。続いて、タンスの艶出しなどに使われる、「イボタ蝋」と呼ばれる虫から取った天然の蝋を使い、専用のブラシで磨き上げ、胴体の部分が完成。

この日の夜は、藤田さんのご自宅で夕食をご馳走になることに。瀬戸内の鯛の出汁がきいたお吸い物に、酢飯と甘辛く炊いた椎茸、高野豆腐などを詰めた「箱寿司」など、地元の味が並びます。この日誕生日を迎えたロリさんのためにケーキも用意していただき、「涙が出そう、泣きそうです」と感動!

翌日、13本の糸を張り、調絃を行い......徹底的に音にこだわった藤田さんの箏が完成。「見惚れてしまう美しさです。綾杉彫りも見事です」とロリさん。出来上がったばかりの箏で「崖の上のポニョ」を披露しました。

そして、別れの時。藤田家の皆さんに、温かく歓迎していただき、誕生日のお祝いまでしていただいた感謝を伝えます。すると藤田さんから、なんと箏のプレゼントが! 実は、来日前にロリさんが独学で箏を演奏する映像を見ていた藤田さん。箏に対する情熱を感じ、箏をプレゼントしたいと考えていたそう。

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思いがけない贈り物に、「オーマイガ―。言葉にならない」と大感激。「ここで箏ができる工程を見せていただいたことは忘れません」と、皆さんとハグを交わしました。

あれから3年。藤田さんは、数少ない伝統工芸士として、今も福山琴を作り続けています。

ロリさんは現在、藤田さんからいただいた箏で精力的に演奏会を開催。コロナ禍でもライブ配信を続けるなど、箏の音色を全米に発信しています。ニッポンの伝統楽器をアメリカで広げる活動が、地元の雑誌に取り上げられたことも。

一緒に活動する「Gaikotojin」改め「コロンバス箏アンサンブル」のメンバーは、ロリさんの箏の音色を聴いて「これは普通の箏じゃない」とすぐわかったと話します。演奏にも自信がつき、新しい曲にもどんどん挑戦してメンバーを引っ張っている様子。

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そして、ロリさんには新たな夢ができたそう。

「演奏の技術を磨くだけでなく、若い世代にも箏の魅力を知ってもらえるよう、子ども向けのワークショップなどで演奏会を開いていきたいと考えています」

ロリさんをニッポンにご招待したら、ますます音色に磨きがかかり、箏の魅力を世界中に発信していました!