玉子焼きを愛してやまないモロッコ女性が、東京と京都の名店で作り方の極意を学ぶ:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜夜8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回は、「ニッポンにご招待したら人生変わっちゃった! スペシャル」をお送りします。

憧れのニッポンで、究極の玉子焼きや四角い玉子焼き鍋を初体験

紹介するのは、モロッコ在住の「玉子焼き」を愛するイルハムさん。

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ニッポンの食卓で定番の玉子焼き。そもそも、ニッポンで卵を食べるようになったのは室町時代。ポルトガルからカステラなどの南蛮菓子が伝わったことがきっかけです。江戸時代に卵料理が庶民に広がり、8代将軍吉宗の頃、玉子焼きが誕生。日本独自に発展しました。

イルハムさんは、大学で日本語教師のアシスタントとして働いていますが、ニッポンに行ったことはありません。玉子焼きを好きになったのは、アニメの登場人物が食べるお弁当に黄色い食べ物があり、インターネットで調べたことがきっかけです。

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イルハムさんに玉子焼きを作ってもらうことに。溶いた卵に醤油、塩、砂糖を入れて混ぜ、ふんわりさせるために水も加えます。これを丸いフライパンで焼いてフライ返しで丁寧に巻き、仕上げに巻き簾で形を整えて完成。

番組スタッフに褒められるほどの出来ですが、イルハムさんは「ニッポンで本物の玉子焼きの作り方を学びたいです」と話します。

そんなイルハムさんを、ニッポンにご招待! 2年半前、待望の初来日を果たしました。

向かったのは東京・築地。築地の場外市場には、5軒の玉子焼き専門店があります。江戸時代後期、築地にはたくさんのお寿司屋さんがあり、とある1軒が玉子焼きを販売したところ評判に。その後、それを真似したお店が続々と登場。専門店も登場し、今に至っています。

「築地 山長」の玉子焼きをいただき、「本当に美味しい。とっても甘いです」とイルハムさん。東京の玉子焼きは昔から甘い味が定番。江戸時代は卵と砂糖が高級品で、「うまい」は「甘い」といわれ、甘い玉子焼きが生まれたそう。そんな昔ながらの味を守る「山長」で、玉子焼きを焼かせていただくことに。

玉子焼き鍋の重さは2kg。店主・松江雄二さんによると、四角い形は、お寿司屋さんで使う海苔のサイズと同じ大きさにしているから。普段よく見る握りの玉子が登場したのは、明治の頃。江戸時代後期は、玉子を海苔巻きのように巻いて出していたため、玉子焼き鍋は海苔と同じ大きさなのです。

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いよいよ玉子焼きに挑戦! 「山長」では、卵に鰹出汁、砂糖などを独自にブレンド。甘くてコクのある味が人気です。難しいのは、焼いた卵を手前に返すところ。イルハムさんも重い鍋に苦戦しながら返すと......うまくできました!

最後はコテで返して完成。自分で焼いた玉子焼きを味見すると「美味しいです」と思わず笑顔が溢れます。松江さんからは「本当に上手です、驚きました」とお褒めの言葉もいただきました。

楽しい時間はあっという間。最後にイルハムさんがモロッコの伝統的なスリッパ「バブーシュ」をプレゼントすると、松江さんからは玉子焼きをいただきました。

次に向かったのは、創業137年「銀座 寿司幸本店」。食通としても知られる小説家・池波正太郎さんが好んだ究極の玉子焼きを作るお店です。イルハムさんの熱意を伝えたところ、作り方を教えていただけることに。究極の玉子焼きを作るのは、職人歴9年目の荒川敦史さん。「寿司幸」では、認められた人しか玉子焼きを焼けません。

まず、あたり鉢で茹でた芝海老をすり潰し、海老の形がなくなってきたところで砂糖、白身魚の練り物を加え、混ぜていきます。とろみが出てきたら、軽くといた卵を数回に分けて入れます。少しずつ合わせることで空気が入らず、焼きむらがなく仕上がるそう。
1枚に使う卵の量は10個ほどで、30分じっくり混ぜ、醤油とほんの少し塩を加え、生地が完成。調理開始からここまで50分!

いよいよ、焼く作業に入ります。生地は分けて入れず、全て流し込んで焼くのも特徴。ここで、換気扇を止めます。理由の一つは、熱が奪われるのを防いでオーブンのような状態にするため。もう一つは、超弱火にした火が消えないようにするためです。

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下からは超弱火、上からは2kgの炭火をかざして焼いていきます。最初に四隅を焼いて水分を中心に寄せ、最後に中心から水分を抜くという方式。焼き目がついたら炭を動かす作業を40分。この手間暇こそ、究極の玉子焼きと言われる所以なのです。

荒川さんは担当して半年ほど。1枚の玉子焼きを作るのに約2時間かかり、1日平均4枚焼き上げています。イルハムさんは「本当に手間のかかった玉子焼きなんですね」と感心。

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こうして、究極の玉子焼きが完成。「カステラみたい。全部食べちゃうかもしれません」と、その美味しさに驚きます。

次に向かったのは、東京・足立区にある「中村銅器製作所」。銅製の様々な鍋を手作りする全国でも数少ない工場で、中村恵一さんと3人の息子さんで営んでいます。和食の料理人が絶賛する、玉子焼き鍋の作り方を見せていただきました。

早速、作業場へ。まずは銅板を大型のカッターで切っていきます。銅は、熱伝導率が高い金属。火にかけてから100度に達するまでのスピードは約18秒と、フッ素コートの倍の速さだそう。

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続いて、4つの角を切断。イルハムさんも挑戦させていただき、「完璧ではないけどできました」と嬉しそう。この後、4つの出っ張りを折り曲げ、玉子焼き鍋の形にして角を溶接します。

そして最も重要なのが、スズで銅鍋をコーティングする工程です。スズは、熱が冷めるのが速い金属。銅だけだと熱が上がりすぎるため、スズを合わせることで鍋の温度をコントロールしやすくなります。これが、プロの料理人が絶賛する理由です。

最後は、「中村銅器」の刻印を入れる作業も。刻印は少し欠けてしまいましたが、お手伝いして作った玉子焼き鍋をいただけることに。四角い玉子焼き鍋が欲しかったイルハムさんは、大喜び!

その夜、中村さんから夕食に招待されたイルハムさん。ちらし寿司やお刺身をご馳走になり、奥さんの厚子さんから玉子丼の作り方も教えていただきました。

翌朝、イルハムさんは中村さん一家に、お世話になったお礼を伝えます。玉子焼き鍋だけでなく、玉子丼に使った鍋もプレゼントしていただきました。

続いて向かったのは、京都の創業110年の老舗日本料理屋「丸太町 十二段家」。砂糖を入れて甘く仕上げる東京に対し、出汁をきかせて甘くしないのが京都の玉子焼き。作り方の違いを知りたいというイルハムさんを、快く迎え入れてくださいました。

「十二段家」の出し巻き玉子をいただき、「本当に美味しい!」と感動。三代目主人の秋道賢司さんから、味付けは醤油と出汁だけと聞いてびっくり! 京料理の味付けは、昆布や鰹節でとる出汁が基本。砂糖は使わず、食材の味を引き出すことが最も大切なので、甘くない出し巻き玉子が生まれ、広まっていったのです。

作り方を学びたいというイルハムさんに、「お出汁をとるところから覚えてもらわないと」と秋道さん。翌朝、早朝から教えていただくことに。

翌朝5時。まずは出汁作りから始めます。使うのは、2種類の利尻昆布。色の濃い昆布と薄い色の昆布を合わせることで、旨味の中にスッキリとした味わいが生まれるのです。300gの昆布を18ℓの水に入れて、沸騰させないよう、弱火にかけます。昆布は沸騰させると苦味やえぐみが出るため、火加減が重要なのです。

弱火にかけること1時間。出汁を味見させていただくと、「とろみと少し甘みを感じます」。この時点で味の違いがわかるのはすごいことだそう。こうしてじっくり出汁をとること3時間、昆布出汁が完成しました。

ここで昆布を引き上げ、火を強火にしてアクを取ります。そして枕崎産の鰹節を1kg、一気に昆布出汁の中へ。野菜を炊く時にも使うため、少し濃いめの出汁にしています。この鰹節は、出汁が苦くならないよう20秒で引き上げ、一番出汁の出来上がり。

毎朝5時から3時間以上かけて作る出汁は、薄口醤油だけで味付け。ここから、出し巻き玉子の作り方を見せていただきます。

使うのは、巻き鍋と呼ばれる鍋。東京は真四角が多いのですが、京都は手前から奥に巻くので、長方形の方が巻きやすいのです。この巻き方だと、断面は年輪状に。東京は手前にたたんでいくので、断面はジグザグ。この違いが食感に表れるそう。

続いては、巻き方。ふんわり巻くためには、卵に空気をたくさん入れながらかき混ぜるのがポイント。卵2に対して出汁1の割合も、絶妙な食感の秘密です。そして、焼く時は強火。弱火でゆっくり巻くと、卵と出汁が分離してしまいます。「十二段家」では、「ふわふわ食感を味わって欲しい」との理由から作り置きは一切せず、注文ごとに作っています。

ここで、帰国後も作れるようにと、出し巻き玉子作りを体験させていただくことに。秋道さんから「1回目をきれいに巻くと芯になりますから」とアドバイスを受けて挑戦。卵の量が増えると重くなり、巻きにくくなってきます。箸の間隔を空けて出し巻き玉子に刺すと、巻きやすいそう。

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最後は秋道さんに助けていただき完成。切り口を比べてみると、秋道さんの玉子焼きはきれいな年輪状ですが、イルハムさんの方はいびつな形に。「私が巻いた出し巻きはふわっとした食感がありませんね。本当に難しかった」。

そして別れの時。イルハムさんは秋道さんにお礼を伝え、「モロッコへ帰ったら家族や友達に、ここで習った出し巻きを作りたいと思っています」と話しました。

あれから2年半。イルハムさんからのビデオレターを、「中村銅器」の中村さんご一家、「十二段家」の秋道さんの元へ届けます。

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帰国後、300回以上も玉子焼きを作ったイルハムさん。モロッコではしょっぱい味が好まれるので、いつも秋道さんの関西風で作っているそう。玉子焼きを作る時は、「中村銅器」の鍋を使っています。使い込まれた鍋を見た中村さんは、「油が馴染んで立派に育ってますよ」と嬉しそうな表情に。

早速、玉子焼きを焼いてもらいます。卵は3個使い、関西風なので醤油を少し。出汁をとるのは難しいため、顆粒の出汁を使います。教わった通りに箸を使って巻いていくと、秋道さんは「言うた通りやってはりますわ」と感心。焼く時に使う中村さんの鍋は、軽くて大きさもちょうど良く、玉子焼きがくっつかずに形もきれいに仕上がるそう。

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フライ返しで形を整え、出来上がり。美しい仕上がりを見た秋道さんは、「これはもう完全なパーフェクトに近いですね」と絶賛!

さらに、中村さんからいただいた丼鍋で、厚子さんに教わった玉子丼を作ります。椎茸の代わりにマッシュルーム、かまぼこの代わりにカニカマなど、モロッコにある食材でアレンジした玉子丼です。

続いて、イルハムさんの職場へ。ご招待の前から日本語教師の仕事を続けているイルハムさん。この日は、生徒たちにニッポンの玉子焼きの作り方を見せることに。今までも、何度も生徒たちに披露して、玉子焼きの魅力を伝えてきたそう。

帰国後、さらにニッポンが好きになったイルハムさんは、在モロッコ日本国大使館の仕事に自ら応募。現在は、日本語を教えながら大使館の広報・文化担当の職員として、モロッコで日本文化を広めています。

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「日本人の優しさ、家族の温かさ、ニッポンの伝統的な技術の高さも知ることができました。またニッポンに行ったら会いに行きます! どうもありがとうございました」

イルハムさんをニッポンにご招待したら、伝統の玉子焼き作りをマスターし、その魅力をモロッコの人たちに伝えていました!

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