ロシアでたい焼き店を経営する女性が、ニッポンの職人技を学び...帰国後、驚きの展開に!:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

醤油を愛し、醤油を仕込む木桶も作るアメリカ人男性が、小豆島で大桶作りに挑戦

続いて紹介するのは、アメリカに住む、醤油を愛してやまないエリックさん。

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ニッポンの伝統調味料「醤油」。その原型は、紀元前から存在した「醤(ひしお)」と呼ばれる食料の塩漬け。江戸時代には、現在のような製法が確立し、全国で作られるように。醤油が庶民に普及したことで、寿司や天ぷら、蒲焼など、食文化も急速に発展しました。

エリックさんはニッポンには一度も行ったことがありませんが、本やインターネットを参考に6年前から醤油作りに挑戦。作り方を見せてくれました。茹でた豆をキッチンカウンターに広げ、煎った麦と混ぜ合わせ、ニッポンの麹菌をふりかけます。醤油の味の決め手となる麹を育てるため、「麹室(こうじむろ)」まで手作り。加湿器とヒーターで、麹に最適な環境にした中に3日間入れておくと、麹の出来上がり。

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醤油を仕込む木桶まで作っていました。作り方はインターネットの動画で学んだそうですが、板を曲線に削る鉋(かんな)がアメリカでは手に入りません。そこで、曲線を削る工具を自作。他にも足りない道具は手作りで揃えています。厚みを揃えた板を円になるように組み合わせ、鉄の輪で締めて溝に底板をはめこめば、自作の木桶が完成! こうして作った木桶に麹と塩水を入れ、「もろみ」の状態に。これを1年ほどかけて熟成発酵させて布で搾れば、自家製の醤油が完成します。

「大きな木桶を作れる職人は今はほとんどいないそうですが、小豆島の『ヤマロク醤油』は自社で木桶も作っているんです。私にとって憧れの存在です」。そんなエリックさんを、3年半前、ニッポンにご招待!

向かったのは、瀬戸内海に浮かぶ小豆島。日本有数の醤油の生産地で、全盛期の明治時代には約400軒の醤油蔵があり、現在もその伝統を受け継いでいます。昔から良質な塩が採れ、温暖で雨の少ない気候が醤油作りに最適だったそう。

「ヤマロク醤油」は、創業約150年。国産の丸大豆と小麦を使い、昔ながらの製法で作る「鶴醤(つるびしお)」は全国から多くの注文が入ります。憧れの「ヤマロク醤油」を訪れたエリックさんは、「あんなにかっこいい木桶を見るのは初めてです」と、外に置かれた大きな木桶に感動!

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早速、五代目の山本康夫さんに、もろみ蔵を見せていただきます。100年以上前に建てられたもろみ蔵には、84本の木桶がずらり。150年ほど使われている木桶には、乳酸菌や酵母菌がすみついているそう。初めに入れる麹菌だけでは醤油はできず、木桶や蔵にすみついた乳酸菌や酵母菌の力で発酵と熟成が進み、蔵元ごとに違う旨味や芳ばしい香りが生まれるのです。「いつか私もこのような蔵を建てたいです」と話すエリックさんに、「ぜひ、木で蔵を建ててください。そこに菌がすみついてくる」とアドバイスする山本さん。

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この木桶で仕込まれている醤油は、全国でもかなり珍しいもの。醤油の基本は、濃口、淡口、溜(たまり)、再仕込み、白の5種類。小麦が多いと色が薄くあっさり、大豆が多いと色が濃くまろやかに。塩分は白や淡口が高く、旨味成分は大豆を多く使う再仕込みや溜に多く含まれます。ニッポンの出荷量の80%以上は万能型の濃口で、その次は関西を中心に愛用されている淡口。濃厚な溜醤油は主に中部地方で多く使われ、料理に色がつかない白しょうゆは、白だしが基本の料亭で用いられています。そして「ヤマロク醤油」で作る再仕込み醤油は、製法に大きな違いがあるとか。

濃口醤油が大豆と小麦から作った麹に食塩水を加えて作るのに対し、再仕込み醤油は、食塩水の代わりに生醤油を加え、再び醸造。原料になる醤油を仕込むのに2年かかるため、再仕込み醤油を作るのに4年かかります。つまり、時間も材料も2倍かかるのです。
4年の歳月をかけて仕込んだもろみを、初めは醤油自体の重みだけで10日から2週間かけてゆっくり搾り出し、雑味のない旨味だけを抽出。伝統の木桶でつくられた再仕込み醤油は、近年世界からも注目され、去年は売り上げの約17%を海外が占めるまでに。

木桶仕込みと再仕込み、2つのこだわりが生んだ醤油を口にしたエリックさんは、その味を「舌に触れた瞬間から風味が広がり、次々と違った旨味がやってきます」と表現。あまりの美味しさに、もう一度口にする場面も。

この醤油を仕込むのに、なくてはならないのが木桶。ちょうど年に1回木桶を作る時期とのことで、作業するところを見せていただきます。主要メンバーは、親友の大工さんや、普段は手持ちサイズの桶を作る若き木桶職人さんたち。年に1度「ヤマロク醤油」に集まり、巨大な仕込み桶を作っています。この木桶作りは2013年に始まり、これまで55本作ってきました。

自分たちで木桶を作るようになったのには理由があります。実は今、木桶仕込みの醤油は総生産量の1%ほど。これは醤油だけでなく、味噌や日本酒など木桶で仕込むニッポンの食文化の危機。全国に1社しか残っていない製桶会社も、現在受注しているもので生産を中止するとのこと。木桶を次の世代に残さなければという思いから、山本さんは友人の大工さんに声をかけ、製桶会社で修業。小豆島で木桶職人復活プロジェクトがスタートしました。100年先のことを考えた取り組みに、全国の醤油蔵や酒蔵も賛同。エリックさんも参加させていただけることに。

木材は奈良の吉野杉を使用。側面には、丸太から4枚しかとれない最上級の板を使い、鉋がついた台で削っていきます。桶のフォルムは直線ではなく、竹の箍(たが)が効きやすいよう、下3分の1を丸く作ります。そのため、1枚の板の形は先に行くほど細く、カーブしています。微妙な曲面を手の感覚だけで削り、棟梁の坂口直人さんが鉋で仕上げます。板と板をつなぐのは竹釘。何枚か繋げたら、内側がきれいな円になるよう丁寧に鉋がけ。3トン以上もの液体が入る木桶は、水圧で壊れないよう完璧な精度が求められます。板を組み合わせて筒状にし、叩いて歪みを矯正し、一旦ワイヤーで固定。上下逆さまですが、桶らしい形になってきました。

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エリックさんが気になったのは、木桶を固定するための竹で編んだ箍。金属の方が丈夫そうに思えますが、醤油には塩分が含まれているため、鉄やステンレスだと錆びてしまい、20〜30年で切れて使えなくなるそう。温度変化で伸び縮みしにくいのも竹の箍の特徴で、箍の編み方にも、職人の技が光ります。
まずは1年以上乾燥させた、長さ13mの真竹2本を編み込み、そこにもう2本編み込むことで、たゆみのない耐久性のある箍に。箍の内側に竹に縄を巻いた芯を入れることで、箍がしっかりと効き、膨らみのある美しい形になります。竹の箍だからこそ、100年以上経っても使える木桶になるのです。

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いよいよ箍を木桶にはめ、上から叩いて締めていきます。木桶の周りを回りながら行うのは、叩く強さに偏りが出ないようにするため。最後の工程「底板」は、翌日行うことに。途中、全国の醤油蔵や酒蔵の皆さん、さらには大学教授の方も参加しました。

その夜、山本さんのご自宅で夕食に招いていただきました。再仕込み醤油で煮込んだごぼう、人参、鶏肉などを炊きたてのご飯に混ぜ込む「かきまぜ」など、小豆島の郷土料理が並びます。「かきまぜ」をいただき、「すごく美味しいです」とエリックさん。続いて、島の名産・オリーブ牛の霜降りロースを再仕込み醤油で堪能。山本さんのお父さんで四代目の山本健司さんから再仕込み醤油を作るよう勧められると、エリックさんは「絶対挑戦してみます!」と意気込みを見せました。

この日は、桶職人の原田啓司さんから、小型の桶の作り方を特別に教えていただくことに。自己流で桶を作っていたエリックさんには、ニッポンでどうしても教えてもらいたいことがありました。エリックさんは底板が抜けないよう桶の内側に溝を彫ってはめていましたが、ニッポンの桶は溝がないのになぜ底が抜けないのか知りたかったのです。

すると原田さんは、「木殺し」という方法について説明してくださいました。木殺しとは、木をつぶしながら押し込み、元に戻ろうとする力を利用して固定する方法。底板を途中まで手ではめたら圧着するように打ち込み、さらに箍を締めることで、外側からも圧をかけるのです。「一番知りたかった部分なんです」と嬉しそうなエリックさんに、原田さんは今作った桶と、アメリカでは手に入らない丸鉋をプレゼント! 恐縮するエリックさんに、「同業者ですから」と笑う原田さんでした。

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大桶作りも大詰め。まずは、曲面を削る四方反り鉋(しほうぞりがんな)を使い、底板がはまる位置に1mm程度の薄い溝を彫っていきます。大桶も木殺しをしますが、力だけでは押し込めないので、底板をはまりやすくする加工が必要なのです。続いては、底板作り。底板を作らせたら世界一という三宅真一さんが、直線しか切れない電動ノコギリを巧みに使い、円形の底板を作ります。木目に対し、横に25mm長く、底板はわずかな楕円形に。木の繊維が潰れやすい方を少しだけ長くし、打ち込んだ時に完全な円になるよう計算しているのです。

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ここで桶をひっくり返し、いよいよ底板をはめる工程。100kg以上あるためクレーンで慎重に持ち上げ……エリックさんも参加し、4人がかりで打ち込んでいきます。はまり具合をチェックし、ついに完成! 伝統の技法で、仲間とともに作り上げた高さ2m、重さ500kgの大桶。これから100年、200年と受け継がれ、醤油作りの要となる、まさに蔵の宝です。

別れの時。「伝統文化を継ごうと活動する方々に出会えてとても良かったです。たくさんの知識、そして友情をありがとうございました」と、涙を浮かべて皆さんに感謝を伝えます。「エリックの研究熱心さには驚きました。もう一回桶を作りに戻って来てください」と話す山本さんの目にも涙が……。再会を誓う2人は、しっかりハグを交わします。

ここで、最後にサプライズ! 72ℓの醤油が仕込める大きな木桶と「ヤマロク醤油」の法被をお土産にいただき、「オーマイガ!」と大感激。

帰国後、エリックさんは醤油蔵を建てるための土地を購入。夢の実現に向け、少しずつ準備を進めていました!

11月1日(月)夜8時放送! 月曜プレミア8「世界!ニッポン行きたい人応援団」の内容は…。

【ニッポンにご招待したら人生変わっちゃった!感謝のビデオレターが届いちゃいました!】

「折り紙を学びたい!」
中米グアテマラの学校で非常勤講師として“折り紙”を使い数式を教えるオットーさん。文京区湯島の「おりがみ会館」へ。そこで思わず涙が…さらに憧れの存在、折り紙作家・布施知子さんと対面し、感動の連続! 初来日から5年…驚きの報告が!

「ニッポンの海苔作りを学びたい」
イギリスでインターネットを頼りに独学で“海苔”作りに挑戦するファーガスさん。
空港到着後、機内食を我慢してまで食べたかった「コンビニおにぎり」に感動!
そして、1200年以上前から朝廷に献上されていたという最高級海苔「十六島海苔(うっぷるいのり)」の生産地、島根県出雲市へ。一緒に海苔の収穫をし、加工の仕方までを教えていただき、かけがえのない絆が!

どうぞお楽しみに!