『不適切にもほどがある!』は令和版バック・トゥ・ザ・フューチャー!未来から見たら2024年は不適切だらけだった

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『不適切にもほどがある!』は令和版バック・トゥ・ザ・フューチャー!未来から見たら2024年は不適切だらけだった

想像力を膨らませるラストに希望を感じた。3月29日放送の『不適切にもほどがある!』(TBS系)最終話は、小川市郎(阿部サダヲ)が犬島渚(仲里依紗)とともに昭和へ。感動の卒業式を刮目せよ!

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「この作品には不適切な台詞や喫煙シーンがふくまれていますが 時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み 1986年当時の表現をあえて使用しています」で始まったドラマが最後に

「この作品は不適切な台詞が多く含まれますが、時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み、2024年当時の表現をあえて使用して放送しました」に変わる。

テロップで始まりテロップで締める。なんて鮮やかな終わり方だろう。ドラマを見ながら、どちらかというと昭和より令和の人たちのアプデされていなさにヤキモキしていた部分があった本作。そうだよね、2024年の価値観なんて全然ダメ、不適切なままだよね。

天動説から地動説に変わるようなパラダイムシフトは起きていないけど、それでも昭和から平成、令和と徐々に進歩はしてきている。令和よりも先、たとえば2054年からやってきた井上昌和(小野武彦)の時代はもっと生きやすくなっているのだろうか。

令和の暮らしに慣れた市郎にとって、もう昭和は生きづらい時代になってしまった。セクハラ・パワハラの横行で不当な扱いを受けても、それが加害とも被害とも気付かない社会ってやはりおかしい。昭和では異分子となった市郎が学校を、引いては社会を変えていく物語が始まってほしい。

思えば令和に行って純子(河合優実)はスケバンを卒業し、ムッチ先輩(磯村勇斗)はDCブランドを着て、PINK HOUSEが似合う彼女をゲット。みんな価値観を変えていった。自分だけの信念を持ち続けることも大切だけど、ほかの世界に触れて変わる勇気も時に必要なんだな。

純子の部屋には阿部寛のポスターが貼られていた。好きな芸能人をマッチから乗り換えたのもわかる。これから出会う六本木の覇者時代の犬島ゆずる(錦戸亮)もホリが深い顔立ちだしな。一方でムッチ先輩は、「俺の愚か者がギンギラギンにならない」以外の普段の台詞もクドカンはほとんどマッチの歌詞からの引用で書いていた。向坂キヨシ(坂元愛登)とのお別れの際も「サヨナラなんて……言えないよバカヤロー!」と「ブルージーンズメモリー」の歌詞で締め。潔い!

渚は母である純子から励ましの言葉をもらい、子供の頃に戻ることができた。経験したことのない昭和、着いた当初は衛生環境の差か「臭い」という感想だったけど、温かい思い出に変わったことだろう。甘えることができてよかったね。秋津真彦(磯村2役)との恋愛が始まったのも、結局はアプリという技術ではなく市郎のおせっかいのおかげという着地もよかった。

今回のサブタイトル「アップデートは必要ですか?」に関していえば、声を大にして「必要です!」と言いたい。スマホだって最新の状態にアプデしなければつながらなくなる。人間だってそうだと思う。

「お前らの未来はおもしれーから!」

今回のミュージカルは、市郎と向坂サカエ(吉田羊)に始まり、『ふてほど』オールスターズが出演(磯村勇斗2役おつかれさまでした!)。披露された「ぐっと堪えて大目に見よう」という主張は、今まで虐げられてきてやっと時代に合わせて声を上げられるようになった人たちからしたら口をふさがれるような気持ちにもなってしまうものだろう。これなら第1話にあった「話し合いましょう」のほうが理にかなっている感じがする。

でも、音頭に合わせて歌う「寛容になりましょう」は耳ざわりがよく、たとえば夏の盆踊りで知らない人たちとみんなで踊ったら、その場にいる全員がハッピーになって争いが減りそうだなとも思った。人権に関わる大切なことはしっかり主張したいし話し合いたい。でも、些細なことには寛容になりたい。本当は誰もがいがみ合いたくなんてないんだ。

そして学園ドラマ不遇のこの時代の卒業式演出は胸アツだった。市郎、金八先生じゃん! 生徒一人ひとりの名前を読み上げてメッセージ送ってくれ! 「お前らの未来はおもしれーから!」。こんなこと言ってもらえたら、頑張るしかない。明るい未来に就職希望だわ。

Creepy Nutsのカメオ出演演出も最高。懐かしの人気ドラマってこんなかんじだったな。それに「未来の音楽」はドラマのモチーフの一つになっているタイムスリップ映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズへのオマージュとしても効果的だった。映画は2作目、3作目と続いたことを思うと、本作も……?『木更津キャッツアイ』よろしく、主人公の死をめぐり映画化できるんじゃないだろうか。

なにより主題歌「二度寝」でノリノリに踊る中学生がとってもよかった。この子たちが社会に出た時、まだまだ世間は生きづらい。夢や希望なんて忘れて、日々の生活でいっぱいいっぱいになっているかもしれない。でも、いつだって今より未来の方が面白いってことだけは信じていたい。みんなが生きやすい社会、早く来てくれ!

(文:綿貫大介)

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