『厨房のありす』前髪を上げた永瀬廉“倖生”が見つけた居場所と“なりたい自分”

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『厨房のありす』前髪を上げた永瀬廉“倖生”が見つけた居場所と“なりたい自分”

八重森ありす(門脇麦)が母親の面影を追い真実に向き合う過程は、そのまま酒江倖生(永瀬廉)がありすと向き合い、そして彼女を通して自分と向き合う時間だった。

厨房のありす』(日本テレビ系、毎週日曜22:30~)第4話では、ありすの母親の正体、そしてどうして母親はありすを手放すことになったのかついに明らかになった。

三ツ沢和紗(前田敦子)に恋愛相談をしに来た柴崎明里(金澤美穂)へのアドバイスを求められたありすは 「私には恋愛経験がないのでわかりません。そんなことをする資格はないので。皆さんには当たり前かもしれませんが私にはそんな選択肢はないのです。(中略)私には愛される資格も愛する資格もないんです」と言ってのける。

そして同じく倖生もまた自分には恋愛する資格なんてないと思っているらしい。どうやら彼に底知れない暗い影を落としているのは父親の過去のようだ。彼の父親は何かしら犯罪に手を染めてしまったようで、その息子というだけであらぬ疑いをかけられ、居場所を奪われ続けてきたのだ。「ありすのお勝手」で通帳がなくなった時にも周囲に相談せず自分一人でなんとかしようとしたり、誘拐の容疑がかけられそうになってもそのまま自分が悪者になることを当たり前に引き受けようとしたりしたのは、そんな扱いに彼自身が慣れてしまっていたからだろう。

でも、倖生は自分についてははなから諦めてしまっていることでも、相手がそれを不本意に手放してしまったり、不当に奪われてしまったりすることには慣れていないし納得がいかない。その彼の優しさはどんなにひどい仕打ちを受けても奪われていない。

倖生はありすが母親と向き合えるようにと、一方的に捨てられたと思い込んでいる彼女にせめて真実を知って欲しいと五條製薬に一緒に乗り込む。さらには松浦百花(大友花恋)に頼み、五條製薬から弁当の注文を受けて何とか五條蒔子(木村多江)に接近しようとする。

その一連の行動の原動力を「俺、託しちゃってんだ。自分じゃできないからありすに託してんだ。ありすに俺みたいになってほしくないって安全なところから」と和紗に打ち明けていた。それだって彼の紛れもない本心だろうが、そんなふうに自分は手にできなかったものを相手には諦めてほしくないと願い、行動できることこそが“相手のために”動ける人に他ならないだろう。自分は笑えなくたって、相手には笑っていて欲しいと願える人ということなのだから。

しかし、和紗という人間は本当にフェアだ。ありすには「諦めないで欲しい」と言うのに自分のことにはとんと無関心な倖生に「お前がそれ言っちゃダメだろ。(中略)ありすはあんたに言われたから頑張ろうとしてんじゃないの?」「あんただって諦めなくていいんじゃないの?」と、倖生が“犯罪者の息子”と知った後も何も変わらない。倖生の背景ではなく、今目の前にいる彼だけを見て。

「俺はありすが言ってくれたような人間に、人を幸せにするような人間でありたいって思うようになった。そういう人間になることを諦めたくないと思う。だからありすにも自分のこと諦めないで欲しい」と言えた倖生は、ありすに託しているのではない。彼女を通して自分を見つめ直し、取り戻そうとしているのだ。

自分以上に自分のことを信じ諦めないでいてくれる人が近くにいるというのはこれ以上ないほど心強く、一人では湧いてこない底力がどこからともなく込み上げてくるものだ。“相手に信じてもらった、見つけてもらった自分に近づきたい、そうありたい”“そんな自分を誇りたい”と思えることは、人をうんと強くする。

ありすと倖生が手を伸ばした“幸せになる権利”

蒔子の口から明かされたありすの母親の正体は、彼女の妹で五條製薬の研究員だった五條未知子(国仲涼子)だった。そして彼女は研究室で起こった火事で亡くなり、同じく研究室にいたありすの命を助け今の彼女がいるのだ。ありすは片時も離したくないと思われるほどに母親に愛されていた。

火事の最中、母親に助けられた記憶を思い起こしたありすが声を上げて泣く姿は、自分は愛されていたという安堵感と、「愛される資格も愛する資格もない」と遠ざけていた世界の温かさに一気に包まれたからだろう。この幸せをありすにもたらしたのは、そのきっかけをくれたのは他でもない倖生だ。

それにしても五條製薬の会長・五條道隆(北大路欣也)が言い放った「こんな役立たずがうちの人間のはずがない」という言葉は、倖生がこれまで世間から向けられていた「犯罪者の息子は危険。同じようなことをするに違いない」という視線と根本のところは同じだとつくづく思わされる。ありすが抱える障がいだけで役立たずと切り捨て、そして五條製薬の人間=優秀だと決めつけるその選民意識こそ、「犯罪者の息子と自分たちは違う」と線引きしてきた人間の発想と同じだ。本人にはどうしようもないことで、当人の努力ではどうしたって変えられないことで人を見下し、自分たちとは違うと言って憚らない人間の無神経さ、あさましさに傷つけられてきたというところも、ありすと倖生の共通点かもしれない。

そんな繊細で優しい二人が交わす会話はどこまでも美しい。
「私も誰かを好きになって幸せな気持ちにしたいです」
「俺も。そうしたいと思ってる」

自分を馬鹿にした相手に仕返しをすることではなく、誰かを好きになってその人を幸せにすることに自分の力を用いたいと言うのだ。そしてこれは二人が「自分が幸せになること」も諦めないと自然と受け入れられた瞬間でもあったのだろう。

ありすの母親の死に見え隠れする何者かの陰謀

今話もラストにまたとんでもない疑惑が投下される。五條誠士(萩原聖人)に八重森心護(大森南朋)が詰め寄り、言った言葉。「あの火事が事故じゃないってお前知ってんだろ?」。未知子が命を落とした火事は誰かによって仕組まれたものだったのだろうか。もしそうならば、犯人の狙いは未知子や彼女の研究の成果だったのか。そしてそれを誠士が知っているとはどういうことなのか。

誠士にとっては都合が悪いことに、蒔子とありすの交流が始まってしまった。明らかな他人の悪意に触れてしまった際にありすはどうなってしまうのだろうか。

文:佳香(かこ)

次回第5話は2月18日に放送される。なお現在、民放公式テレビ配信サービス「TVer」では、第1話~第3話、ダイジェスト、配信限定の「化学で簡単レシピ」なども配信中。

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