『厨房のありす』門脇麦“ありす”と永瀬廉“倖生”が教えてくれる“それでも人と共に生きる理由”

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「厨房のありす #2 誰かと共に生きること」を見る(配信終了まで1週間以上)

「一緒に住むってのは譲り合いだからね。お互い嫌なところも含めてやってくってこと」「それってすごく努力がいることなんだよ。人と一緒にやってくのって基本しんどいからね」

三ツ沢和紗(前田敦子)のこの言葉はごもっともだ。『厨房のありす』(日本テレビ系、毎週日曜22:30~)第2話では、独自のこだわり、手順やルールがある八重森ありす(門脇麦)とそこで住み込みバイトを始めた酒江倖生(永瀬廉)がぶつかる共同生活の困難が描かれる。

着る服にバスタオル、コップに茶碗、メモ書きのペンの色まで曜日ごとに使う色が決まっており、しかもそれがアイテム毎にバラバラなありす。ASD(自閉スペクトラム症)の人の中にはありすのように特に色に強いこだわりを持つ人が少なくないようだ。食べるメニューに順番、テーブルの拭き方、調味料の並べ方、さらには道の歩き方に至るまで全てに順序が設けられており、その記憶力と徹底したルーティン遂行力には驚かされる。

他人からすれば“そんなこと”と思われかねないことこそが、ありすにとっては曜日ごとに整理整頓された彼女の秩序ある大切な世界で、それが少しでも乱されてしまうことは安心が脅かされてしまうことと同義で一大事なのだ。

唐突に繰り出されるありすのルール全てをメモ書きし、何とかついていこうとする倖生はやはり優しい。しかしこうも大量にあるルールを最初から完璧にセットできるはずもなく、メモだって取り忘れてしまうし、あまりの情報量に追いつけない。これはもはや根気比べともいえる状況だ。そして目も合わせてくれないありすに自信を喪失する倖生。しかし、それだけ彼女のことを倖生がしっかりとまなざせていると言い換えることもできる。

しかし、ありすもありすで自分のこだわりが受け入れられて当然と思っているわけではないようだ。

「倖生さんが何かしてくれようとする度、私は私の決まりを押し付けてしまいます。何度も我慢しようとしましたが、またそうしてしまいました。私はすごくワガママな人間です」とそんな自分にも嫌気が差しているようだ。

ありすはこれまで3軒の飲食店での勤務経験があったものの、自分のペースを崩せない彼女にとって一分一秒を争い常にピリピリと緊張感が走り怒声が響く厨房はなかなか馴染めるものではなく、クビになってしまうことが続く。そんなありすのために心護(大森南朋)が“彼女の居場所”を作ろうと「ありすのお勝手」を用意してくれたのだった。

「私は今何とかやれてしまっています。私が努力しなくていいようにお父さんや和紗がいろんなことをしてくれています。私は今のままでいいんでしょうか?」

勝手知ったる父親と親友に囲まれて守られた環境で伸び伸びと自分を発揮できていたところから、ありす自身も他人を受け入れ歩み寄る必要性を感じており、そのためには自分が変わらねばならないとどこかでわかっているようだ。

過去が気になる倖生 断片的な情報からも立ち上る彼の孤独

それにしても倖生のどこまでも相手のことを受け入れようとする姿勢はどこから来るのだろうか。車のクラクションに驚くありすを何とか落ち着かせようと咄嗟に後ろから彼女の耳を塞ごうとしたところ、より一層パニックを起こしてしまった時も、和紗の助言に素直に耳を傾ける。良かれと思ってやったことが裏目に出てしまうことが続くと落ち込んだりお手上げになったりするものだと思うが、どうして彼は根を上げてしまわないのだろうか。

「気持ちわかるんで。助けが必要なときに誰もそばにいてくれなかったり、辛いときに周りに味方がいないとか、そういう時の気持ちわかるんで」と呟く倖生のトーンに、彼の過去や家族関係には簡単には立ち入れないものがありそうだ。

倖生がありすにとって3人目の“特別な人”になる

しかしこの倖生のようにありすのことを特別視せず、自分ごととして捉えられると相手の世界にもグッと寄り添えるのだろう。ありすほどに事細かなルールではなくとも、常連の雅美(伊藤麻実子)も夫婦で一緒に暮らすにあたり決めた家事の分担を全く守らない夫に痺れを切らし、家を出て行ってしまう。

“そんなこと”と思える一つひとつの積み重ねを尊重し合うことこそが他人と一緒に住むということであり、「好きとか嫌いだけじゃどうにもなんない」ことなのだろう。片方だけが自己犠牲を強いられる関係は絶対に長続きせずどこかで破綻してしまう。互いに落としどころを見つけ、折り合いをつけていくしかない。

そうまでして人と一緒に暮らす必要があるのかという疑問が頭をもたげそうになるが、相手の欠点が思わぬ形で自分の世界を広げてくれることだってある。料理が苦手で失敗の言い訳にいつも化学を使っていた心護のおかげで、料理も化学も大好きになったありすのように。「人の間」と書いて“人間”、人との間で自分を見つけ獲得していくものなのだろう。

和紗の「譲り合い」という言葉を受けて、ありすは絶対に譲れないポイントは継続、それ以外のルールはなしにし「また何かあった場合は随時新ルールとして更新するとします」と折衷案を見つけた。そもそもありすはテーブルの拭き方やメモをとるペンの色について倖生にこだわりの有無を聞いてから、こだわりがない場合には自身のやり方を提案していた。「こだわりがない」ということは即ちそのまま「相手のやり方を受け入れられる」ということではなく、その時々で無秩序にやるということであり、それを許容できたありすは一気に成長した。さらにこの新ルールを受けて、倖生もありすのルールを一方的に受け入れるのではなく自身の希望も伝えやすくなっただろう。

初めてありすが倖生と目を合わせるその瞬間はあまりに突然やってきた。ありすにとって彼は父親と親友以外に目を合わせる3人目の人となり、さらに自身の秘密まで打ち明ける。

やはり彼女の母親は心護の元勤務先でもある大手製薬会社・五條製薬のCEOの娘・五條蒔子(木村多江)のようで、実の父親ではないのに自分を育ててくれた恩からそれを隠す心護の話に合わせているという。

蒔子がありすの名前を口に出そうとするなり、「忘れろ、あの子のことは。どうせ何の役にも立たん」と遮る会長・道隆(北大路欣也)の有無を言わさぬ圧に、この親子が外的要因で不本意ながら引き離されたのだろうことが浮かび上がる。

文:佳香(かこ)

次回第3話は2月4日に放送される。なお現在、民放公式テレビ配信サービス「TVer」では、第1話、ダイジェスト、配信限定の「化学で簡単レシピ」なども配信中。

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