『VIVANT』この面白さは世界基準!日本のドラマ史を塗り変える大作、誕生

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『VIVANT』この面白さは世界基準!日本のドラマ史を塗り変える大作、誕生

日本でもこんなドラマがつくれるんだ。そんな勇気が湧いてくるようなドラマが誕生した。

放送日までその全貌が謎のヴェールに包まれていた日曜劇場『VIVANT』(TBS系、毎週日曜21:00~)。注目の第1話は、まるで『インディ・ジョーンズ』を観ているようなノンストップアドベンチャーだった。

冴えないサラリーマンに訪れた、運命を変える大事件

日本のドラマを海外作品と比較したとき、見劣りすると言われがちなのがスケールだ。潤沢な予算のある海外と比べると日本のコンテンツはどうしたって規模感では太刀打ちできない。ローバジェットでも成立する、繊細な心理描写を得意としたヒューマンドラマならまだ通用する可能性はあるけれど、ゴリゴリのアクションやエンタメ路線では目の肥えた国外のファンを唸らせるものなんてできない、と半ば迷信のように思い込まされてきた。

だが、『VIVANT』はそんな最も勝率の低いゲームに果敢に挑もうとしている。

誤送金によって消えた9000万ドルを追って、単身バルカ共和国に乗り込んだ乃木憂助(堺雅人)。同期との出世レースにも遅れをとる、うだつの上がらないサラリーマンの運命は、この事件を境に急変する。

タクシー運転手に騙され、広大な砂漠に取り残されたり。アディエル(Tsaschikher Khatanzorig)・ジャミーン(Nandin-Erdene Khongorzul)父子に助けられ九死に一生を得るも、今度は目の前でテロ組織の幹部・アル=ザイール(Erkhembayar Ganbold)が自爆したり。公安部の刑事・野崎守(阿部寛)の機転によって間一髪で難を逃れるものの、爆破事件の重要参考人として地元警察から追われるはめになったり。

ただの平凡なサラリーマンが、国際テロの渦中の人に。次から次に襲いかかってくるトラブルと、それを知恵と勇気でなんとか切り抜けていく乃木たちの姿に心拍数が上昇し続ける108分だった。

視聴者に息をつかせる暇を与えない脚本は、『半沢直樹』(TBS系)の八津弘幸ら腕利きが揃い、ダイナミックなストーリー展開で連ドラとしては長尺の初回を見事に快走した。

銃撃戦にカーチェイス、爆破シーンにも制作者たちの本気が伝わってくるし、次々と警察車両をなぎ倒してダンプカーが突進するクライマックスシーンは、一体何十台の車を壊したのだろうと思わず気になってしまう景気の良さ。そもそもトップシーンのあの砂漠の画なんて、国内では絶対に成立しない。2か月半にわたるモンゴルロケを敢行したからこそ撮れた映像美だ。中盤まで日本語による会話がほとんどないことも、ながら見が常態化した近年の視聴環境を考えればリスキーすぎる。

しかし、つくり手たちは決して恐れることも日和ることもしない。自分たちのつくりたいものを、つくり切る。そんな強い意志が画面の隅々にまで迸っている。

この大作の指揮を執るのは、TBSを代表する名監督・福澤克雄。『華麗なる一族』から『半沢直樹』まで数々のヒット作を生み、「ジャイさん」の愛称でキャスト・スタッフから絶大な信頼を寄せられている国内ドラマのトップランカーが、自ら原作を手がけ世に送り出した会心の力作だ。

はたしてどんな冒険を私たちに見せてくれるのか。この夏いちばん、いや今年最大の大作がいよいよスタートした。

信用しちゃいけないのは、迫田孝也小日向文世

現時点で大きな謎となっているのが、なぜ1億ドルの誤送金が起きたのかということ。防犯カメラを確認する限り、申請の手続きを行ったのは乃木。だが、乃木はその目で1000万ドルだったと確認している。送金先であるGFL社の社長、アリ・カーン(山中崇)の態度から、この誤送金は計画的に仕組まれたもののように思われる。となると、社内に手引きをした人間がいるということか。

今のところ別の課でありながら、わざわざ首を突っ込んできた乃木の同期・山本巧(迫田孝也)が怪しい。迫田孝也が演じる以上、安易に信用しない方がいいキャラだろう。信用できないという意味では、専務・長野利彦(小日向文世)はその上をいく。なんと言っても、小日向文世である。疑う理由は、それだけで十分だ。

乃木を助けた少女・ジャミーンもキーパーソンだろう。2年前に彼女は母親を目の前で亡くしている。この母親の死は、今回の物語にどんな関わりを持っているのか。役所広司二宮和也演じる父子も、母に続き父まで亡くしたジャミーンのことを案じていた。この父子は何者で、ジャミーンとはどんな関係性なのか。そして、今後乃木とどのように関わってくるのか。

タイトルの『VIVANT』の意味もまだ明かされてはいない。フランス語で「生き生きとした」「活気のある」という意味だそうだが、ザイールが乃木に「お前がヴィヴァンか?」と聞いたということは、何かのコードネームか、あるいは組織の名前なのかもしれない。それが、今回の消えた9000万ドルとどうつながってくるのか。この1週間は、きっと視聴者の間で熾烈な考察合戦が行われることだろう。

そして、最大の謎が乃木自身だ。誠実だが気の弱そうな乃木は、ひとりになるとまるで別人格であるもうひとりの自分としばしば対話をしている。彼がこんなふうにもうひとりの自分を生み出すようになったのには、何かしらの理由があるはずだ。

鍵となるのは、乃木が見る夢。広いサバンナのような荒野を走る男(林遣都)と女(高梨臨)。2人の間には、小さな子どももいる。3人は親子だろうか。とすると、この子どもこそが乃木であり、男女は乃木の両親と考えるのが自然だろう。

3人は、ヘリに助けを呼んだが無視されたようだった。また、銃を持った荒くれ者たちに追われているような場面もあった。これが乃木の幼い記憶だとすると、乃木が国際的なトラブルに巻き込まれるのは今回が初めてではない、ということだ。そう考えれば、CIAの友人がいるという設定もなんとなく理解はできる。

かつて両親もなんらかの事件に巻き込まれ、命を落とした。乃木は、まるで両親の運命を辿るように今再び「世界中を巻き込む大きな渦」に飛び込もうとしているのもしれない。はたしてこの渦から乃木は生還できるのか。

膨らみ続ける謎と期待を胸の中で必死に鎮めながら、私たちは来週日曜再びテレビの前に釘づけとなる。