消えた電車の行き先は、希望か絶望か?『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』が出発進行!

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消えた電車の行き先は、希望か絶望か?『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』が出発進行!

ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』がスタートした。

日本の連ドラのスケールでは、なかなか成功しづらいとされるサバイバルもの。その難題にオリジナル作品で臨む。TBSとしてはおそらく海外マーケットも見据えた野心作と言えるだろう。はたして連ドラの裾野を広げる一作となり得るか。期待を込めて追いかけていきたい。

各登場人物に散りばめられた人間の醜さと美しさ

8時23分。いつもの通勤電車に異変が発生する。けたたましく鳴る緊急地震速報。大きな揺れに見舞われたかと思えば、次の瞬間、周囲は見知らぬ世界に。生い茂るジャングル。トンネルの先は、一面の砂漠。水も、食糧も、電波も、救助のヘリさえやってこない、“見捨てられた世界”。一体ここはどこなのか。乗客は無事に帰れるのか。緊迫感とダイナミズム溢れる初回となった。

こうしたサバイバルものは、むき出しになる人間の醜さと弱さこそが見どころとなる。そういう意味では、キャラクターの配置が重要なのだが、初回を見る限り個性的な登場人物をしっかり揃えられているように思う。

他人の荷物に平気で手を出し、疑われたら別の人物に罪をなすりつける渡部玲奈(古川琴音)。みんなが困っている中、無神経に弁当を広げる江口和真(日向亘)と佐藤小春(片岡凜)。乗客を守る立場を忘れ、いち早く平常心を失う駅員の小森創(村田秀亮)。そして、そんな小森を職務放棄だと追いつめるやり手の社長・寺崎佳代子(松雪泰子)。非常事態にもかかわらず、虫歯のことばかり気にする田中弥一(杉本哲太)も小市民らしくて面白い。

これらの登場人物がこの極限状態の中でどんな波乱を巻き起こすのか。そこであらわになる人間の弱さに、視聴者はイライラしながらも、どこか他人事と思えず惹き込まれていくのだ。

同時に、その先にある人間の美しさに胸打たれるのもサバイバルものの魅力。第1話でその役割を担っていたのは、白浜優斗(赤楚衛二)と畑野紗枝(上白石萌歌)だ。優斗の口癖である「明日またやれるだけやってみよう」はこの希望が見えない状況を乗り越えるキーワードになっていくはず。死んでもいいからと単独行動に出た和真と小春を追いかけ、「逃げないで、一緒に今日を乗り切って、ここでやれるだけやってみよう」と訴える優斗に、どんな状況でも折れることのない人間の強さを見た。

では、主人公である萱島直哉(山田裕貴)はどちらの人物か。周囲に対して非協力的なその態度は、人間の利己的な面を表出させたキャラクターに見える。だが、投げやりな態度の裏に隠していたのは、優斗のようなまっすぐさだった。年の離れた弟をひとりで育ててきた直哉。しかし、弟は強盗傷害事件を起こし、少年院に。やれるだけやっても報われないことを知っているのが直哉だった。

『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』は、やれるだけやってもどうにもならないと絶望した直哉が、もう一度、やれるだけやってみようと立ち上がるための物語だと言える。

人間には美しさと醜さの両方が共存している。今は正義感と使命感に溢れる人物として描かれている優斗もまたこの絶望的な状況下で醜さが露呈することもあるかもしれない。そのときに、崖から落ちそうになった直哉を優斗が助けたように、今度は直哉が優斗に救いの手を差し出すのか。美しさと醜さ、強さと弱さ、光と影、希望と絶望。表裏一体となっているこれらの要素を両面から描いていくドラマになることを期待したい。

それぞれの“会いたい人”が絶望を乗り越える希望となる

また、サバイバルものの条件は、“会いたい人がいる”ということだ。この絶体絶命の危機を乗り越え、もう一度、大切な誰かに会いたい。その強い想いが、這い上がる力となる。直哉にとっては、迎えに行くはずだった弟の達哉(池田優斗)がそうだろう。

優斗もまた手土産を持って誰かに会いに行くつもりで電車に乗った。その相手が誰なのか。「ご迷惑かと思いますが」と電話口で詫びていたことから、あまりいい関係ではないことが窺える。考えられるのは、自分を庇って重い怪我を負った先輩消防士の高倉康太(前田公輝)だ。優斗の回想では、康太は優斗のことを許していたように見えたが、その後、両者の間に影を落とすような出来事があったのか。あるいは、また別の人物に会うつもりだったのかもしれない。優斗の“会いたい人”“会わなければいけない人”こそが、ドラマを加速させる大きな渦となりそうだ。

第1話の終盤で、電車は未来にタイムスリップしていることが判明した。ここからはこの状況をどう生き抜くか。そして、タイムスリップの謎を解き、どうやって現代に戻るかがキーとなる。現状で散りばめられている謎は

・トンネルの中に落ちていた光る緑の石は何なのか?
・未来で日本に何が起きたのか?
・砂漠の中に建つあの要塞のような建物は何なのか?
・高校生の集団は本当に崖に落ちたのか? それともどこか別の場所へ消えたのか?
・消失した車両は2両。では、もう1両はどこへ消えたのか?
・水を盗んだのは誰か?
・冒頭で紗枝が抱いていたのは、誰の子どもか?

といったところだろうか。先行作品である『ロング・ラブレター〜漂流教室〜』では環境破壊や戦争によって荒廃した未来が舞台となった。本作もまた人類への警鐘なのだろうか。

いずれにせよ期待値十分の出発となったことは間違いない。消えた電車の行き先は、希望か。あるいは絶望か――。

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