ゲイ当事者にとってBLとは?作品を裏で支える“LGBTQ+インクルーシブディレクター”の仕事

公開: 更新: テレ東プラス

「25時、赤坂で」LGBTQ+インタビュー 前編LGBTQ+インクルーシブディレクター ミヤタ廉さん

木ドラ24「25時、赤坂で」(毎週木曜深夜24時30分)。ボーイズラブ(BL)ドラマを演じる俳優同士がリアルに恋に落ちる本作では、 “LGBTQ+インクルーシブディレクター”のミヤタ廉さんが、性的マイノリティーに関する表現を監修している。今後ますます求められるであろう役割の日本における第一人者に話を聞いた。

【動画】LGBTQ+インクルーシブディレクター・ミヤタ廉が携わったBLドラマ

LGBTQ+インクルーシブディレクターの仕事


「25時、赤坂で」LGBTQ+インタビュー 前編木ドラ24「25時、赤坂で」第4話より

――“LGBTQ+インクルーシブディレクター”という役職名は、ミヤタさんが映画『エゴイスト』(2023年公開)にスタッフとして携わった際に、現場で求められる仕事の広がりと今後の活動を視野に入れ、アメリカに倣って命名されたとのこと。日本ではまだあまり馴染みのない職業ですが、どのようなお仕事なのでしょうか?

「主に映像作品、小説、漫画などでLGBTQ+のキャラクターが描かれる場合に、クライアントからの希望によっては脚本段階から関わり、キャラクター設定や、当事者以外の方たちが誤解した形で表現している部分の修正などを行います。今回のドラマ『25時、赤坂で』も脚本監修という形で携りました。

作品の宣伝に関わることもあります。同性愛を扱ったアメリカ/イギリスの映画『異人たち』(2024年公開)へのコメントを依頼された際、とても良い作品だと思ったので関係者の方に『何かできることがあれば』とお伝えしたところ、LGBTQ+の方たちに向けた宣伝のお話をいただき、僅かながら携わらせていただきました」

――『25時、赤坂で』でも、記者会見などの宣伝におけるガイドラインも監修されたとのことで。LGBTQ+のキャラクターが描かれる作品の様々な面でアドバイスされているんですね。脚本監修としれは、具体的には、どのような表現について修正されているんですか?

「LGBTQ+にまつわる表現で、当事者にとって引っかかる部分についてプロデューサーに説明し、修正のご提案をしたり、演出する上で気を付けるべき点をお知らせします。

当事者以外の方たちの間で作られた“イメージ”があり、例えば、第1話で、白崎(新原泰佑)が“性交渉できる相手を探すためゲイバーに行く”という描かれ方をしていますが、現実には、そういった目的のみで営業している店はあまりありません。まずはそれをお伝えし、ストーリー上でそうした表現が必要な場合は、その時々に合わせたアドバイスをします。

セリフに関しても、悪気なく使われている言葉が当事者にとっては引っかかる表現である場合もあるので、理由を説明し、同じ意味合いで成立する表現をご提案します」

――当事者以外は気付きにくいことで、誤った描かれ方はまだ多いですか?

「今は社会も変わってきているので、意図的に当事者を傷つけようとする言葉は少なくなってきましたが、茶化したり、からかうような言葉は、たまに見受けられます。そうしたニュアンスで受け取られかねない危険性があれば、修正案を提案させていただいてます。

例えば、第4話で、劇中ドラマ『昼のゆめ』プロデューサー・牧田が白崎に『真実味がこもった演技で、まるで白崎くんが羽山さん(駒木根葵汰)のことを本当に好きなんじゃないかと思っちゃうぐらい…』と話すシーン。最初は、牧田が“男性同士なのに”という意味合いを含んで冗談ぽく言うニュアンスのある脚本だったので、『同性愛を肯定している世界観の中で男性同士の感情を揶揄する必要はないのではないか』とお伝えしました。脚本上のセリフとしてはOKであっても、演出で見え方が変わる恐れもあるので、注意した方がいいところは細かくお伝えしています」

「25時、赤坂で」LGBTQ+インタビュー 前編木ドラ24「25時、赤坂で」第9話より

ゲイ当事者にとってのBL作品


「25時、赤坂で」LGBTQ+インタビュー 前編木ドラ24「25時、赤坂で」第4話より

――今作で初めてBL作品を担当されたそうですが、これまで携わった作品との違いはありましたか?

「BL作品の場合、世界観の絶対的なファンがいるので、その方々が何を求めているのかを意識して想像しながら仕事を進めました。同時に、“BLだから”という理由ですべて受け入れるのは違うと思い、冷静に方法を探りつつ判断しました」

――ここ数年、タイのBLドラマが大ブームになるなどBL作品は世界的な人気ジャンルとなりました。もちろんフィクションですので、リアルなキャラクターではなく、当事者以外が描く“ファンタジー”というイメージがありますが、BL作品については、どのように感じていらっしゃいますか?

「ゲイ当事者の中でもBLファンは世代関係なく増えています。正直なことを言うと僕は今まで触れてこなかったのですが、今回『25時、赤坂で』に携わることで、BL作品はセクシュアリティに限らず、いろんなことを肯定し合う優しい世界が描かれていることを知りました。それが愛される要素の一つでもあるのだろうと勉強になります。

これまでのBL作品が、より良くなるように配慮して作られてきた結果だと思いますので、その流れを汲んだ上で、新たなゲイ当事者のファンがもっと増えるように、当事者が面白いと感じられる部分を盛り込むための監修をさせていただいたつもりです」

――当事者も楽しめるポイントとは、どのようなことですか?

「例えば、少女漫画を読んで“ありえないけど素敵な世界だな”と思うのと同じで、ゲイ当事者もBL作品を完全に“ファンタジー”として観ています。そうした目線を持ちながら、少しでもリアルな要素を入れることにより新たな色が加わる見え方になれたらと思っています。

例えば、第1話のゲイバーは、実際のお店を使って撮影しています。細部がリアルに映っていれば感情移入しやすいと思い、当事者がもう一歩、心を寄せられる見え方にできるよう心がけました」

「25時、赤坂で」LGBTQ+インタビュー 前編木ドラ24「25時、赤坂で」第1話より

――本作は、台湾発のLGBTQ+コンテンツに特化した動画配信サービス「GagaOOLala(ガガウララ)」の協力により国内放送と同時に世界配信されています。日本とは違った“世界”での受け取られ方なども意識されたのでしょうか?

「今は世界のどこからでも作品を観られる環境になっています。だからこそ、自分が携わる作品ではLGBTQ+の扱いでの世界基準を保ちたいですし、“LGBTQ+の描き方に対して、日本はまだこのレベルなんだ”と思われないようにしたいということは意識しました」

――映像作品でのゲイのキャラクター描写については、どのようなことを意識していらっしゃいますか?

「ゲイのキャラクターだからといって、特別な表現をするわけではありません。僕が大切にしているのは、そのキャラクターがどういう生き方をしてきて、どういう考えを持って物語に存在するのか、を踏まえた上でのキャラクター作りです。もしこの先、僕が企画制作段階から関わるようになり、ゲイだけでなく様々なセクシュアリティや性別のキャラクターを作ることになったとしても、作業としては同じです。

当然ながらゲイ当事者にも、様々な考えの方がいます。この仕事において一番大事にしているのは、キャラクターに自分の考えや思いがのって、それが“ゲイの代表”のように見えないようにすることですね。

キャラクター描写以外にも、僕が作品のどこのシーンに携わっているか、むしろ僕が参加していることすら意識されないぐらい、様々な懸念点を物語に溶け込ませることは特に心掛けていることでもあります。注意が必要なシーンに色眼鏡なく自然な流れでご覧いただけた時、携わる意味が発揮されると思っているので」

後編】では、ゲイ当事者が背負ってきた思いや、これからのエンターテインメントへの展望を。

「25時、赤坂で」LGBTQ+インタビュー 前編
今夜ついに完結! 木ドラ24「25時、赤坂で」(毎週木曜深夜24時30分)最終回は?

最終回
「昼のゆめ」がクランクアップを迎え、羽山(駒木根葵汰)の家に置きっぱなしになっていた荷物を整理する白崎(新原泰佑)。様々な想いが溢れる中、なんとか羽山の家を出ていこうとする白崎だったが、羽山はその手を引いてリビングへと連れ戻す。溢れる感情に歯止めが効かなくなった2人は、そのまま互いを激しく求め合い…。
しかし翌朝、ある決意を固めた白崎は寝ている羽山を置いて出ていってしまう…。不器用な2人の恋の行方はいかに!共演中の俳優同士の恋を描くBLドラマが、今夜ついに完結!

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【プロフィール】
ミヤタ廉(みやた・れん)
LGBTQ+インクルーシブディレクター。LGBTQ+が描かれた映画やドラマなどの脚本の段階から参加し、性的マイノリティーに関するセリフや所作などの監修、キャラクター作りなどを手掛ける。映画「エゴイスト」(2023年公開)、短編映画「ストレンジ」(2023年公開)、映画「52ヘルツのクジラたち」(2024年公開)、配信映画「シティーハンター」(2024年配信)の監修、また映画「異人たち」(2024年公開)では宣伝を担当。ドラマ「25時、赤坂で」(テレ東系)の脚本監修を務める。
Instagram:@renmiyata_official