ヌードや性的なシーンを調整、今求められる“インティマシー・コーディネーター”

公開: 更新: テレ東プラス

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ボーイズラブ(BL)ドラマを演じる俳優同士がリアルに恋に落ちる、木ドラ24「25時、赤坂で」(毎週木曜深夜24時30分)。ヌードや性的なシーンで俳優側と制作側の間に立ち調整・サポートしているのが “インティマシー・コーディネーター(IC)”の西山ももこさんだ。

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2017年からの「#MeToo運動」を受けて生まれたといわれる新たな職業“IC”。アメリカ、イギリスなどでは現場への導入がスタンダードになりつつあり、日本でも2022年の「流行語大賞」にノミネートされるなど近年注目されるようになってきた。アフリカ、欧米、アジアでの海外ロケなども多数経験し、国内外問わず活躍する西山さんに、“IC”の仕事について話を聞いた。

インティマシー・コーディネーターの仕事


記事画像木ドラ24「25時、赤坂で」第2話より

――日本ではまだ数人しかいない“インティマシー・コーディネーター(IC)”。インティマシー(intimacy:親密な)なシーンの調整を担うICについて、具体的な仕事内容について教えてください。

「台本には何をするかまで詳しく書かれてないことが多いので、まず性的なシーンに関して曖昧な部分をピックアップして、監督に確認します。例えば『2人が一夜をともに過ごす』と書かれていた場合、性行為があるのか、ただ単に一緒に過ごしただけなのか、2人は服を脱いでいるのか、何をしているのか…などを明確にした上で、俳優に『ここでキスをします』など台本には細かく書かれていない部分で何をするのかを伝えます。

それを受けて、『このシーンは必要なのか』という意見や、『ここまでならできる』との線引き、『こうやったらどうか』との提案など、俳優本人の意向を確認した上で、演出側に戻します。そこから演出側が、アングル、着衣、行為など最終的な演出を練って、再度、俳優に戻して、現場の全員が納得した状態で撮影に入れるように調整します」

――俳優側と演出側の間に入って何度もやり取りするのですね。最終的にすべてが整うまでには、どのくらい時間がかかるんですか?

「本当は時間をかけたいですが、日本のドラマの現場では台本が上がってからクランクインまで時間がなかったり、台本が出来てない場合もあるので、短い時は1、2週間で終わらせることが多いですね」

――折衝をするにあたって、どちらの立場にも立たずに話を進めるのは難しいのではないかと想像するのですが、心掛けていることはありますか?

「作品を良くしたいという思いは俳優側も制作側も一緒なので、それほど大変という感覚はないですね。俳優も、出演したことに誇りを持ちたいという思いや、これをきっかけに売れるという面も含めて、作品に賭けている部分もあります。俳優が『これはやりたくない』と主張するケースは多くなく、『作品をより良くするために、ここまでできるけど、これは避けたい』という話し合いになります」

記事画像木ドラ24「25時、赤坂で」第1話より

――俳優側としては、プロデューサーや監督、事務所関係者など“力”の強い方には本音を言えない…ということもありそうです。俳優がOKしたとしても実は無理をしているのではないかといことを見極めることも必要になりそうですね。

「そこが難しくて、真の同意は簡単に取れるものではないです。ですので、俳優との話し合いの際は、『今ここで私にOKを出しても、実際に撮影環境、相手役、スタッフや監督を見て『やはりやりたくない』と言っても問題ないので、遠慮なく言ってください」とお伝えしますし、『一度口にしたからには必ずやらなきゃいけないんだと思わないでほしい』と確認もしています』

――俳優側だけでなく、制作側にとっても、あやふやなところを事前にクリアにすることで演出もしやすくなるし、なぜこのシーンが必要なのかを再確認することにも繋がるなどメリットが大きいのではないかと想像します。

「一度ICを起用した現場にはまた呼ばれることが多いので、制作側としても作業効率は上がるのだと思います。事前に話し合って何をするかを理解し、お互いに意思確認ができていれば、撮影中に『こんなの聞いてない』と現場が止まってしまうこともないですし。

また、これまでは、例えば“前貼りは衣装部とメイク部どちらが用意するか”など、明確でない作業はいろんな部署のスタッフが背負っていました。性的なシーンの撮影は最少人数で行うなど気を遣ってはいたけれど、誰かが仕切ってやっているわけではなかった。こういう部分の仕事の線引きが明確になることで、現場の負担も軽減されているのではないかと思います」

――前貼りも、西山さんが用意されるんですか?

「前貼りは、衣装部と相談して、やりやすい方に合わせます。最近は、ヌーブラなども含め、私が用意することが多いですね」

――性的なシーンでの動き方に関して、西山さんが実際に動いてみながら俳優さんに説明することもあるそうで。俳優さんも、実際に何をどんな風に演じるのかがわかってありがたいとおっしゃっていました。

「自分で考えてやりたいという方にはお任せしますが、若手の方や、こうしたシーンが初めてで“どうしたらいいか分からない”という方には、監督と話し合いながら動きを事前に決めて、動きを交えて俳優さんに伝えます。アクションと同じだと感じる方も多くて、芝居と動きを分けると割り切れて芝居がやりやすくなるみたいです」

――確かに、アクションシーンのアクション指導や殺陣師のように、性的なシーンではICがアドバイスするということですね。

「そうです。動きを練習した上で、そこに芝居をのせるわけです。以前から、人形を使って動きを見せたり、絵コンテで説明される監督もいらっしゃいましたが、俳優さんに全て任されるケースもあって。どう演じたらいいのか、俳優さんにとってストレスや負担になったりする場合もあるので、『そこは私たちで考えるから、現場の段取りで振りを移す形でやりましょう』とご提案します」

ドラマ「25時、赤坂」での調整


記事画像木ドラ24「25時、赤坂で」第1話より

――今回のドラマ「25時、赤坂」では、どのようなシーンに立ち合われたのですか?

「第1話の羽山(駒木根葵汰)と由岐(新原泰佑)のキスシーンと、第9、10話のあるシーンですね。駒木根さんも新原さんも活発に意見を言う方だったので、お二人の意思でできたシーンだと思います。

私の中での“インティマシーシーン”の定義は“水着より露出がある場合”で、ブラジャーやパンツを履いた状態は水着と同等レベルなので、性行為など、それ以上の何かが起こらない限りは立ち合いません。性描写があるシーンは、自慰行為でも相手がいる行為でも、着衣であってもヌードであっても、私たちの仕事になります。大人同士のキスシーンやハグなどの抱きしめるだけのシーンは、依頼がない限り立ち合いません」

――駒木根さんと新原さんとは、どのようなやりとりをされたのですか?

「まずは私たちがリハーサルでざっくりとした動きを見せて、ご本人から『こう演じた方が綺麗ですよね』とか『こういう動きの方がリアリティがあるんじゃないか』とご提案があって、動きを決めていきました。

一方にとっていい動きでも、相手が動きづらくなることもあるので、2人とも大丈夫かを確かめたり。例えば、ギュッとつかまれて痛いと感じても、相手には直接言いづらいので、痛くないような動きを提案したり、2人のバランスを取ったりします」

――俳優側と制作側だけでなく、俳優同士の間にも入って調整されるんですね。日本人は空気を読んで口にできないという傾向もありますし。

「そうなんですよ。『言ったら相手に悪い』と思ってしまうんですね。私からは『お互いがさらに良くなることもあるから、ひとまず言ってみましょう』とお伝えすることもあります」

記事画像木ドラ24「25時、赤坂で」第4話より

――お二人とのやりとりで印象に残っていることはありますか?

「新原さんとは以前に舞台のお仕事をしたことがあります。そうした場合に気をつけなければいけないのは、“前の作品でOKだったなら、今度の作品でもOKだろう”と思い込まないこと。

例えば、“他の作品でヌードになっていたから、この作品でも脱いでくれるだろう”と期待してキャスティングする方もいらっしゃいますが、まずは演出側に“脱ぐことを俳優さんに伝えているかどうか”を確認します。俳優さんご自身が“この作品で”脱いでいいと思っているかどうかが大切なんです。ですので、新原さんに対しては“今回はどうなのか”について気を付けていました」

――俳優の性格によって、伝え方を変えることはありますか?

「オープンな人、オープンじゃない人など、いろんなタイプの方がいらっしゃいますが、まずはどの方に対しても同じように対応します。一対一だと、みなさん率直にしゃべってくださるので、意志をとりこぼさず抑えておきます。現場でも俳優さんとお話をしますが、その際はご本人と役柄を混同しないように心がけています」

後編】では、撮影現場の現状と課題について聞く。

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今夜放送木ドラ24「25時、赤坂で」(毎週木曜深夜24時30分)第8話は?

第8話
白崎(新原泰佑)との恋人契約解消以後、羽山(駒木根葵汰)は芝居にうまく感情を乗せられなくなり、スランプに陥っていた。行き詰まった羽山が向かったのは白崎と初めて出会った大学だった。
一方の白崎は、佐久間(宇佐卓真)と山瀬(南雲奨馬)と飲みに行くことに。自分から関係を断ち切ったにもかかわらず羽山のことばかりを考えてしまう白崎は悶々と自問自答を繰り返していた。そんな中、佐久間が羽山のことを呼び出して…

【プロフィール】
西山ももこ(にしやま・ももこ)
インティマシー・コーディネーター、ロケコーディネーター、プロデューサー。チェコのプラハ芸術アカデミーで学び、2009年からは日本でアフリカ専門のコーディネート会社にて経験を積み、2016年よりフリーランスに転向。2020年にインティマシー・コーディネーターの資格を取得。ほかにハラスメント相談員、ハラスメントカウンセラー、国際ボディランゲージ協会認定講師、アンコンシャスバイアス研究所認定トレーバーなどの資格も保持。著書に「インティマシー・コーディネーター 正義の味方じゃないけれど」(論創社)。

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