過酷な医療現場…働き方改革、医師不足を解決する秘策とは:ガイアの夜明け

公開: 更新: テレ東プラス

5月31日(金)に放送された「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは、「医療崩壊を防げ!~救える命を守る~」。建設業界や物流業界で進んでいる「働き方改革」。それが、長時間労働が当たり前だった医師たちにも広がっている。
大学病院などに勤務する勤務医が対象で、これまで実質“青天井”とされてきた時間外労働に、年間960時間の上限が設けられたのだ。しかし、医療、特に救急は生死の瀬戸際にある患者も運ばれてくる「命の砦」。救える命は何としても救わなければならない。医師たちはいかにして、この働き方改革に向き合うのか?その最前線に迫る。

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「働き方改革」前夜 ある救急クリニックの危惧


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今年3月。民間の「川越救急クリニック」(埼玉・川越市)には、次々と救急の患者が運び込まれていた。迅速な判断が求められる救命現場で対応するのは、上原淳院長だ。この日の睡眠時間はわずか3時間半。このクリニックでは救急患者だけでなく、毎日40人ほどの外来をたった2人の医師で対応している。

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厳しい現実…。ただでさえ人手不足なのに、追い打ちをかけたのが医師の働き方改革。
これまで通りの医療が提供できるのか。上原院長は、「分からない。今まで経験したことがないことだ。うちは今まで通り対応していくが、できなくなったクリニックは患者を断るだろう。その分うちにしわ寄せがくるかもしれない」と話す。慢性的な医師不足を長時間労働で補う…すでに現場は限界を迎えていた。

密着!命の砦 福島県医科大学附属病院 高度救命救急センター


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福島県立医科大学附属病院には、県内唯一の「高度救命救急センター」がある。集中治療が必要な患者を受け入れるICUなどが21床あり、17人の救急科医師が在籍しているが、この大学病院が以前から向き合ってきたのが、働き方改革だ。5年前から医師の労働時間の削減にいち早く取り組んできた。

「本当に患者さんを助けたい。重い症状の人が元気になって帰って行くことに喜びを感じている」。救命医一筋24年、救急科副部長の小野寺誠さんは、午前8時に出勤し、午後6時前には退勤している。小野寺さんの残業時間は約半分に減ったというが、一体どんな改革をしたのか。

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実は福島医大の救命救急センターは、主治医ではなく、チームで患者を診ているのだという。チーム内で患者の情報共有することで日勤の医師は夜勤の医師に患者の情報を引き継ぎ、決められた時間で帰ることができるというわけだ。小野寺さんは、「主治医制の場合、主治医がいないと誰も患者のことが分からない…そうならないように、全員カンファレンスで患者情報を把握している」と話す。1人の医師が1人の患者を診るのではなく、可能な限り分業を進め、医師の仕事をチームでカバーするという。

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一方、2015年から、特別な研修を受けた看護師は、医師の指示の下38の医療行為が可能になったため、福島医大では、この研修を看護師に積極的に勧めている。また管理栄養師も栄養の指示にとどまらず、聴診器を耳にあてて食前食後の患者の様子を診ていた。以前は食欲や胃腸の動きをチェックするのは医師の仕事だったが、5年ほど前から担当者を設けて分業。こうして、医師の負担を徐々に減らしてきたのだ。

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これらの働き方改革によって、若手医師にも大きなメリットが生まれている。救急科3年目の医師の関根萌さんは、先輩医師に研究の相談をするなど、学びの時間がとれるようになっている。

コロナ禍で一躍有名に…ファストドクターが挑む“医師不足問題”


しかし、どんなに働き方を変えても、医師だけで解決できない問題がある。それは、救急搬送の数だ。近年、救急車の出動件数は増加の一途をたどり、全国では、この15年で約1.5倍に(出典:総務省消防庁)。中には、入院の必要がない軽症患者も少なくないという。「重症でない人がベッドを埋めると、いざ『受け入れて』と言われた時に断らないといけない」と小野寺さん。救急搬送の数を減らすため、ある秘策をとった。

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3月下旬。福島医大の会議室にやってきたのは、2016年に創業した医療ベンチャー「ファストドクター」の社員。コロナ禍で医療がひっ迫する中、自宅療養の患者などを往診し、その存在が知られるようになった。小野寺さんは、救急車の適正利用を図るため、ファストドクターに介入してもらおうと考えたのだ。
福島市の救急搬送者は、半数以上が高齢者。中でも高齢者施設からの要請が多いという。「高齢者施設は往診できない。夜と休日は救急車を呼ぶしかない」と小野寺さん。この課題に対し、ファストドクター地域医療企画室 室長の小出雄大さんが提案したのは、オンライン診療の活用だ。

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オンライン診療とは、アプリやウェブで、発熱や頭痛といった症状を選択すると、24時間全国どこからでも医師の診療が受けられるというもの(離島は除く)。薬も、宅配もしくは近くの薬局で受け取ることができる。オンライン診療によって、ファストドクターの提携医療機関の医師が、本当に救急車が必要かどうかを判断することができ、高齢者施設からの搬送を減らせるという。福島市も、この取り組みを全面的にバックアップしていた。

絶対に止められない高度救急救命 未来のリスクに挑むファストドクター


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東京・恵比寿に本社を構えるファストドクター。約20人のオペレーターが次々に電話に応じ、患者の容体を聞き取っていく。往診料金の患者負担は保険適用で、約1万円~1万5000円(診察内容による)約4000人の医師が登録している。

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救急車の出動件数を減らすには、オンライン診療が欠かせない…そう考えていた小出さんは、「オンライン診療であれば、場所は違っても専門医師の意見がもらえる。地域にいる医師と協力し、地域医療に対しても貢献ができる」と話す。

4月24日。小出さんは福島市の高齢者施設に向かい、オンライン診療を提案した。施設側にもメリットがあるはずと見込んでいたが、職員からは「救急車を呼ばないことで親族からクレームが入る可能性がある」などと指摘され、小出さんの提案はまったく響かなかった。

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元々、医療とは関係ない大手コンサルティング会社に勤務していた小出さん。畑違いの医療業界に飛び込んだきっかけは、やはりコロナ禍。医師の友人が疲弊し、苦しんでいる姿を目の当たりにし、「自分にもやれることがあるのでは」と考えて転職を決意した。

医師の負担を何とか減らしたいという思いで、その後も粘り強く市内の高齢者施設をめぐり続ける小出さん。小出さんの奮闘は、命の砦を支えることができるのか?

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