チャンス大城 初主演MV『もったいないやん』第二の青春、中年男の夢はどこまで続くのか:西田哲也物語#4

公開: 更新: テレ東プラス

 
中年期を迎え、ある程度自分の人生が見えてきた時、言いようのない虚無感に襲われる…かくいう私もその一人だ。ライターという仕事を生業にし、気づけば四半世紀。朝7時に起きては執筆する毎日、追い討ちをかけるように息子が独立…人生の折り返し地点を過ぎ、“あー私の一生はこうして終わっていくのだな…”そう考える日は少なくない。
俗に言うミッドライフ・クライシスと呼ばれる症状だそうだが、この人にとっては、そんな言葉など無縁なのかもしれない。

昼めし旅~あなたのご飯見せてください!~」「じっくり聞いタロウ~スター近況㊙報告~」「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」など、売れっ子放送作家として6本ものレギュラー番組を抱え、多忙な日々を送る西田哲也(52)。
繁忙期ともなれば大変な仕事量となるはずだが、彼はコロナ禍以降、かねてからの夢だったシンガーソングライターとしての活動に勤しんでいる。

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作家人生や音楽活動の歴史は、#13でお伝えしたが、そんな西田が3月に、単独ライブ「THE FIRST LIVE もったいないやん」(@六本木BAUHAUS)を開催。会場は、まさに彼の人生の縮図とも言うべき多くの客であふれかえっていた。
ライブハウスの入り口には「西田哲也ファンクラブより」というスタンド花も。

「正直自分でも、こんなに人が集まってくれるとは思っていなかった…なんや同窓会みたいなものですわ。もう感謝しかないです」と、西田は笑う。

同調圧力に負けず、自由に生きなきゃ損…「もったいないやん」というメッセージを込めた


1stLIVEの構想は、この連載から始まった。最初は10人くらい入るようなスペースで…と思っていたそうだが、盟友の放送作家・松本真一氏に「西田さん、そんな小さな箱でやってどうするんですか! ミュージシャンとして成長できない、自分を追い込んだ方がいい」と、愛ある檄を飛ばされ、すっかりその気に。「多少の持ち出しは覚悟の上で、大きな花火を打ち上げたい!」。

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そして迎えた本番。ド派手なスモークの演出で「スラムダンク」の衣装を身に纏った西田が登場すると、会場は大きな歓声に包まれた。「全10曲、52歳の魂の叫びを聴いてください」。
中年サラリーマンに捧げる応援歌「ブルジョア列車」、40代のストリッパーに捧げる応援歌「花電車」、男の哀愁を綴ったバラード「夜の散歩」をテンポ良く披露。
西田の曲の特徴は、一度聴くとイヤーワームする独特のメロディーラインにある。ゲストバンドとして迎えた夢之介と吉田拓郎の「永遠の嘘をついてくれ」、西岡恭蔵の「プカプカ」をカバーすると、場内には一体感が生まれる。
しかしここで、演奏中に弦が切れてしまうというハプニングも! 「まぁいいか! 1本くらいわかりゃしない」と弾き続ける姿に中年男の魂を感じる。

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緊張からかMCはいささかたどたどしいが、「青い照明やと、カンペが見にくいのよ」とまさかの老眼トークで笑いに昇華。

続く最新曲「坂の途中で」は、とあるショーパブを訪れたサラリーマンが、Tバック姿で働く実の娘と出会ってしまったら…? というシリアスな心境を綴った一曲だ。

記事画像撮影:松丸信一

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客に話を聞くと、LIVEが決まってからの3カ月、西田は寝る間も惜しんでミュージックバーへと足を運び、練習に練習を重ねたそう。彼の指を見せてもらうと、立派なギターダコができていた。弦が切れたハプニングは、まさにその証とも言える。

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ライブの終盤は、MVで熊田曜子が妖艶なポールダンスで魅せる「花電車テクノ」を披露。大量に吹き上げるスモークの中、MVでも披露したパラパラを踊りながら熱唱するも、「あーしんど(笑)」とポツリ。
「段取り全部忘れた。ホンマ表方の人はスゴイな!」と裏方ならではの悲哀を語るシーンも。

そしていよいよクライマックス! LIVEタイトルにもなっている曲「もったいないやん」。
「『笑われていい…ずっと笑われていい…』。『もったいないやん』は自分自身を歌った曲。同調圧力に負けず、一度きりの人生、自由に生きなきゃ損。もったいないやんというメッセージを込めた」と話す。

記事画像撮影:松丸信一

記事画像撮影:松丸信一

西田のアコギとブルースハープが絶妙なハーモニーを奏で、一気に静まり返る場内。
客からは「『もったいないやん』めっちゃ勇気もらった」「西田さんがこんな活動してるとは知らなかった」「『もったいないやん』は、中年だけじゃなく、若者が聴いてもささると思う」との感想が。
チャンス大城が主演するMV も、独特の世界観を醸し出しているので、こちらもぜひ。

記事画像撮影:松丸信一

ラストは、放送作家・西田らしく新たな提案。この5月に自身が担当する「昼めし旅~あなたのご飯見せてください!~」が10周年を迎えるとのことで、オファーもないのに勝手に作った(?)「昼飯唄」を披露。客も手を大きく左右に振り、場内は最高のボルテージに!
こうして、50代を迎えた西田の夢は実現し、その熱意と勇気は客の心に十分すぎるほど届いたに違いない。この日から彼は、シンガーソングライターとして、また新たな一歩を踏み出した。

記事画像▲後日、得意の“持ち出し”でレコーディングをし、ハイエナのごとく「昼めし旅」の会議でプレゼンしたそう

地道に音楽活動を続け、次に掲げた目標は…なんと60歳で日比谷野外音楽堂の舞台に立つこと。最後に西田はこう語った。

「ちょっとした同窓会のような雰囲気もあったし、客席を見た時、なんだか勝手にジンとしてしまったんですよね。僕が誰かに“こうした方がいい”と言えることは何一つありません。ただ、僕の中にあるのは、歌詞にも書いたように『もったいなんやん』という精神。
何かやりたいことがあるのに、やらないで人生が終わるってもったいないじゃないですか。
僕は日々そう思って生きているので…ただ目の前にある“やりたいこと”を、あきらめずに形にしている、ただそれだけなんです」。

記事画像▲オープニングトーク後はこの表情

50代はまだまだ坂の途中で…年を重ねて自分の老いを悲観する、やり残したことを後悔するくらいなら、まずは1歩前に踏み出してみる。この日、記者が大きな勇気をもらったことだけは間違いない。

取材協力:六本木BAUHAUSBAR deuceIZAKAYA たいとBAR 夢之介