宮藤官九郎「50代も連ドラやっていたいです」渡辺大知への次のオファーは「イヤなやつ」!?

公開: 更新: テレ東プラス

ドラマ25「季節のない街」 (毎週金曜深夜24時42分) 。山本周五郎の同名小説をベースに宮藤官九郎が企画・監督・脚本を手掛けた話題作。

宮藤官九郎「50代も連ドラやっていたいです」渡辺大知への次のオファーは「イヤなやつ」!?
宮藤さんと、オカベ役の渡辺大知さんのインタビュー【後編】では、脚本家、俳優、映画監督、ミュージシャンのほか何刀流もの活躍をみせる宮藤さん、そしてミュージシャンであり、近年は俳優、映画監督としても精力的に活動する渡辺さんに、それぞれの原点をお聞きしました。年の差ちょうど20歳の2人。果たして共通点はあるのでしょうか?

【動画】宮藤官九郎、妄想キャスティングが叶ったドラマ

“やりたくなかった”エピソード


季節のない街 クドカン後編季節のない街」第1話より

――本作では、山本周五郎の原作小説を黒澤明監督が「どですかでん」として映画化した際に割愛されたエピソード、「半助と猫」と「親おもい」を取り入れています。

宮藤「もともとその2編が好きだっこともありますが、原作の『半助と猫』の半助(池松壮亮)と『親おもい』のタツヤ(仲野太賀)、酒屋のオカベ(渡辺大知)という若者3人の目線で、この街の住民たちを語っていく形にすれば連続ドラマになると思ったんです。1話は電車好きで『季節のない街』の象徴的なキャラクターである六ちゃん(濱田岳)をメインにして、『親おもい』、『半助と猫』を2話、3話と早めに持ってくれば、おのずと“『どですかでん』だと思って見ていたら違うな”と、なるかなと」

季節のない街 クドカン後編「季節のない街」第2話より

――今回、監督は宮藤さんをはじめ、横浜聡子さん、渡辺直樹さんが監督を。3話の『半助と猫』を監督されなかったのはなぜですか?

宮藤「横浜監督がやりたいと言ったからですね(笑)。半助の飼い猫のトラが皆川猿時くんだから、僕が監督をやるとハードルが上がるかなとも思って、なおかつ『親おもい』の坂井真紀さんの長台詞は自分がやりたいという思いもあり、“どちらだろう?”と悩んでいたところに、横浜さんから『猫』をやりたいと言われたので“じゃあ、そうしましょう”となりました」

季節のない街 クドカン後編「季節のない街」第3話より

渡辺「挙手制だったんですか?」

季節のない街 クドカン後編「季節のない街」第4話より

宮藤「(笑) そういうわけじゃないんだけど、『僕は1話と4話と5話はどうしてもやりたくて、7と8はやりたくないです』って言ったら、横浜さんが7話、8話をやってくださると言うので、『猫』をやってもらうことにして」

渡辺「7と8は、なんでやりたくなかったんですか?(笑)」

宮藤「“京太”を本当にイヤな奴にしたかったんですよ。でも、演じるのが岩松了さんだから、僕が監督をやると、つい面白がってしまうんじゃないかって。面白くなり過ぎるのも違うかなと」

渡辺「なるほど」

季節のない街 クドカン後編「季節のない街」第7話より

――渡辺さんは、原作のどのエピソードでも主人公として描かれていませんが、唯一「どですかでん」にも登場する役です。どのように、現場に臨みましたか?

渡辺「オカベは『どですかでん』の中でもそんなにフィーチャーされている役ではないのに、なぜか覚えていたんです。で、台本をいただいて“あのキャラクターが持つ魅力って何だろう?”と考えて。それがこのドラマでも出せたらいいなと思い、臨みました。前には出なくとも、なんか覚えている。なんで覚えているかも忘れちゃった……くらいの存在感を目指しました」

宮藤「自分で言うのも何ですが、3人の関係性もいいですよね。あの距離感が。街の傍観者である半助がいて、彼に頼っている青年団の2人(タツヤ、オカベ)がいて。演じた3人の技量なんでしょうけど、うらやましく思いました」

季節のない街 クドカン後編「季節のない街」第1話より

――先ほど『親おもい』『半助と猫』を早めに持ってくることで『どですかでん』との違いを見せたかったとおっしゃっていましたが、逆に寄せたかったところはありますか?

宮藤「『どですかでん』に似せたいところと離れたいところが両方あって、初太郎(荒川良々)と益夫(増子直純)のところなんかは撮り方も同じにしたかったですし、細部は『どですかでん』なんだけど、引いて見てみると違う。そういうふうに作りたいと思っていました」

季節のない街 クドカン後編「季節のない街」第9話より

人生に影響を与えた出来事


――インタビュー【前編】で、宮藤さんは20歳の頃、黒澤監督作品「どですかでん」と原作小説「季節のない街」に出会ったと。

宮藤「当時、黒澤監督の映画をよく見ていて。中でも『どですかでん』が好きで、山本周五郎さんの原作小説に出会って、その高ぶりのまま演劇を始めました。今に至る、自分の転機になりました」

――宮藤さんの「どですかでん」のような、渡辺さんにとっての思春期の転機になる出来事は何ですか?

渡辺「バンドを組んだことですね。きっかけは、憂歌団でした。テレビ番組で曲が流れているのをたまたま見て“こういうことをやりたい”って。ブルースとロックの違いも知らない、音楽をやりたいのかも分からない時に、でも“やりたい”って思ったんです」

宮藤「えっ、いくつの時?」

渡辺「バンドを組んだのは、高校生の時です。映像を見たのは、高校に入る前でした」

宮藤「憂歌団の何て曲だったの?」

渡辺「『パチンコ』という曲で」

宮藤「(笑) しかも、『パチンコ』(1976年発売)なんだ。生まれるずいぶん前の曲なのに、響いたんだね?」

渡辺「ゆる~いところから急にガツーンとくるところに衝撃を受けて」

宮藤「憂歌団か。僕らの世代だったら分かるけど、なんか面白いよね。まあ、自分も『季節のない街』(1962年刊)に影響を受けてますから、似たようなものですけど(笑)」

季節のない街 クドカン後編「季節のない街」第7話より

――2007年、高校在学中に組んだロックバンド、黒猫チェルシーが人生の転機に。

渡辺「ハイ、そうですね。入学してからメンバーと出会って、人と何かを共有する喜びを知って扉が開けました。それまでは、自分が好きなものを“掘って”も、誰かと共有するなんてできないと思っていたので……弟には音楽を聞かせたり、好きな漫画を読ませたりして無理やり『いいね』と言わせていましたけど(笑)」

宮藤「(笑)、その感じ、なんかわかる」

渡辺「好きなものを好きって言っていいんだ。好きなことを始めていいんだって思えたのがこの時期でした」

宮藤「僕が『大人計画』に入った時も同じようなことを思った」

季節のない街 クドカン後編「季節のない街」第6話より

――宮藤さんの「どですかでん」との出会いも偶然だったんですか?

宮藤「そうですね。大学生の時に黒澤監督の作品が一度にビデオ化されたので、見てみようと思って。で、『どですかでん』だけほかの作品と違うな……自分にしっくりくる作品だなと思って。だから本当に、たまたま。タイミングですね」

渡辺「“たまたま”っていいですよね? 僕もたまたま風呂上りの深夜にテレビで流れていた憂歌団の映像を見なかったら、今の自分はないかもしれないので。テレビもラジオも、求めていないのに勝手に流れてくるけど、そこに人生を変える出会いがあるかもしれない。知らないものと偶然、出会えるっていいなと思います。レコード店なんかでもそう。実際、お店に行くからこそ、知らなかったいいものと出会えることがあるので」

宮藤「ネットだと、自分から(情報を)探しにいかなきゃ見つけられないもんね。さっきの話じゃないけど、テレビとかラジオの場合、深夜、寝る前に偶然……っていうのがまたいいんだよね。油断している時にこそ、案外、面白いものが見つかったりするから」

渡辺「この季節、進学や就職で新しい世界に飛び込む人も多いと思いますが、たまたまとか偶然の出会いを大事にしてもらいたいです」

――本作も、今回、地上波で放送されることで何かしら影響を受ける人がいるかと思います。

宮藤「そうですよね。寝る前にたまたま観て“なんだこりゃ!?”ってなってほしいですね(笑)。配信の場合は一度に1冊の本を読むような喜びがあると思いますが、毎週やっている地上波は短編集というか、5話から見ても楽しめると思いますし、六ちゃんの説明もないまま最終回までいっても面白いかもしれないです」

季節のない街 クドカン後編「季節のない街」第5話より

――最後に、今後の宮藤さんの展望を。「いだてん」しかり、これまで敗者や抗えない何かに翻弄される人々を、やさしい目線で描かれてきたと思いますが、50代はどんな作品を送り出したいですか?

宮藤「負けた人に、すごくドラマを感じるんですよ。負ける人、報われない人、去っていく人にしか興味がないんです。今回も最後、仮設住宅を出た後もそれぞれの生活が続いていくんだろうな……と思わせるんだけど、大事なものを失ったであろうことも画(え)で見せて。でも、かつ子(三浦透子)にだけは報われてほしいと思い、その後を描きました。そこは考えましたね。連ドラってやっぱり、そういうところが面白い。この人はその後どうなっているのかな、というところが最後まで見せられるんで。だから、50代も連ドラやっていたいです」

――宮藤さんが、次に渡辺さんにオファーするとしたら、どんな作品、役になりそうですか?

宮藤「イヤなヤツです(笑)。ニコニコしながら人を傷つけるような。演じる本人と反対側のキャラクターが見たいんですよね。こんなかわいらしい顔をしているのに、って。どうですか?」

渡辺「ここ最近は、サイコパス系の役が多いかもしれないです」

宮藤「じゃあ、殺人鬼とかじゃなくて、ただ嫌われていくだけ、ってどう? 殺傷能力はないんだけど、ただただ人をイヤな気持ちにさせる(笑)」

渡辺「(笑) 役の大小にかかわらず、なぜか覚えているような役はこれからもやってみたいので、次回、よろしくお願いします」

季節のない街 クドカン後編「季節のない街」第5話より

【プロフィール】
宮藤官九郎(くどう・かんくろう)
1970年7月19日生まれ。宮城県出身。1991年より「大人計画」に参加。映画『GO』(2001年公開)、『謝罪の王様』(2013年公開)、『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(監督兼任/2016年公開)、ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」(TBS系)、「ゆとりですがなにか」(日本テレビ系)、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」、大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(ともにNHK)、「不適切にもほどがある!」(TBS系)など多数の話題作の脚本を手掛ける他、監督・俳優・ミュージシャン・ラジオパーソナリティと幅広く活動。

渡辺大知(わたなべ・だいち)
1990年8月6日生まれ。兵庫県出身。2007年、高校在学中にロックバンド黒猫チェルシーを結成してボーカルを務め、2010年、ミニアルバム「猫Pack」でメジャーデビュー。2009年には映画『色即ぜねれいしょん』で俳優としてデビュー。2011年にはNHKの連続テレビ小説「カーネーション」で連ドラ初出演。2015年には『モーターズ』で映画監督デビューも。

(撮影/uufoy 取材・文/橋本達典)

PICK UP