災害に備え、車中泊の正しい技術と知識を学ぶ!最低限必要な“三種の神器”とは?

公開: 更新: テレ東プラス

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エシカル(倫理的)なレジャーとして、昨今人気となっている車中泊が災害時にも役に立つ――。奥さんや子どもからはその趣味を理解されないお父さん必読のインタビュー!

後編では、日本唯一の車中泊専門誌『カーネル』の大橋保之編集長が、車中泊で必要なアイテムや季節ごとに注意する点など、具体的な車中泊の技術や知識をレクチャーする。

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【記事】車中泊で必要なもの、注意すべき点は?日本で唯一の車中泊専門誌『カーネル』の大橋保之編集長に聞く


――前編では、いざという時に、技術や知識や備えがあるとないとではリスクが大きく変化することがよく分かりました。

「さまざまな事前準備が、災害時の心の余裕やストレスの緩和にもつながってくるので、車中泊の正しい技術と知識を身に着けていただきたいです」

――まずは、どういうシートアレンジで、どこに、誰が、何人まで寝られるのか? 知ることが重要とのことでしたが、初めてクルマで寝る場合の注意点を教えてください。

「車内をできるだけ水平にフラットにする。車中泊をする上では、シェード(カーテン)などで窓を覆ってプライバシーを守ることも非常に重要です。『カーネル』では“三種の神器”と呼んでいるマット、シェラフ(寝袋)、シェードを最低限のアイテムとして推奨していて、これがあれば、まずは快適な車中泊に近づけるはずです。

車種にあった既製品のシェードがあればベストですが、ない場合はタオルや毛布をかける。もしくは銀マットなどの日用品をDIYするのもいいでしょう。防犯やプライバシー対策の十分な確保が心の余裕にもつながります。スーパーやホームセンターの大型駐車場に避難する場合は人通りも多いので、耳栓やアイマスクもあると便利です」

――マットやシェラフはどんなものが最適ですか?

「キャンプをやられる方はお持ちでしょうが、注意すべきはその選び方です。マットは折りたたむもの、空気で膨らませて収納時はクルクルと巻けるもの、さまざまなタイプがありますので、厚みがあるシェラフは、温度表記を見ると快適使用温度と使用可能限界温度があり、ついつい数字の大きな使用可能限界温度に目がいきがちですが、必ず快適使用温度で選んでください」

――仮に快適使用温度が0℃で使用限界温度が-10℃と表記されていても、-10℃の場所で安眠できるわけではないということですね。

「わかりやすく言えば、寒さを感じることなく寝られる温度域(快適使用温度)とシェラフの中で丸まって何とか耐えられる温度域(使用限界温度)のこと。-10℃の場所で使用限界温度-10℃のシェラフを使用すると、寒くて眠れない恐れがあります。
マットやシェラフがない場合は布団でも構いませんが、かさばるのが欠点です。クルマのサイズや好み、予算に合ったものをお選びください」

車中泊避難で必要なアイテムをカテゴリー別に紹介


――他にも、普段からクルマに積んでおけば便利というアイテムがあれば教えてください。

「ラゲッジスペースには限りがあるのですべては積めないと思いますが、車中泊避難で必要なアイテムを、「衛生、飲食、睡眠、生活、通信、補修」の6つのカテゴリーに分けて紹介します。

①衛生:携帯用トイレ、ウェットティッシュ、トイレットペーパー
②飲食:飲料水、非常食、マッチ&ライター(※車内に積みっぱなしにしないこと)
③睡眠:銀マット、毛布&タオル、耳栓&アイマスク
④生活:ウエア類、圧縮袋、LEDランタン
⑤通信:充電コード、モバイルバッテリー、テレホンカード
⑥補修:テープ類、針金、マルチツール(五徳、十徳ナイフなど)

この他、ミニテーブル、クーラーボックスも助かります。枕もあるとないとでは寝心地が違いますし、百円ショップで買える洗濯用のロープやS字フックなどもあれば便利です。
また、数年前から車中泊愛好家やキャンプ愛好家の間で大ブームとなった“ポータブル電源”も、防災アイテムとして注目を浴びています。最近は低価格で高品質のものも登場していますので、チェックしてみてください」

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――この中で、最低限、車内に常備しておいてほしいものは?

「冬場は毛布、夏場はバスタオル、季節ごとの着替えなどを圧縮袋に詰めて、クルマのデッドスペースに入れておくのが『カーネル』メソッドの一つです。

要は、災害時によく言われる72時間をどう生きるか? 被災後3日を過ぎると生存率が著しく低下すると言われていますので、救助や救援などがやって来るまでどうやってしのぐかを一番に考えましょう。緊急時に必要なアイテムがセットになった車載用の防災グッズも販売されているので、こちらもオススメです」

――三種の神器をそろえて、いざ就寝。車内をフラットにするにはどうすればよいですか?

「まず、駐車する場所が平らかどうかを確認しましょう。キャンプをやる方はおわかりかと思いますが、ほんの少し傾斜があるだけでもマットと寝袋が下にずれていき、ストレスになるからです。
車内のシート上の段差は衣服やタオル、クッションなどで埋める、厚みのあるマットを使うことで解消できます。完全にフラットにできない場合でも、できるだけ足は体と同じ高さに。膝を下に曲げたままだとエコノミークラス症候群になりやすいので、足元に荷物などを置いて、体全体ができるだけ水平に近づくよう工夫してください」

――前編では、スーパーやホームセンターの駐車場での車中泊避難の話題が出ましたが、他にもオススメの立地があれば。

「夏場は、暑さがこもるアスファルトではなく、土の上をオススメします。日中は直射日光が当たる場所を避けて、木陰に止めておくこと。何よりも効果が高いのは、“標高を上げる”ことです。標高が100m上がれば気温は0.6℃下がると言われています。

冬場は、クルマを駐車した場所が凍結しないか。積雪があった場合は、動けるうちに安全な場所に移動しましょう。レジャーの車中泊では、アイドリングストップが基本です。しかし、猛暑の夏や大寒波の冬では、エンジンオンでエアコンを使用してください。マナーよりも命が大切です。
ただし冬の場合、エンジンをかけたままだと積雪がマフラーをふさいで一酸化炭素中毒になる恐れもあります。平時は大丈夫だった場所でも、災害直後は危険が生じる場合も多くある。くれぐれも場所選びは慎重に、安全第一でお願いします」

――『カーネル』及び、大橋編集長ならではの車中泊避難のメソッド、対策はありますか?

「“ローリングストック”――要は、車内に積んでおくアイテムの定期的な交換、点検ですね。災害はいつ起こるかわからないので、定期的に夏もの冬ものを入れ替えして、水や非常食の賞味期限やLEDランタンなどの電池をチェックする。その他のアイテムのメンテナンスもしておく。

春は毎年3月には東日本大震災、4月には熊本地震のニュースが必ず流れます。秋は9月1日、防災の日などでもいいです。誕生日でも結婚記念日でも何でもいいので、衣替えを兼ねて春と秋にこれらのことを実行していただければと。

そして普段あまりクルマに乗らない方は、ちゃんとガソリンが入っているかどうか?
日頃からガソリンやバッテリーの残量を気にすることを習慣にしてください。

ちなみに、ポータブル電源などのバッテリー類は、過充電、過放電に注意です。常に80%くらい充電することを目安としましょう」

――大人の趣味としても人気の車中泊。凝れば凝るほど買い物も増え、なかなか家族に理解してもらえない…という方も多いと思います。そんな皆さんに、大橋編集長からメッセージをお願いします。

「私自身も身につまされるのですが…これは災害のための予行演習だと言い張って、まずはお小遣いの範囲での車中泊旅行を始めてみてはいかがでしょうか? ポータブル電源をはじめ、LEDランタンやIHクッカーなど、普段使いできるアイテムもたくさんあります。
いざという時が来ないにこしたことはありませんが、備えあれば患いなしです。ご家族のことを守れるよう、これからも車中泊の技術や知識を磨いてください」

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カーネル』3月号では、ポータブル電源を特集。
「レジャー車中泊はもちろん、災害時でも電気をいかに使うかが重要になっています。“ポタ電”で一冊作るのはウチくらいだと思いますので、ぜひ参考にしていただければ」(大橋編集長)。

買ったはいいが宝の持ち腐れとならないよう、レジャー&非難を想定した車中泊を実践。編集長が提唱する“ローリングストック”も忘れずにやっていきたい。

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【大橋保之 プロフィール】
1972年生まれ。愛知県出身。「カーネル(株)」代表取締役社長。車中泊を楽しむ雑誌『カーネル』(年6回発行)の編集長。アウトドア情報メディアサイト「SOTOBIRA」も運営。車中泊、キャンピングカー、キャンプ、登山など、アウトドアに関するオリジナル記事を展開中。著書に『やってみよう! 車中泊』(中公新書ラクレ)などがある。

(取材・文/橋本達典)

 

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