痛くて、イタい…。多くのティーンから支持を集めるスリーピースロックバンドThis is LASTの楽曲の世界観を原案に映像化した、木ドラ24「痛ぶる恋の、ようなもの」(毎週木曜深夜24時30分)。
主人公・根津晴(望月歩)の、“ダメだと理解している一方で、心が離れない恋愛“という、若さゆえの青さや葛藤をリアルなストーリーと温度で表現するのは、脚本・監督を務める山元環。ドラマ制作の舞台裏や監督が伝えたいこと、現場でのエピソードなどをお聞きします。
“大人の準備期間”の感情を描こうと思った
「痛ぶる恋の、ようなもの」第2話より
――This is LASTのファンにはおなじみの楽曲「殺文句」や「愛憎」、「アイムアイ」…ギター・ボーカルの菊池陽報さんが紡ぐ歌詞と今回の台本が見事にリンクして、台本のページをめくる手が止まりませんでした。
「ありがとうございます!」
――菊池さんは「果たして自分は彼女のことを好きなのか依存しているのかわからない」などと、インタビューでも実体験を語られていますが、主人公の根津晴がそのまんまで。
「まさに、そうなんですよ。僕もアキさん(菊池)と2時間くらいディスカッションさせていただいたんですけど、お話される内容が歌詞のまんまで。しかも、たった一人の女性を忘れられないということに驚きました。じゃあ、一体どんな女性なのか…? お話を聞きながら、すぐにその彼女を物語の軸にしようと決めました」
――歌詞や菊池さんから聞いたエピソードを台本に起こしていく作業はどのようにして?
「歌詞を読むと共感性の高いワードやエピソードが並んでいるので、20歳前後の男女特有の“大人準備期間”の感情を描こうと思いました。子どもなのか大人なのか、白なのか黒なのか曖昧な期間のあやふやな感情をドラマの真ん中に持ってきて、その中に恋愛=“痛み”という成分を取り入れようと」
「痛ぶる恋の、ようなもの」第2話より
――キラキラとした恋愛ドラマにはない無様な恋模様が描かれているので感情移入しつつ、読み進めるうちに、嫉妬の炎を燃やす主人公がだんだんキモイな…と(笑)
「(笑) 根津晴の目線で物語は語れるんですけど、見ているお客さんは途中で彼もエイリアンだと気づくと思うんですよ。“彼女の久我ユリ(小川未祐)のことを『エイリアンだ』と言っている君も、実はそうなんだよ”ということが、2話くらいでわかってくると思います」
――主人公の感情は痛いけど、“イタい”ヤツでもあるということですね。
「(笑) そう、ダブルミーニングですね。加えて、“いたぶる”と“痛ぶる=痛ぶってる”も掛かっています。大人の準備期間の中でどこにも属せない、痛み成分多めの2人の物語なんですけど、その痛みは根津晴と久我ユリにしかわからない。他人には理解できないわけです。そこで、傍から見ると気持ち悪い2人と思われるくらい振り切ろうと思いキャラクターを作り上げていきました」
――監督は「好き、付き合う、といういわば口約束みたいなあやふやな線でつながっている関係。感情が激しく揺れ動くその世界には多かれ少なかれ、必ず痛みが存在しています」ともコメントされていました。
「“自分にとっての根津晴、久我ユリはこの人やったかな”と思い出してもらえるような。今を生きる大人も若者も、みなさん多かれ少なかれ痛みを経験しているでしょうから、そこの部分は意識して書きましたね」
「痛ぶる恋の、ようなもの」第2話より
――久我ユリが途中から「東京ラブストーリー」の赤名リカのように感じてきました。
「えっ、そうなんですか!? ガッツリ見たことがないですけど、ありがたいです! そんな名作のヒロインを引き合いに出していただいて」
――時代は変われど、恋に伴う痛みは今も昔も同じなんだなと。
「そう考えると時代は巡るし、恋愛は普遍的なんですね。ツールや描き方は変わっても痛みは変わらない。20歳前後の若い方はもちろん、大人の方にも見ていただけたらうれしいですね」
自身の体験を投影“芸大あるある”も
――根津晴は美術大学で映像を学ぶ大学生。監督も大阪芸術大学を出られていますが、ご自身の大人準備期間が投影されているのでしょうか?
「仲間と卒業制作をしているくだりは自分の体験も交えています。めっちゃ楽しかったんですよ、あの瞬間が。あの年齢、あの環境でしかできなかった。それくらいわけのわからないエネルギーがあった過去の自分を少しだけ投影してみました」
――卒業制作にいそしむ映像学科の生徒同士が時折り敬語で話すのは、“芸大あるある”なんですか?
「頼み事をする時など、あえて敬語を使ったりしていましたね。そうすると、相手も『しゃあないな…』って受け取ってくれるんです(笑)。おふざけで同期にも『○○っすね』というやりとりは、今思うと“芸大あるある”なのかも。僕の周りだけかもしれませんけど」
――根津晴が仲間の赤澤(杉田雷麟)に心の中でつぶやく「孤独との戦いこそ、監督だ」との言葉は、ご自身の思いだったり?
「まさに、ですね。お恥ずかしい。しんどすぎる、辞めたいと思う時もありますが、“孤独でがんばってるところがええやん”って思うことがあるんですよ、監督って。ただ、根津晴はまだその境地にはいっていなくて、赤澤はいけている。根津の目には悦に浸ってるように見えているけど、赤澤はそれを自分自身の演出としてやれているんです」
――気づかない根津晴は、そのへんもイタい。
「そうなんです。監督って、みんなが頭に思い描く“面白いもの”をまとめ上げて引っ張っていくのも仕事ですから。それなのに根津晴はプライドが邪魔して、赤澤のように振る舞えていないわけです。そこの根津晴のダメさが伝わると、よりわかりやすく見てもらえるかなと思います」
「痛ぶる恋の、ようなもの」第2話より
――セリフを書かれる上で大事にされたことは何でしょう?
「人って表面的には言葉があって、裏には感情があるじゃないですか? 感情では許せていないけど、言葉では『許す』と言ってしまう時がある。その2つを、同時に含ませるようなセリフってないかな…とは、いつも考えています。できるだけ話し言葉で、ナチュラルに言った方が相手を傷つけることがあるので、そういうワード選びにはこだわっていますね」
――その意味で根津晴を演じる望月さんは、セリフをどう表現されていましたか?
「根津晴は、僕の中でもっと腹の中に黒い部分をもっていたんですけど、望月くんがあのルック、透き通った声で演じると、そのミスマッチがリアルに映って。ドロドロしていながらも見やすい人物になったと思います」
――一方の久我ユリを演じる小川さんはいかがですか?
「小川さんは、根津晴から『エイリアン』と言われていますが、どんどんそう見えてくるんですよね。何を考えているかわからない。根津晴に対して『謝って』からの『許します』という流れがあるんですけど、その時の目が、本当に何を考えているのかわからなくて、すごくいいんです。(取材時では)撮影はまだ続くので、その先の2人が楽しみで仕方ないですね」
根津晴の心の内や監督が描きたい、いろんな“痛み”と裏話。これを読んでドラマを見れば、さらに楽しめること間違いなし! 【後編】では、山元監督のクリエーターとしての原点、こだわりに迫ります。
今夜放送、木ドラ24「痛ぶる恋の、ようなもの」(毎週木曜深夜24時30分)第2話「俺とはメイクラブ?」は、浮気防止のためユリを題材に撮影する事にした根津晴。撮影で知った愛の確かめ合いによって2人は離れることに…。
【プロフィール】
山元環(やまもと・かん)
1993年1月22日生まれ。大阪府出身。大阪芸術大学映像学科を卒業。卒業制作『ゴロン、バタン、キュー』が「PFFアワード2015」で審査員特別賞と神戸賞、「第27回東京学生映画祭」で準グランプリと最優秀役者賞、「第18回京都国際学生映画祭」では沖田修一賞、李鳳宇賞、観客賞を受賞。文化庁委託業務「ndjc2018:若手映画監督育成プロジェクト」で短編映画『うちうちの面達は。』を監督。2019年に公開されたショートフィルム『ワンナイトのあとに』がYouTubeで300万回再生され話題に。さらに、監督・脚本を務めたBUMP配信ドラマ「今日も浮つく、あなたは燃える。」の切り抜き等がSNSで総再生回数2、3億回を超える。近年は、ドラマ「夫婦が壊れるとき」(日本テレビ系)、「沼オトコと沼落ちオンナのmidnight call~寝不足の原因は自分にある。~」(テレ東)を監督。
X(旧Twitter):@AtomicFILMMER
Instagram:@/kan_ymgn/
(取材・文/橋本達典)