『ポケモン』音楽をドラマBGMに「ゲームと通じる没入感を味わってほしい」

公開: 更新: テレ東プラス

記事画像木ドラ24「ポケットに冒険をつめこんで」より

ゲーム『ポケットモンスター』原案 初のオリジナルドラマ、木ドラ24「ポケットに冒険をつめこんで」(木曜深夜24時30分/テレ東系)。ドラマを盛り上げる、ゲーム『ポケモン』の音楽をアレンジしたBGMを担当した音楽チーム(“音楽プロデューサー”フジモトヨシタカさん、“音楽”菊地信哉さん、坂本剛さん、小畑貴裕さん)インタビューの【後編】。

前編】では、『ポケモン』音楽の魅力についてトーク!

【動画】ゲーム『ポケモン』20年ぶりのプレイで新たな冒険に

全体を通しての方向性は?


『ポケモン』音楽をドラマBGMに「ゲームと通じる没入感を味わってほしい」
写真左より、坂本剛さん、菊地信哉さん、フジモトヨシタカさん、小畑貴裕さん

――ひとつのドラマ音楽を複数名で分担して制作するということで、皆さんの方向性を統一するための共通認識やテーマのようなものはあったんですか?

小畑「フジモトさんから『全体としてローファイ感がほしい』とお話がありました。普段は意識していないので難しかったのですが、菊地さんがエンジニアリングでいい感じのローファイ感を出してくれました。ドラマにマッチしていましたね」

フジモト「『ローファイ感』は、言い換えるなら『音楽に使っている音の帯域を聞こえやすいレンジ(幅)におさめる』こと。音楽の使い方としては、このドラマはちょっと変わっていて。ナチュラルに音楽が流れるというよりは、強引にかかってもおかしくない。たとば『バトルシーン』に切りかわるシーンがあったら、音楽も強引に切りかわる。そういうとき、音のレンジが広すぎないほうが聴きやすくなるんです」

菊地「周波数の特性上、メロディやドラムなど、さまざまな音の要素がボコボコしていると、音楽ってちょっと聴きにくくなる傾向があるんですね。そういうものをまとめてあげるイメージです。もうひとつ、僕はフジモトさんのオーダーから、約25年前のゲーム音楽をモチーフにするにあたって『音楽に何かしらの文化的、時間的なものを付加したい』という意図を感じたんです。そういうことも意識しながら、音を調整していました」

――ドラマの使用楽曲は、「このシーンで使うものを」というようにピンポイントでオーダーされるのですか?

菊地「作品によりケースバイケースです。映像を渡されてそれに音楽をつけることもあれば、『こういう音楽が必要になるだろう』という予測をもとに、映像完成より前に音楽を作ることもあります。今回は後者、ドラマの映像が完成する前のオーダーです」

小畑「映像と並行して音楽を作っていくので、お互いに状況がわからない。なので、音楽は一部分でも単体でも使えるように、調整して納品しています。また、ある程度楽曲アレンジが揃ってきたところで、バリエーションも考えました。たとえば、心情音楽が少ないなと思って1曲(『マサラタウンのテーマ』)追加で作ったり…」

菊地「小畑さんが作ってくださった追加の1曲は、頻度高くドラマで使われていましたね」

記事画像木ドラ24「ポケットに冒険をつめこんで」最終回より――皆さんが作った楽曲を、どのシーンでどう使うかを決めるのは、どなたが決定されるんですか?

フジモト「今回の場合、監督から『このシーンにこの曲を当てたい』という指定がある程度あったようです」

菊地「その上で、選曲ご担当の方がセレクト、調整しています。ドラマで使われる音楽は、全体のバランスを見て、楽曲のテンションを落としたり、テンションが上がる前に落としたり、そういった調整がされています」

フジモト「僕らは『ステム』と呼ばれる、各パートがバラバラになった音源を渡すんです。その音源から、たとえばドラムパートだけを抜くとテンション感が変わる。そうやってバランスを良くしてくださるんですね」

菊地「僕らはアレンジしつつ、『ドラマの中で上手く使ってもらえるかな』と心配していたところもあったのですが、実際にできあがったドラマを見ると、すごくいい配分で曲を当ててくださっていました。監督の希望をベースに、選曲担当の方がイマジネーションを働かせながら『このシーンにこの曲を当ててみたらどうだろう』と、試行錯誤をしていただいたんじゃないかなと思います」

――ご自身が編曲された楽曲で、使われ方がうれしかったもの、意外だったものなどはありますか?

菊地「タイトル曲ですね。他にも編曲は手がけましたが、オープニングに使っていただき、ありがとうございます、という気持ちです。

僕は『ポケットモンスター』発売時に高校生で、ちょうどゲームボーイで遊ばなくなった年齢でした。ただ、通信ケーブルでゲームボーイをつなぎ、ポケモンを交換できることには興味がありました。ゲームの世界って、『自分自身の100%を試せる』という夢があるように思うんです。きっと『ポケットモンスター』で遊んだ世代は、テーマ曲を聞くと、『何か試せるかもしれない世界が、この瞬間に立ち上がるんだ』というロマンを感じるはず」

坂本「ゲームに『オーキド研究所』という楽曲があるのですが、その曲はドラマでのアレンジ候補にはなかったんです。僕が勘違いしてアレンジを作ってしまって、せっかくだからと提出したら、意外と使われています。提出してよかったなと思っています(笑)」

記事画像木ドラ24「ポケットに冒険をつめこんで」最終回より

――ついにドラマが最終回を迎えます。音楽について、ここに注目して聴いてほしいというところは?

菊地「オープニング曲の冒頭で、ホルンが『ブルン』と鳴るので、そこを聴いてほしいです。子どもの頃、ゲームボーイの電源を入れて、あの楽曲が流れてきたときに感じたアツいものを思い出していただけたら」

小畑「僕もゲームと通じる没入感を最後まで味わってほしいですね」

坂本「おふたりと同じです。最後まで楽しんでいただければ!」

フジモト「音楽は、楽しい記憶を呼び起こしてくれるもの。子どもの頃に夢中になったゲームの音楽は、流れるだけで心躍ります。ドラマではまだ流れていない曲や、違うアレンジもあるので、そちらも楽しんでほしいですね」

【プロフィール】
フジモトヨシタカ
ミュージシャンとして活躍する一方、作曲家・編曲家としても活動。ドラマ「アラサーちゃん 無修正」、「こえ恋」(ともにテレ東系)、映画「劇場版 美しい彼~eternal~」(2023年公開)、CM音楽などを手掛ける。
≪好きなポケモンは?≫
「リザードン。僕がというより、息子が好きなんです」

菊地信哉
広告音楽制作会社にてサウンドエンジニアとして約15年近く勤務の後、独立。会社勤務時から作曲、編曲も手がける。ゲーム「Pokémon UNITE」の広告音楽のミキシングエンジニアを担当。
≪好きなポケモンは?≫
「ピカチュウです」

坂本剛
ジャズピアニストとして活動するほか、舞台やCM音楽の制作も手がける。テレビドラマ「アラサーちゃん 無修正」、「こえ恋」(ともにテレ東系)の音楽制作に参加。ドラマ「吉祥寺だけが住みたい街ですか?」(テレ東系)では使用楽曲のピアノ演奏を担当。
≪好きなポケモンは?≫
「フシギバナ。あの安定したフォルムが好きなんです」

小畑貴裕
作曲家、編曲家。ドラマ、映画、CMなど幅広い音楽の作曲、編曲を手がける。近年は「ニンジャラ」(テレ東系)はじめテレビアニメの音楽を数多く担当し、「約束のネバーランド」(フジテレビ系)では海外メディア主催の「Anime Trending 6th」でベストサウンドトラック賞を獲得。
≪好きなポケモンは?≫
「ピカチュウですが…菊地さんと被ったのでイーブイで(笑)」

(取材・文/仲川僚子)