森を纏い、森と踊る!?遊びと学びが交差する“不思議な祭り”の全貌

公開: 更新: テレ東プラス

災害級とも呼ばれる異常な暑さが続いた2023年夏。温暖化が本格的に叫ばれるようになり、これ以上の気候変動を防止するためには、森林整備や木材利用など、森林吸収源対策が重要だといわれています。それでは、実際どのようにして“自然”との心地よい関係を築いていけば良いのでしょうか。

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ここは、永らく放置されていた市有林・日向の森(千葉県山武市)。中核メンバーの林業者たちが中心となり、活動をはじめて約7年…。森林整備活動の一部をイベント化し、これからの暮らしにつながる技術と叡智を分かち合いながら、積極的な"森のつくりなおし"に取り組んでいます。

『森も人間の体と同じように、適切な代謝・循環が行われることで健康な状態が保たれる。だから森を活かし、護ることは、人の未来を育むことそのものである…』

11月12日(日)に開催されたイベント「ヤケマルタトオノ2023」の根底には、そんなテーマが流れています。

「テレ東プラス」は、“エシカル特集”の一環として、「ヤケマルタトオノ2023」本祭に潜入し、祭りの様子を徹底リポート。最後は、演者も客も愉快に踊り出す…!? 知られざる“不思議な祭り”の中で目にした森と人の営み。その背景にあるものとは?

森と人、人と人、そして“自分自身との出会いなおしの間”を創造すること


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会場は、山武市のボランティア団体と実行委員などが少しずつつくりなおしに取り組んでいる「日向の森」。都心とは異なり、思い切り深呼吸したくなるような澄んだ空気の中、森はすでに多くの人で賑わっていました。
緑が広がる広場には、タコスやハンバーガー、スパイスカレーなどのフードトラックが並び、伸び伸びと遊ぶ子どもたちやワンちゃんたちの姿も。

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出展ブースにも、森や自然と関連性が深い人気商品が並びます。
三つ豆ファーム」の採れたてでみずみずしい野菜たち、「めりめろ農園」のにんじんジュースも。色鮮やかで、どれも体内をリフレッシュしてくれそう。

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創業350年の酒蔵「寺田本家」のブース。
かつて、日本酒造りには自然素材が多く使われていましたが、扱いが簡単なホーローなどが普及し、昔ながらの木桶を使う酒蔵が減少。木桶に関わる職人や業者がほとんどいなくなってしまったことが、山が荒れる要因の一つといわれています。
そこで「寺田本家」は、日向の森で育った山武杉を使った木桶仕込みを開始。地元の米と地下水にこだわり、自然酒を造っています。
ラベルは、木桶となる山武杉の年輪を浮造りした拓本。記者も熱燗を一杯いただくと…なんとも美しい琥珀色! 木桶の色が染み出ているそうで、ふっくらした豊かな香りが広がります。

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チーズ工房【千】sen」のブース。千葉県産にこだわったチーズ「鼓動 Kodou」は、山武杉を木桶職人の手で木桶に仕上げ、その桶で仕込まれた「寺田本家」の日本酒でチーズの表面を磨き、山武杉の経木を側面に巻き付けて熟成させたもの。
店主でチーズ職人の柴田千代さんは、国内のチーズ生産者にとって最高賞にあたる農林水産大臣賞を、女性として初受賞(「情熱大陸」にも出演)。「地方でも女性でも、思いがあれば必ず叶う。地方にこそ財産がある」と話し、何ものにもとらわれない価値を世界へ発信し続けています。

12/8エシカル▲主催者の栗原幸利さん

祭りを主催するのは、新しい林業に取り組む"空師"「WO-un」の佐瀬響さんと栗原幸利さん。
空師とは、特殊な木登り技術を駆使して木に登り枝や幹を伐る、樹上作業の専門家。佐瀬さんと栗原さんは、かつてブランド木材を産出した山武市で、消費されることのない“体験”を生産しています。

「年に1度のお祭りは、整備の経過を皆さんに見ていただく“発表会”のような、僕らにとっては“収穫祭”でもあるような、そんなお祭りです。現在はワークショップなど“学び”のプログラムにも取り組んでいて、来年度から山武市の中学1年生の環境教育プログラムをやらせていただくことになりました」(佐瀬さん 以下同)

遊びの中から学び、学んだことを遊びとして、結んで還す


「僕もここで活動を始めるまでは、植物の土台となる土が何で出来ているのか…考えもしませんでした。母材と呼ばれる大元の素材もありますが、土壌の中では有機物を分解したり、窒素を固定してくれたりする微生物たちがいてくれるからこそ、植物は栄養を得られます。その視点が得られてからは、その微生物たちがいやすい環境やこの分解者が一端を担ってくれている森の全体的な循環へ…学びはどんどん広がっていて、まだ終わりは見えません。でも実は、こういうことって中学や高校で学んでいることも多いんです。窒素固定細菌や物質循環も。ただ言葉の難しさにつまづいたのか、実感が欠けていたからなのか、僕も全く覚えてませんが…」と佐瀬さんは笑う。

ホントにホントのことはわからない。だから、問い続ける


「教材、教室を森に置き換え、リアルな体験や驚きと共にこの学びを深めていけば、“木が生えている場所”と言う漠然としたイメージの森ではなく、そこにいるすべての生物が自分の役割を知り、意志を持って関係性を築き成立しているかの様な“森の全体性”に出会えるのではないかと思うんです。
刈っても刈ってもしつこく生えて来る雑草や篠竹も、土留めとしての彼らが生えてこなければ表土は雨に流され、微生物たちもそこでは生きていけません。
みんな役割があってそこにいるのだとすれば、自分たちのここでの役割はなんなのか。
森を人の体に見立て、そこに手を入れ、反応を見ながらこの関係性を常に更新していくこと、そしてこの不思議さ、面白さ、美しさを沢山の人たちと共有すること。
それが一つの役割としてこの森にフィットするのかどうかは分かりませんが、結局僕らはそれをやらずにいられない生き物のようです(笑)」

整備に通う人々は収穫祭を楽しみ、発表会を見に来た人が、今度は収穫祭の門を開く…。
関係性の美しきカオス。それは、森が見せてくれる多くの動植物、微生物たちがせめぎ合いながら営みつづける生命循環の姿と、どこか通じるような気がします。

芸術で人を癒やす"アートホスピタル"という考え方


発表会では、出展ブース以外にも、"森のつくりなおし"に賛同するパフォーマーが、さまざまなライブを開催!

12/8エシカル▲左からChie Noriedaさん、Nana Watanukiさん 衣装協力:indosole / インドソール

記者が注目したのは、「舞踊団Baliasi」。
「Baliasi(バリアージ)」とは、モダンダンスとバリ舞踊をベースに、西洋と東洋の文化を融合させた唯一無二のジャンル。独特な振付けでさまざまなアーティストを魅了し、「平昌冬季オリンピック公式オープニングセレモニー」招聘など、国内外で注目を浴びています。

「舞踊団Baliasi」の皆さんは、今回どのような思いで祭りに参加したのか…創立者のChie Noriedaさんにお話を伺いました。

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「舞や踊りは、祈りの一つの形として太古の時代に生まれたもの。先進国で生きているとつい忘れがちですが、人間も動物も、そして踊りも自然の一部なのです。
この祭りの合い言葉は『Chant Cinёl(チャント・シネル)』。"ちゃんと死ねる"にかけた言葉で、ブランドにもなっていますが、土に還る自然素材で服を作り、それを纏うことで、私たちも生きとし生けるものの祭りを担います。

Baliasiのテーマは、"美と癒しの異空間"。自分の体を通して自然とつながり、見ている人だけでなく、自分自身をも癒します。太古の昔から、踊りにはそういったパワーが秘められているのです。
そして世に伝えたいことのひとつが、"ア−トホスピタル"という治癒法。アートの力で人を癒すという考え方です。
古代ギリシャでは、日本の"湯治"のように、お風呂に浸かって演劇や音楽に触れて、病気を治癒する文化があったそうです。私はそれを復活させたいと思っています。
エンターテインメントだけにとどまらず、みんなで共鳴するような舞踊を踊る…地球にいいことをしていると、不思議と自然に道が開けていくもので、この活動の輪もどんどん広がっています。10年後にどうなっているのか、今からワクワクしています」

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そしていよいよ祭りのクライマックス! 和楽器バンド「GOCOO」と「舞踊団Baliasi」のコラボショーがスタート!

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結成25年、唯一無二のグルーヴと音楽性で40カ国を巡ってきた、旅する和太皷バンド「GOCOO」。映画「MATRIX Reloaded」「MATRIX Revolutions」のサウンドトラックに参加するなど注目を集め、2009年には「Newsweek」誌『世界が尊敬する日本人100』にも選ばれています。

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森からインスピレーションを受け、自由な発想で紡ぎ出される豪快かつ神秘的な踊りに、観客の皆さんも釘付け。森の神や大自然への敬愛、森に潜む"不気味さ"や“怪しさ”も巧みに表現され、観ている者の心を揺さぶります。

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“土に還る”森の素材で作られた、アートなドレスも登場。
森の神を呼び起こすようなダンサブルで力強い太鼓の音と、激しく美しい舞いが融合され、会場のボルテージは最高潮に!

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その場のエネルギーや色、香り、全てを感じ、在るがままを非言語で表現するBaliasi。人間の野性を呼び覚ます、独特な世界観です。

約1時間のショーは、あっという間! そろそろフィナーレかと思いきや…

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なんと、森全体がダンスフロアの様相に! 老若男女、知っている人も知らない人も、踊りが得意な人も踊ったことがない人も、全員が我を忘れて思い思いに踊ります。
日々のストレスや悩みもすべてを吹き飛ばしてくれる…人と自然が一体となったこの空間こそ、“森が与えてくれた恩恵”といえるのかもしれません。

もしも地球から森林がなくなったとしたら…すべての生物は生きていくことができません。
人間も地球の一部であり、自然の中で役割を担っていること、改めて森や大自然の偉大さを体感させてくれる素晴らしいイベントでした。

(取材・文/みやざわあさみ)