1970年「大阪万博」から約半世紀を経て“人間洗濯機”が復活!?「サイエンス」が世界へ!:ガイアの夜明け

公開: 更新: テレ東プラス

12月1日(金)に放送された「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは、「"メード・イン・ジャパン"復権へ!〜万博で甦る人間洗濯機〜」。
1970年に開催された「大阪万博」は、戦後の苦難を乗り越え、高度経済成長の真っ只中で迎えた明るい未来の象徴だった。しかし今、ジャパンブランドは陰りを見せ、日本からかつての明るさは消えてしまった。
そんな中、日本が未来に向けて生きる道を示す、2025年「大阪・関西万博」は、建設の遅れや費用の上振れなどの課題を抱えながらも、開幕まで500日を切った。
今回の万博で、日本は再び、世界を驚かすことができるのか。今こそ本物の“メード・イン・ジャパン”を見せるチャンスだと立ち上がった人々を「ガイア」が追う。

【動画】1970年「大阪万博」から約半世紀を経て“人間洗濯機”が復活!?

「ミライ人間洗濯機」を開発せよ!「心も洗う」は実現できるか?


1970年、戦後復興から抜け出し、高度成長時代の絶頂期を迎えた日本で、「大阪万博」が開かれた。世界77の国と地域が参加し、来場者は約6400万人。会場ではさまざまな展示が催された。

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アポロ宇宙船が持ち帰った「月の石」や、今では当たり前となった「動く歩道」や「携帯電話」など、大阪万博で初めて知った世界の人々は、胸を躍らせた。
中でもひときわ注目を集めたのが、「三洋電機」が手掛けた「人間洗濯機」だ。家庭用のお風呂すら十分に普及していなかった時代に、超音波を用いて自動で身体を洗うなど、当時の技術の粋を集めて開発された。

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8月19日。「イオンモール京都桂川」では、「ミラブル」というシャワーヘッドを使った催しが開かれていた。お客さんの手に書いたのは、油性のマーカー。普通、お湯だけでは洗い落とせないが、個人差はあるものの、軽くこするだけで簡単に落ちる。

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発売から5年で130万本以上を売り上げた「ミラブル」。吹き出し口は、1秒間に2000回転の渦を作り出し、水がここを通過すると、無数の泡が生み出される。
この微細な泡をウルトラファインバブルと呼び、1ミリの1000分の1未満で毛穴に入り込み、汚れや臭いを取り除いてくれるという。

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ラードを付着させた皿を「ミラブル」と普通の蛇口を使い、同じ水圧で洗う実験では、約50%の節水効果が見込めたという。交換式のシャワーヘッドの価格は4万円台からだが、ある男性は「嫁にきれいになってほしい」と、その場で購入を決めた。

「ミラブル」を製造・販売する「サイエンス」(大阪市淀川区)は、2007年に創業。「サイエンス」の泡の技術はさまざまなところで使われており、売上高は約50億円にのぼる。

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「サントリー」のグループ会社「ダイナック」が経営する「アリーズバー」(東京・中央区)の店長・中田亮平さんは、「アイラウイスキーという香りの強い酒のグラスは、通常かなり時間をかけて洗わなければならないが、今はファインバブルで5~6秒さっと流すだけで完全に香りが取れている」と話す。
「ダイナック」では、グループ全店で「ミラブル」を導入し、洗い物の手間を省くだけでなく、水や洗剤の節約にもつながっていた。

大阪公立大学の構内のラボでも、ウルトラファインバブルを直接レタスの根にあてて栽培している。微細な泡で刺激することで食味が増し、収穫量も約2割アップしたそう。
植物工場研究センター長の北宅善昭さんは、「安定的に生産量を高く維持するためには面白い技術」と話す。
この泡の技術を駆使し、「サイエンス」が次に挑むのが万博だ。
1970年の大阪万博で「三洋電機」が出展した人間洗濯機の前には、連日、大勢の見学者が押し寄せた。その中に、当時小学4年生だった「サイエンス」青山恭明会長(63)がいた。

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青山さんは、「母親に“血が出るまでこすって洗え”と言われていた時代。カプセルに入ったら勝手にきれいになる…そんなバカな、あり得ない。親にねだって、会期中に20回近く行った」と話す。
あれから半世紀。「大阪で万博が決まった瞬間、なんの迷いもなかった。泡の技術を応用してお風呂を作れば、本物の人間洗濯機ができるのでは。あの時の僕の気持ちのように“将来どうなるんだろう”と思わせるような、ミライ人間洗濯機をどんなことがあってもやる」。

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そんな青山さんが、13年前、直々にスカウトしたのが、専務で“泡の魔術師”と呼ばれる平江真輝さん(47)だ。平江さんは、「泡は見過ごされていた技術で、うまく使うと環境的にも生活の中でも有効的。私たちの技術で、世界を『あっ!』と言わせたい」と話す。

かつて、造船関連の会社で働いていた平江さんは、今とは真逆で泡を消す仕事をしていた。船のスクリューの模型に水を流すと、大量の泡が発生。「これが船の速度を落としたり、摩耗したりする原因になる。泡は元々敵だった。邪魔で仕方なかった」と平江さん。

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そこで平江さん、先ほどの模型を分解し、スクリューに手を加える。再び装置を起動すると、水を流しても、今度は泡が目立たない。スクリューの角度を浅くし、抵抗が発生しないようにしたためだ。

そんな平江さんが中心になって進める「ミライ人間洗濯機」のプロジェクトには、前回の万博で人間洗濯機の開発に携わった、元「三洋電機」の社員も顧問として参加している。
打合せは月に1度程度だが、細かい技術面やデザインにもアドバイスが入る。「過去を知らない私たちが、『実際どうだった、こうだった』と教えてもらえるのは、何よりの武器」と平江さん。

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今回のプロジェクトでは、「サイエンス」の商品、浸かるだけで泡が汚れを落とすという「ミラバス」を進化させ、人間洗濯機を開発。入浴中に映像や音楽を流してリラックス効果を高め、“心も洗えるお風呂”を目指すが、いくらリラックスできたとしても、それを数値として裏付けることができなければ、説得力がない。

そこでカギを握る人物が、「サイエンス」と共同開発する大阪大学 産業科学研究所の神吉輝夫准教授。湯船の中で心拍が測れる装置の開発を依頼された。

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まずは100円ショップで買ったアルミの皿を使い、自宅の浴槽で背中から心拍が取れるかどうか、体を張ってテストする。すると、お風呂の中で正しい心拍を測定することができた。神吉さんは、「ここからどう解析するか…研究者の腕の見せどころ」と意気込むが、試行錯誤の日々は続いた。

一方、「サイエンス」の平江さんは、万博の会場で、“究極のリラックス”に導く癒しの映像をどう映し出すか…思いを巡らせていた。
「“展示”というキーワードを考えた時、すごい技術、将来こういう風になっていく。こうなったら使いたいと思わせる見せ方が重要」。実は「サイエンス」の万博出展の裏には、野心的な戦略があった。

8月7日の創立記念日。会長の青山さんは社員を前にして、「2025年、大阪・関西万博の出展企業として、世の中に新たなイノベーション(技術革新)を起こし、この万博を機に、世界に一歩踏み出していく」と宣言する。虎視眈々と、海外市場を狙っているのだ。
「特にファインバブルの技術は、日本が世界の中で断トツにリードしている。もう一度、技術大国ニッポンの底力を世界に示したい」。
そこで、今回ターゲットの一つに定めたのが、シャワー文化の国、オーストラリアだ。

11月、海外事業担当の吉澤一郎さんは、単身オーストラリアに乗り込んだ。訪れたのは、大陸の北東に位置するケアンズ。世界有数のリゾート地だ。

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早速、地元のホームセンターへ足を運ぶ。一面に並んでいるのは全てシャワー関連で、吉澤さんは「売り場スペースや商品数は、日本よりもはるかに規模が大きい。シャワー文化の本場だと感じる。勝機はある。ファインバブルの技術を使った商品はまだ販売されていない」と前を向く。

翌日は五つ星ホテルに売り込むが、ライバルがひしめき合う中、「ミラブル」は市場を切り開くことができるのか――。

ニッポンの“泡”が宇宙へ かつてない挑戦


「ミライ人間洗濯機」の開発に一定の目途がついた「サイエンス」の平江さんは、万博に向け、新たなプロジェクトに動き出していた。
訪れたのは、ベンチャー企業「GOCCO.」(岐阜県大垣市)。ここの事業の一つが気球の打ち上げで、10年間で200機以上の実績がある。

「シャワーの原理模型をバルーンで成層圏まで打ち上げて、その時に、水(泡)がどのように出ているのかを見たい」。

装置の中の水はシャワーのように噴射されると容器の下に溜まり、循環して再び噴射される。まずはこれを成層圏に打ち上げ、自由落下による無重力に近い環境下での泡の状態を知ろうというのだ。
うまくいけば、万博で展示の目玉のひとつになるかもしれない。無重力空間で水を制御し、少ない水を循環させるシャワーが可能なら、「人間洗濯機」が宇宙でも使えるという証明になる。
打ち上げには大きなリスクもあるが、万博まであと500日…平江さんの闘いはギリギリまで続く。

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