マシンガンズ滝沢秀一が警鐘 ぞんざいなごみの捨て方は税金に跳ね返る

公開: 更新: テレ東プラス

地球の環境保護を考慮した経済活動が活発になる一方、「ごみの現場は何も変わらない」と話すのは、芸人とごみ清掃員の二足のわらじをはく、お笑いコンビ・マシンガンズ滝沢秀一さん。集積所には、今日も“もったいない物”があふれているという。
エシカル(倫理的)消費が叫ばれるいまだからこそ、モノの出口を見てほしい――。ごみ清掃員の視点で見たエコロジーの本質とは。前後編でお届けする。

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バケツいっぱいのエノキのバター炒め…不思議なごみの数々


――滝沢さんは、奥さまの妊娠を機に、2012年からごみ清掃の仕事を始めたそうですね。ごみ問題を発信しようと思ったきっかけは?

「最初は、やりたくて始めた仕事じゃなかったんですよ。心の中では『お笑いだけで食べていけたらいいな』とずっと思っていました。でもそんな気持ちで作業していると、燃えるごみの中に瓶があれば腹が立つし、歩くだけでも大変な真夏日はふらふらになってすべてに嫌気がさしてくる。だんだん気持ちが腐っていくわけです。

そんななか、テレビのお笑い番組を見ていると、M-1チャンピオンですら司会者から一番遠い末席にいる。これは俺、座る場所なんてないなと。だったら、日本一のごみ清掃員になろうって決めたんです。じゃあ、日本一って腹立ててることなのか、違うよなと。まずは、分別の仕方やルールを知らない人に知ってもらおうとSNSで発信しました。ごみ清掃を始めて、5年くらい経った頃でしょうか。

最初の発信は『雨の日の濡れた段ボールはコンクリートのように重い』。事務所の先輩の有吉弘行さんがリポストしてくれたおかげで、多くの反響がありました」

――10年以上ごみ問題と向き合ってきたわけですが、印象的だったことは?

「粗大ごみで、フィットネス機器『ロデオボーイ』がたくさん捨てられている時期がありました。まだまだ使えそうなのに、邪魔だから捨てたのでしょうか。回収場所に行くたび『またロデオボーイかよ』って、清掃仲間たちとうんざり。回収車の場所はとるし、収めにくいし。そのうち、今度は『ワンダーコア』(フィットネス機器)のブームがやってくる。

捨てる時期が一緒なんです。はやりが終わるころに同じ物が一気に増える。“自分らしく生きる”なんていうけれど、ごみの現場から見れば、実はみんな同じような生活スタイルを築いていることがよくわかります。それに、25~30日の給料日付近を境に、突然ごみが多くなる。ワッと物を買って、そこから消費が下がるのに合わせて、ごみの量も減っていきます。そしてまた、給料日になると増えるというサイクルです。

レジャーシーズンの夏は、東京からごみが一気に減ります。一方で地方が増える。やっぱりごみって生活に密着していて、人が動くと一緒に移動するんですよね」

――まだ使える、もったいない廃棄物もたくさんあるのでしょうか。

「捨てられている大半はもったいない物ですよ。袋に入ったままの自転車や清潔感のあるベッド、ソファやタンス……。リサイクルをしている区は回収後に売りますが、その仕組みがない地域は、大きなプレス機でぐしゃりとつぶすんです。

食べ物でも、夏はスイカ、お中元シーズンはメロン、秋は新米が出たからと古米が捨てられています。もちろん、問題なく食べられる状態で。

調理済みのエノキのバター炒めが大量に詰まった、90リットル入りのポリバケツが捨てられていたこともありました。清掃員みんなで『エノキバターパーティーやってたんちゃう?』『なんやねん、エノキバターパーティーって』と首をかしげて。ある人は、ユーチューバーがはやり始めた時期だから『大量のエノキのバター炒めを作ってみた』だったのでは?と分析していましたね。

このように、エコが叫ばれる時代であっても、実際にごみが集まる現場を見れば、以前とそこまで変わっていないことがわかります」

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いい加減な分別が税金に跳ね返ってくる


――なぜ、ごみの現場は変わらないのでしょうか。

「仕方がないとは思います。なぜごみを分別して捨てなければいけないのか、僕らはきちんと教育されてきたわけではありませんから。

たとえば、生ごみの汁は絞って捨てた方がいいのはなぜか。ごみに水分が多いと焼却炉に水をかけているようなものなので、炉の燃焼力を高めるためにわざわざ重油を加える必要があります。当然、費用は税金で補われる。ご家庭で一度ぎゅっと絞るかどうかで、皆さんの負担が変わってくるわけです。

こうした流れを知っていれば『じゃあ、やらないと』となりますが、『生ごみは絞りましょう』『ペットボトルのラベルははがしましょう』とただ言われるだけでは、二の次になるのも無理はありません」

――確かに。流れを知ればやってみようかなという気になります。

「発信する側としても、同じ内容を同じ強さで辛抱強く伝えていかなくてはならない。環境活動家の偉い人は、一つ伝えたら、次のフェーズに進んで新たな情報を発信しがちですが、みんながみんな理解しているわけではありません。僕は何度も『ピザのダンボール容器は汚れているから資源としては使えない。燃えるものですよ』とSNSで発信していますが、毎回『初めて知りました!』という声が上がります。

同じ内容を発信して10回目に突然バズる、という経験は何度もあります。そうしてようやく世間に浸透していくわけです。いま日本のペットボトルの回収率は90%を超えて、諸外国の40%前後と比べると、とても優秀です。でも、その周知には10年もかかりました。10年ですよ」

――根気強く周知を進めていく必要があると。

「そうですね。そこで近年は『一般社団法人ごみプロジェクト』を立ち上げ、学校を回るなどして、子どもたちにごみについて学んでもらう場をつくっています。活動の基本は教育ですが、加えて、ごみを減らす事業も始めたいとも考えていて。ごみをなくすことでお金が発生するシステムを構築できればと思っているんですよ」

ごみが減るのにお金が増える……? 後編では、その方法やごみ清掃員の実態、エシカル消費における「入り口」と「出口」について、滝沢さんが深掘りする。

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【滝沢 秀一(たきざわ しゅういち)プロフィール】
1976年、東京都足立区生まれ。1998年に、相方・西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2012年からごみ清掃員として働く。現在は、ごみ収集時に見えてくる環境問題や食品ロスなどをSNSや書籍など、さまざまな形で発信。著書に「このゴミは収集できません」(角川文庫)、妻・友紀さんが漫画を描いた「ゴミ清掃員の日常」(講談社)など。

(取材・文/森田浩明)