なぜ“推し活”にハマるのか?快感と癒し、認知症予防にも効果

公開: 更新: テレ東プラス

“推し活”=アイドル、俳優、アニメ・漫画・ゲームのキャラクター、鉄道など…自分の好きな対象=“推し”を様々な形で応援すること。

“推し”の舞台俳優が会社の上司になる、主演・鈴木愛理&共演・片寄涼太のドラマNEXT「推しが上司になりまして」(毎週水曜深夜24時30分)は、推し活に励む人にとって夢のようなシチュエーションと話題です。

記事画像撮影:山田ミユキ

今や“推し活”は大きなムーブメントとなり、経済効果も絶大。マーケティングライターで世代・トレンド評論家の牛窪恵さんに、“推し”にハマるメカニズムや推し活の未来についてうかがいました。

【動画】もしも推しが上司になってやってきたら?

なぜ“推し活”にハマるのか!?


記事画像ドラマNEXT「推しが上司になりまして」より

――今や“推し”文化はすっかり定着し、“推し活”が花盛り。好きな対象に対して、かつての“萌え”から“推し”に進化したことで、より広い層に広がったように感じます。どのように変遷していったのですか?

「2010年代に入ると、若干“萌え”寄りではあるものの、今の“推し”に近い感覚での応援行動が見られ始めました。代表例が、AKB48人気です。握手会の時、どうしたら笑顔で握手をしてもらえるのかとか、どうしたら会話が弾むのかなどを、ファン同士が握手待ちの列に並びながら、またはSNSで、情報を教え合うようになりました。“萌え”は、基本的に対象への1対1の感情ですが、“推し”はファンが一体となって、みんなで対象を盛り上げていく文化。ただ、当初はまだ、誰が長くしゃべれたかなどの競争意識が強く、完全に“推し”という概念に移行してはいない印象でした。

『推しエコノミー』の著書もある、中山淳雄さんのTwitter(現X)ワード分析によると、2011年12年くらいから“萌え”に変わって“推し”が台頭してきたようです。2012年にLINEの利用者が拡大し、その後、2017~18年ぐらいから、InstagramやTwitter(現X)でハッシュタグ文化が広まります。ドラマやタレントさんの名前、あるいは趣味や感情などのハッシュタグにより、同じような価値観の仲間と繋がり、それぞれのコミュニティでみんなと盛り上がって応援していこうという“推し”の概念が広がってきた。SNSによる影響が、ものすごく大きかったのです。

コロナ禍も、“推し”を広める一因となりました。ライブ会場に行けなくなったり、漫画やドラマの感想を言い合ったりすることもリアルではしにくくなったけれど、デジタルのネットワークの中で同じ人・ものを好きな友達を募り、彼らとやりとりをして盛り上がる。そういう形のコミュニケーションが定着したのが、コロナ禍だと思います」

記事画像ドラマNEXT「推しが上司になりまして」より――牛窪さんの著書『恋愛結婚の終焉』によると、“推し活による脳の働きは恋愛に近い部分がある”とのことですが、どんなところが?

「快楽や多幸感に関わる神経伝達物質“ドーパミン”は、恋愛においては、好きな対象を目にする、あるいはその対象に触れたい、といった欲求が高まった時などに放出され、快感を覚えるようにできています。しかも、“心地いい”という成功体験を重ねることで、さらに激しく放出される報酬系の物質でもあります。そのため、その快感を求め、場合によると依存症にまで発展することもあるほどです。

推し活でも、これと同じような現象が起こるのでは、と考えられています。たとえば、好きなアーティストを観たいからと、コンサートのチケットを取ろうと頑張る、また好きなドラマやアニメのストーリーを想像してSNSで盛り上がる。その結果、うまくチケットが取れた、あるいはストーリーが自分の予想通りだった、逆に、いい意味で裏切られた、などドキドキワクワクが繰り返されるほど“クセになる”のです。最近はシニア世代の推し活も盛んですが、ドーパミンの作用によって若々しくいられたり、認知症の予防にもなるとも言われています。

また恋愛は、通常は対象と一対一になることを目指すので、一人の想いがかなうと同じ相手を好きだった他の人たちは悲しい思いをしますが、推し活なら、みんなで一つの対象を応援して盛り上がることが可能です。視聴率が上がっていく、主演俳優の○○くんがカッコよくなっていく…といった喜びを、仲間と一緒に共有できる。自分だけでなく仲間も楽しそうだから、幸せを感じる。他者を思い遣る気持ちから、セロトニン系の癒しの感情までも得られるのです」

記事画像ドラマNEXT「推しが上司になりまして」より

――快感と同時に癒しも得られるということですね。確かに、ライブで推しが手を振ってくれただけでもこの上なく幸せを感じるし、推し活を通じて仲間ができたり、得たものが多いです。推し活と恋愛は似たような快感が得られることが分かりましたが、逆に、違いはどんなところでしょうか?

「推し活の世界では、大企業の社長であろうがフリーターであろうが、属性やジェンダーなどに関係なく、フラットな状態で、同じ対象を一緒に応援できます。そのコミュニティでリスペクトされる人は、年上や富裕層とは限らず、推しに関する多くの情報を持っていて、それを惜しまず周りに教えてくれる人。経済学には“利他主義”という考え方があるのですが、推し活は利己主義ではなくて利他主義なんです。

恋愛では、強者や抜け駆けをするようなズルい人が勝利するケースが多く、要領が良くない人や優しすぎる人は損をしてしまいがちです。一方、推し活では、ズルいことをすると仲間から嫌われるので、そうした行動を避けるようになり、みんなで幸せになりたいという利他の精神が働きやすい。今、SDGsにより社会は格差をなくそうというフラットな方向に進んでいます。そういう意味でも、推し活は時代に合っているといえます」

記事画像画像素材:PIXTA

――社会に定着してきた推し活は、将来的にどのように変化していくと考えられますか?

「今はSNSで“推し”の普段の生活を知ることができるなど、距離が近くなっていますが、これからのデジタルの進化によって、さらに距離は縮まると思います。メタバース(ネット上の仮想空間)で“推し”と同じ時間を共有できたり、どのように応援すれば“推し”のアバターが喜んでくれるかを、AIが教えてくれたり。こうした最新技術により、推す側の満足度が上がれば上がるほど、ますます推し活にハマる人が増えていくと思います」

【プロフィール】
牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
東京生まれ。世代・トレンド評論家。立教大学大学院(MBA)客員教授。著書を通じて “おひとりさま”“草食系男子”などの言葉を広めた。近著は「恋愛しない若者たち」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「若者たちのニューノーマル」(日経プレミアシリーズ)、「恋愛結婚の終焉」(光文社新書)など。「サタデーウオッチ9」(NHK総合)「ホンマでっか⁉TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビの番組コメンテイターとしてもおなじみ。
マーケティング会社・インフィニティ
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(取材・文/伊沢晶子)