世界が絶賛する葉っぱ切り絵アーティスト「かわいい生きものよりヘンテコなものが好き」

公開: 更新: テレ東プラス

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一枚の葉っぱに、生きとし生けるもののファンタジーあふれる世界を描き出す“葉っぱ切り絵アーティスト”リトさん。日本のみならず世界中にファンをもつリトさんが、初のストーリー絵本「まねっこカメレオン」(講談社)を出版。また今夏、これまでの軌跡を追った作品展も開催された。

発達障害のひとつADHD(注意欠陥・多動性障害)との診断をきっかけに、美術とは無縁ながら“過集中”の特性を活かしてアートを仕事にすると志してから5年あまり、SNSの投稿を中心とした創作活動について話をうかがった。

【動画】リトさんにとって「生きる」とは?

初めてのストーリー絵本


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――これまで“作品集”は出版されていましたが、今回の「まねっこカメレオン」はリトさんにとって初のストーリー絵本です。どんな経緯で絵本になったのですか?

「葉っぱ切り絵の作品ひとつひとつにストーリーがあります。カエル、クマ…などいろんな生きものが様々なストーリーを繰り広げる中で、唯一、出てくるたび“まねっこする”というテーマが一貫しているのがカメレオンでした。“カメレオンくん”を主人公にした連作は、みなさんも喜んでくださるので作り続けていました。作品が溜まった時に、出版社の方から“これを繋げたらひとつのお話になるのでは”とご提案いただいて、“確かに絵本になりそうだ”と思ったのがきっかけですね。

これまでは“作品集”だったので、初めて“絵本”になって書店の絵本コーナーに並んでいるのを目にしたときは、本当にうれしかったです。SNSで葉っぱ切り絵を見たことがない子供たちにも、“絵本”として知ってもらえる機会ができたことは大きいですね」

――リトさんご自身もカメレオンが好きだとおっしゃっていましたよね。

「犬や猫、ウサギのようなかわいい動物よりも爬虫類や虫のようにちょっとヘンテコなものが好きで。中でもカメレオンは目がギョロギョロ動くところや体の色が変わったり尻尾がぐるぐる巻いていたり…生きものとしてすごく面白いんですよね。自分で飼ってみたいくらい好きで、カメレオンの作品は葉っぱの切り絵に限らず、そこにたどり着くまでのボールペン画などでもずっと作ってきました」

――かわいい動物より、ちょっとヘンテコなものがお好きとのことですが、カメレオンや虫や蛇などは人によっては怖さを感じるかもしれない生きものです。作品で扱う際に意識されていることはありますか?

「初期の頃は、大好きな変わった生きものをリアルにかっこよく表現したかったんですが、途中で“求められているのはそういうことじゃない”と気がつきました。僕の作品を見てくれる方は女性が多くて、受け入れてはくれているものの、SNSのコメント欄に『実は苦手です…』と書きこみがあったりして。でも、“だから作らない”というのは嫌だったんですね。

“なんで他のかわいい生きものは受け入れられて、ちょっと変わっている生きものは、こうも気持ち悪がられてしまうのだろう?” そう思って調べてみると、いろいろな特性がわかって“地球上の同じ生きもの”として愛着がわいてきます。

だから苦手な人にもかわいらしく見えるように、カメレオンだったら目を子供っぽい感じにしたり、線をシンプルにしたり、いろいろ工夫を凝らして。絵本はカメレオンと小さな虫たちの交流を描いていますが、こちらもできるだけ受け入れてもらえるように意識しました」

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――出版を記念して、リトさんのこれまでを追う作品展(2023年7月26日~8月8日)も開催されました。リトさんの作品を愛するたくさんの人たちと触れ合あわれて、いかがでしたか?

「昨年、これまでの集大成的な作品展をやって正直“やり切った”と思っていたので、今年はガラッと変えて僕の人生のストーリーを追って作品を見せる形にしました。ボールペン画から始まって、試行錯誤していく中で葉っぱの切り絵にたどり着いたことは、取材などではお話ししてきましたが、自分のSNSではあまり伝えていなかったんです。

だから、みなさんすごくビックリされて。『葉っぱの人だと思ったけど、こんなこともやっていたんですね』と、作品を通して変遷を伝えられたことは、とても意味があったと思います。これまで何度も展覧会に来てくれている方たちの目にも新鮮に映ったようで、いろいろな感想を聞けたことがよかったですね」

記事画像葉っぱ切り絵「ぼくにしかできないこと」

――葉っぱの切り絵の展示の中に「ぼくにしかできないこと」というタイトルとともに展示された作品がありましたが、絵本の『スイミー』をもとにしているそうですね。

「小学校の国語の教科書に載っていた『スイミー』の話が印象深くて、ずっと覚えていて。葉っぱでも作れそうだったので題材に選びました。小さな魚の仲間内で自分だけ色が違うことが武器になって、最後にみんなから受け入れてもらう。僕自身と通じる部分がありますね」

葉っぱ切り絵ができるまで


――ほぼ毎日、作品を作ってSNSに投稿されています。作品はどのように作られているのですか?

「“今日は何の日”なのかを調べたり、季節の行事や題材などを参考にして、その日のテーマを決めてから、関連するものや登場人物を、まずは紙にざっくりと描いていきます。スイカを食べるというシチュエーションだったら、“誰にどんな風にスイカを運ばせよう?”“どこで誰にどんな風にスイカを食べさせよう?”と役者を揃えていって。

ある程度形が決まったら葉っぱの裏に下書きをします。…が、最初の想定どおりにはいかないことがほとんどです。葉っぱの大きさも形も全て微妙に違うので、意外と入りきらなかったり、逆にスペースがあまるので余白に描き足したり、そのたびに修正していきます。そこからデザインナイフを使って1ミリ単位で葉っぱを切り抜いた後、撮影して最後にタイトルをつけてSNSに投稿するという流れです」

――葉っぱから構想というより、絵の構想に近い葉っぱを選ぶんですね。

「そうですね。家に100枚以上の葉っぱのストック(ツタとサンゴジュ)があって、その中から絵のデザインがきれいにおさまりそうな1枚を毎回選びます。例えば、キリンは首が長いからある程度高さのある葉っぱを、と。生の葉っぱだと切っているうちに乾燥してパリパリになってしまうので、葉っぱを液体の中につけて加工しています。そうすると柔らかい状態で保管できるので。

時々、葉っぱからどういう作品にするかを考えることもあります。イチョウは切りすぎると何の葉っぱかわからなくなるのである程度形を残すことが大切だったり、モミジは切れるところがすごく少ないので、あの中にうまく収めるのは難しいです」

――リトさんの作品は、世界がさらに広がるようなタイトルもステキです。作品制作より、タイトルをつけるのに時間がかかることもあるとおっしゃっていましたね。

「最長だと日を跨ぐこともあります。タイトルをどうしようか悩みに悩んで気づいたら夜11時を過ぎていたというときには、明日もう一回新たな気持ちで考えようと次の日に持ち越します。せっかく一生懸命つくったのにタイトルで手を抜いて微妙な作品になるのが一番もったいないじゃないですか。だからそこは妥協したくないんです」

――タイトルを考える際に大切にしていることは?

「作品タイトルは状況説明にならないようにするのが大事で、見た人に想像してもらうための言葉の工夫は俳句を詠む人の感覚に、もしかしたら近いかもしれません。どうしてもタイトルが思い浮かばない時は、どういう言葉の使い方があるかを検索することもあります。作品のクオリティを上げることは、その日の限界がありますが、タイトルで少しでも奥深さを伝えられれば作品の魅力を底上げできると思っています。

カメレオンくんの作品は、また別の意味でタイトルを考えるのが大変です。カメレオンくんは小学校低学年くらいのイメージなので、その年頃にあった言葉を探したり、子供たちがどんな感想を抱くのかを想像しながら、自分が子供に戻った気持ちで考えたりしています」

――ジンベエザメや魚が泳ぐ姿を見ている人間たちを描いた「葉っぱのアクアリウム」(2020年)が転機になった作品だそうですが、初めてバズった、その理由をご自身で分析すると?

「葉っぱ切り絵の初期には、細かさを追求して切りすぎてしまって、元の葉っぱの形がわからない時期があって。それだと“葉っぱ”であることの意味がないことに気がついて形を残すようになりました。この残し方、切り方が絶妙に噛み合ったのと、この日は天気がよくていい空で撮影できたこともあって、すべてのバランスがあった瞬間だったのかなと思います。

『いつかはバズる』と思ってやっていたけど、その日がいつ来るのかはわからない。真っ暗な洞窟をひとりでさまよっている状態の中、あの手この手でいろんなことを試していました。だから初めてバズった時に、“自分がやってきたことは間違いではなかった”“やっとここに辿り着いた”という気持ちだったんです。その後、似たような作品をつくっても同じようにはバズらないですよね。投稿のタイミングがあるのかもしれないし、狙ってバズらせるのはなかなかできないです」

後編】では、2008年にADHDと診断されてから、葉っぱ切り絵アーティストという道を見つけ出すまでのお話を。

【プロフィール】
リト@葉っぱ切り絵
葉っぱ切り絵アーティスト。1986年、神奈川県生まれ。ADHDの特性である過集中を活かすため、2020年より独学で制作を始め、SNSへの作品投稿を通じて注目を集める。葉っぱ切り絵コレクション「いつでも君のそばにいる」、葉っぱ切り絵絵本「素敵な空が見えるよ、明日もきっと」、メッセージカードブック「離れていても伝えたい」、葉っぱ切り絵絵本「まねっこカメレオン」(すべて講談社)ほか好評販売中。9月15日(金)「葉っぱ切り絵カレンダー2024 小さな優しい森の春夏秋冬 カレンダー」(講談社)発売。9月13日(水)〜9月20日(水)岐阜県・イオンモール大垣、10月7日(土)〜11月5日(日)長野県・いいづなアップルミュージアムで作品展開催。
公式サイト
X(Twitter):@lito_leafart
Instagram:@lito_leafart

(取材・文/榊原生織)

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