「漆塗り」を愛するアメリカ男性が輪島塗の職人に弟子入り!独自の製法に驚き:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜夜8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回は、「漆塗り」を愛するアメリカ男性が、初めてニッポンを訪れた時の様子をお届けします。

貴重な輪島塗の数々と職人の技に感動! 漆掻きの体験も


紹介するのは、アメリカに住む、「漆塗り」を愛するピーターさん。

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ニッポン伝統の漆を使った器、漆器。漆の木から出た樹液をさまざまな工芸品に塗り、強度を上げ、深みや光沢のある仕上がりにする漆塗りは、日本古来の技術です。
その歴史は古く、約9000年前の縄文時代から使われており、全国各地から数千年前の漆が塗られた器が出土しています。

さらに、器だけでなく興福寺の阿修羅像や唐招提寺の鑑真和上坐像など、国宝の仏像にも漆が。安土桃山時代にはヨーロッパに渡り、漆器=Japanと呼ばれ、大人気に。現在は漆の価格が高騰し、手間暇もかかるため高級品として知られ、1000万円を超えるものも。

「夢に出てくるほど漆を愛している」と話すピーターさんは、2年前から漆器作りに没頭。元々父の影響で大工をしていましたが、家具や木工品に興味がわいて作るようになったそう。そんな時、SNSでニッポンの漆器を発見。そこからインターネットで漆について勉強を始め、今では自分の作品をSNSで販売するまでに。

ここで、ピーターさんの漆器作りを見せてもらいます。作るのは、楓の木のスプーン。楓は漆を塗ると光沢が出て、木目が見やすくなるそう。のこぎりや斧で大まかな形を作ってから、すくう部分をノミで掘り、かんなで曲線を削って紙やすりで仕上げ。ここに「拭き漆」という手法で漆を塗っていきます。

拭き漆に使うのは、日本から取り寄せた、磨くと自然に光沢が出てくる木地呂(きじろ)漆。古着などの切れ端を使って塗っていきます。かぶれないよう手袋をして作業を進め、化粧などで使うコットンで仕上げ拭き。

ニッポンの漆塗りは、風呂と呼ばれる木箱の中で2〜3日かけて自然乾燥させるのに対し、ピーターさんはオーブンを使い1時間〜1時間半ほどで乾燥。「ニッポンの職人さんの中には1年かけて作品を作る方もいますが、この方法なら重ね塗りする漆器でも2週間程度で作れてしまいます」とピーターさん。

1時間乾燥させたら、紙やすりで磨いて滑らかに。そこに漆を塗り重ねていきます。ニッポンでは刷毛を使って塗りますが、ピーターさんはまだ試したことがありません。約5000円もする刷毛を購入したものの、詳しい使い方が分からず、まだ使えずにいるそう。

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漆塗り、乾燥、研磨を繰り返すこと25回、強度と艶がどんどん増していきます。こうして約1カ月の手間暇をかけて完成させた作品は、80ドル(約1万1000円)で販売。しかし、まだ満足のいく売り上げにはなっていません。

ニッポンにはまだ一度も行ったことがないピーターさん。「生涯をかけて漆塗りをしているニッポンの漆職人の方のもとで、漆について本格的に学び、技術を身につけたいです」と語ります。

そんなピーターさんを、ニッポンにご招待! 初来日を果たしました。

向かったのは、「輪島塗」で知られる石川県輪島市。福島、和歌山とともにニッポンを代表する漆器の産地で、街中に多くの漆器店が。起源は室町時代ともいわれ、人々の生活に深く根づいてきました。
輪島塗の特徴は、100年以上持つという頑丈さと優美さ。国の重要無形文化財に指定されている、世界最高級の漆器です。

今回お世話になるのは、江戸末期創業、漆器を製造販売する塗師屋(ぬしや)「大﨑漆器店」。4代目店主の大﨑庄右エ門さんは、4人の職人を率いて輪島塗の伝統を守っています。
ご自宅兼工房は、築100年以上になる、長さ約100メートルの長屋造り。壁や柱、扉に至るまで全て漆が塗られ、一度も修繕することなく建築当時のまま。国の有形文化財に登録されています。

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案内されたのは、これまでの作品を展示するギャラリー。その数なんと1000点! 100年以上前のものも多く、職人の技術の高さに驚いたピーターさんは「信じられない、美しすぎる!」と大興奮。

輪島塗の値段は、製法やその手間によってさまざま。例えば、大正時代に作られたお碗は20万円で、作るのに2年かかるそう。他にも10万円超の湯飲みのセットや30万円超の三段重なども非常に手間がかかるため、高価に。それでも一生モノと考える方も多く、高いニーズがあります。沈金を施した、人間国宝の作品も見せていただきます。沈金とは装飾技術の一つで、のみで模様や絵柄を掘り、その溝に金粉を押し込み装飾する技法。また、漆をつけた筆で模様を描き、金銀の粉を振りかけて定着させる、蒔絵を使った作品も見せていただき「職人さんの情熱を感じます」とピーターさん。

さらに見てもらいたいものがあると、大﨑さんの案内で「石川県輪島漆芸美術館」へ。お目当ては、漆塗りでできた直径1メートルの大型地球儀「夜の地球」。37人の職人が作成し、完成までに5年もかかったそう。大﨑さんは「輪島の漆技術の結集」と話します。

お店に戻り、輪島塗について大﨑さんに教えていただきます。輪島塗は、各工程の専門の職人による分業制。まず、大﨑さんのような塗師屋がデザインして注文。その後は、器の元となる木地作り、大﨑漆器店も担当する漆塗り、そして蒔絵や沈金など加飾の工程に分かれています。

輪島塗がどのように生み出されるのか学ぶため、まずは木地作りの工房へ。お椀などを作っている「辻椀木地木工芸」の4代目・辻正尭さんに作業を見せていただくことに。

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工房の中に入ったピーターさんは「お椀だらけ!」「すごい数だ!」とびっくり。
大量に置かれているのは、荒型と呼ばれるお椀の元となるもので、硬く丈夫で狂いにくいケヤキをよく使うそう。他にもミズメザクラやトチなど、用途によって全国から荒型を取り寄せています。どんな注文にも応えられるように揃えていったところ、大量になってしまったそう。

まずは、この荒型を乾燥。こちらでは、木屑を燃やして燻す燻煙乾燥を行っています。1カ月半、燻し続けて乾燥させることで、水分が抜けて強度の高い荒型に。ゆっくり木の中の水分を抜かないと、漆を塗った後に変形したり、割れたりするのです。

いよいよ木地作り。荒型を電動ろくろにセットして、裏引きかんなでお椀の外側を削っていきます。お椀は、内側が表、外側が裏なので裏引きというそう。

続いて、目とりかんなで形を整えます。簡単に削っているように見えますが、かんなの角度、力の入れ加減を間違えると、かんなが吹き飛んで大けがをすることも。仕上げに、のこぎりの刃で作った特製の小刀で、毛羽立った部分を取り除きます。

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次に削るのは、お椀の内側。底は厚めに、縁は薄く削ります。縁の幅は約0.5ミリ。刃の入れ方を少しでも間違えると割れてしまい、1カ月半の作業が全て台無しに。辻さんの削った木地を見せていただいたピーターさんは「素晴らしい! こんなにデリケートなものとは知りませんでした」と大感動!

輪島の漆器はさまざまな工程で塗り重ねるため、分厚く重くならないように、薄い木地が良いとされています。「極力、木地は薄く軽い方が使うお客さんにとっては使いやすい器になります」と辻さん。最後にピーターさんは、感謝の気持ちを伝えました。

辻さん、本当にありがとうございました!

続いて、輪島の山間に。漆の樹液を採取する「漆掻き」を体験させていただくためにやってきました。漆掻きの職人は全国で50人にも満たないそうで、輪島で一人だけ生業にしている方が、漆掻き職人の長平勇さん。早速、漆掻きに同行させていただきます。

漆掻きをするのは、車で30分の山。樹齢10年以上の木から樹液を採取します。山に入る際、長平さんから「肌をしっかり守って。絶対かぶれんように」と注意が。漆といえば触るとかぶれる植物ですが、原因は葉の中や樹液に含まれるウルシオールという成分。触れるとアレルギー反応を起こし、かぶれてしまうそう。

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漆かんななどの道具を持って山の中へ。漆掻きのシーズンは6〜10月。樹液を取った印となる線を4日ごとに入れていきます。
この日は6回目の採取。上に行くに従って線が長くなるのは、採取する樹液の量を少しずつ増やすために、漆の木を慣らしているから。

まずは「かまずり」という工程。かんなを入れやすくするため、鎌で幹を平らにならしていきます。次に漆かんなを打ち込み、樹皮に深く傷を入れます。この傷を「辺」というそう。続いて漆かんなの「めさし」という部分で、辺をつけたところに、樹液が出やすいよう傷をつけます。しばらくすると、傷から漆が垂れてきました。

「すごい! こんなに漆が出るとは思いませんでした」。最盛期の7月には、傷をつけた瞬間に漆が溢れ出てくるそう。こうして出た樹液は、へらを使って採取。初めは乳白色で、時間が経つと赤茶色に変色してきます。

樹液は、1本の木から約200グラムしか取れない貴重なもの。しかも1本の木から取れるのは一回きりで、掻き終わって秋になると伐採してしまいます。切り倒すと根から芽が出て、10年後、また搔けるように。取れた漆は布に入れて濾過し、木の皮やゴミを取り除けば、漆塗りに使えます。

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ピーターさんも漆掻きに挑戦。最初は深く削りすぎてしまいましたが、長平さんにアドバイスしていただきながら樹液を採取し、「初めてなら上出来」と褒めていただきました。

現在、国内の漆のシェアは約9割が外国産。輪島で唯一の職人である長平さんは、1日に12本の木から漆を採っていますが、たった一人のため、その量には限りが。国産の漆は大変貴重で、75グラムで6万円もすることも。

以前は造り酒屋に勤めていた長平さん。酒屋が倒産し、当時廃れていた漆掻きを復活させる輪島市のプロジェクトに参加。漆の生産地・岩手県で修業して輪島に帰ったものの、最初はツテがなく、漆の木を植えることができず収入が不安定に。何度もやめようと思ったそうですが、「輪島は漆器の産地やから(漆掻き職人が)一人はおらにゃ」という思いから、職人を続けてきました。「仕事に誇りをお持ちで本当に素晴らしいです」とピーターさん。

別れの時。お世話になった感謝を伝え、ピーターさんが住んでいる所の先住民が使っていた矢尻のレプリカをプレゼント。すると長平さんからお土産として、貴重な輪島産の生漆が!「とてもハッピーです!」と大感激のピーターさんでした。

長平さん、本当にありがとうございました!

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