お世話になった“ニッポンの切り絵作家”をブルガリアへ逆ご招待!:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜夜8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回は、過去来日した外国人のもとへ日本人が訪問。「ご招待した外国人からの恩返しスペシャルinブルガリア」をお送りします。

切り絵を愛するブルガリア女性が、オリジナル作品に挑戦


紹介するのは、ブルガリアに住む「切り絵」を愛するアネリアさん。

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紙を切り、文字や絵を表現する切り絵。色紙を使ったり照明を入れたりと、作品のスタイルはさまざまです。奈良時代の神棚に飾るキリコが始まりともいわれ、和紙や染め物の型紙と合わさることで、ニッポン独自の伝統的なアートへと発展しました。

アネリアさんに切り絵を作るところを見せてもらうと……まず、白と黒の紙を用意して題材を決定。輪郭になる部分を残し、細かく切り抜いていきます。切り抜いたらパーツごとに色紙を選び、台紙と貼り合わせると完成です。

「切り絵はカッターの切り口によって作品の良し悪しが決まります」とアネリアさん。そのため、カッターをニッポンから取り寄せるほど。

インターネットでニッポンの切り絵を見つけて以来、夢中になっているアネリアさんですが、まだ一度もニッポンに行ったことがありません。そんなアネリアさんを、ニッポンにご招待! 3年前、念願の初来日を果たしました。

向かったのは滋賀県米原市。切り絵作家の早川鉄兵さんにお世話になります。
今年4月、京都・東本願寺で行われた「親鸞聖人展」で現代作家のひとりとして作品を展示。自然をテーマに独自の世界観を切り開き、体験できる切り絵など、多くの人から愛される作品を制作しています。

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早速、作品作りを見せていただくことに。紙を半分に折って切る早川さんは、下絵を描かずにカッターを入れ……切り始めてわずか10分、出来上がったのは狐の顔。よく見ると、他の動物や植物がたくさん! 早川さんの作品は左右対称なのが特徴。3歳の頃、母親に教わった切り方を今も続けています。

そんな早川さん渾身の作品が、創建約400年の大通寺の本堂の正面にあります。障子18枚分の巨大な切り絵で、親鸞聖人を中心に、さまざまな動物たちが織りなす命の循環がテーマ。制作に丸一年費やした大作を前に、「言葉が出ません」とアネリアさん。

本堂の中から切り絵を見てみると、陽の光によって切り絵が浮かび上がり、幻想的な風景に。表と裏、どちらから見ても魅力を堪能できる。それが早川さんの作品なのです。

初来日の記念に、初めてオリジナルの作品を制作することになったアネリアさん。影響を受けたという早川さんの切り絵の行灯は、1面ずつ違う動物が描かれ、4面全てが線でつながっている難易度の高い作品。この、高さ1メートルの切り絵行灯作りに挑戦します。

まずは下絵。イメージを早川さんに見ていただくと、「どこを黒にするか白にするかが結構重要になってくる」とアドバイスが。同じモチーフでも白い部分が多いと明るく、黒い部分が多いと重厚に。そのバランスが大事なのです。
オリジナル作品を作ったことがないアネリアさんは、下絵を描くのに四苦八苦。気づけば、作業開始から5時間が経っていました。その夜は、アネリアさんの歓迎会。早川さんの奥さんが山里料理を作ってくださいました。メインは、地元の猟師さんからもらった熊肉のすき焼き。山の幸に舌鼓を打ち、交流を楽しみました。

翌日から早川さんは自宅を離れて仕事をするため、一旦お別れ。そこで、切り絵アーティストの福井利佐さんにお会いするため、東京・阿佐ヶ谷にやって来ました。
福井さんはこれまで、中島美嘉さんのCDジャケットや、桐野夏生さんの本の表紙を担当。世界各国で個展を開くなど、ニッポンを代表する切り絵アーティストの一人です。

アネリアさんが、作者がわからなくてずっと気になっていたという、鯉が餌に群がる様子を描いた切り絵。こちらは福井さんの作品で、黒の輪郭は一枚の紙から切り抜いたものだそう。
福井さんにアネリアさんの作品を見ていただくと、「線はきれいに切れている」と誉めてくださいました。しかし、「私はいつもお手本に沿って切っているだけなので、つなぎに自信がないんです」という悩みも。

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「つなぎ」と呼ばれる切り絵ならではの手法は、全ての絵をつなぎ、一枚の紙で成立させるために必要な技。福井さんはワークショップでつなぎを教える際、日本語をテーマにしています。特にひらがなは、書き順通りにつなぐことで自然なつなぎに。言葉のイメージからアクセントを加えることで、オリジナル性のある立派な作品になります。

例えば「はる」という文字。福井さんはこの2文字をつなぐため、蝶々やそよ風のような線を描きました。「意味を持たせてパーツをつなげるのが大事なんですね」とアネリアさん。早速、四季の「あき」をテーマに挑戦します。

ニッポンの紅葉が好きだというアネリアさん。作業開始から2時間、福井さんに教えてもらいながらもみじを散りばめ、2文字を美しくつなぐことができました。つなぎを苦手と思っていたアネリアさんですが、考えるのが楽しくなってきたそう。

福井さんにつなぎを教えていただいたアネリアさんは、その夜、今度は千葉県鎌ケ谷市の福田理代さんのもとへ。アネリアさんが憧れていた福田さんの作品は、白と黒のコントラストと、紙を切り抜いて作ったとは思えない細かな切り込みが特徴です。

わずか5センチの小さな作品の中で、一番細いところは0.2ミリ! ごく普通のコピー用紙を使い、耐久性の限界に挑戦。1円玉の大きさの中に63本もの線が。カッターの刃先を使い、白い部分だけを切り落とす様子を見せていただいたアネリアさんは、「ものすごい集中力です」とびっくり! けん玉の世界チャンピオンだという息子さんともお会いし、親交を深めました。

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その後は、早川さんと約束した行灯の制作を再開。「この旅は自分が成長するチャンスだと思うので、絶対にやり抜きます!」と意気込みます。

姿を現したのは、ブルガリアの国章にも描かれているライオン。顔の部分は、早川さんから教わった左右対称に。それから3日間、東京観光を全てキャンセルして作業を続け、完成した作品を持って、再び滋賀県へ向かいます。

早川さんに見ていただくと、「いいですね! 短い時間ですごくいいものができたと思います」とうれしい言葉が。ライオンのたてがみを葉っぱにすることで、自然な形で他の動物とつながっています。

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出来上がった行灯は、大通寺でお披露目。ライオンの目には和紙でブルガリアの伝統的刺繍模様をあしらい、ニッポンとブルガリアの動物たちを切り絵で見事に表現しました。
「私がニッポンに来た証をこのような形で残せたのは幸せです。早川さんに感謝しています」。

別れの時。早川さんにお世話になった感謝を伝えると、日本製のカッターの刃を800枚プレゼントしてくださいました。するとアネリアさんは、花を咲かせている木に紐を結びます。ブルガリアの古いおまじないで、こうするとまた同じ場所に帰ってこられるそう。

「うれしいですね。ぜひ帰ってきてほしい」と話す早川さん。アネリアさんは「この場所を忘れません」と別れを惜しみました。

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あれから3年、アネリアさんから番組宛にお手紙が。ニッポンで出会った切り絵作家の展示会を開催するそうで、「皆様の最高の作品をブルガリアに送ってください。作品と共に皆さんもぜひブルガリアにお越しください!」と綴られていました。この手紙を読んだ早川さんは「行きます!」と即答!

実はアネリアさん、長年イベントの仕事に携わっており、そのほとんどがニッポンに関連したもの。切り絵以外にも多くの日本文化をブルガリアに紹介。日本大使館と連携する組織「日本友の会」にも所属し、事務局長を務めています。

こうした功績が認められ、ニッポンとの親交をより深めたと、外務大臣表彰を受賞。お世話になった方と、切り絵展を開催したいという夢を持っていたのです。

今回都合がつかなかった福井さん、福田さんも、快く作品を提供してくださることに。
早川さんは17点、福井さんは9点、福田さんは12点と、計38点もの貴重な作品が海を渡ります。100万円を超える高額な作品もあるため、美術品輸送の専門業者に依頼。湿気が大敵の切り絵は、空輸で運ばれます。

そして今回、早川さんはブルガリアで新たに作品を制作することに。制作期間はわずか3日! 果たして間に合うのでしょうか?

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