「ブラジルで一人暮らす父に会いたい!」ニッポンに住む娘一家が、25年ぶりに実家へ!:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜夜8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回はイタリア男性が初来日した様子、さらに「遠く離れた家族に会いたい! ナイショで里帰り応援団inブラジル」完結編をお送りします。

人間国宝も認める職人に、尺八作りを学ぶ


紹介するのは、イタリアに住む、「尺八」を愛するヤコポさん。

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ニッポンの伝統楽器、尺八。真竹から作られ、標準的な長さである一尺八寸(約54センチ)が名前の由来。奈良時代より雅楽に用いられ、江戸時代に全国を練り歩く虚無僧によって庶民へ浸透しました。
近年は、洋楽をカバーした尺八曲が音楽配信チャートの1位に。世界でも珍しい自然素材の楽器の音色に注目が集まっています。

ヤコポさんが尺八と出会ったのは10年前。動画サイトで耳にした音色に一瞬で心を奪われ、すぐに購入。ところが、どれだけ吹いても音が出ず、びっくりしたそう。唇の両端をつり上げるように吹くのが音を出すコツで、首を振ってビブラートするのだとか。

口から出す空気を震わせて音を出す尺八は、滑らかに音を上げたり下げたりできますが、 指孔は前の4つと後ろの1つのみ。たった5つの穴で2オクターブ以上の音階を奏で、息のスピードや抑え方で音を調節します。昔から「首振り三年、コロ八年」といわれるほど、コロコロと良い音が出せるまで時間がかかる楽器なのです。

ヤコポさんは、尺八作りにも挑戦しています。使うのは、叔母・イシデさんのお宅で栽培している真竹。イシデさん夫婦が営むブドウ農園で、蔦を絡ませる支柱に使うために育てています。
尺八は1本ずつ形が異なるため、奏者との相性がとても大切。「自分で作って好みの音が出るように調整するのも、あるべき姿だと学びました」と話します。

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尺八作りの作業を見せてもらうことに。根っこの部分を切り落とし、根から七節目でカット。電動ドリルで節に穴を開けたら、ガスバーナーで炙り、竹に含まれた水分を抜きます。耐久性が高まり、油も抜けるので、ツヤ出しの効果もあるとか。

向かったのは、自宅地下の食品倉庫を改装した工房。「ここだと子どもたちが暗いのを怖がって来ないから、安心して尺八作りに打ち込めます」。
予熱が残っているうちに、万力で竹の曲がりを調整。乾燥させるために、しばらくこの地下の部屋で寝かせます。寝かせる期間は、今回の竹だと3年ほどだそう。

ここからは、指孔などを開ける重要な作業。ところが、尺八作りに没頭するあまり、50本近く作ったもののうまくいかず、熟成させていた竹が在庫切れに……。この先の作業を見せてもらうことはできませんでしたが、ヤコポさんは「尺八作りを学んで、子どもたちに受け継ぎたい」と話します。

そんなヤコポさんを、ニッポンにご招待! 。

向かったのは、群馬県みなかみ町にある「尺八工房 筦山(かんざん)」。ヤコポさんが大ファンだという、二代目木村筦山さんの工房です。筦山さんは、父親である初代木村筦山さんのもとで修業を積み、人間国宝の山本邦山氏からも教えを受けた、日本を代表する尺八作りの巨匠。

憧れの筦山さんと対面したヤコポさんは、持参した筦山さん作の尺八を出し、「僕は地無しの尺八が好きで自分でも作っていますが、筦山先生の作品に出会ってから、地有りにも興味を持つようになりました」と語ります。筦山さんもうれしそう!

尺八は、大きく分けて「地有り」と「地無し」の2種類。地無し尺八とは、切り出した真竹の節を抜き、中にほとんど手を加えないもの。地有り尺八は、竹の中に漆や石の粉を水で溶いた塗料を塗り、滑らかにしたものです。

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地無しの音は素朴で繊細、地有りは中を滑らかに仕上げているため音が反響し、クリアな音に。また、地有り尺八は、尺八が二つに分かれる「中継」と呼ばれる加工が施されていることが多く、持ち運びがしやすいようになっています。

筦山さんが作るのは地有り。標準の長さは一尺八寸、54センチ。短いほど高音、長いほど低音に。一般的には3〜5万円ほどですが、筦山さんの作品には一つ60万円のものも!

ここで、筦山さんから地有りの作り方を教えていただけることに。先代も一緒に、尺八作りに協力したいと許可をいただいている、群馬県内の竹林に向かいます。この地域は寒暖差が大きいため硬くて肉厚な真竹が育ち、音の反響が強く上質な竹がとれると、尺八職人からも評価が高いのです。

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先代が見つけた竹は、下の方に粉が。表面に水垢がつき、粉を吹いた竹は、2年以上経った尺八向きの竹だそう。尺八の音の響きに重要な、管尻と呼ばれる根の部分をきれいに残すため、斧で丁寧に掘ります。斧を振るいながら「土がとても硬いですね」とヤコポさん。根が詰まっているのは、上質で尺八に適した竹の証です。

この日は、4本の竹を採集。工房に戻り、泥を落としたら余分な根を全て落とし、コンロの火で炙る「油抜き」を行います。ヤコポさんがイタリアで使っていたガスバーナーでは火力の調整が難しく、竹を焦がしてしまい音にも影響が。弱めの熱で炙り、時間をかけてゆっくり油や水分を抜いていきます。「僕の失敗はここだったんですね!」とヤコポさん。

水分をしっかり抜いたら、日陰干しに。5年以上日陰で乾燥させることで、竹の中の水分がゆっくりと蒸発。こうしてようやく、尺八に適した真竹になります。

筦山さんから作業着をお借りして、いよいよ尺八作り。使うのは、5年熟成させた群馬の真竹です。
まずは、竹の曲がりを矯正。まっすぐな方が、息が通りやすくきれいな音色を生むそう。コンロで熱を加えた後、万力で圧力を加えてゆっくり矯正し、固定したまま30分。続いて根の部分にヤスリをかけ、水平にします。

作るのは、地有りの尺八。長さを測って半分に切断し、中の節を落として粗めのヤスリで滑らかに。これに、ホゾを入れます。ホゾとは、尺八の上下管をつなぐ、樫の木をくり抜いた突起。ホゾがピッタリはまるよう、上下管の内径をノミで削って調整していきます。ヤコポさんも、ホゾを入れる工程に挑戦。イタリアで作っているのは、中継がない地無しの尺八のため、この工程は初体験!

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5年寝かせた群馬の貴重な真竹を使わせていただき、筦山さんに微調整していただきながら削っていきます。「これは難しいですね! 力加減が本当に難しい」と苦戦しながらも、少しずつコツをつかんできた様子。

木村さんからOKをいただき、 続いて指孔を開ける工程。正確に位置を測り、寸分たがわぬ場所に開けなければ、良い音は出ません。機械で指孔を開ける作業も挑戦させていただきますが、ヤコポさんは「不安ですね……」と話します。

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失敗すると、5年寝かせた真竹が台無しに。少しのズレも許されないのですが、わずかなズレが……。筦山さんが開けたものと比べると、下の孔が微妙に左にズレてしまっています。「すみません、ダメにしてしまいました…」と肩を落とすヤコポさんでしたが、この竹は練習用だと知り、「心臓が止まりそうでした」とホッとする場面も。

続いて下管の根の部分、管尻の中央に孔を開けます。地有り尺八の良し悪しを決める最大の山場を残し、この日の作業は終了。

その夜は、工房に併設された宿の食堂で、筦山さんのご家族が集まり、歓迎パーティーが開かれました。腕を振るってくれたのは、筦山さんのお母さん。煮物やお稲荷さんなどの家庭料理を囲み、皆さんとの交流を楽しみました。

翌朝は、宿の露天風呂へ。雪と竹林を眺めながら露天風呂を満喫した後は、工房に戻って作業を再開します。

この日取り掛かるのは、地有り尺八の最も大事な工程「地入れ」。京都の山科でしかとれない土に漆と水をまぜた「地」を、竹の中に満遍なく塗っていきます。

たっぷりと地を入れ、剣と呼ばれる棒を突き刺し、中に薄く膜が残るよう絶妙な力加減でかき出し、乾くまで待ちます。こうして理想の音が出るよう、筒の空洞の幅を調整。2〜3日おいて乾燥させたら、サンドペーパーを巻いた棒で乾いた地を削り、より滑らかに。再び地を塗り、また1日置いて乾いてから中を削ります。

このように「地を塗る」「削る」を繰り返し、試し吹きをしながら何度も調整を重ね、繰り返すこと1カ月以上。ザラザラで凹凸があった竹の中が、輝くほどのきれいな円に!
地有り尺八の美しい音色の秘密は、こうしたこだわりの作業にあるのです。

漆を薄く全体に塗り、しっかりと乾ききったところで、下管にほんの少し地を足して微調整。理想とする音が出るように仕上げていきます。
地塗りが終わったところで装飾を施せば、作業開始から3カ月以上…ようやく尺八が完成! ヤコポさんは「筦山先生の技術に目を奪われるばかりでした」と語ります。

別れの時。「貴重な体験をさせていただき、本当に感謝の気持ちでいっぱいです」と伝えるヤコポさん。筦山さんに、イタリアの名産品パルメザンチーズとバルサミコ酢を贈ります。すると筦山さんは、ヤコポさんが初めて斧を使い、苦労して採った真竹をくださいました。

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「僕たちの仕事っていうのは毎日コツコツ働いていることが多くて、その中で外国の方から認めてもらえたことと、外国から訪ねてくれたことが嬉しかったです」と話し、ヤコポさんとハグをする筦山さん。最後にヤコポさんは、皆さんのために尺八で「アメージンググレイス」を演奏しました。

木村筦山さん、ご家族の皆さん、本当にありがとうございました!

さらにヤコポさんは、憧れの人、地無し尺八奏者の奥田敦也さんに会うため東京へ。奥田さんは、江戸時代から続く尺八本来の音を追求すること50年。地無し尺八奏者の第一人者です。

憧れの人を前に、大興奮! すると奥田さんが、手書きの楽譜を見せてくださいました。尺八の音階は、ドレミではなくロ・ツ・レ・チ・ハで表します。

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とここで、奥田さんから合奏のお誘いが。伝説の奏者との合奏を楽しみ、「こんな貴重な体験ができるなんて、まるで夢のようです」と大感激!

奥田さん、本当にありがとうございました!

この他、京都での虚無僧体験など、尺八を通じてさまざまな出会いがあったニッポン滞在。帰国を前にヤコポさんは、「お世話になった皆さんには、感謝の思いでいっぱいです。尺八大好き!」と話してくれました。

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