安定を捨てて“中小企業の社長”に…新たな事業承継の仕組み「サーチファンド」とは?:ガイアの夜明け

公開: 更新: テレ東プラス

5月5日(金)に放送した「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは、「私に社長をやらせてください!」。
経営者の高齢化と後継者不足が深刻化。 “大廃業時代”の危機が迫る中、「後継者不足の問題を解決する一つの方法ではないか」と、新たな事業承継の仕組み「サーチファンド」に注目が集まっている。
「ガイア」は、この仕組みを使って中小企業の経営者になった人や、経営者を目指す人に密着。社長として新たにチャレンジするやりがいや、経営することの難しさを伝える。

故郷のため…安定を捨てて“中小企業の社長”に


山梨県にアイデア満載の夢のマイホームを建てた高野さん一家。間取りは3LDKで、価格は約2000万円。そこには、住宅メーカーのさまざまな工夫が凝らされていた。

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寝室の隣にはちょっとした書斎、リビングには、車好きの高野さんのために愛車が見られる小窓も。高野さんは、「いろいろよくしてもらって。“次こうしてみましょうか”という案をもらって、感謝している」と話す。

この家を建てたのは、山梨の「ミスターデイク」という会社。1999年創業で、県内に3店舗、売上高は約10億円。“デイク”は“大工”を江戸弁風にもじったもので、甲府市を中心に、リフォームや新築を手掛ける地域密着型の住宅メーカーだ。

去年1月。山梨県内のイベント会場に、「ミスターデイク」の全従業員が集められた。
そこで、親会社「ネクステージグループ」佐々木洋寧社長は、黒字にもかかわらず「ミスターデイク」の売却を発表。経営方針の転換のためだという。
従業員はこの日初めて聞かされた。

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そこに登場したのが、ミスターデイクを買収し新社長になった大屋貴史さん(47)。
「皆さんと生活も仕事も一緒にすることで、山梨を代表するような会社にしたい」。突然現れた新社長に、従業員は驚きを隠せない。

甲府市出身の大屋さんは、妻と小学生の子どもを千葉に残し、25年ぶりに地元に帰ってきたが、そこにはある理由があった。

安定を捨てて“中小企業の社長”に…新たな事業承継の仕組み「サーチファンド」とは?:ガイアの夜明け
かつての活気が失われつつある故郷。大屋さんはシャッターが閉まる商店街を見て、「寂しい。何かできることはないかなとずっと思っていたが、なかなかそういう機会がなかった。少しでも地元の雇用と経済に貢献できればといいなというのが大きい」としみじみと話す。

そこで選んだのが、山梨の企業を買収し、社長になる道だった。東京大学卒業後は、大手広告代理店やコンサルティング会社で経験を積んできた大屋さん。
なぜゼロからの起業ではなく、買収を選んだのか?

「せっかくいいものを持っているのに、なかなか業績が思うようにいかない。そういうケースにピンチヒッターとして入って(事業を)立て直すという方が自分には合っていると思った」。

大屋さんは、日本ではあまり知られていない手法「サーチファンド」で「ミスターデイク」を買収した。サーチファンドとは、経営者を目指す人は、投資家から活動資金を得て買収したい企業を探し、その後企業が決まると、さらに買収資金も投資してもらい、新たな経営者になることができる仕組みだ。

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大屋さんは、投資家の審査で、300人の候補の中から「社長の適正がある」と認められた一人。この取り組みを進める投資会社「サーチファンド・ジャパン」伊藤公健社長は、「(経営者になるには)0から1はだいぶ一般的になってきたが、10を100にするのが得意な人が経営者になる道が少なかった。そういう人がチャレンジできるために、サーチファンドを一般的にしていきたい」と話す。

社長に就任した2日後、大屋さん初出社の日。この日は、工務部と営業部の朝礼それぞれに参加。小さい会社なのに朝礼は部署ごとに行われていたのだ。続いて、従業員と個人面談をし、一人ひとりの声に耳を傾ける。
それから約3週間後。大屋さんは、部署ごとに行われていた朝礼をひとつにまとめていた。
互いの部署で情報共有が必要だと感じたためだ。
そこで大屋さんはある課題に気が付く。お客との契約時に比べ、木材などのコストが上昇し、粗利が減り続けていたのだ。
実は「ミスターデイク」は低価格が売り。そのため高騰した原材料コストを販売価格に反映していなかったのだ。このままでは、赤字に陥る可能性も。

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そこで大屋さんは、「粗利が減るということは、我々の経費も給料も全部粗利から出るので、給料を削ってこれをやっているわけです。早急に直しましょう」と改善を促した。

去年3月下旬。大屋さんがやってきたのは、「ミスターデイク」が勝負をかける新築のモデルハウス。間取りは3LDKで、価格は1900万円~。ターゲットはファミリー層。この日はお客を招いて見学会が行われていた。
大屋さんは、上棟式の疑似体験ができるなど、さまざまな仕掛けを用意していた。

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イベントから約1カ月後。大屋さんは経営状況などの報告のため状投資会社と打ち合わせ。そこで大屋さんが口にしたのは、キャンペーンに力を入れた新築モデルに思うほど注文が入っていないことだった。そこで大屋さん、新たな収益の柱を探すため動き出すことに。

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向かったのは、「ミスターデイク」が施工中の現場。ここは築100年以上の空き家だったが、家の良い部分を残しながらリノベーション工事の真っ最中。
実は山梨県は空き家率日本一。
そこで大屋さんは、空き家問題の解消と地域の活性化、そして売り上げアップを狙うことに。

その後、当面は新築ではなく、リノベーションに力を入れるという新たな経営方針を従業員へ伝える。
従業員たちは急な方針転換に戸惑うが、大屋さんは「みんなのモチベーションはすぐに上がらないと思う。成果をあげられるかどうかは僕の責任なので、半年後にはみんなの目が輝いているようにしたい」と前に進むことを決意。

約4カ月後。大屋さんに、願ってもないチャンスが舞い込んだ。ぶどう農家から、農園で働く若者たちの住まいについて相談を受けたのだ。

「従業員の半数は県外から移住して農業をやりたいという思いを持っているので、せっかく地方にきたんだから、空き家を活用した生活ができるといい」と空き家を活用したいというのだ。

しかし、なぜか浮かない顔の大屋さん。一体何があったのか…。

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子どもたちの「未来を生きる力」を育てるために…


滋賀・草津市。黒澤慶昭さん(37)も、サーチファンドを利用して、去年2月に念願の社長になった一人。

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黒澤さんは数千社を調べ上げ、デジタル教材の開発と販売を手掛ける1992年創業の「タオ」を買収。家族を東京に残し、単身で滋賀にやってきた。
前社長の井内良三さん(64)は、「事業承継によって起業って虫のいい話だと思った。事業承継は受け継ぐが、起業はゼロから始める。ゼロから始めるのはしんどいので、それを飛ばして起業はずるいなと思ったのが最初」と話すが、黒澤さんの熱意に押されて売却を決意したのだという。

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「タオ」のデジタル教材「天神」は、学問の神様・菅原道真から名付けられた。主なターゲットは小中学生で、全国の学校や家庭などで使われ、イラストや効果音で、学習しやすく工夫されている。

黒澤さんには、「タオをもっと成長させられる」と考えていることがあった。

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ライバルが販売する0~4歳向けの教材は紙などアナログが主流だが、タオはデジタル教材で売って出ようというのだ。少子化で市場の縮小が予想される中、勝算はあるのか。

「お子さんの数は減っていると思うが、幼児教育ニーズはどんどん強まる。教育熱心な親御さんも増えている」。黒澤さんは、0~4歳をターゲットに、新たなデジタル教材の開発を進めることに…。

そんな中、うれしい知らせが…。果たして黒澤さんが、「経営者をやって良かった!」と言える日は来るのか――。