アメリカ男性が、江戸前寿司の仕込みと握りに挑戦!職人さんとの絆に感動の涙:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜夜8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回は、アメリカ男性とハンガリー男性が初来日した様子をお送りします。

136年続く老舗の寿司店で、仕込みと握りを学ぶ


紹介するのは、アメリカに住む、「寿司」をこよなく愛するエリックさん。

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世界に誇る和食の代名詞、寿司。その起源は、塩と米で乳酸発酵させた鮒ずし。そこから魚に塩と酢をあてた押しずしに発展したとされ、江戸時代後期には握った酢飯に具材をのせる握り寿司が登場。
冷蔵庫もない時代、江戸湾で獲れた魚介に「締める」「漬ける」「煮る」などひと手間加えることで、鮮度を落とさず食べられる江戸前寿司が大人気になりました。

エリックさんが江戸前寿司に惹かれた理由も、アメリカでは新鮮な魚がなかなか手に入らず、江戸前寿司のひと手間加える技術が必要で、理に叶っているから。
さらに、寿司に興味を持ち始めた2年前、医者から痩せるように勧められ、ヘルシーな寿司を毎日食べるには自分で握るしかないと思ったそう。

ニッポンにはまだ一度も行ったことがなく、独学で江戸前寿司の研究に没頭。独身で在宅勤務も増え始めた頃でしたが、握り寿司生活のおかげで、100キロあった体重が2年間で80 キロに!

ここで、エリックさんの握りの腕前を見せてもらうことに。
まずはシャリ作り。硬めに炊き上がるよう水は少なめにし、鍋を火にかける前に昆布を入れます。昆布に切り込みを入れると旨味が染み出し、美味しく炊けるそう。炊き上がったらボウルに移し、寿司酢3、純米酢2の割合にしたお酢を加えます。

続いて、ネタの仕込み。醤油・みりん・酒を合わせて火にかけ、アルコールを飛ばした煮切りに、筋に対してほぼ直角に包丁を入れたマグロを15分ほど漬けておきます。その間に、鯛の昆布締めも。昆布に塩をふって鯛を挟み、袋に入れ、空気を抜いて冷蔵庫で3時間ほど寝かせます。

仕込みが終わったら、いよいよ握り。人差し指と中指で押さえて、180度方向転換するのがコツだそう。また、シャリの真ん中を少しへこませると形が整いやすくなり、空気を含ませることで、口の中でほどけるとか。

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最近練習中の玉子焼きも作り、しめ鯖や煮ホタテ、ゆで海老がのった七貫盛りが完成!
しかし、まだ満足がいく出来には程遠いようで、「僕の握り寿司は趣味程度で自己満足でしかありません。もっと本物に近づけたいんです」と話します。

寿司職人の元で、シャリの作り方や新鮮な魚の捌き方、握りを学びたい。そんなエリックさんを、ニッポンにご招待! 初来日を果たしました。

寿司を学ぶにあたって、清潔に見えるようにと無精ヒゲを剃り、伸ばしていた爪も整えてきたエリックさん。向かったのは、東京・日本橋にある創業136年の「都寿司」。五代目の山縣秀彰さんにお世話になります。

念願だった本場ニッポンの江戸前寿司をいただきます。
まずは、小鯛の昆布締めから。小鯛は鯛の幼魚で「春子(かすご)」ともいい、江戸前の代表的な寿司ネタのひとつ。小鯛を口にしたエリックさんは、「美味しい! アメリカでは絶対経験できません」と絶賛します。

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続いて、小肌。江戸時代から人気の小肌の酢締めは、細かい包丁さばきが求められる光りものの代表格。さらに、湯引きしてから漬けにしたマグロの赤身も。湯引きをすると、殺菌と同時に表面の細胞が壊れ、醤油が浸み込みやすくなるそう。

ニューヨークのスーパーではまず見ることがなく、ニッポンに来たら絶対に食べたかったという穴子も堪能。細かな骨切りや煮つめ作りなど、江戸前寿司の中でも最も手間がかかるネタです。

玉子焼きもいただき「パンケーキみたいです」と感動! 他にもサヨリやサバ、冷凍でしか食べたことがなかった貝など、江戸前ならではのネタをじっくり楽しみました。

エリックさんが気になったのは、壁の緑の絵。「笹切り」という包丁技術で切り抜いたものだそう。笹切りとは、寿司の仕切りや飾りとして添えられる熊笹や葉らんの飾り切りのことで、現在パックなどに入っている「バラン」も、これを模したものです。

笹切りの特徴は、絵がすべて繋がっていること。包丁の腕を磨くのにも最適な笹切りを、職人歴10年の奈良真貴さんが教えてくださることに。

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挑戦するのは、基本の「関所」という模様。包丁をペンのように持ち、切れ込みを入れること8回。奈良さんは1分もかかりません。
エリックさんも指導を受けながら切れ込みを入れていきます。ちょっと太めになりましたが、初めてにしては上出来!

翌日は、寿司を握るツケ場ではなく、お客さんからは見えない厨房へ。江戸前の基本、「締める」「漬ける」「焼く」「シャリ切り」を教えていただきます。

まずは「締める」。切り身でない魚を捌くのは初めてのエリックさん、生まれて初めてのウロコ取りに挑戦します。小鯛を3枚におろしたら、塩を振って15分。酢で塩を洗い流し、布巾の上から熱湯をかけ、臭みや余分な脂を抜いたらすぐに冷水に。これで下拵えは完了です。ここからは、五代目の仕事。昆布締めは、乾燥したままの昆布にお酢を塗り殺菌。エリックさんは昆布を一度水で戻して塩を振っていましたが、これでは昆布の旨味が逃げ、鯛から水分が出て昆布の味が入りません。下処理をすべて先に済ますのが正しい昆布締めです。

小鯛と昆布を重ねて3時間ほど寝かせれば、昆布締めの仕込みは完了。鮮度を保てるだけでなく、昆布のグルタミン酸と小鯛のイノシン酸、2つの旨味成分の相乗効果が生まれます。「江戸前寿司の仕事は3分の2が仕込み」といわれるほど、仕込みは大切なものなのです。

続いては「漬ける」。エリックさんは切り身を生のまま漬けていましたが、「都寿司」では柵のまま、漬ける前にもひと手間が。赤身に塩をつけて1時間ほど寝かせると、臭みや腐敗の原因になる余分な水分が抜け、マグロ本来の旨味も凝縮されるそう。これを熱湯に入れ、わずか4秒で取り出し冷水へ。水分がある生のままだと、醤油を弾いてしまうのです。

水気をよく切ったら、ようやく煮切り醤油へ。手間をかけることで、醤油の旨味を極限まで染み込ませることができるのです。8時間ほど漬けると聞き、15分しか漬けていなかったエリックさんはびっくり。

次は「焼く」。エリックさんが感動した玉子焼きの作り方を見せていただきます。大きなすり鉢には、白身魚と大和芋、芝海老をすり身にしたものが。そこに砂糖と塩、醤油を加え、一気にすり潰します。

棒を真上から抑えて軸を固定し、持ち手を素早く回転させるのがコツで、混ぜるというより空気を入れていきます。ここに卵を56個、約2.1キロ加えると、重さは相当なものに。
懸命に混ぜていたエリックさんですが、「腕が限界です」とギブアップ。これを毎朝、玉子焼き6枚分仕込むそう。

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生地がよく混ざったら、玉板と呼ばれる専用のフライパンで焼きます。4回に分けて、隅々までムラなく敷くのが秘訣。しばらくすると、パンケーキを焼く時のように気泡が。中に空気が入っているので、温めることで熱膨張するそう。

焼き色で頃合いを見計ったら、生地の下に菜箸を差し込んで浮かせ、一気に裏返します。
熟練の職人技に、「オーマイガー!」と驚くエリックさん。返しに挑戦しますが、残念ながら折れてしまいました。

続いて、すし飯を作る「シャリ切り」。飯台で2升分のすし飯を作るのは、五代目の奥さん・里恵子さん。先代の娘さんで、毎朝4時半から米研ぎをしています。

炊き立てのお米を飯台に開けたら軽く広げ、砂糖と塩を合わせた酢を回し入れます。温かい方が酢が回りやすいので、熱いうちにすぐ酢をかけるそう。混ぜる際には、お米を潰さないよう、切るように。これがシャリ切りと呼ばれる所以です。

ある程度混ざったら急速に冷まし、酸味を飛ばします。うちわでは間に合わないので送風機で冷まし、なるべく平らに。冷めてきたら上下を返し、切るようにして合わせ酢をムラなく浸透させ、おひつに移し替えてシャリに最適な人肌の温度に保ちます。

エリックさんもシャリ切りにチャレンジ。最初は苦戦していましたが、里恵子さんから「上から押さえつけないで」とアドバイスをいただき、少し感覚をつかめたよう。皆さんのおかげで、仕込みの基本を学ばせていただきました。

その夜は、都寿司にお酒を卸している酒屋さんの角打ちスペースで、エリックさんの歓迎会。お酒を楽しんでいると、バースデーソングが! 実は、初来日を果たした日はエリックさんの誕生日。そのことを知った皆さんがサプライズを計画してくださったのです。握り寿司の食品サンプルもプレゼントしていただき、大いに盛り上がりました。

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この日は、調理白衣に着替え、特別にカウンターへ。8年は必要といわれるほど修得が難しい握りですが、基本だけでも知ってほしいと、五代目が直々に教えてくださることに。

まずはシャリ玉の作り方から。おひつの中のお米を斜面にして表面から少しずつ取り、軽く握りながら丸めていきます。握る前には、中指の第一関節くらいまで手酢をつけ、両手全体に馴染ませて殺菌するというひと手間も。

使うネタは、アメリカでも手に入りやすい鯛。温まらないように、握る直前まで手のひらにはのせず、親指と人差し指で持ちます。ネタの上にシャリ玉を置き、前後と横を整えたら、転がしてネタを上に。
続いて、横と上下から押して反転。同様に横と上下から押さえれば完成です。手の中でシャリとネタの天地を返す技法を「小手返し」といい、この一連が握りの基本。力を入れすぎず、ネタを温めないようできるだけ少ない手数で握るのがコツです。

エリックさんも五代目に倣って握りに挑戦。しかし、手酢をつけ過ぎたり、力を入れすぎたりと、なかなかうまくいきません。最も美しいといわれる、船底のような扇型のシャリを目指し、山縣さんの指導も真剣そのもの。

用意した最後の一切れ、16貫目を握ると、山縣さんから「一番いいんじゃないですか?」との言葉が。握りの基礎は飲み込めたようです。

別れの時。エリックさんは、「ニッポンの本物の寿司を学べて感謝します。アメリカに戻ったら学んだことを復習し、本物の寿司職人になるつもりです」と、手紙を読み上げます。

感謝を込めて描いた「都寿司」の職人さんたちの似顔絵を渡すと、山縣さんからもお店で使っているのと同じまな板のプレゼントが! エリックさんの名前が入った柳葉包丁などもいただき、「言葉にならない」と涙。さらに奈良さんから、エリックさんの似顔絵の笹切りもいただきました。

「都寿司」の皆さん、本当にありがとうございました!

次に向かったのは、極寒の北海道。「蝦夷前寿司」の職人技を学ぶ模様は、次回お届けします!

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