避妊法、中絶、出産・育児への意識...もしも男性が妊娠するようになれば社会はどう変わる?

公開: 更新: テレ東プラス

テレビ東京で放送中! 斎藤工上野樹里の顔合わせで、予期せぬ男性の妊娠を通して社会の男女格差を描く 、木ドラ24「ヒヤマケンタロウの妊娠」(毎週木曜深夜0時30分放送)。"女性の1/10程度の割合で男性も予期せぬ妊娠をする"という架空の設定で原作の物語を紡いだ漫画家・坂井恵理さんが考える、男女格差を解消するための大切なこととは? また、坂井さんの漫画家としての原点についても、語ってもらった。

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※インタビュー【前編】はこちら

男性も皆妊娠するようになれば社会は変わる?

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――『ヒヤマケンタロウの妊娠』の単行本にも収録されている特別編で、妊娠した主人公・桧山健太郎のパートナーでフリーライターの亜季が「もしも男性も予期せぬ妊娠をするようになったら、世の中は変わるか?」というテーマで記事を書く場面が出てきます。このテーマについて、坂井さんもコラム記事で意見を発表されていますが、中でも「避妊法が今とは大きく変わるだろう」という点にはハッとしました。

「多くの男性にとって妊娠が"他人事"でなくなれば、避妊法は、もっと手軽で安価なものになるかもしれないですよね。男性が自らの妊娠を心配せずにセックスをするためには、必要になってきますから。『ヒヤマケンタロウ~』では男性の妊娠はごく少数という設定にしていますが、もし女性の自然妊娠率と同程度になったら、絶対に避妊法は変わると思います」

――「中絶」に関しても、堕胎した女性が罪に問われる堕胎罪がなくなり、中絶法も簡単で安全なものに変わるだろう、とおっしゃっていました。

「そうですね。女性が妊娠した時に相手が逃げてしまったり、『堕ろせばいいじゃん』などと気軽に言う人もいるのは、現実社会にあることです。それには常々怒りを感じていて『ヒヤマケンタロウ~』では、男女の立場が逆転したらこんな感じなんだということを描きたかったんです」

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――女性にとって妊娠・出産の負担が大きい今の社会を変えていくために必要なことは何だと考えていますか?

「"自分が子育てしていた時は、もっと頑張って泣かせないようにしていた"みたいな考え方で、現在子育て中の人にも苦労を強いるのではなく、みんながもうちょっとずつ優しくなれたら、社会は変わるんじゃないかと思います。もちろん、同時に国や企業が制度を整えるのも必須ですが」

性暴力のようなシリアスなテーマも掘り下げたい

――坂井さんは子供の頃から、漫画を読んだり、絵を描くのが好きだったのですか?

「そうですね。幼稚園ぐらいから、ぼんやりお話を考えながら絵を描くということはしていました。正義の味方の女の子集団の話とか描いたり(笑)」

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――「ヒヤマケンタロウ~」をはじめ、ジェンダーやフェミニズムに関わる作品を多く描かれています。坂井さんが漫画を描く上で、これまでどんな作品に影響を受けましたか?

「私のSF的な作風は、子供の頃好きだった高橋留美子さんの『うる星やつら』の影響が大きいです。高校生、大学生になると内田春菊さんや岡崎京子さんをはじめとした、これまでの少女漫画とは違う、女性の欲望が生々しく描かれた作品をよく読んでいました。『週刊ヤングジャンプ』で連載されていた石坂啓さんの『安穏族』では男女が入れ替わった世界や、政権批判が描かれた短編もあり、作品の中に風刺を入れたりという点で影響を受けていると思います。男性に都合のいい女性が出てくる作品とは違うものが描きたくて、青年誌の『週刊ヤングマガジン』増刊号でデビューしましたが、なかなかうまく行かず女性誌に移って行きました」

――電子出版がスタンダードになるなど、漫画界も激動の時代に突入しています。作品を描くにあたっての変化はありますか?

「電子で読んでもらうことを考えると、ある程度の読みやすさを担保する必要があるだろうなと思って描いています。スマホの小さい画面で読む人もいるから、あまり手書きの文字を入れないように、なるべく吹き出しも多くしないように、変わったコマ割りにはしないように、ということは意識しますね。

テレ東さんでドラマ化していただいた『シジュウカラ』は、最初から電子で売ることを念頭に置いて設定を考えました。不倫、年下といった分かりやすいテーマにして、その中に自分の言いたいことを織り込んだら想定した通りに電子で読まれたので、ありがたかったです」

――今後、どのようなテーマを描きたいと考えていますか?

「ジェンダーについては、描き続けていきたいと思っています。今まではコミカルなテイストだったので、今後は性暴力のようなシリアスなテーマも掘り下げて描けたらいいですね。あとは女性の歴史にも興味があるのですが、描くにはもっと勉強が必要ですね」

【プロフィール】
坂井恵理(さかい・えり)
1972年生まれ。埼玉県出身。代表作に「ヒヤマケンタロウの妊娠」「鏡の前で会いましょう」「ひだまり保育園 おとな組」(第22回文化庁メディア芸術祭・審査委員会推薦作品)、エッセイ漫画「妊娠17ヵ月!40代で母になる!」など。「シジュウカラ」(第23回文化庁メディア芸術祭・審査委員会推薦作品)は、2022年1月クールでドラマ化された。

(取材・文/伊沢晶子)
※2022年4月23日に公開した記事の再掲です。

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Netflixシリーズ「ヒヤマケンタロウの妊娠」
Netflixで全世界独占配信中

木ドラ24「ヒヤマケンタロウの妊娠」(毎週木曜深夜0時30分)第5話は?

第5話
亜季(上野樹里)とは家族に対する価値観が違いすぎて一緒に子育てできないと告げた桧山健太郎(斎藤工)。そんな中、亜季は妹の結婚式に参加するために久しぶりに帰省すると、周りは男性妊夫に対する冷たい意見が飛び交っていた。女性だから、男性だからという偏見に悩まされながらも、健太郎に一緒に子育てすると伝える。ずっと不安だった健太郎は亜季の言葉に救われ、亜季に結婚しようと伝えるが...。