エロを入口にした女性も楽しめるドラマを!「ギルガメッシュFIGHT」制作の舞台裏

公開: 更新: テレ東プラス

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動画配信サービス「Paravi」で、オリジナルドラマ「ギルガメッシュFIGHT」独占配信中! テレビ東京で1990年代に放送されていた伝説の深夜番組「ギルガメッシュないと」から着想を得た本作に関わった植田郁子プロデューサーにインタビュー。90年代の熱気に勝るとも劣らないドラマ制作の舞台裏をお聞きしました。

エロを入口にした女性も楽しめるものを

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――裸エプロンにTバック、下着姿での「ランジェリー歌謡祭」など、斬新な企画を次々と生み出し、社会現象にまでなった深夜番組「ギルガメッシュないと」(テレビ東京系)をモチーフとしたドラマ「ギルガメッシュFIGHT」。視聴者の反響はいかがでしょうか?

「公開までは"どこまで受け入れていただけるのかな?"という不安も正直あったんですが、ありがたいことに視聴者の皆様の反響もいただき、職場の先輩方にもすれ違い様に『よかったよ...』と囁かれたりして(笑)。『ギルガメッシュないと』のファンの皆様はもちろん、作品として当時を知らない方々も、あの時代の熱量を感じ取ってくださっているんだな、と肌で感じています」

――SNSでも「まさかギルガメに泣かされるとは」、「胸熱」など賞賛の声が続々と。"エロ"をテーマにしたバラエティ番組をすさまじい熱量で作るスタッフたちの奮闘や葛藤を描いた人間ドラマとして受け入れられている印象です。

「主演の藤原(季節)さんが『エロはあくまで入口であって、人間ドラマ、職業ドラマだ』と、おっしゃっていて。それは他の出演者の皆さんや、スタッフみなが同じ思いを共有しながら作っていたので、その反応をいただけるのは本当に嬉しいです。大東(駿介)さん演じる栗田プロデューサーのセリフにも『俺たちはエロ番組を作っているんじゃない。エロをテーマにしたバラエティを作っているんだ』とあるんですよね。また今回、ドラマ『アラサーちゃん 無修正』やバラエティ『極嬢ヂカラ』などを手がけた工藤里紗プロデューサーが全体を引っ張ってくれて。工藤プロデューサーと共に"エロはエロなんだけど、女性も見て楽しめるドラマを目指そう"という思いも掲げて制作しました。でもこれは全て当時の『ギルガメッシュないと』スタッフと同じ"志"なんですよね」

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――加藤ディレクター(藤原季節)のムチャぶりに最初は閉口するものの、その熱い思いにやがてスタッフが突き動かされるなど、熱血漫画さながらのアツいシーンもたくさん。

「基本的には、プロデューサーやディレクターなど、当時『ギルガメッシュないと』に携わった方々の取材をもとにしていますが、加藤の技術さんや照明さんとのぶつかり合いなど、私の経験も少し入れさせてもらったりしています。私の場合は技術さんにこんなことして怒られたな、とかばかりなんですが(笑)。でもこの作品をやってみて"いいものを作りたい"という熱量は、昔も今も変わらないんだなと思いました」

――加藤、栗田もモデルになったプロデューサー、ディレクターがいらっしゃって。

「そうですね。当時のディレクターやプロデューサーの皆さんに取材させていただいて、貴重なお話をたくさん聞かせていただきました。その集合体にフィクションを織り交ぜたのが劇中の加藤であり、栗田というイメージです。加藤も栗田も強烈ですが、取材した皆さんも加藤や栗田に負けず劣らずそれぞれ強烈な個性を持ち合わせていて、昭和ギリギリ生まれの私は圧倒されっぱなしでした」

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――ともすれば「○○ハラ」などと言われる時代、今の若い人には信じられないシーンも多いと思いますが、実際のエピソードも盛り込まれているんですね。

「会議室のシーンは想像も多いですが、熱量はあんな感じだったと聞いています。あと、加藤がAD・北原のお尻に照明を当てて、映り具合を確認するシーンなど、"そんなわけないだろう!"というようなことも当時は真面目にやっていたそうです(笑)。劇中で使っている角材に照明を取り付けた器具も、当時の照明さんが実際の再現して見せてくれて(笑)。取材でお聞きしたおもしろエピソードはなるだけ入っていると思います」

――栗田の「カメラは低く、志は高く」や、加藤の「番組は一度妥協したら腐っていく」などの名言も本当に?

「『カメラは低く~』は、当時のプロデューサーが本当に言っていた言葉で、ディレクター以下スタッフが同じ思いでやっていたと、当時の皆さんが口を揃えて話されるんです。ほかも、そのものを発したわけではないと思いますが、取材の中でお聞きしたことをセリフに起こしたり、今の制作者たちの思いも乗せてまとめたりしました。先の『エロ番組を作っているんじゃない~』にしても、当時のどなたに聞いても同じことをおっしゃるので、純粋にすごいな...と思いました。それだけスタッフ全員がその共通認識のもと、同じところを目指していたからこそ、深夜帯で9.4%という驚異的な視聴率を残したんだと思います」

90年代の"時代感"を出すために

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――そもそもの今回のドラマ企画の成り立ちは?

「Paraviオリジナルコンテンツの企画としてどうかな?と打診を受けて、ぜひ通したいなと思いました。昨今の昭和~平成レトロブームがありますから、Paraviの主な視聴者である20代の女性の方々にも興味を持っていただけるんじゃないかと思いましたし、加えて当時を知る40~50代の方々にも懐かしんでご覧いただけるだろう、と。また、私は『ギルガメッシュないと』を見ていた世代ではないですが、番組が終了してからも今だに話題にのぼる番組で。何かしらの形にできたらいいなとの思いもありました」

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――聞くところによると、「ギルガメッシュないと」と植田さんは浅からぬ縁があるそうですね。

「実は私の入社後の初めての大きな仕事が、『ギルガメッシュないと』をすべて見て、イジリー岡田さんが高速ベロを初披露した瞬間を探し出すというものだったんですよ(笑)。また、『ギルガメ』とは関係ないですが『テレ東音楽祭』でゴールデンボンバーさんのドラムを突き破ってイジリーさんが飛び出すという演出をした際に、私がイジリーさんのスタンドイン(※本番前にテストを行う際の俳優やタレントの代役)をやらせていただいたこともあったんです(笑)。そこで初めて生で高速ベロを見て...そんなこんなでこれも何かのご縁だなと勝手に、強烈に、思い込んでしまって(笑)。これは何がなんでも実現したい!と。ちなみにイジリーさんは今回宣伝大使・ギルガメファイターとして再び出会えたんですが、どちらも覚えていらっしゃって、『ドラムからの出方教えてくれた子、植田さんだったんだ!』って変な会話をしました(笑)」

――メイン監督は名だたるミュージシャンのMVを手掛ける気鋭の映像作家・スミスさん。音楽は「東京2020オリンピック」閉会式も担当したRAM RIDERさん。流行りの80~90年代リバイバルブームを意識したキャッチーな映像と音楽によって、若い世代や女性にも入りやすかったのではないかと思います。

「最初はもっと90年代のギラギラ感を出すという意見もあったんですが、今の時代の若い方や女性にも見ていただきたいとの思いから、映像美に定評のあるスミス監督、スタイリッシュな音楽で知られるRAM RIDERさんのお名前が上がり。お2人ともお忙しい方々ですが、タイトなスケジュールの中、本当に素晴らしい映像と音楽をまとめてくださり感謝しています。手前味噌なんですが、私は本作を見ると、映像と音楽で本当に気持ちが上がるんですよね」

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――リアルタイム世代は懐かしく感じるとともに、当時を思い起こさせる出演者の皆さんに驚いたのではないかと。

「"Tバックの女王"西岡亜紀を演じる真島なおみさんは日焼けサロンに行かれたり、大沢ゆりえ役の出口亜梨沙さんは撮影の間もあの役の佇まいでいてくださり、サワリー尾中役の永野宗典さんは"高速ベロ"の特訓をされたり、出演者の皆さんが真摯に役に向き合ってくださって。それになにより、当時のスタッフの方々から聞いていた出演者さん同士の仲の良さやチーム感みたいなものが、藤原さんや大東さんはじめとしたドラマ出演者の皆さんにも共通していたんです。視聴者の皆様にも、そこがきっと伝わるんじゃないかなと思います」

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――とはいえ、舞台は90年代。表現するのに難しい部分も多かったのでは?

「タバコをスパスパ吸っていた時代を表現するのも大変ですし、ロケをするにも街の至るところに当時はなかったビルなどが建っているので、"撮影場所"も準備してくれる方々が本当に苦労していました。サブ(副調整室)のシーンでも、当時のモニターは4:3で今は16:9なので、監督やカメラマンはじめ、美術さんの総力を結集して撮り方を考えてくれていましたし、その時代にはないデジタル機材なども、あれ?これ映っていていいのか?なんて撮影現場で気づいたりして、上手く隠してくれたり...」

――時代感を出すためのご苦労が多かった?

「ですので、例えば"ディスコ"だとか、そうしたシーンをポイントポイントで入れて、90年代という時代感を伝えられるようにスタッフみんなで考えて。小道具や、ボディコンや男性のスーツなど衣装もそうですね。当時のPCやFAX、テレビなど制作局内にあるものは、美術スタッフさんが当時の型番など調べて揃えてくれて、衣装も衣装部さんがその当時のものをかき集めてくれたんです。ただ、ファッションについては一回り、二回りして今の時代には"アリ"に見えてしまうんですよ。藤原季節さんはじめ、みなさんが着こなしてしまうから...というのもありますが、そこは何が正解かわからなくなってみたり(笑)」

――先日取材させていただいたイジリー岡田さんは「番組制作もいろいろ大変な時代だなとは思いますが、エロに限らず、ちょっと難しいかな...と思う企画にもどんどん挑戦していただきたいです」と、今の若いテレビスタッフにエールを。本作を通じて、制作側として植田さんが感じたことは何でしょうか。

「私自身は若い世代と言うにはおこがましいんですが(笑)。かといってまだまだ若手と言われることも多く。まず私はどこかで"これ本当にいろんな意味で大丈夫かな...?実現できるかな...?"というスタートで企画を考えてしまったりする時があるんですが、"そのアプローチは違う!"と改めて思いました。加藤のように"自分のやりたいことや目指すもの"を栗田の言う"志"を持って、視聴者の皆様に伝わるように必死になることが大事なんだ!と感じたので、そうした意欲は失わないように。時代こそ違えど、あの『ギルガメ』の熱量を忘れないように頑張りたいです」

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――最後に、加藤と栗田の関係に亀裂が入った第4話でしたが、最終回第5話の見どころを。

「エロを入り口に、でもテレビ制作者の人間ドラマが描かれて、少し苦味がある終盤に来て...そして第5話を見ていただくと途中で、『ああたぶんこんなふうに落ち着くんでしょ?』『こんなラストになるんじゃない?』と想像される方もいらっしゃると思うんですが、果たして...?とだけお伝えしてきます!きっと『そうきたか!』『でも、このオチはギルガメらしかったな』と思っていただけるものになっていると思いますのでぜひご期待ください。制作陣一同、いろんな結末を悩んで悩んで、でも今の時代にテレビを制作する人間として出した一つの答えになっていると思います。また最終話に屋上のシーンがあるんですが、テレビ制作に関係していない方々でも、今を生きる人たちの抱えている叫びとかが伝わるシーンだと思いますし、ラストシーン、ラストカット、そこに至る流れ――。私の尊敬する、とある俳優の方が『ドラマはエンタメである限り、ラストには希望を』とおっしゃっていて、その言葉が私の大好きな"志"なんですが...この物語から"何かにかける熱量への希望"と"良きクレイジーさ"みたいなものを改めて感じていただけたら。ぜひ、性別や世代を超えて見ていただけたら幸いです!」

動画配信サービス「Paravi」で、オリジナルドラマ「ギルガメッシュFIGHT」全5話独占配信中!

(取材・文/橋本達典)

【プロフィール】
植田郁子(うえだ・あやこ)
1988年生まれ。東京出身。2013年、テレビ東京入局。「テレ東音楽祭」のチーフADや「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」のディレクター、「警視庁強行犯係 樋口顕」の宣伝担当などを経て、2021年よりParaviに。現在の主な担当番組はParaviオリジナルドラマ「東京、愛だの、恋だの」、バラエティ「喋ってお焚き上げ」「#ヤバババンビ」など。