アウトレットも!ビジネス街も!~「丸の内の大家」が大改造:読んで分かる「カンブリア宮殿」

公開: 更新: テレ東プラス

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買い物だけじゃない!~アウトレットが大変貌

2022年10月20日、埼玉・深谷市に「ふかや花園プレミアム・アウトレット」がオープン。朝から並んだ3700人が一気に突入した。人気のアパレルや雑貨など137の店が軒を連ねている。

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アウトレットの魅力といえば、高級なブランド品が格安で買えることだが、グルメも楽しみのひとつ。地元名産の深谷ねぎを使った「深谷ネギ丼」や、たっぷりのシラスと深谷ネギが使われた「深谷ネギとシラスのスパゲッティペペロンチーノ」が人気だ。

「ガリガリ君」がテーマの遊園地もある。「ガリガリ君」を作っている「赤城乳業」の本社は深谷市にある。手を組んでアウトレットにアトラクション施設を作ったのだ。

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「プレミアム・アウトレット」を運営しているのが三菱地所グループ。全国に10カ所を展開しているが、今、進めているのが、買い物オンリーから体験型への変貌だ。

例えば大阪・泉佐野市の「りんくうプレミアム・アルトレット」は2020年、グランピング体験ができるようにリニューアル。部屋の外へ出てみると、大阪湾が眺められる広いテラスもついており、夜にはバーベキューもできる。食材も用意されているから、手ぶらでもOK。

一方、静岡・御殿場市の「御殿場プレミアム・アウトレット」にはヘリコプターが。去年から遊覧クルージングを始めたところ大人気となっている。さらにアウトレット内に温泉施設「木の花の湯」や「ホテルCLAD」(運営は東急リゾーツ)も作った。

今、三菱地所グループは施設を作ってテナントに貸すだけではなく、中身の充実に力を入れている。ハードからソフトへの転換を進めているのだ。

コロナ禍でオフィス縮小?~巨大デベロッパーの戦略

三菱地所の本社があるのは東京都千代田区大手町1の1の1。従業員約1000人、売り上げ約1兆3000億円にのぼる巨大デベロッパーだ。東京の中心、大手町・丸の内・有楽町エリアに30棟のビルを所有し、含み益は約4兆円。人呼んで「丸の内の大家」だ。

社長・吉田淳一(64)は、コロナ禍でテレワークが進み、オフィスビル需要が縮小するのではないかと危機感を抱いていた。

「今までのように、例えば社員2000人の企業があって、2000人がほぼ毎日出勤してくるわけではなくなるとすると、オフィスが面積を縮小していくとか。世の中のテナントのニーズも変わってきて、『丸の内も安泰じゃない』となった時に、街が沈んでしまうという危機感がものすごく大きかったと思います」(吉田)

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そこで三菱地所は、アウトレットだけでなく、ビジネス街でもハードからソフトへの転換に動き出した。その象徴が東京・大手町に2021年に竣工した「常盤橋タワー」。コロナ禍にもかかわらず、入居率はほぼ100%だという。

入居する古河電工の社員たちがランチタイムに向かったのは、ビルの中にある食堂。実はこれが三菱地所のソフト戦略のひとつ。テナント企業が共用で使える社員食堂を作ったのだ。

使い勝手も工夫されている。注文は自分のスマホででき、注文と同時に支払いも完了。「チキン南蛮プレート」は850円など、周辺の店に比べて値段もお手頃だ。

テナント企業には、自社で社員食堂を持つコストやスペースをカットできるというメリットがある。

「以前の本社では社員食堂を持っておりませんでした。共用の社員食堂があると、ビルから出なくても食事ができるので、『食事難民にならない』のがメリットだと思います」(古河電気工業・鮫島友美さん)

午後7時、営業を終えた社食はネイルサロンに変わっていた。テナント企業の社員が休憩時間や仕事帰りに利用できるよう、さまざまなサービスを提供しているのだ。利用者のひとりは「仕事だけでなく、自分自身の生活をオフィスで充実させることができる」と言う。

「飲食店舗にテナントとして入っていただいた方が、収益が上がる部分は正直、あります。ただ、今後ビルに入居いただく時の決め手だったり、働く従業員の満足度が上がっていく観点で、このような機能が重要だと思っています」(TOKYO TORCH事業部・谷沢直紀)

平日の昼休み。ビルの広場で始まったのはテナント企業対抗の運動会だ。コロナ禍でテレワークが進む中、社員だけでなく、テナント企業同士の交流も図るのが狙いだ。

「盛り上がってつながりができるのはいい機会」「知らない会社もあるので、これがきっかけで何かコラボレーションできたらいい」と、好評だ。

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こうしたソフト戦略で、三菱地所はコロナ禍にもかかわらず、過去最高となる約1550億円の利益を叩き出した。

荒野からビジネス街へ~「丸の内」変貌の歴史

丸の内のシンボルといえば「丸ビル」。去年9月、新たにオープンした「THE FRONT ROOM」は、バリスタが入れるコーヒーや分厚いフレンチトーストなど、早くも丸の内で働く女性たちに人気の店となっている。書店の「TSUTAYA BOOKSTORE」も進出。コーヒーを飲みながら本が読めるシェアラウンジだ。

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時代に合わせてリニューアルする。それが丸の内の歴史だ。

明治時代の丸の内は一面の荒野だった。三菱社の二代目社長・岩崎彌之助は1890年、財政難の明治政府から丸の内の土地を購入。東京市の年間予算の3倍という法外な値段だった。4年後の「三菱一号館」を皮切りに赤煉瓦作りのオフィスビルを続々と建設。ロンドンを彷彿とさせる街並みは「一丁倫敦(ロンドン)」と呼ばれるようになった。

1960年代に入ると、高度経済成長とともに多くの一流企業が丸の内に本社を構え、日本を代表するビジネス街へと発展。丸の内で働くことが憧れとなった。

しかし90年代に入ると、再開発された品川や渋谷などへ移転する企業が続出。一方で丸の内は老朽化で時代遅れとなり、「丸の内のたそがれ」と揶揄されるようになる。

当時、1階には銀行や証券会社が多く入っていたため、午後3時には「シャッター街」に。休日に訪れる人はいなかった。

そこで再開発に着手。2002年から歩道を1メートルずつ広げ、散策しやすいようにした。シャッター街になる1階には人気店を誘致。その結果、休日には郊外からも親子連れなどが訪れるようになった。

さらに仕掛けたのが今や冬の名物となったイルミネーション。ビジネス街に縁のなかった人たちも来たくなる街へと変貌を遂げた。

ビジネス街を大改造1~「有楽町」にアート集団

オフィス街のリニューアルは有楽町エリアと大手町エリアでも始めている。

有楽町駅前にあるオフィスビル。その前を歩く人たちが次々と足を止めていたのはアトリエ「ソノ アイダ♯新有楽町」だ。アーティストが創作活動から展示までを行う。通行人は自由に入ってアーティストと会話もできる。

「作った直後に訪れた方が、感想を言ってくださって、自分の中になかった引き出しや刺激をもらったりするので、すごく貴重な体験だと思います」(アーティスト・島内秀幸さん)

ビジネスパーソンとアートの出会いで何かが起こる。それが三菱地所の狙いだ。

「アートがビジネスに与える影響はものすごく大きいですし、アーティストが集まる所にビジネスパーソンが集まってくる、常に生きている街になると思っています」(吉田)

その隣のビルでは1人の男性が、コピー機にロープやスカーフなどいろいろな物を置き、動かしながらコピーをしていた。加納俊輔さんらの「ザ・コピー・トラベラーズ」はコピー機を使って作品を作るアーティスト集団。海外でも展覧会を開くなど、アート界で注目を集めている。

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三菱地所は去年からこの「YAU STUDIO」を、創作の場としてアーティストに貸し出している。

別の部屋では舞台の稽古が行われていた。演出家の倉田翠さんは今回、有楽町という土地柄を生かしてユニークな出演者を集めた。それはこのエリアで働いているビジネスパーソンたち。アフター5や土日を使って稽古。働く人たちにとっても新たな刺激になっている。

大手町の銀行で働いているという出演者のひとりは、「仕事も凝り固まった概念で考えがちですが、ヒントをもらったり、いろいろな可能性を探りながら仕事ができるのではないかと思います」と言う。

ビジネス街を大改造2~「大手町」に学生が集結

一方、東京・大手町エリアに2022年8月にオープンしたのは「アナザー・ジャパン」。長野県のクラフトビールや岐阜県の焼き物など、全国各地の名産品を扱うセレクトショップだ。三菱地所と中川政七商店がタッグを組んだ。特徴は運営するのが全て学生だということだ。

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2022年3月、東京・大手町のオフィスに学生たちが集められた。三菱地所が大手町で進める新たな街づくりプロジェクト。商品の仕入れから販売まで学生だけで運営する店を始める。約200人の応募があり、全国各地出身の18人が選ばれた。

茨城・大子町の「藤田観光りんご園」を訪れたのは慶應義塾大学の北りり華さん(22)。

「蜜が口の中に広がって、最高級のりんごだと感じました」(北さん)

作っているのは甘みたっぷりでみずみずしい食感が人気の「奥久慈りんご」。加工品も評判で、中でも特製アップルパイは「茨城おみやげ大賞」の金賞を受賞している。北さんの目に留まったのは、りんごを使ったお酒やお酢、シロップなど。「りんご園」の藤田史子さんとの間で仕入れ交渉が始まった。

「藤田観光りんご園さんのりんごをお客様に届けるだけではなくて、ここに来て感じた、空気が澄んでいるとか、史子さんと話して楽しかったこととか、ストーリーも接客に熱量を持って届けたいです」(北さん)

「娘と同じ2000年生まれ。そういう方たちに新しいアイデアとか、改善したほうがいいと言っていただければ」(藤田さん)

大手町の店舗では、早稲田大学の山口晴さん(20)らが、自分たちが仕入れた商品を懸命にアピールしていた。ビジネス街に馴染みのなかった客層も取り込み、大手町に新たな風を吹かせようとしている。

本社をショールームに!?~巨大デベロッパーの新戦略

この日、三菱地所の本社を訪れたのはIT企業「MIXI」の社員、嵯峨勇さんと片平葉奈さん。出迎えたのはビル営業部・菊地有希だ。始まったのは社内見学。部署を仕切る壁がない広々としたフロアを案内していく。

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三菱地所では、2018年に本社を移したのをきっかけに、自社のオフィスをショールームのように公開している。

「小上がりで、靴を脱いで上がるタイプのエリアです。かなり社員の利用率が低いエリアとなっています」などと、実際に使ってみて、イマイチなところもあえて隠さず紹介する。

菊地が廊下で説明していると、「恐れ入りますが、お通しいただきますでしょうか」。本社内のカフェから会議室へ飲み物を運ぶロボットだった。自動ドアもすんなり通過できる。

「いい意味で生々しさがあった。見ていてすごく臨場感がありました」(嵯峨さん)

村上龍の編集後記~
丸の内に本社を置く上場企業数は118社、就業者数が約28万人。このエリアを預かるのが三菱地所だ。事前打ち合わせのとき「三菱地所関連のアウトレットで観覧のためのヘリを飛ばしている」とスタッフが言って、そんな小さなことを三菱地所の社長が把握しているはずがない、とわたしは言った。間違っていた。吉田さんは、すべてを把握していた。観覧ヘリはもちろん、どんなに小さなことでも把握していた。知識の幅と深さに圧倒された。三菱地所の社長は、すべてのことを知っていなければいけないのだと思った。

<出演者略歴>
吉田淳一(よしだ・じゅんいち)1958年、福岡県生まれ。1982年、東京大学法学部卒業後、三菱地所入社。2007年、人事企画部長。2011年、ビルアセット業務部長。2017年、社長就任。

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