<スクープ!>日米半導体”極秘交渉”の舞台裏:ガイアの夜明け

公開: 更新: テレ東プラス

12月9日(金)に放送された「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは、ガイア20周年企画 第9弾「スクープ!ニッポン半導体 復活の道」。
スマホ、自動車、家電...あらゆる製品に使われる「半導体」。世界的な供給不足で極秘に始まった官民一体の「次世代半導体」開発の裏側を独占取材した。

新会社「ラピダス」誕生の裏側を完全スクープ! ニッポンは"次世代半導体"で巻き返す!

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スマートフォンの中を見たことはあるだろうか。プロに分解してもらうと、スマホの心臓部のチップ1つ1つがすべて半導体、通信用の半導体はアメリカ製で、データを保存する半導体は日本製、メインの半導体を含む多くを台湾がつくっている。
自動運転など、将来の技術には欠かせない次世代の先端半導体は、これまで以上に開発競争が激しくなる。

先月、日本経済にとって画期的な発表があった。新たな半導体の国産化を掲げる新会社「ラピダス」の誕生だ。この会社には、「トヨタ」や「NTT」「ソニー」など、日本を代表する8社が出資。動いたのは経済産業省で、成功のカギを握るのは、因縁の相手となるアメリカとの協力だ。
「ガイア」は「ラピダス」誕生までの日米極秘交渉の裏側を独占取材。新会社の誕生を決定づけた100日間に密着した。

今年5月に開かれた日米首脳会談。そこで決まったことのひとつが、互いにチームを作り、次世代半導体を協力して開発していくことだった。
今、世界はスマホなどに使う半導体の多くを台湾の「TSMC」に依存しており、そのシェアは1社だけで世界の約6割を占めるほど。しかしその状況に、暗い影が落とされていた。

「(台湾に対し)決して武力行使の放棄を約束しない」と、中国・習近平国家主席。

中国が台湾の半導体にも手をかけるのか...。日本とアメリカは、ともに半導体の確保に迫られていた。

それから5カ月、「ガイア」は水面下で、経済産業省への取材を続けてきた。
半導体政策を所管する商務情報政策局では、5月の日米首脳会談を経て、次世代半導体政策を手がけるチームが編成された。そのリーダーが、経産省 商務情報政策局 金指壽課長だ。「ガイア」が取材した日の6日後、金指さんは、アメリカで極秘の半導体交渉をすることが決まっていた。

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「まず、日本の最先端の半導体のロジックビジネスがグローバルの世界に戻ってくる。そうした強い意志をアメリカの政府関係者、産業界としっかり共有することが一番の目的になります。正直、今がラストチャンスだと思っています」。

1980年代、日本は半導体の生産で独走していた。そこでアメリカが仕掛けたのが、日米半導体協定。これにより、日本は海外メーカーから20%を輸入するよう求められ、50%を占めていた日本の世界シェアは10%にまで落ち込んだ。

アメリカがどこまで日本と協力して半導体の開発に乗り出してくれるのか、金指さんに一抹の不安がよぎる。

10月10日、ニューヨーク。金指さんとチームが向かった場所には、日米交渉に加わる主要メンバーが集まっていた。中心となるのは、新会社「ラピダス」の会長、東哲郎さん(※取材時は就任前)。東さんは、世界3位の半導体装置メーカー「東京エレクトロン」の社長に46歳で就任、売上高2兆円を超える巨大企業に成長させた業界の重鎮だ。

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「私は以前から、日本で半導体の領域で最先端部分が欠落しているということに対して非常に危機感を持っていました」。

明日からの極秘交渉に向けた作戦会議は、夜遅くまで続いた。

10月11日、交渉初日。政府代表団が最初に向かった先は、ニューヨーク郊外にある「IBM」の研究開発拠点。「IBM」は現在の最先端、超微細の2ナノメートルの半導体の開発に成功。日本は、家電などに使う40ナノ台の半導体しか作れないとされ、世界から10年以上遅れていると指摘されている。

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日本が巻き返しを図るには、「IBM」が持つ先端技術が不可欠だが、実はこの交渉には重要な伏線があった。

訪米前、東さんを訪ねると、こんな経緯を明かしてくれた。3年前、東さんに電話をかけてきたのが、「IBM」の幹部、ジョン・ケリー氏。最先端の2ナノメートルの半導体開発にめどがついたので、日本に製造を委託できないかと、相談してきたというのだ。
その後、東さんは経産省などと協議を重ね、この日を迎えることができたという。
会議は2時間ほどで終わり、「IBM」は日本に最先端技術を提供することに大筋で合意した。

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「2ナノは僕らやってなかったわけだから、技術的には学んでいくことが多いわけだけどね。いいチャレンジじゃないですか」と東さん。

10月12日、首都ワシントン。この日、日本にとってもう一つ大きな正念場が待っていた。交渉相手はアメリカ政府。バイデン政権は、半導体を安全保障上の重要な戦略物資と位置づけており、特に先端半導体は、中国へ輸出規制するなど神経を尖らせている。
「IBM」からの先端技術の提供にめどをつけたとはいえ、アメリカ政府の承認がなければ前に進まない。

交渉の主戦場となる商務省に到着したのは、東さん、「NTT」の澤田純会長、「NEC」の遠藤信博元会長。さらに、半導体業界の企業の幹部たちが交渉メンバーに加わった。
そんな一行を待ち受けていたのは、アメリカ商務省 ジーナ・レモンド長官。この時、どんな交渉が行われたのか...番組では、取材をもとに再現する。

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10月14日、朝。東さんたちが次に向かった先は、シリコンバレーにある「グーグル」本社と、半導体大手の「インテル」。新会社「ラピダス」が作り出す新しい半導体を、早速アピールする。こうしたアメリカを代表する巨大企業が、なぜ、東さんたちの話を聞いてくれるのか。企業の幹部が揃って出迎えるのには、ワケがあった。

「東さんは、半導体業界で、今日も"レジェンド"と呼ばれていました。普段は優しい感じですけど、ビジネスモードになったら全然違うなというのはすごく感じます」と金指さん。

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今年73歳を迎えた東さんは、交渉のリーダー役として5日間に及ぶ日程を終えた。

「日本のこれからの世代の人たちが、何とか将来に対して夢を持てるということを考えていった場合、連携とかコラボレーションをいかにうまく進めるかが非常に重要だと思っているわけ。日本人は弱肉強食に弱いんだよね。そこらをうまく連携できるような道筋ができてくれば一つの活路になるわけだから。そういう意味合いでは、僕は、いろんなことで実現したいなっていう...」

東さんは、「ラピダス」の成功に並々ならぬ決意を秘めている。

日米が最先端の半導体で連携する大きな理由

台湾に、世界経済の動向を左右する巨大企業、半導体生産で世界トップの「TSMC」がある。
特に、ロジック半導体と呼ばれる先端半導体では約6割のシェアを握っており、2021年の売上高は日本円で約6兆6000億円、利益は約2兆4700億円を記録した。

「TSMC」の本社がある新竹市の目と鼻の先、海を挟んだ中国福建省沿岸には、人民解放軍の空軍基地がある。その距離約250キロで、東京・名古屋間よりも近い。

「台湾有事に備える」。台湾における地政学リスクの高まりは、日米が最先端の半導体で連携する大きな理由だ。

1987年に創業した「TSMC」は、半導体の設計には関わらず、生産に特化する「ファウンドリー」と呼ばれる企業。あらゆる設計会社から生産を受け付け、技術を蓄積してきた。
メディアの個別取材はほとんど受けないが、今回「ガイア」が単独取材に成功。アジアとヨーロッパを統括するクリフ・ホー副社長が、日本での新たな戦略について初めて答えた。
そして、将来のライバルになりかねない日本の「ラピダス」について、クリフ副社長の反応はー―?

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