「人を避けて歩かない」あの人は何を考えている? 心理学者の分析は

公開: 更新: テレ東プラス

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映画館で両端のひじ掛けを使われた、新幹線で背もたれを勝手に倒された、空いているのになぜ隣に座る? 歩いていてどうして自分ばかり避けなければならないの......。自分の空間が「侵害された」と感じたことはありますか?

「テレ東プラス」では、自分のスペースに入られ不快に感じた経験などアンケートで実態を調査し、結果を踏まえて専門家に話を聞きました。

自分のスペースに入られても半分近くは「がまんする」

Yahoo!ニュースを通じて、全国の10〜60代以上の男女2000人にアンケートを実施(2022年8月9日)した結果、これまでに「個人的空間に侵入された」と感じたことのあるのは58.3%。「どんな侵入がありましたか?(複数回答可)」については「映画館や新幹線などでひじ掛けを取られた」が35.3%とトップに。「背もたれを倒された」(29.2%)「ヘッドホンからの音もれ」(28.7%)「すれ違いの際、自分が避ける立場になった」(24.9%)が続きます。

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「どう対処しましたか?」の問いには、47.5%が「がまんした」と回答。その他の答え(押し返した、不快感を示した)に比べ、半数近くにのぼりました。

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では、その心中は。「どんな気分になりましたか?(複数回答可)」では57.4%が「不快感や怒り」を覚えています。がまんはしても、決して心穏やかではない人が過半数。憤りが悲しい気持ちを大きく上回る結果となりました。体験談を聞くと自由回答欄には「道とか絶対に避けない」「新幹線で自分の席に座られていた」「必要以上に近寄ってこられた」など"被害"はさまざま......。

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なぜそんなことをするのか。どんな対応を取るのが正解なのか。アンケートの集計内容や寄せられた意見や疑問をもとに、東洋大学社会学部・社会心理学科の戸梶亜紀彦教授にお話をうかがいました。

「非常識な人」にどう対処すればいい?

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Q. 多くの人たちが「自分のスペースが侵害された」と不快感や怒りを感じているようです。

「人はそれぞれ、自分の周囲に自分だけの安心できる空間を持っています。それをパーソナルスペースといい、侵入されると不安になったり不快感を覚えたりします。スペースの大きさは性格などによっても異なりますが、同じ人であっても環境や状況によって伸び縮みします。

例えば、恋人など親しい人との対面なら密着できる距離までに小さくなり、知らない人なら数メートルに。怖い人、気味が悪い人と感じる相手ならサイズはさらにぐんと広がります。

今回のアンケートでは、パーソナルスペースに入られたことで嫌な気持ちになったというケースもいくつかみられます。ですが、単純に相手のマナー違反の場合もある。その辺りを混合せず、整理して分けて考えると良いでしょう」

Q.具体的に、どのあたりがマナー違反に該当するのでしょうか。

「自由回答にあった『映画の上映中にしゃべっている、スマートフォンを操作している』『新幹線の指定席に荷物を置かれた』などはマナー違反の類です。一方で『新幹線の座席を倒す』『電車の車両が空いているにもかかわらず、わざわざ隣に座ってくる』という行為はルールとしては認められています。この場合がパーソナルスペースの話になります」

Q.それぞれ、どのように対応すればいいのでしょうか。

「マナー違反の場合は乗務員に相談するなど、いわばマニュアルに沿った対応が適切です。マナー違反をするのは、社会的なルールとは異なる価値観で行動しているともいえます。そうした相手に直接注意するのはトラブルにつながることもあります。

一方で、新幹線の座席を倒すといった行為、つまりスペースの侵入の問題に対しては、関係性を築くのが一つの有効な手段です。『すみませんが......』と声かけをすることで、つまりコミュニケーションが生まれることで相手との関係が変化する。ほんの一言のやり取りで"非情の悪人"が普通の人に見えるようになったという経験がある人もいるのではないでしょうか」

Q.確かに、向こうに悪気があったわけではないとわかれば、必要以上に怖がらなくてもよくなりそうです。

「マナー違反とパーソナルスペースの問題が混在しているため一概には言えませんが、アンケートではスペースに入られた場合『がまんした』『不快感を示した』という答えが多く、相手との直接のコミュニケーションを避ける傾向がみられます。

ですが、舌打ちなどの動作で不快感を示しても意図が明確に伝わらず、逆に敵対の意志だけが相手に伝わる形で終わってしまうこともあります。一方、言葉にすればどうしてほしいのかはっきりと相手もわかりますし、関係性が生まれることで入ってこられて不快だと感じる空間も狭くなります。

原理としては、集合住宅で隣に住むのが気心の知れた人なら、そこまで騒音が気にならないのと同じ。必要以上に相手を『異質な人』と捉えずに、コミュニケーションを取ってみるのも一つの方法です」

Q.アンケート回答者のなかには「なぜスペースに入ってくるのか」という疑問がとても多かったです。先ほど話に出た「空いている電車の車両でわざわざ隣に座る」という人はどんな心理なのでしょうか。

「いろいろな人がいるので一様にはくくれません。魅力的な相手に近づきたい、あるいは、わざとそばに座って嫌な思いをさせて、つまりわざとパーソナルスペースに入って相手を移動させてやろうという魂胆を持っている可能性もあります。

ですが、単に周りが見えていないことも多い。ドアが開いて電車に乗り込むと、空いている席が目に入る。とにかく座りたいからそこに目掛けて進んだだけ、という人も少なくありません。あとはその場所が何よりお気に入りだから、という人もいます。はたから見れば、向かい側の座席はガラガラなのに、と奇妙に映ることもあるでしょう。

これはパーソナルスペースの認識うんぬんより、自身の目的を最優先するあまり視野が狭くなり、周囲の認識が二の次になっているといえます」

Q.そうした人が昔よりも増えているような印象があります。

「スマホの普及は、少なからず影響しているでしょう。音楽や動画、ゲーム、漫画など、自分の世界に入り込むツールとして多くの人が夢中になった結果『周りが見えていない人』が増えました。

例えばスマホを見ながら歩く行為は、周囲の状況がわからず危険です。事故やトラブルの一因になりかねないのに、現実にはそれを実行している人はたくさんいます。公的な場所でもまるで個人のスペースにいる感覚で行動する人は以前よりは確実に増えているのでは」

Q.周囲の状況よりも自身の目的達成が第一優先になっているとのことですが「ぶつかりそうになってもそのまま直進してくる人」も同じ感覚でしょうか。

「そうですね。早く目的地にたどり着きたいという思いから最短距離で進むことを第一にしてしまっている。あとは決められたルールを守る自分が絶対的に正しいと考えている場合もあります」

Q.というと?

「歩道なら、歩行者は車道を離れたところを進み、自転車は車道寄りというルールがあります。前からやってくる自転車がそのルールにそぐわない運転をしているなら、絶対に道を譲らない、といったことです。あるいは、スマホを見ながら歩いている相手にわざと自分からぶつかっていくとか。そうした過剰な"正義感"も、やはり事故やトラブルのもとになりかねません」

Q.「自分のスペースが脅かされた」というなかにも、いろいろなケースがあることがよくわかりました。

「相手も同じ人間です。必要以上に恐れたりおかしな人だと切り捨てたりせず、どういったパターンのトラブルで相手が何を考えているのかを見極めれば、自分の精神的な安定にもつながると思います」

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【東洋大学社会学部・社会心理学科 教授 戸梶亜紀彦(とかじ あきひこ)】
社会心理学、認知科学を専門とし、感情心理学、動機付け(モチベーション)、産業・組織心理学を中心に研究。文学修士。著書に、『発達研究の技法(シリーズ・心理学の技法)』(福村出版)、『心の科学』(北大路書房)など。

(取材・文/森田浩明)

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