映画「君の名は。」にも登場した伝統技術「組紐」を愛するフランス女性!:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜夜8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い思いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回は、「ニッポンにご招待したら人生変わっちゃった! スペシャル」をお送りします。

伝統の組紐作りを学び、帰国後とんでもない進化を遂げた!

紹介するのは、フランスに住む、「組紐」をこよなく愛するクレールさん。

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1600年の歴史を持つニッポンの伝統技術「組紐」。束ねた糸を組み上げたもので、飛鳥時代には袈裟の飾り紐などに使われていました。
最も多く使われているのは着物の帯締め。熟練の職人が手仕事で仕上げた最高級品は、約17万円するものも。他にも鎧や兜、お守りなどにも使用されています。

組紐は、100以上の国と地域で配給された映画「君の名は。」でも物語の重要な鍵に。この映画のヒットがきっかけで、主要生産地・伊賀の組紐の売り上げが急増したそう。最近はアップルウォッチバンドにも使用されるなど、海外からも注目されています。

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ここで、クレールさんに組紐作りを見せてもらうことに。使うのは「君の名は。」で主人公が使っていた丸台。糸を巻きつけた16個の玉をセットして動かしていくと、丸台の穴の中に紐が組み上がっていく仕組みです。下に重りがぶら下がっているため、力をかけずに玉を操るだけで紐が出来上がります。

動かし方は複雑に見えますが、実は4つの動きを繰り返すだけというシンプルなもの。
こうして帯締めの定番、平組紐が完成しました。3色の糸を使い、10の動きを繰り返す組み方をすると、水鳥が連なって大空を羽ばたく様を表す「千鳥組」になります。

もともと手芸が趣味だったクレールさん。15年前、英語で書かれた組紐の本に出会い、その虜に。実用書を買い集め、独学で基本的な技術を修得。100通り以上ある柄のパターンのうち、約50種類の組み方ができるそう。

クレールさんは丸台の他、より多くの紐で複雑な模様を組める高台も持っています。パートナーのドミニクさんが設計図を入手して作ってくれたとか。

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高台を使った組み方は、台の左右にぶら下がった玉を一つずつ反対側に通し、ヘラで叩いて締め、紐を組んでいくというもの。糸を通す場所や順番を一つでも間違えると正しい模様にならないため、集中力も必要です。
絵柄を組む場合は、先に設計図のようなものを作成し、確認しながら組んでいきます。精密な図柄になると、わずか3センチを組むのに1時間かかるとか。

ニッポンにはまだ一度も行ったことがないクレールさん。組紐の作り方は本でわかりますが、職人さんの仕事を実際に見たことがなく、ヘラで打つ時の力加減など感覚的な部分がわからないそう。「今のやり方が本当に合っているのか、ニッポンで伝統的な技術を学ぶのが夢なんです」と語ります。

そんなクレールさんを、ニッポンにご招待! 5年前、念願の初来日を果たしました。腕には、「君の名は。」に出てくるデザインをモチーフにした組紐が。機内でも「君の名は。」を観てきたそう。

まずは、東京・日野市へ。クレールさんが組紐作りを始めるきっかけとなった本の著者、多田牧子さんのもとへ向かいます。ニッポンの組紐研究の第一人者である多田さんは、師匠から弟子に口伝えで受け継がれてきた組紐の技術を体系的にまとめ、英語の解説本を出版するなど、世界に組紐文化を広めた一人。

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多田さんと対面し、「お会いできて光栄です」と感動するクレールさん。作った組紐を見ていただくと、「すごく良くできています」とお褒めの言葉も。
多田さんの本のおかげで組紐を学ぶことができたと感謝を伝えると、途中で組み方を変えて立体的にする独自の作り方を教えてくださいました。

続いて向かったのは、組紐の生産量日本一の三重県伊賀市。一本一本職人の手で組み上げられる伊賀組紐は、国の伝統的工芸品にも指定されています。

今回お世話になるのは、昭和7年創業の老舗「松島組紐店」の三代目、松島俊策さん。6年前に開催された「伊勢志摩サミット」では、関係者に記念品として配られたバッグに、松島組紐店が手がけた組紐が使われました。

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見せていただいたのは、綾竹台。「君の名は。」でヒロインのおばあちゃんが使っていたもので、クレールさんもいつか使ってみたいと夢見ていました。

一説によると、鎌倉時代に考案されたといわれる綾竹台。上段と下段の組み糸を入れ替えて組み上げていきます。縦糸を上下で組み、その間に横糸を通して組むため、伸びの少ないかっちりした組紐に。多色使いもできるため、カラフルな作品に仕上がります。

憧れの綾竹台を体験させていただき、感動するクレールさんに、松島さんは「ガチャ台(内記台)」も見せてくださいました。江戸時代に考案され、糸を組む時の音からガチャ台と呼ばれています。この台で組まれた組紐は筒状になるのが特徴で、着物の帯締めに使われることが多いそう。

クレールさんによると、組紐好きの人たちの間ではよく話題に出ていたそうですが、動いているところを見るのは初めて。「日本でも動いている台はごくわずかです」と松島さん。

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取っ手を押し引きすると上面のヘラが動き、自動で糸が組み上がります。からくり人形の技術を応用したもので、台の中には無数の歯車が組み込まれています。「まさか本物を動かせるとは......ネットの組紐仲間に自慢できます!」と大喜び。

さらに、松島さんの奥さんから、紐の結び方のレクチャーも。ニッポンでは、古くから魔除けの「梅結び」や豊作を願う「稲穂結び」など、紐の結び方にさまざまな願いが込められてきました。
お守りに使われる「二重叶結び」は、結び目の表が漢字の「口」、裏が「十」になることから願いが叶う結び目といわれています。今回は「叶結び」と、簡単でよく使われる「菊結び」を教えていただきました。

気がつけば夜になり、別れの時。松島さんご夫婦にお礼を伝えると、なんと綾竹台のプレゼントが! 長年憧れ続けた綾竹台をいただき「すごく嬉しいです」と大感激のクレールさん。「頑張ってください」と激励の言葉もいただきました。

続いて、組紐づくりのテクニックを学びに向かったのは、同じ伊賀市内にある創業90年の「前沢組紐店」。ご主人の前沢行雄さんは三重県組紐協同組合の元理事長で、奥さんの恵津子さんも「伊勢志摩サミット」で高台の実演を行った職人さんです。

早速、作業場で組紐作りを見せていただきます。この道45年のベテラン、恵津子さんが高台で組むのは、伊賀組紐を代表する「高麗組」。江戸時代に創作された組み方で、組目が細かく耐久性にも優れ、複雑な柄を描くことができます。

並んだ組糸を手で上下に分けることを綾取りといい、何色の糸をどの位置に出すのか、絵柄を考えながら綾を取っていきます。絵柄は、綾書きと呼ばれる組紐の設計図を見て組んでいきますが、まるで暗号のよう。職人さんはこれを見るだけで模様が組めるそうで、お店ごとに独自のデザインがあり、綾書きは門外不出だそう。

組紐作りではヘラの使い方も重要。天候や湿気で糸の張りが変わるため、感覚で叩く強さを調整。150センチの帯締めを組むのに3日はかかり、その間、ヘラを左右均等の力で叩かなくてはならないのです。

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ここでクレールさんから相談が。直線の柄を組みたいのに、なぜかカーブしてしまうそう。どこに問題があるのか見ていただくことになり、慣れない正座で作業をします。
すると、糸を張った状態で通していないことがわかりました。恵津子さんは糸を通す時にピンと張っていましたが、クレールさんは玉をつかむと糸を離してしまうため、たるみが。これでは組目が緩くなり、柄が真っ直ぐになりません。

さらに、恵津子さんはヘラの真ん中を使っているのに対し、クレールさんはヘラの先の方を使っているので、糸を叩く力が弱すぎると教えていただきました。
作業をしやすいように椅子を用意していただき、恵津子さんのアドバイスを受けながら練習を続けること1時間。本だけではわからなかった感覚をつかめたようで、組目がきれいになりました。前沢さんも「短時間でこれだけできるのはすごい」とびっくり。

その後も、仕上げに厚さを整えるコロ掛けまで、一通りの工程を教わったクレールさん。熱心に取っていたメモに、前沢さんが「言葉だけだとまず忘れるから」と図解も描いてくださいました。

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フランスでは、自分好みの絹糸が手に入りにくく、ナイロンで代用することもあるそう。前沢さんによれば、思い通りの色がなければ、組紐職人自ら糸を染めることもあるそうで、特別に染色の方法も教えていただくことに。
糸を途中まで染料につけ、染料を薄くしながら段階的に染めていくと、フランスではなかなか手に入らないグラデーションの糸の出来上がり!

恵津子さんが用意してくださった伊賀牛のすき焼きとおにぎりの夕食をご馳走になり、いよいよ別れの時。「組紐に関する知識や技術だけではなく、お二人の組紐への思いに触れられて、大変勉強になりました」。前沢さんから、フランスでは入手が難しい絹糸を、お土産にたくさんいただきました。

あれから5年。クレールさんのビデオレターを、松島さんと前沢さんのもとへ届けます。

クレールさんは帰国後も組紐作りを続け、友人たちと展覧会も開催。5年前は建物の1階で生活していましたが、現在は2階をアトリエ兼住居に。2年前、パートナーのドミニクさんと一緒に設計し、内装を手がけたそう。松島さんからいただいた綾竹台は、まだ扱うのが難しく、宝物として飾っています。

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帰国後は、しっかり目の打ち込まれた組紐を作る練習をしています。教えていただいたとおり、ヘラを打ち込む時に肘をしっかり脇につけ、ヘラの真ん中を使っているところを見た前沢さんご夫婦は「ちゃんとやってくれてる」「さすが」と感心。この教えのおかげで、以前は曲がっていた模様が、今はまっすぐにできています。

コンピューターエンジニアをしているクレールさんは、仕事の知識を生かし、パソコン上で綾書きができるソフトを開発。暗号のようだった綾書きをわかりやすく図解で示すことができ、どんなデザインでも組紐の設計図にできるとか。

生活にも変化がありました。今年2月、ロシアがウクライナに侵攻し、国民の大半が難民に。クレールさんは、フランス政府の難民保護の募集を知り、戦禍の激しかったドンバス地方から逃れてきたオーリハさんを受け入れ、一緒に暮らしています。
母国を思い、心を傷めるオーリハさんですが、組紐を作っていると気持ちが安らぎ、心配事から解放されるそう。

最後にクレールさんは、「前沢さん、松島さん、本当にお世話になりました。皆さんと過ごしたニッポン滞在は私のかけがえのない宝物になりました。改めてお礼を申し上げます。また絶対ニッポンにいきます! 待っててね〜!」とメッセージを送りました。

クレールさんをニッポンにご招待したら、組紐の技術が向上し、独自の進化を遂げていました!