アーティストの存在はモグラに似たり!?森山未來×森純平「アーティスト・イン・レジデンス」を語る

公開: 更新: テレ東プラス

アーティストやクリエイターが主導するメリット

artiste_20221008_03.JPG「アーティスト・イン・レジデンス神戸(AiRK)」にて

――森山さんが「アーティスト・イン・レジデンス神戸(AiRK)」を発案されてから約半年で早くも始動しました。

森山『KIITO(デザインクリエイティブセンター神戸)』(“デザイン都市・神戸”の創造の拠点)や『DANCE BOX』にレジデンスのプログラムはありますが、宿泊施設はないためホテルや知り合いの家に泊めてもらうしかない状況で、もったいないと思っていたんです。『神戸にレジデンス施設が欲しい』と片っ端から言ってまわっていたら賛同者が集まって急展開となったので、僕のほかにも必要性を感じている人たちがいたのでしょう」

――行政や団体ではなく、森山さんや森さんのようにアーティストやクリエイターが主導して行うメリットは何でしょうか?

「文化芸術業界全般に言えるのではと思いますが、あらかじめ用意された仕組みがそこにない時に、本当はできるはずなのに、誰かが口にした『難しい』の一言で前へ進めなくなることが多々あると思っています。先ほど言ったように、その点アーティスト・イン・レジデンスには王道も正解もないので、場所ごとに違うトライができ、毎回試行錯誤できることが魅力になっていく。例えば、神戸の『AiRK』はレジデンスには滞在場所のみで。制作は街なかに既にある施設内のスタジオで行うという、アーティストに通勤してもらうスタイルに挑戦しようとしています。

行政主導の場合は安定した運営が提供できたり、施設が充実している反面、管理を行き届かせるために『スタジオとレジデンスはセットであるべき』『レジデンス施設は一人一部屋』など様々なルールが決められていることが多い気もします。どちらが良いという事ではなく、それぞれに出来ることがあるのかなと思いますね」

森山「『アーティスト・イン・レジデンス』がどういうものであってほしいのか、行政、民間の企業、個人が運営する場合で、そもそもの見方が違うところが出てきてしまう。たぶん森さんもそうだと思うけど、僕は『アーティストが内省するための時間を提供する』ことがベースだと言いたい。アーティストがより充実した時間を過ごす事によって、良い作品を生み出すためサポートするシステムです。

でも、行政でやる場合、目に見える効果が見えづらいと持続が難しくなったり、地域の人との交流や作品の提出を義務付けたギブアンドテイクによって意義を見出そうとしたり、“地域活性の一環”としてレジデンスを立ち上げる。それが成功する例もあるけれど、“アーティストを呼びさえすればいい”みたいな考えだとうまくいかなかったり壁にぶち当たったりしていますね」

「そうですね。レジデンスは少なくとも5年後、できればもっと先20年後くらいの未来を信じて待っているようなところがあって」

森山「『アーティスト・イン・レジデンス』について、どう説明したらわかってもらえるのか一生懸命考えて思いついたのが“モグラ”です。モグラは一生を土の中で暮らして、ミミズや地虫を食べて益虫と害虫のバランスをコントロールしている。目に見えないところで間違いなく土壌を耕して豊かにしていて、それがあって植物が芽生える。アーティストも、見えにくいかもしれないけど文化の土壌を豊かにする活動をしているんです」

――なるほど!わかりやすいです。モグラはドイツでは連邦自然保護法で守られているみたいですね。土に良いからという理由で、殺処分や捕獲はもちろん邪魔をすることも禁じられているそうで。

森山「モグラが畑で穴をあけて困った存在に見える瞬間もあるけれど、土壌を豊かにしていることは間違いないですよね。野菜や植物を痛めつけるという誤解があるようですが、肉食なので植物は食べなくて、モグラが掘った穴に潜り込んだネズミが根っこをかじっている。でも、モグラが植物をダメにしていると誤解される。

アーティストも往々にしてそういう誤解を招くじゃないですか。だからモグラについて正しい見方をしてもらうことが、『アーティスト・イン・レジデンス』を知ってもらうことに繋がるんじゃないかな、と思っています」

明日公開の対談【後編】では、町での存在意義、町の人たちとどう関わって何を目指していくのかについてうかがう。

※注1森山未來らが結成した「HAAYMM」(ハイム)は、2022年4月13日より神戸市中央区で「アーティスト・イン・レジデンス神戸(AiRK)」を実験的にスタート。メンバーは、森山はじめ、アムステルダムと東京を拠点とする「有限会社 ルフトツーク」代表を務めるテクニカルディレクター/アートディレクターの遠藤豊、「神戸R不動産」の小泉寛明、神戸の農水産業を発信しながら地産地消を推進する「EAT LOCAL KOBE」を運営する小泉亜由美、「神戸フィルムオフィス」代表の松下麻理、『デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)』で企画事業・広報を担当する中村愛子の6名。

【プロフィール】
森山未來(もりやま・みらい)
1984年8月20日生まれ。兵庫県神戸市出身。ダンサー/俳優/アーティスト。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳の時に舞台デビュー。2013年には文化庁文化交流使としてイスラエルに1年間滞在し、Inbal Pinto&Avshalom Pollak Dance Companyを拠点に活動。映画「世界の中心で、愛をさけぶ」(2004年)、ドラマ・映画「モテキ」(テレビ東京系)、初の海外公演となる舞台「テヅカ TeZukA」(2012年)、大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(NHK総合)、数々の賞を受賞した映画「アンダードッグ」(2020年)など、出演作多数。また、2021年、「2020年東京オリンピック」開会式にでダンスなどのパフォーマンスを行った。2022年10月15日(土)より、森山未來×中野信子×エラ・ホチルド パフォーマンス公演「FORMULA」を上演(東京・仙台・福岡・大阪・名古屋・高知)。
オフィシャルサイト
Instagram:@ mirai_moriyama_official

「アーティスト・イン・レジデンス神戸(AiRK)」公式サイト
Instagram:@ airk.kobe
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森純平(もり・じゅんぺい)
1985年生まれ。建築家。「PARADISE AIR」ディレクター。東京藝術大学建築科大学院修了。主な活動に遠野オフキャンパス (2015年~)、「八戸市美術館(共同設計=西澤徹夫、浅子佳英)」(2021年)、東京藝術大学美術学部建築科助教(2017年)。たいけん美じゅつ場VIVA基本設計/共同ディレクター(2019年~)など。
Instagram:@junpe1

「PARADISE AIR」公式サイト
Twitter:@paradise__air

森山未來
ヘアメイク/橋本佳奈
スタイリング/MASAYA MIYAZAKI

(撮影/uufoy 取材・文/榊原生織)