海の中へ消えた彩女...不思議な二人旅がついに完結!感動の最終話をプレイバック

公開: 更新: テレ東プラス

いつの間にか朝になっていた。北が日記の入った紙袋を手に、ホテルのロビーに座っていると、一騎がやって来る。著者近影を見て、一騎の顔を知っていた北は、まっすぐに見据えながら声をかける。

「私に何か用かね」

「……」

「悪いがプライベートでのサインは断っているんだ」

「奥さんの…雪枝彩女さんのことで話があります」

彩女が身を投げた海辺に一騎を連れてきた北。

一騎は戸惑いながら、「彩女は? ここで待っているんじゃないのか」と言う。

「彩女さん、あそこにいます」

と、海を指差す北。

「一体何を言ってるんだ、君は…」

「彩女さんは亡くなりました。昨日、あの海に入って」

「彩女が…死んだ?」

「全部あんたのせいだよ」

睨みつける北。一騎は絶句していたが、ふと苦笑し、「お前に夫婦の何がわかる」と言う。

「なに?」

「病院はどこだ? 変死体なら警察か…彩女の荷物は? まだホテルにあるのか?」

「なんでそんな冷静でいられるんだよ」

「冷静? 私が?」

「まさか全部知っていたのか? 彩女さんがあんたのために日記を書いていたことも、あんたの小説のために、命をかけたことも!」

一騎の胸ぐらをつかむ。

「それ全部知っていて、あんた何もせずに、愛人と旅を続けてたって言うのか!」

「違う!私は…自分が、彩女に殺されると思っていたんだ。私の小説『蝉時雨』のように」

一騎のベストセラー小説『蝉時雨』は、彩女の日記を元に書かれていた。その結末は、『妻は私に三徳包丁を振り下ろした』。

「彩女がそれを望むならそれでもいい、そう思っていた…もう限界だったんだよ。あいつの過剰な期待が重荷となって、私は今にも押し潰されそうだった。だが昨日、彩女から電話があって…」

一騎は彩女との電話のやりとりを回想する。

〜〜〜

「日記を…?」

「ええ、また書いてみましたの。あなたのために…」

「私の、ために…」

「この日記を使って、新しい小説を書いてください。今度は大衆文学ではなく、本物の純文学を」

「……」

「明日、こちらの方までいらしてください。誰にも言わず、あなた一人で」

「わかった…」

〜〜〜

「正直、興奮したよ。あいつの日記を使えば、今度こそ読者の記憶に残る、本物の純文学小説が書ける。私をバカにした、文壇の奴らを見返すことができる」

軽蔑したように見ている北。一騎は思い出したように、北に視線を送る。

「君は、彩女と一緒に旅行していたという男だろう? あいつの日記がどこにあるのか知らないか? 私にはあれを読む責任がある。彩女の最後の物語を私の手で作品にし、世に出す責任が…!」

「あんたに日記は渡さない」

「!」

「彩女さんの死を知っても、涙一つ流さないあんたなんかに、日記は渡さない!」

「持っているんだな、彩女の日記を…」

土下座する一騎。

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「頼む、渡してくれ! 金ならいくらでも払う。私を殴りたいなら、気の済むまで殴ればいい! なんでも言うことを聞くから…頼む!」

一騎は必死に懇願するが、北は何も言わない。

「あいつと旅をしたなら、君だってわかってるはずだ。それがあいつの…彩女の最後の望みだと」

「!」

海に入る間際、「私の日記を彼に渡してほしいの。結末まで書いておいたから、お願いね」と自分に託した彩女を思い出し、北は苦渋の表情を浮かべる。

「…なんでも言うことを聞くって言ったよな。だったらもう、彩女さんと離婚しろよ! 彼女をあんたの呪縛から解き放て!」

「離婚…? 彩女は…彩女は生きているんだな?」

「……」

「そうか…よかった…」

砂浜に膝をついたまま、初めて涙を流した一騎。北はその様子を見て大きなため息をつき、紙袋から何かを取り出す。その気配に、一騎は顔を上げる。
北が手にしていたのは、三徳包丁だった。大きく振りかぶり、それを砂浜に突き立てる。

「!」

「この包丁は彩女さんにとって、あんたとの唯一の思い出だってよ」

一騎は、貧しいアパートで彩女と暮らしていた頃のことを思い出す。

〜〜〜

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質素な台所で野菜を切っている彩女。

「どう? その包丁、よく切れる?」

「ええ、とっても」

「君にはいつもおいしい料理を作ってもらってるからね。ささやかだけど、僕からの感謝の気持ちだ」

「ありがとう。大切にするわ」

うれしそうに微笑んでいる彩女。

〜〜〜

震える手で、三徳包丁を手に取る一騎。

「この日記に…書いてたよ」

北は日記を差し出すと、背を向けて歩き出す。日記と三徳包丁を強く抱きしめ、崩れ落ちる一騎。

北が病院に戻ると、看護師が警官と何かを話していた。

「その患者さんなら、まだ意識が戻っていませんが」

「参ったな。せめて身元だけでもわかるといいんだけど…」

その横を、うつむき加減に通り過ぎる北。
病室に着くと、彩女は人工呼吸器につながれて眠っていた。彩女の手を握り、込み上げてくる感情に必死に堪える北。

「彩女さん…俺、あいつに日記渡したよ」

反応がない彩女。

「全部終わったんだよ。ね? 起きて…」

意識が戻らない彩女と彼女の本当の思いを知った北。不思議な2人の旅は、どんな結末を迎えるのか?


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