トマトの会社から野菜の会社に~カゴメ健康ビジネスの全貌:読んで分かる「カンブリア宮殿」

公開: 更新: テレ東プラス

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トマト一筋123年~老舗企業の大胆な転換

長野・富士見町の「カゴメ野菜生活ファーム」。夏真っ盛りの八ヶ岳のふもとにある畑は、野菜の収穫に来た子どもたちの歓声であふれていた。採ったばかりのトウモロコシやミニトマトを食べている。

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ここは野菜を採って、食べて、学べる野菜のテーマパーク。中には地元の食材を売りにしたレストランもあり、新鮮な夏野菜のナスを使ったスパゲティや、採れたてのとうもろこしを使ったピザが楽しめる。工場見学では野菜ジュースができるまでを学べる。夏休みの自由研究にうってつけと、大人気だという。

この野菜のテーマパークを運営しているのがカゴメ。カゴメといえばお馴染はトマトジュースやトマトケチャップ。ともに国内シェア6割を占める、まさにトマトの会社だ。

名古屋市の中心街に6月23日、新カゴメビルが完成した。入口を入ると壁面に、網目のように木を組んだオブジェがあった。社長の山口聡(61)が、「カゴメの社名の由来というのは、『籠の網目』なんです。背中に背負う籠、あるじゃないですか。あの網目からカゴメという会社の名前をとった」と説明してくれた。

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「当時、あまり食べる人がいないトマトを作って売ってみようというのは、チャレンジャーですよね。そのおかげでカゴメも123年、仕事をやってこれたわけですから」(山口)

カゴメは1899年、愛知県の農家・蟹江一太郎が創業。トマトの栽培から始まり、1903年には自宅の納屋でトマトソースの製造を開始。1908年にはトマトケチャップを発売した。1933年にはトマトジュースを売り出すなど、トマトの加工食品を専門にして成長してきた。

トマト一筋123年。いまや社員2800人、売り上げ2000億円の大企業となった。そのカゴメが今、大きく変わろうとしている。

「『トマトの会社から野菜の会社に』です。野菜の力にはいろいろな栄養もありますし、習慣的に長く食べてもらえる商品を増やしていきたい」(山口)

実際、スーパーを覗いてみると、人気の「野菜生活」はいまや30種類。トマトを使ってないものが大半だ。

さらに生鮮野菜のベビーリーフ、ズッキーニやピーマンをざく切りにした冷凍野菜、野菜だしのきいた鍋つゆなど、トマト以外の野菜商品を続々と売り出している。

「野菜食べていますか?」簡単チェック~目指せ350g

埼玉・富士見市のスーパー「ヤオコー」ららぽーと富士見店。「ベジチェック」という野菜の摂取量がわかる機械を設置したコーナーに女性客が集まっていた。トマトやニンジンなどの緑黄色野菜に多く含まれるカロテノイドという成分を、手の平からセンサーが読み取る仕組みだ。

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厚生労働省が勧める野菜の摂取量は1日に350g以上。「ベジチェック」で測定した結果、摂取レベル1~12のうち7以上なら350g摂れているということになる。

測定結果が4.6だった女性には「野菜の少ない食生活のようです。現在の2倍くらいの量を召し上がることを目標にしてみませんか」と、アドバイスが表示された。

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測定を終えた人に、スーパーのスタッフから「人参を千切りにしていただいてサンドイッチにすると、すごくおいしいです。そうするとベータカロテンが摂れます」と提案があった。客はさっそく野菜売り場へ。スーパーの売り上げアップにもつながっているのだ。

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この「ベジチェック」をドイツの企業と共同開発したのがカゴメ。スーパーや企業などにレンタルして新たなビジネスにしている(レンタル料は1日3万3000円~、1カ月11万円~)。

導入する企業も増えている。東京・中央区の大手鉄鋼会社「伊藤忠丸紅鉄鋼」の休憩室に「ベジチェック」が置かれていた。

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初めて測定するという20代の社員は、「正直、全然とっていないです。ご飯は全部外食なので、6ぐらいあればいいなと思っています」と言っていたが、計測値は3.9。外食ばかりの生活で、思った以上の野菜不足が分かった。

「今回数字でみることができたので、これから食生活改善も意識しようかなと思います」

休憩室の冷蔵庫には、カゴメの野菜ジュースが用意されていた。

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シェフ絶賛の食材とは?~「トマトの会社」2度の危機

川崎市のイタリアンレストラン「ナポリの下町食堂」川崎店。一番人気の「マルゲリータ」(1380円)をはじめ、お手頃価格で本格イタリアンが楽しめると人気だ。

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厨房で腕をふるう調理長の松井雄三さんが、おもむろに冷凍庫から取り出したのは、カゴメの冷凍のグリル野菜だ。

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「カゴメさんはイタリア食材に強い。これは1年中使わせてもらっています」(松井さん)

中身はズッキーニ、赤や黄色のピーマン、ナス。オーブンで解凍してフライパンで炒める。これをパスタと絡めれば華やかな「ベーコンと彩り野菜のペペロンチーノ」(880円)が完成。

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ピザ生地にのせて窯で焼けば「彩り野菜とバジルソースのピッツァ」(1280円)になる。

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野菜をカットする手間もなく、いろいろな料理に使えて、重宝しているという。

「こちらの商品を使えば、5分、10分で、開けるだけで出来上がっているわけですから非常に調理時間の短縮になっています」(松井さん)

手軽さだけでなく、こんなメリットもある。

「生の野菜は季節によって値段が変動しますが、冷凍野菜は価格が通年一定で手に入れられます」(松井さん)

カゴメは冷凍野菜を飲食店に卸しているだけではない。

食品企画部の山形真紀子は冷凍野菜を使ったメニューを開発している。まずは野菜を酢と調味料に漬けて、そこにタコを加えてマリネにする。

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「スーパーのお惣菜や、パン屋さん、レストランみたいな一般の街の飲食店さんに、それぞれに合わせて作り方、オペレーションをご提案しています」(山形)

黒酢あんを絡めた唐揚げに野菜を添えれば、彩り鮮やかな総菜に変身する。こうしたメニューを提案することで、冷凍野菜をスーパーや飲食店に売り込んでいるのだ。

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「チェーンのレストランなどに1つ(契約が)決まれば(売り上げが)すごく大きくなります」(山形)

野菜ビジネスの拡大を進める山口だが、その裏には過去に経験した2度の危機があった。

1度目は1980年代後半、バブル景気に突入してイケイケの時代。このムードに乗ってカゴメも事業の拡大に動き出す。

当時、商品開発を担当していた山口に、上司からレトルトカレーを開発せよとの指示が。開発した「カレー自慢」は、ルーと肉、トッピングを別々の袋に分けた斬新な商品だったが、インスタントフードなのに作り方が面倒くさいと不評で、まったく売れなかった。

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ほかにも焼肉のタレなど不慣れな商品を連発したことで業績が低迷。その反省から、創業以来のトマトに軸足を戻した。

すると2012年、突然トマトブームがやってくる。きっかけは、ある研究機関が「トマトがメタボに効く」と発表したことだった。スーパーではトマトジュースが飛ぶように売れ、飲食店ではトマトのパフェや、トマトのかき氷をのせた冷製パスタまで登場した。

ブームのさなかの2013年、当時の西秀訓社長がカンブリア宮殿に出演。「(勢いは)ありますね。それ以前に比べると明らかにベースが上がったっていう感じですね。『トマト野郎』と我々社内では言うんです。『立派なトマト野郎になれ』と」と語っていた。

しかし、ブームは長くは続かなかった。2014年には、トマトジュースの売り上げが前年より20億円ダウン。それを機に、「トマトの会社から野菜の会社に」という大転換が始まったのだ。

たまごじゃないオムライス!?~低カロリーの最新フード

東京・渋谷区に話題のカフェ「2foods」渋谷ロフト店がある。一番人気はオムライスだ。「ふわふわトロトロでうま味もある」と客が絶賛するたまごだが、その正体はニンジンや白インゲン豆。それを「野菜半熟化製法」という技術で、ふわとろたまごそっくりの味と食感にした。カゴメがこのカフェを運営する企業「TWO」と共同開発した。

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チキンライスは鶏肉の替わりに大豆ミートを使用。デミグラスソースも牛は使わず、オニオンソテーや野菜だし調味料で作り上げている。こうした野菜や豆で作られる食品を「プラントベースフード」と呼ぶのだそうだ。

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「プラントベースフード」を愛用しているという会社員の吉川夕葉さんは「2foods」の「エバーエッグオムライス」をオンラインで購入。たまごとソース、チキンライスが別々になっていて、レンジでチンするだけ。1食あたり120g以上の野菜を使用。原料が植物由来のため、低脂質・低カロリーだ。他にもパスタソースやカレーなどさまざまなカゴメの「プラントベースフード」を買っていた。

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「お肉だと胃がもたれちゃったりとかするけど、プラントベースの唐揚げとかの食材だと胃がもたれなくておいしく食べられた。妥協がなくて、ちゃんと誰が食べてもおいしく楽しめる商品を作られているのがすごく魅力的です」(吉川さん)

東京・文京区の東京大学の学食にもカゴメの「プラントベースフード」のメニューがある。去年の12月に導入し、週替わりで2種類を提供している。

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カゴメの「プラントベースフード」の開発現場では、この秋に発売予定の「マッサマンカレー」の開発が大詰めを迎えていた。「マッサマンカレー」はタイのカレー。ジャガイモと鶏肉をホロホロに煮込んだ深いコクと上質な甘みが特徴だ。

そのコクや甘みを、鶏肉を使わず野菜と豆だけで、いかに出すかが課題だ。試食した感想は「ニンジンの後味が残りますね。鶏肉の部分をどうやって野菜で表現できるかというところが少し足りない」(マーケティング本部課長・石岡大輔)。開発は続く。

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「プラントベースフード」の国内市場は、2025年には730億円に達すると見込まれている。

「野菜をとるコツ」を伝授~企業から依頼続々のワケ

カゴメの社員が向かったのは東京・大手町の住友商事本社。健康事業部の杉本優子はカゴメに60人ほどいる管理栄養士の一人だ。

「食事の前に野菜を少し召し上がって頂いてから、食事に移っていくと、体に優しい食べ方になります」

これは食生活の改善をアドバイスするカゴメの健康セミナー。近年、企業や自治体からの依頼が増えている(過去5年で約400件)。

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杉本がまずアドバイスしたのはドレッシングについて。

「野菜の色素というのは、実は油に溶けるんです。ですから野菜を食べていただく際にも、少し油が入ったようなドレッシングと一緒に召し上がっていただく」

野菜をとるタイミングも重要だ。

「食前に野菜を食べている方は、緩やかに血糖値が上昇していきます。気をつけたいのは急激に上がり、そして急激に下がる。これが非常に危険なので、私は食事の30分前に必ず野菜ジュースを1本飲むことにしています」

1時間ほどでセミナーは終了。参加者からは「ぜひやってみよう」「今日から試したい」との感想が聞かれた。

「社員の肥満や、生活習慣病予防の観点から、健康経営施策の一環として、食事関連のセミナーを実施したい」(住友商事人事厚生部・安本寛菜さん)

従業員の健康を重要視する企業が増えているという。

村上龍の編集後記~
ベジチェックで、わたしは比較的高得点だった。野菜はおいしくない、ドレッシングのおかげで何とか食べているなどと、事前に発言していたので、小池さんもスタッフも驚いていた。モッツァレラ&トマトはほとんど毎日だし、妻が作るおひたし、手製のスムージーなど、意外と摂っていた。忘れていたのだ。野菜を摂っていることを忘れる、これはなかなかいいのではないか。農学部で血圧に関する研究をやっていた山口さんを社長にしたカゴメは、正しい。農学部出身の社長、素敵だ。

<出演者略歴>
山口聡(やまぐち・さとし)1960年、静岡県生まれ。1983年、東北大学農学部食糧化学科卒業後、カゴメ入社。2010年、業務用事業本部長。2015年、イノベーション本部長。2018年、野菜事業本部長。2020年、社長就任。

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