大復活の「どん底」メーカー~熱烈ファンを作る極意:読んで分かる「カンブリア宮殿」

公開: 更新: テレ東プラス

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「水曜日のネコ」「インドの青鬼」~大人気!クラフトビール

東京・渋谷区にある話題のビアレストラン「よなよなビアワークス」恵比寿東口店。看板メニュー「国産鷄のローストチキン」(ハーフ2100円)は10種類以上のスパイスをきかせて焼き上げたもの。続いて出てきたのは「アンチョビバター蒸しキャベツ」(800円)に「真タコのセビーチェ」(930円)。マリネは柚子コショウがピリリときいている。

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すると店員が、マリネによく合うビールとして「『水曜日のネコ』をおすすめしています」。ピリッと辛いマリネとフルーティーなビールの相性が抜群だという。

店のメニューを見ると、左側にビールの銘柄があり、その横にマッチする料理が並んでいる。まずビールありきで、それに合う料理のペアリングを提案しているのだ。

ローストチキンには柑橘系の香りの「よなよなエール」。キャベツには爽やかな苦味の「僕ビール君ビール」をおすすめ。濃厚なプリンには長期熟成させたまろやかなビール「ハレの日仙人」のペアリングが合うという。

クラフトビールとは小さなメーカーがこだわって作ったビールのこと。ここでは10種類ほどを提供しているが、作っているのはいずれもヤッホーブルーイング。「インドの青鬼」「水曜日のネコ」などはコンビニやスーパーなどにも並んでいる。看板商品は「よなよなエール」。柑橘系の香りと深いコクが特徴だ。

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近年ビール全体の消費量が減っている中でヤッホーは絶好調。コロナ禍も売り上げを伸ばし19期連続の増収だ。

ヤッホー人気に大手も目をつけた。記者会見で「よなよなエール」を手に笑顔を見せるのはキリンホールディングス・磯崎功典社長。ヤッホーと資本提携を結んだのだ。その隣にいたヤッホーブルーイング社長・井手直行(54)は、「大手さんにも個性的なビールがあるが、我々はもっと個性的なビールを作っているという自負がある。ビールのバラエティを提供して、ビールファンに幸せになってもらいたい」と語る。

ヤッホーの拠点は長野・佐久市。軽井沢から車で15分ほどの場所に佐久醸造所がある。1997年創業で社員は約200人。小さなメーカーが急成長しているのには秘密がある。

マーケティング部門の責任者・佐藤潤が興味深いデータを見せてくれた。それはヤッホーの客の気持ちを、商品への熱量によって「熱狂」「ファン」「リピーター」「弱いリピーター」「お試し」の5段階に分けたもの。特に熱量のある「熱狂」と「ファン」の数はおよそ1割に過ぎないが、売り上げの3分の2はこの人たちによるものだった。

「約11%の『ファン度』の高いお客様が、売り上げの65%を支えてくださっています」(佐藤)

躍進の鍵を握っていたのは熱狂的なファンなのだ。

「熱狂度が高いファンを増やしていくことが我々のビジネスでは最も有効で、かつ、それしか成長できる要素がない。それこそビジネスを拡大していく一番のポイントだと思っています」(井手)

熱烈ファンが急増中~心をつかむ驚きの仕掛け

・熱烈ファンをつかむ戦略1「つながるイベント」

ヤッホー主催のオンライン・イベントが開かれていた。この日の参加者はおよそ30人。同じレシピで料理を作り、みんなで「よなよなエール」とのペアリングを楽しもうというファンのためのイベントだ。豚肉のレモンバターソテーやジャーマンポテトなど3品が完成すると、みんなで「乾杯」。

ヤッホーは定期的にこうしたイベントを開き、社員とファン、さらにはファン同士の交流の場にしている。ここから繋がりが生まれ、ファンの熱狂度が上がっていく。参加したファン歴18年の前田隆也さんは「同じものが好きな人が集まっている。距離感が近くてお互いを感じられる」と言う。

ファンイベントは12年前から。コロナ前は大宴会だった。

ただ飲むだけではない。さまざまな香りを体験するなど、クラフトビールの奥深さを伝えてきた。例えば、グラスの形によって香りに違いが出ることを体験するセミナー。こうしたイベントは、企画から運営まで全て社員たちが担う。凝った小道具もほとんどが手作りだ。ファン歴5年の田中亮さんは、「イベントに参加することで社員さんたちとも関わり、近い距離でのコミュニケーションが芽生える。より親しみを感じて好きになる」と言う。

また、ファン歴8年の渡邊彩女さんは「私、缶を開ける時の『ぷしゅ!』が大好きで、結婚式でも乾杯酒を『よなよなエール』にして全員でやりました」と言う。その結婚式にはヤッホーから祝福の手紙が届いていた。

こうして少しずつファンを増やし、2010年、40人で始めたイベントは、コロナ前の2018年には5000人を動員するまでになった。

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・熱烈ファンをつかむ戦略2「日ごろの"おもいやり"」

ヤッホーの社内には「おもいやり隊」というチームがいる。ツイッターで「ヤッホーブルーイング」を検索。ツイートに一件一件、コメントを書き込んでいくのだ。SNSを通じて、ファンとつながるのが役目となる。

「よなよなエールで晩酌した」とツイートした人には「人参と玉ねぎのサラダ、美味しそうですね」と書き込んだ。「僕ビール君ビールを置いているローソンはどこ」と書き込んだ人には「近くで売っている店を探させて」と提案。電話で周囲の店に問い合わせ、その日のうちに情報を伝えた。投稿した人は感激し、ヤッホーの定期購入の会員になったという。

「目先、これをやったら明日、明後日の売り上げが上がることはない。でもこういう積み重ねこそ、支持してくれるファンを作っていくことだし、長く飲んでもらえる人たちを作っていくことだと思っています」(井手)

北海道・北広島市では、ビッグボス率いる日本ハムファイターズが来春開業の新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」を建設中だ。その中には醸造所を備えたビアレストランを作ることに。ファンづくりも得意なヤッホーに白羽の矢が立った。

クセになる味と香り~秘密は30種のホップ

生ビールが毎月定額で自宅に届く「キリンホームタップ」。キリンが力を注ぐこのサービスに今年、ヤッホーのビールが抜擢された。個性的だけどクセになる。そんな味わいはどうやって生み出されているのか。ビールづくりの現場を井手自ら案内してくれた。

麦芽を煮出して酵母を加え、発酵させる。ビールづくりはシンプルだが、差別化のカギを握るのがホップだ。苦味や泡立ち、独特の香りを生むビールに欠かせない材料だ。花のような部分を乾燥させ、ペレット状に加工してから使用する。

一般的なビールづくりでは1、2種類のホップしか使わないが、ヤッホーは何種類ものホップを通常よりも多く入れている。こうして印象に残る香りを生み出しているのだ。

「いろいろなホップを組み合わせることで、ブルワー(醸造家)がイメージした香りを演出します」(井手)

また、ヤッホーでは商品ごとにターゲットを細かく決めて開発している。

例えば「水曜日のネコ」なら、30歳前後でバリバリ働く女性など、年齢や住んでいる場所、趣味嗜好まで具体的にイメージ。ターゲットを明確にした上で香りや味を決める。そこで使うのは国内外、およそ30種類のホップ。これらを組み合わせることで、ターゲットに刺さるビールを生み出すのだ。

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創業者は意外な人物~倒産寸前からの復活秘話

ヤッホーブルーイングは1997年、長野・軽井沢町で創業した。1994年に規制緩和によってビールの最低製造量が大幅に引き下げられ、小さな醸造所でもビールがつくれるようになったからだ。創業者は星野リゾート代表の星野佳路だ。

「よなよなエール」の缶を手に、星野は「これは僕が花札をデザイナーに見せて『こういうふうにしてください』と」と、当時を振り返る。「毎晩こだわりのビールを飲む日常を」。そんな願いを込めて「よなよなエール」と名付けたのも星野だった。

星野はアメリカで飲んだクラフトビールに感動し、日本にも広めたいと創業。軽井沢の広告代理店で星野リゾート担当だった井手を口説き、迎え入れた。井手は当初、営業担当。地ビールブームの真っ只中で、こちらから売り込まなくてもバンバン売れたという。

しかし、程なくして状況は一変する。地ビールブームは去り、売れ残った商品が返品されて在庫が山積みに。そのビールを井手たちはみんなで開けては、捨てた。

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「排水溝を開けてビールをジャーっと流していました」(井手)

製造した場所で廃棄すると税金が戻ってくる。それが1缶あたり80円近くになった。

「指で開けていたので、腱鞘炎になるんです。人差し指が腱鞘炎になったら次は中指、薬指、小指......指10本が腱鞘炎になると『もう無理』と作業が終わる。『何をやっているんだろう』『悲しい、悔しい』、そんな感じでしたね」

大手のような「万人受けする味」に変えてはどうか、と星野に申し出たこともあったが、星野は絶対に認めなかった。

「クラフトビールが目指す世界は最初からみんな共有してスタートしている。そこを目指せないのだったら、やっていく意味がない。クラフトビール会社を続けていくことが大事なのではなく、目指す世界に到達することが大事ですから」(星野)

とはいえ八方塞がりだった井手にある日、転機が。やめた社員のロッカーを整理していると、一通の手紙に目が止まった。差出人は楽天の創業者、三木谷浩史(現会長兼社長)。そこには「インターネットで一緒に世界を目指しましょう」と書かれていた。楽天はヤッホーと同じ1997年の創業。その通販サイト、楽天市場に出店した際、送られてきた手紙だった。

「スタートは同じなのに、楽天は上場してインターネットの世界では有名になっていた。こっちは潰れそうで、みんな辞めていき、赤字続き。この差はなんなんだと」(井手)

出店したまま、おざなりになっていたネット通販。「もうこれしかない」と井手は腹をくくり、大胆な企画を次々と仕掛ける。

例えば「夫婦で50年幸せセット」は、50年間、夫婦に毎月2ケースのビールを届けるという前代未聞の企画。通常より300万円安いと謳い、450万円で売り出した。結局申し込みはなかったが、一躍話題になった。「よなよなエール」の缶を使った面白写真のコンテストも行った。

こんなことを続けていると、様子が変わっていった。

「『よなよなエール』を売りたいと思って、『お中元にどうですか』『夏だから飲んでください』と言っていた時は一向に注目が来なかった。不思議なことに、こういうことをやっていると注文が増えていったんです」(井手)

結果、楽天市場では10年連続で「ショップ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれ、毎回、井手が仮装して出る授賞式も評判になった。ヤッホーはこうして復活を遂げた。

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異業種から依頼が続々~熱烈ファンを作る極意

6月下旬、ヤッホーの本社に現れたのは京セラの社員たち。個性的な商品を生み出す企業文化があると聞き、見学に来たのだ。

早速、加わったのは朝礼。すると、みんなが業務とは関係のない話を始めた。これは毎朝行う雑談朝礼。普段から気軽に話し合える関係を作っているのだ。

続いて京セラの社員が目を止めたのはボード。そこには全社員の紹介カードが貼ってあるが、書かれているのはニックネームだ。実はヤッホーでは上司・部下の関係なくニックネームで呼び合うのがルールになっている。

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入社4年目、太田一馬のニックネームは「オーナー」。「実家がコンビニのオーナー業をやっていたので(笑)。自己紹介の時も『社長より偉い名前なんです』と話ができるので、打ち解けるきっかけになります」と言う。

井手のニックネームは「てんちょ」。以前、ネット店舗の店長だったからだという。

「いいコミュニケーションがあるから、いい商品ができ、ファンができる。全部連動して考えないといけないんだなと感じたので、京セラの売り上げにつながる全体像を考えようと思います」(京セラ社員)

7月下旬、井手ら数人のヤッホーの社員がやってきたのは福岡・北九州市。航空会社のスターフライヤーから相談が寄せられたのだ。コロナ禍で苦戦が続く中、ファンイベントを開きたいと考え、ヤッホーにアドバイスを求めた。

イベント会場は格納庫。早速、アイデア会議が始まった。

人のアイデアは否定しないのがヤッホー流。自由に発言しやすくして、とにかくアイデアの種を増やすのだ。すると、「ずっと考えていた企画があって」と、客室乗務員からここぞとばかりにアイデアが出た。

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「夏祭りをやりたいと思っていて、(社員の)家族やお客様、ワンコやニャンコも連れてみんなでワイワイ、"ちょうちん"とかぶら下げて......」

するとパイロットが「そういえば大学の友人に花火師がいた」と発言。いいアイデアが出たらみんなで乗っかりブラッシュアップしていく。アイデアはどんどん膨らみ、ユニークなイベントが見えてきた。

「何も制約なく『これもできるんじゃない?』とアイデアを出せる機会はなかなかないので、勉強になりました」(客室乗務員)

ヤッホーのファン戦略は異業種にも広がっている。

~編集後記~
プレモルしか飲まないと私が言うと、少しでいいですから飲んでくださいと井手さんは言った。商品に自信があり、謙虚な人だという印象を持った。ヤッホーブルーイング、成功したら、次にはひどい失敗が、という感じだった。でも辞めなかった。人差し指でしかキーボードを打てないのに、PCで商品の紹介文を書き、1メートルの長さになって、それが売れた。そういうことの繰り返しで、結果的に日本一のクラフトビールになった。プレモル以外のビール、飲んでみようと思っている。

<出演者略歴>
井手直行(いで・なおゆき)1967年、福岡県生まれ。1988年、国立久留米高専卒業後、大手電気機器メーカー入社。1997年、ヤッホーブルーイングに営業担当として入社。2008年、社長就任。

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