「僕のような最底辺の生き物を見て、『こいつよりはマシ』と思ってもらえたら底上げになる」全身網タイツのシャンソン歌手・蜂鳥あみ太=4号に聞く!

公開: 更新: テレ東プラス

――日本全国を飛び回り、年間160本ほどライブを開催していますが、大変ではありませんか?

「体力的に大変でも、精神的につらいことはないです。世の中に仕事や働き方はいろいろあると思いますが、例えば“音楽だけで食べていきたい”という人たちが、好きな音楽だけやって気軽に生きていけるような世の中になれば良いなと。後輩や音楽仲間へ『ここでライブが出来るよ!』という道筋を作る意味でも、日本各地に出向いてライブを行っています。
僕みたいな最底辺の音楽家が、それでも死ぬまでやりたい事だけをやってステージに立ち続けられるような世の中にならないといけないと思うし、そのためには、誰かが道を作らないといけない。音楽で売れるためのセオリーがあるように、売れてなくても最低限の生活が送れる方法を見つけ出して皆と共有が出来ればと思っています。『やりたくない仕事はやりません』とキッパリ言っても食べていける選択肢がもっと沢山あっていいと思うんです」

――『叩き潰せ 骨を砕け 肉引き千切れ 返り血浴び 汚れたなら 血糊で洗え (「地獄への九拍子」より)』『はじまるよ一大エンターテイメント 人間屠殺ショウだ(「死刑台行進曲」より)』など、あみ太さんが書く詞はセンセーショナルなものが多いですよね。

「僕も自分で『悲惨な歌詞だな』と思って歌っていますけど、あくまでもそれは音楽の中での話。音楽なら、曲が終わったらその世界は終わります。悲惨な音楽を『そんなわけねぇじゃん』と笑い飛ばして、気持ちを切り替えられるような世の中であってほしいし、僕は生演奏でショックを与える役目。人間も動物なので、『想像してごらん』とお願いするより、トラウマを与えた方が早いんですよ。だから音楽とか言葉でぶん殴って、恐怖のどん底に突き落とすんです。
もちろん暴力反対なのでライブ中に人を殴ったことは一度もありませんが、その代わりに音楽でぶん殴る。喋りが苦手で社会から見放されてる人間でも、アートや作品でぶん殴ることによって、何かが伝わるかもしれないですから。

僕は社会性のない人間なので社会のことなんて言えませんけど、やはり想像力がないと、うっかり人を殺してしまったりするわけですよ。音楽を演奏する/聴くでも、絵を描く/見るでも文章を書く/読むでも、もちろんそれ以外でもなんでもいいんですけど、何かしらの文化的な物事に触れていないと、行動に移す前にまず頭で想像するところが欠落してしまう。そしてどうなるかわからないまま取り返しのつかないことを実際にやってしまって、後で後悔するんです」

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――音楽でガーンとぶん殴られるような衝撃を受けるからこそ、あみ太さんのライブに何度も足を運びたくなるのかもしれません。

「普段はなかなか受けられない衝撃ですからね。だって普通に生きてたら、そんな機会ないんだもん。たとえば音楽の話だと、義務教育で教えてもらえることって音楽の本質ではなくて、単にスキルを教わるだけ。教えられたままの事をしてテストの点数を稼ぐためにやっている状況だと、芸術やカルチャーの本質に一生触れることなく死んでいく。
でも、実際に声を出したり音を出す事ってこんなに楽しくて気持ち良くて、それに自分の言いたいことを乗せた時、人と一緒に演奏した時、もっともっと楽しいんだよと。それが僕のパフォーマンスを観ている相手にも伝われば、最初はショックかもしれないけれど、そのうちどんどん楽しさが伝染していってみんなで楽しむことができる。ただ教えられたスキルを義務的になぞるだけだと、何が楽しいのかわからずに終わっちゃいますし、場合によっては楽しそうにしている人のことを逆恨みしてしまったりするので、『楽しい事って貴方が思っている以上に沢山あるんだよ』というごく当たり前のようで実はあんまり理解されていない事を一人でも多くの方に分かってほしいのです」

――その「楽しい事」が、あみ太さんにとっては音楽だったと。

「楽しい事というのは別になんでも良くて、例えば僕が懇意にしてもらっているSMの世界も同じだと思います。たくさんの人を相手にしたり大きなお金を動かしたり責任のあるポジションの人ほど、抱えているストレスは大きいと思いますが、そのウップンを人知れず晴らす為に何か違うベクトルのストレスを自分にぶち当てないと、正気を保っていられなかったりする。そういうギリギリのところを、SMや風俗の世界が支えているんですよ。ただエロスの世界なだけではなく、社会の架け橋だったり駆け込み寺としてちゃんと機能している。僕の歌にもサド・マゾ趣味の話が良く出て来るのですが、まずはそういう世界があるという事を知って想像してもらうことで、少しでも偏見がなくなればいいなと思います。みんな普通の人間なので。

そして人は誰しも何かに依存して生きているので、依存先が一つしかないと、その一本柱が消えた途端に崩れ落ちて廃人になってしまう。とにかく生きづらい世の中ですから、一つのことに依存せず、趣味は星の数ほどあった方がいい。音楽をする/聴く、絵を描く/見る、裸になって鞭で打たれる…なんでもいいんですけど、兎に角いくつも趣味を持ってほしい。僕はその中の一つとして、音楽という形で『どうですか?』って人様に提案しているだけです」

――ライブを拝見して、世の中の問題点を、かなり広い視野で見ていらっしゃるなと感じました。

「 (社会の事などを指して)こういうことを僕に言わせる世の中がどうかしてるんですよ。僕はただおそろしい見た目の生き物でいたいだけなのに、なんで僕が世の中をフォローしなければいけないのかと。もうちょっと表の人たちがちゃんとやってくれればいいんですけど、自分たちのお金や生活を守ることに必死だから、後続の人間が育たないんです。
日本のシャンソン界がまさにそうで、自分の息のかかった金払いの良い弟子にしか目をかけない。お金とコネが全てで、新人が来てもいびり倒して潰してしまったり、自分のところに囲い込んだり。そういうことをやり続けてきたから、日本のシャンソンという文化自体、そう遠くないうちに滅びてしまう。それは広い視野で文化継承者を育てず、ちゃんと末端まで経済を回してこなかったツケだと思います。高度経済成長と共に燃え上がり、弾けたバブルの飛沫とともに消えていく。そうして何もかもが死に絶えた時、シャンソン業界から爪弾きにされた僕だけがしぶとく現役で生き残って、シャンソンについて何も知らない人達に向かって『俺がシャンソンだ』って言い張ります。蜂鳥あみ太=4号こそがシャンソンだという、世の中を間違ったイメージで埋め尽くす…地獄の計画ですよ(笑)」

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――あみ太さんがパフォーマンスを通して、お客さんに伝えたいメッセージは?

「実は伝えたいメッセージなんて何もなくて、僕はただ一番底辺で薄っぺらく生きていきたいんです。そういう人間でも音楽一本で飯が食えているから、『みんなそんなに無理して頑張らなくても大丈夫なんじゃないの?』という感じで、僕のような最底辺の生き物を見て元気を出してほしいですね。僕の無茶苦茶なステージを観て『まあこいつよりはマシだな』という気持ちになってもらえたら、そしてその最底辺の生き物がそれでも好きな音楽だけやってメシを食えているのなら、それは底辺の底上げになっているのかなと思います。底辺でもちゃんと食っていける世界って最高じゃないですか」

――お客さんに勇気を与える役割もあると思いますが…。

「僕みたいな人間でも、行政の依頼を受け、白昼堂々、駅前でパフォーマンスすることもありますから。例え見知らぬ大人たちに嫌な顔をされても、子どもたちに囲まれて一瞬でも僕を見てもらって、記憶の中に何かしらのフックが引っかかればいいなと。それが、いつか何かの役に立つかもしれませんから。
今、もしも何か思い詰めている人がいたら…僕のライブを見ている間は映画でも観ているような感じで日常のことを忘れていただいて、ほんの少しでも心に余裕ができればいいなと思います。極論ですが、気持ちを切り替えるきっかけになれば、死のうと思っていた人があまりに残虐な歌を聞かされて震えあがったり、もう既に一度死んだような気持ちになって死なずに済むかもしれない。人を殺そうと思っていた人が、歌を聞いてたら何だか気分がスッキリしちゃって結局何も問題を起こさず、明日からものうのうと生きられるかもしれない。非日常にどっぷり浸かって、気持ちを切り替えてから日常に戻ってもらえればいいなと思います。

底辺の僕を見て、『自分にも音楽ができるんじゃないか』という気持ちになる人がいるかもしれない。そうすれば選択肢が増えるじゃないですか。ひとつのことで夢破れて『俺はやりたいことができなかった。生きる意味がない』と思っちゃダメなんですよ。
僕もずっと流れ流れて生きてきて、デビューしてお金をもらって、自分の性に合ってるなと思ったからこの業界に入っただけで、人生ってそういうことが起こるから、もしかしたらライブを観たら何かのきっかけになるかもしれないよと。それに僕だって紙一重の人間なので、悶々とした負のエネルギーを音楽で発散出来たおかげで人を殺めずに済んでいるのかもしれないし、そのおかげで殺される人も居なかったということで、少なくとも2人以上の人間を救っているんですね、音楽は。
こんな風に、音楽は気軽に人を救うことができるんです」

――あみ太さん…ものすごくステキなお話ですね。なんだか胸が熱くなりました。

「こんな風にインタビューを受けておいて何なんですけど、ミュージシャンの背景や人間性を知ってその人の音楽を好きになるって…バカのやることだと思うんですよ(笑)。だからただただ音楽を聞いて、好きか嫌いか自分の頭で考えて判断して、お金を出して応援するなり、一生見なかった事にするなり自由にすればいい。背景なんて関係ないんですよね。芸能ってそもそも、“河原乞食”という言葉があるように、何もないところからパフォーマンスでお金をいただく卑しい行為なんですよ。だって形の無いものを人様に売り付けて“金よこせっ!”つってるんだから。だからお客様に対して感謝を忘れてはいけないし、奢ってはいけない。だからといってへり下りすぎてもダメで、板の上に立ったらみんな同じだし、本当は上も下もないんだよと。まずはみんながそれを体感しないとはじまらない。
だから実は日本はまだ何も始まってなくて、戦後からずっと誰かが描いた夢を見させられているだけ。この辺りでそろそろ音楽の在り方を、お金以外の観点から見られるようになれればいいなと思います。もちろんお金も大切だけどね、それだけじゃつまらないよね」

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インタビューをお願いしたのは、ライブのリハーサル直前。しかし「先ほどは薄っぺらいことしか言えなかったので…」と、ライブ後に怒涛のお話を聞かせてくれた。時おり謙遜しつつ、言葉が洪水のように溢れてくるあみ太さん。その存在感や衝撃をぎゅっと詰め込んだライブに、ぜひ一度足を運んで欲しい。

【蜂鳥あみ太 プロフィール】
“悪魔の捨て子”の異名を持つ、全身網タイツのシャンソン歌手。ソロ活動の他、多数のユニットやバンドでも活動中。ライブハウスへの出演の他、音響機材の無い場所での生演奏実績も多数。2017年12月には岩下の新生姜ミュージアムにて「あみ太フェス」を開催。自身の写真を使用した公式グッズは、ファッション雑誌「KERA」掲載の他、東急ハンズ渋谷店にも複数回出店。「日本養殖新聞」公認第52代目うなLady。

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(取材・文/みやざわあさみ)